はじめに
本ドキュメントは、ヘッドレスCMS（コンテンツ管理と表示を分離する仕組み）の市場動向を整理した報告です。企業が増えるデジタルチャネルに対応するために、ヘッドレスCMS導入がどのように進んでいるかを分かりやすく示します。
目的
- 市場シェアや成長率の全体像を把握できます。
- 企業の導入傾向や、既存CMSとの違いがわかります。
対象読者
- 事業責任者、マーケティング担当者、SIer、サイト管理者など、CMS選定や運用に関わる方に向けています。 技術者以外でも理解できるように書いています。
本書の読み方
- 第2章以降で市場位置づけ・成長率・導入事例・世界／日本のシェアを順に解説します。 具体例を交え、導入判断に役立つ視点を提供します。
注意点
- 本書は公表データや一般的な導入例を基にします。個別の導入可否は、実際の要件や体制で判断してください。
CMS市場全体の中でヘッドレスCMSはどんな位置づけか
概要
2025年時点で、CMSは世界中のウェブサイトの約7割を支える基盤です。中心は従来型CMSで、WordPressが約6割を占め、ShopifyやWix、Squarespace、Joomlaなどが続きます。一方、ヘッドレスCMSはAPIでコンテンツを配信する新しい潮流として急速に台頭しています。
従来型CMSとの違い
従来型CMSは「表示（フロント）」と「管理（バック）」が一体で、導入や運用が分かりやすいです。ヘッドレスは表示部分を切り離し、スマホアプリやIoT、複数のサイトへ同じコンテンツを配信しやすくします。開発者は自由に表示を設計できます。
強みと適用例
ヘッドレスはマルチチャネル配信や高速化、開発の柔軟性が必要な企業で力を発揮します。大規模な企業サイト、ECのカスタマイズ、高速化を重視するメディアが採用例です。
課題
導入や運用の複雑さ、初期コスト、編集画面の使い勝手は従来型より劣る場合があります。小規模サイトや技術リソースが限られる場合は従来型が合理的です。
市場での位置づけ
ヘッドレスは従来型と対立するものではなく、用途に応じて併存する重要な選択肢です。特に大企業や技術志向のプロジェクトで選ばれ、今後も存在感を増すと見られます。
ヘッドレスCMS市場規模と成長率：爆発的な伸び
市場規模の数値
- ある調査では、ヘッドレスCMSは2025年に約9.7億ドル、2035年には711億ドルに達すると予測されています。年率（CAGR）は約22.6%です。
- 別の調査では、2022年の約7.5億ドルから2032年に約55億ドルへ、年平均成長率22.1%とされています。
年率22%前後という値は、毎年およそ2割ずつ市場が大きくなることを意味します。金額ベースでは従来型CMSの方がまだ大きいですが、成長ペースは大きく上回っています。
成長を支える主な要因
- マルチチャネル配信の需要増：同じコンテンツをWeb、アプリ、IoTに配信したい企業が増えています。例えば、ECサイトとスマホアプリで共通のコンテンツを使うケースです。
- API中心設計とクラウド活用：開発の柔軟性が上がり、短期間で機能追加が可能になります。
- 開発者と運用の分離：デザイナーやマーケターがフロントを自由に設計できる点が評価されています。
企業への影響
- ベンダーや支援会社の市場機会が拡大します。導入には開発リソースと運用ルールの整備が必要です。内製チームはAPI設計やコンテンツモデリングの知識を求められます。
- 投資額はまだ小さい企業も多いですが、高成長率から将来的に主流になる可能性が高い点に注目してください。
導入状況：大企業を中心にヘッドレス戦略が拡大
現状
2025年時点で13,000以上のサイトがヘッドレスCMSを利用し、大企業の64%がヘッドレス戦略を採用しています（2019年は25%）。全ウェブサイトの多数派ではないものの、エンタープライズ領域では一般的な選択肢です。
大企業での採用理由
大企業は複数のチャネル（ウェブ、モバイル、店舗端末、デジタルサイネージなど）へ同じコンテンツを配信したいニーズが強いです。ヘッドレスはAPIでコンテンツを渡すため、フロントエンド技術を自由に選べます。これにより、デザイン変更や新機能の展開を速く進められます。
典型的なアーキテクチャ
多くの企業はマルチCMS戦略を取り、ヘッドレスCMSを“コンテンツハブ”として使います。ヘッドレスCMS＋DAM（デジタルアセット管理）やPIM（製品情報管理）、CDNやパーソナライズ基盤と連携し、API経由で複数のフロントエンドに配信します。
導入のハードルと進め方
導入にはガバナンス設計やコンテンツモデルの見直し、開発スキルの確保が必要です。リスクは段階的な移行と外部パートナーの活用、社内トレーニングで軽減できます。多くの大企業はまず一部サイトでパイロットを行い、安定したら範囲を広げます。
世界のCMSシェアとヘッドレスCMSの相対的位置
現状のシェア
2024年の調査では、WordPressが全体の62.2%を占め、圧倒的なトップです。Shopify、Wix、Squarespace、Joomlaなどが続き、上位50のCMSで約65%を占めています。こうした上位は主に従来型CMSやSaaS型のサイト構築サービスです。
なぜ従来型CMSが強いのか
従来型やSaaS型は導入が簡単でテンプレートや管理画面が充実しています。小規模なサイトや個人、店舗がすぐ使える利便性が強みです。コストや学習負担が小さいため普及が広がりました。
ヘッドレスCMSの相対的位置づけ
ヘッドレスCMSは上位シェアに名指しで多く現れていません。理由は主に対象ユーザーと用途の違いです。ヘッドレスは開発者向けで、複数チャネル（ウェブ、モバイル、デジタルサイネージなど）への配信や柔軟な表示制御が得意です。したがって、エンタープライズや成長分野で採用が進んでいます。
用途の具体例
- ECの複数チャネル展開（店舗とアプリを同時に更新）
- 大規模サイトの高速表示や個別最適化
- IoTやデバイス連携でコンテンツを使い回す場面
今後の見え方
市場全体では従来CMSのシェアが高止まりしますが、ヘッドレスは企業の要件に合わせて増えます。中小サイトでは従来型の利便性が勝ちますが、大規模や複数チャネルの要望にはヘッドレスが強みを発揮します。
日本市場におけるCMSシェアとヘッドレスCMSの立ち位置
概要
日本では従来型のCMSが圧倒的です。特にWordPressが約82〜83%と高い普及率を示します。企業サイトから個人ブログまで幅広く使われ、導入や運用のノウハウも豊富です。
EC領域の状況
ECではShopify、EC-CUBE、カラーミーショップ、makeshopなどが一定のシェアを持ちます。用途や規模に応じて選ばれ、国内向けの決済や物流連携に強みがあります。
ヘッドレスCMSの位置づけ
ヘッドレスCMSは欧米より普及が遅れ、認知が本格化したのは2022年以降です。マルチチャネル配信やフロントの自由度を求める案件で採用が増えていますが、まだ市場全体では少数派です。
導入の障壁
主な課題は技術者不足と保守性への懸念です。ヘッドレスは設計や開発の自由度が高い反面、運用体制や開発スキルが必要になります。これが普及のスピードを抑えています。
実務的な示唆
既存サイトの多くは従来型CMSで十分です。ユーザー体験の大幅な改善や複数チャネル展開を目指す場合にヘッドレスを検討するとよいです。段階的な移行やハイブリッド構成、外部パートナーの活用が導入成功の鍵になります。
