はじめに
本記事の目的
本記事はシルバーアクセサリーの「原価」について、わかりやすく整理した入門ガイドです。素材費や加工費、デザイン料、人件費など、原価を構成する要素を丁寧に解説します。原価計算の具体例や、販売価格との関係、OEMやネット販売におけるコストの違いにも触れます。
誰に向けているか
・これからアクセサリーブランドを始めたい方
・既に制作・販売しているが価格設定に悩む方
・仕入れやOEMを検討しているショップ担当者
どなたでも読みやすいよう、専門用語を最小限にして具体例で説明します。
この記事の構成と読み方
第2章以降で原価の定義、計算例、価格設定のポイント、近年の銀価格変動の影響、実務的なコスト管理まで順に解説します。一章ごとに実践できるポイントを載せますので、必要な章だけ参照しても理解できます。
まずは全体像をつかみ、次に自分のケースに当てはめて計算してみてください。
シルバーアクセサリーの原価とは何か
シルバーアクセサリーの原価は、製品を作るために直接かかる費用の合計を指します。主に「素材費」「加工費」「デザイン・ブランド料」「人件費」に分かれます。
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素材費:銀地金の価格が基準です。目安として2025年時点でシルバー925は約94円/g、純銀は約120円/gです。例えば、シルバー925のリングが5gなら素材費は5×94=470円です。
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加工費:原型作成、鋳造、仕上げ、研磨など職人の技術料が含まれます。シンプルな製品は低め、細工が多いものや手作りは高くなります。
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デザイン・ブランド料:有名デザイナーやブランドの使用料、デザイン開発費が加わります。ブランド価値が高いほどこの比率が上がります。
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人件費:制作にかかる時間と時給を掛け合わせて算出します。小ロットで手作業が多いほど人件費が嵩みます。
 
その他、鋳造時のロス(歩留まり)、金型や工具の償却、検品・梱包費、輸送費や管理費(間接費)も原価に影響します。原価は販売価格の基礎ですから、まずこれらを正確に把握することが重要です。
原価の計算例
素材費の計算
素材費は「使用重量 × 1g当たり単価」です。例えばシルバー925で1gあたり94円、10gのペンダントなら94円×10g=940円になります。
加工費の例
加工は工程ごとに費用がかかります。例:原型作成500円、鋳造(キャスト)800円、仕上げ(磨き)300円、石留め1,000円。合計で2,600円と見積もれます。
デザイン料の扱い
デザイン料はブランドによって差が大きいです。小規模ブランドは素材・加工費の5〜10%、有名ブランドは20〜30%と考えることが多いです。ここでは便宜上20%で計算します。
人件費の計算(ハンドメイドの場合)
制作にかかる時間×時給で計算します。例えば制作時間が2時間、時給1,000円なら2,000円です。最低賃金を参考に算出することをおすすめします。
合計の算出例
素材940円+加工2,600円+人件2,000円=5,540円が基本原価です。ここにデザイン料20%(5,540円×0.2=1,108円)を加えると、原価合計は6,648円になります。
バリエーションの見せ方
有名ブランドのようにデザイン料30%にすると原価は5,540円+1,662円=7,202円になります。逆にデザイン料5%だと5,817円です。
このように、各項目を具体的に算出して合計を出すと、原価の内訳が明確になります。販売価格を決める際はここから利益や流通コストを上乗せしていきます。
原価と販売価格の関係
計算の基本
ハンドメイド品の販売価格は、まず原価(材料費+梱包費+人件費)を合算します。さらに決済手数料や販売手数料、送料や消耗品などの諸経費を上乗せし、最後に利益を確保するための倍率(利益率)を掛けて決めます。したがって、単純に原価×2〜3倍で設定することが多いです。
原価率の目安
一般的な目安は原価率30%〜50%です。例えば原価が3,700円なら、販売価格を約7,400円(原価率約50%)〜12,300円(原価率約30%)の範囲で検討します。
高級ブランドとの違い
高級ブランドでは素材原価が低くても、ブランド料やデザイン料、販促費が大きく乗ります。素材が1万円未満でも数十万円で売れることがあり、価値の伝え方が価格に直結します。したがって、同じ銀素材でも価格差は大きくなります。
価格設定の実務ポイント
- 手間や技術を時給換算して必ず人件費に含める。\n- 決済手数料(3〜5%など)や販売プラットフォーム手数料を見落とさない。\n- 市場価格や競合、顧客の期待を確認する。\n- 試験的に価格を変えて売れ行きを見る(A/Bテストの感覚)。\n- セールや送料無料は利益を圧迫するため、事前に影響を計算する。
 
価格は数字だけでなく、伝え方や信頼で大きく変わります。適切な原価管理と戦略的な価格設定で、無理のない利益を確保してください。
最近の銀価格高騰と原価への影響
背景
2019年ごろの銀価格は1オンス約16ドル、2025年には31ドルを超えました。短期間でほぼ倍になったため、シルバーアクセサリーの素材費に直接響いています。
素材費に出る変化(具体例)
1オンスは約31.1035グラムです。これをもとにすると、2019年は約0.51ドル/グラム、2025年は約1.00ドル/グラムになります。たとえば銀10gのペンダントは素材費が約5.1ドル→約10.0ドルと約4.9ドル上がります。地金を多く使う30gのカフだと影響はより大きく、差は約15ドルになります。
どのデザインが影響を受けやすいか
- 大ぶりでソリッド(無垢)なデザイン
 - 太めのチェーンや幅広リング
反対に、薄い板状のものやメッキ仕上げを多く使うデザインは素材費上昇の影響が相対的に小さいです。 
店舗・ブランドへの影響と対応のヒント
多くのショップで販売価格の見直しが進んでいます。小規模な作家は利益が圧迫されやすいです。対策としては、素材の見直し(軽量化・中空構造の採用)、アクセントに別素材を使う、在庫用に地金を先に仕入れる、価格帯を細かく分ける、原価上昇を透明に伝えるといった方法があります。
この章では価格上昇がどのように原価に直結するかを具体的に示しました。次章では原価と価値の違いを見ていきます。
原価と価値の違い
素材としての原価
銀の原価は主に素材費(銀の重量×相場)と加工費で決まります。例えば軽いチェーンなら使う銀は少なく、素材原価は低めです。製造でかかる手間やロストワックスなどの工程費も原価に含まれます。
価値を決める要因
販売価格に反映されやすいのはブランド力、デザイン性、職人の技、限定性、流行性です。同じ銀製品でも有名ブランドや個性的なデザインは高く評価されます。希少なコレクションや作家モノは素材以上の価値が付きやすいです。
具体例
薄手のシルバーバングルは素材の銀が少なく原価は低いことが多いです。ところが著名デザイナーや限定モデルなら数倍から数十倍の価格で売られます。反対に重い無地のプレートでも無名ブランドなら安くなることがあります。
購入時の視点と注意点
資産目的ならインゴットやコインなど素材価値が重視される商品を選ぶと良いです。一方、ファッションや個性を求めるならブランドや作りの良さを優先してください。購入前に重量・刻印(SVや925)・ブランドの評価・仕上げの丁寧さを確認すると失敗を避けられます。
実践的な原価計算・価格設定のポイント
原価は“全部”を入れる
材料費(銀の地金代)、加工費、刻印や仕上げの時間、工具の償却、梱包・箱代、送料、振込手数料まで漏れなく書き出します。例えば材料2,000円+加工1,000円+梱包200円+送料300円=合計3,500円、という具合にします。
利益率の目安と現実的な設定
一般に原価の2〜3倍が一つの目安です。上の例なら7,000〜10,500円が目安になります。ただしブランド力やデザイン性で高く売れる場合は上乗せします。逆に競合が多い商品は低めに設定して回転を早めます。
地金価格と販売タイミングの管理
銀の相場は変動します。仕入れ時の相場と販売時の相場が違うと利益率が変わるため、仕入れ記録と相場のメモを残してください。相場が上がれば販売価格を見直す必要があります。
実践ツールと運用のコツ
・単品ごとに原価表を作り、CSVやスプレッドシートで管理します。
・利益率(粗利%)を計算し、目標を決めます(例:粗利40%)。
・セール時の最低販売価格(原価+固定費分)をあらかじめ決めておくと安心です。
少しの工夫で収益がぐっと安定します。まずは一つの商品で正確に原価を出すことを習慣にしてください。
OEM生産・ネット販売時のコスト構成
概要
OEM生産やネット販売では、素材の原価以外に複数のコストが加わります。販売価格を決める際は、それぞれを分解して把握すると適切な利益設定ができます。
主なコスト項目
- 仕入れ原価:地金と部材、製造指図料など。たとえば銀の重さ×地金単価で計算します。
 - 加工費:OEM先の加工賃、デザイン修正費、型代など。
 - 検品・梱包:品質チェックと包装資材費。
 - 流通コスト:倉庫保管料、発送費、返品対応費。
 - 販売手数料:ECモールや決済代行の手数料(例:売上の5〜15%)。
 - 広告費:SNS広告、リスティングなどの集客費用。
 - その他:保証・修理費、請求・事務コスト。
 
仕入れ済み商品の注意点
仕入れ済み商品は購入時の地金価格が適用されます。地金が変動しても既存在庫の原価は変わらず、在庫を抱えるリスクと機会損失が生じます。
コスト管理のポイント
- ロット管理で加工単価を下げる。
 - 物流や倉庫を見直して発送コストを削減する。
 - EC手数料や広告効果を定期的に検証する。
 - 送料や保証条件で顧客負担と自社負担のバランスを取る。
 
簡単な計算例
仕入原価3,000円+加工費1,500円+手数料(10%)=450円+広告200円+発送300円=合計5,450円。販売価格はこの合計に希望利益を上乗せして決めます。
まとめ
シルバーアクセサリーの原価は主に「素材費(銀地金)」「加工費」「人件費」「デザイン料」で成り立ちます。最近の銀価格高騰は素材費を押し上げ、結果として原価全体が上昇している点をまず押さえてください。
ブランド品の販売価格は原価の数倍から数十倍になることが多く、ブランド力やデザイン料、マーケティング費用が価格の大部分を占めます。単に素材費だけで価格を決めると利益を確保できません。
適正な価格設定のための実務的なポイント:
– 原価を正確に出す(素材・加工・人件・梱包・発送・固定費の按分)。
– 目標とする利益率を決める(例:粗利率30〜60%を目安に)。
– 市場や競合を調べてブランド価値を価格に反映する。
– 銀価格変動に備え、原価見直しの頻度を定める。
最後に、透明で論理的な価格説明は顧客の信頼につながります。原価管理と利益確保を両立させ、持続可能な価格設定を目指してください。


	








