はじめに
本書の目的
本ドキュメントは、Web制作に関わる方が著作権について基本的な理解を得られるように作成しました。デザイン、文章、画像、動画、ソースコードなど、日常的に扱う素材の扱い方と注意点を分かりやすく解説します。
想定する読者
・Webデザイナー、コーダー、ディレクター
・個人でサイトを運営する方
・クライアントや外注先との取り決めを行う方
専門用語は最小限にし、具体例で補足しますので、初めて学ぶ方でも読みやすい内容です。
本書で得られること
・著作権の基本的な考え方がわかります
・制作物の帰属や契約時の確認ポイントが把握できます
・現場でよくあるトラブルを未然に防ぐ実践的な注意点を学べます
読み方の注意
各章は実務に沿って順に読めば理解が深まります。必要に応じて目的の章だけ参照しても問題ありません。具体的な法的判断が必要な場合は、専門家に相談してください。
Web制作における著作権の基本知識
著作権とは
Web制作における著作権は、ホームページやサイトにある創作的な表現を保護する権利です。文章や画像、動画、音楽、デザイン、ソースコードなどが該当します。著作権は作品をどう使えるかを決めるもので、無断利用は禁じられます。
Web上の主な著作物の例
- 文章:ブログ記事や商品説明文
- 画像:撮影写真、イラスト、バナー
- 音声・動画:紹介動画、BGM
- Webデザイン:ページ構成や要素の組合せ(個性があれば保護される)
- ソースコード:HTML/CSS/JavaScriptのコード
保護されないもの
アイデアや事実、単なる短いフレーズ、一般的な配色やありふれたレイアウトは著作物に当たらないことが多いです。表現そのものが重要です。
著作権が発生するタイミング
作品を創作した時点で自動的に発生します。登録は不要で、作成日や履歴を残すと権利主張に役立ちます。
具体的な権利と日常の例
- 複製権:コピーしてウェブに載せるには権利者の許可が必要です(例:他人の画像を無断掲載しない)。
- 公衆送信権:ネットで配信する権利(動画や音楽の配信に関係)。
- 翻案権:翻訳や改変をする権利。デザインを改変する場合は注意が必要です。
実務上の注意点
引用の要件を守ること、素材のライセンスを確認すること、制作委託時は著作権の帰属や利用範囲を契約で明確にすることが重要です。無料素材でも利用条件があるため必ず確認してください。
Web制作における著作権の帰属
基本ルール
制作した人(著作者)が原則として著作権を持ちます。ホームページのデザインやコード、文章、画像などを創作した制作者が著作権者です。例:フリーランスがデザインした場合、そのフリーランスに著作権があります。
制作会社が関与する場合
制作会社がデザインやコーディングを担当すると、通常は制作会社側が著作権を保有します。発注者が制作物を無断で流用・改変すると著作権侵害になる可能性が高いです。例:制作会社のデザインを他サイトでそのまま使うと問題になります。
著作権の譲渡とライセンス
著作権を依頼主へ移すには、書面での合意が必要です。範囲(使用できる範囲、期間、改変の可否)を明確に記載してください。譲渡しない場合は利用許諾(ライセンス)で対応します。ライセンスは限定的に設定することが多いです。
実務上の注意点
- 契約書で「誰が著作権を持つか」「使用範囲」を明記する
- 納品ファイルやソースの扱いを決める
- 素材に第三者の著作権がないか確認する
- 再利用や保守時の権利をあらかじめ定める
具体例
- 発注側が将来テンプレートとして再利用したい場合:譲渡か包括的なライセンスを契約で取得する
- 制作会社側が自社制作物をポートフォリオで公開する場合:発注者の同意を得る
契約で明確に決めることで、後のトラブルを防げます。
著作権の保護期間と権利内容
保護期間について
著作権は創作した時点で自動的に発生し、通常は著作者の死亡後70年間保護されます。この期間中は第三者が無断で利用できません。期間を過ぎると作品はパブリックドメインになり、誰でも自由に使えます。
パブリックドメインとは
保護期間が満了した作品は公有物となり、利用許諾や使用料は不要です。古典的な絵画や作曲家の作品などが該当します。商用利用や改変も可能ですが、出典を明示するなど利用ルールを自分で決めて対応してください。
権利の分類(人格権と財産権)
著作権は大きく二つに分かれます。まず著作者人格権は、作品が作者の意図や名誉を損なわないよう守る権利です。作品の無断改変や作者名の削除を防げます。人格権は譲渡や放棄ができないとされています。次に著作権(財産権)は、複製・公衆送信・翻案・頒布など利用を独占する権利です。財産権は譲渡や許諾(ライセンス)で第三者に利用を認められます。
実務上の注意点(Web制作向け)
・既存の画像や文章を使う際は、保護期間内か確認して許可を取ってください。
・著作者が明確でない場合でも安全を優先し、利用許諾や代替素材を検討します。
・素材を購入したりライセンス契約を結ぶ際は、財産権の範囲(改変可否、再配布可否)を明記してください。
・保護期間終了後でも作者の意向や名誉に配慮することがトラブル回避につながります。
Web制作での著作権侵害と注意点
概要
他人の著作物を使うときは、必ず権利者の許可を得る必要があります。許可がない利用は侵害になり得ます。オリジナルでも他作品を参考にした場合、似すぎると問題になる点に注意してください。
他人の著作物を使うときの基本ルール
・明示的な許可(ライセンスや契約)を確認します。無料素材でも商用利用や改変の可否を必ず確認してください。
・引用は目的と範囲が限定されます。出典を明記し、本文の主従関係が明らかであることが必要です。
オリジナル作成時の注意(類似性)
誰かのデザインや文章を参考にして作ると、結果的に似てしまうことがあります。ロゴ、キャッチコピー、サイト構成などは特に注意し、意図的な模倣を避けてください。
素材別の具体例
・画像:ストック素材か自撮影にする。無断転載は厳禁です。
・文章:他サイトからのコピペは不可。参考にしたら表現を変え、出典が必要な場合は明記します。
・音楽:配信元のライセンスに従う。商用利用は別途許可が必要なことが多いです。
・コード:オープンソースの許諾条件(MIT等)を守り、ライセンス表記を残します。
・フォント:商用利用や埋め込みの可否を確認します。
許可の取り方と記録
口頭よりメールや書面で許諾を得て記録を残してください。契約書で利用範囲や期間、費用を明確にしておくと後のトラブルを防げます。
違反時のリスク
著作権侵害には重い刑罰があります。侵害は10年以下の懲役または1000万円以下の罰金、組織的侵害の場合は3億円以下の罰金刑が科されることがあります。民事では損害賠償や差止請求、サイトの削除命令などのリスクもあります。
トラブル回避の実務ポイント
事前にライセンスを確認し、許可は書面で残す。可能ならオリジナル素材を使うか、代替素材を用意します。疑わしい場合は専門家へ相談してください。
Web制作での契約時の重要ポイント
1. 著作権の帰属を明確に
完成したサイトや各成果物(HTML/CSS/画像/フォント/スクリプト等)について、誰が著作権を持つか明記してください。口頭では証明が難しいため、譲渡や帰属は必ず書面で指定します。例:デザインは制作者に、コンテンツは発注者に帰属など。
2. 利用範囲(ライセンス)を具体化
著作権を持たない側の利用範囲を細かく決めます。使用期間、地域、改変の可否、サブライセンスの可否を記載します。例:国内での無期限利用、商用利用可、改変は制作者の承諾が必要、など。
3. 著作権譲渡の手続き
著作権譲渡は書面で行います。譲渡対象(どのファイル・バージョンか)と譲渡の対価を明示してください。契約書に署名・捺印を行い、日付を残します。
4. 第三者素材の扱い
写真・フォント・プラグイン等の第三者素材は、誰がライセンスを取得するかを決めます。取得方法や更新費用の負担先を明記してください。
5. 納品物と検収基準
納品物の一覧(成果物の種類、ソースの有無、CMSのログイン情報等)と検収手順・期間を記載します。検収後の修正範囲や有償契約への移行条件も明確にします。
6. 保証・免責・紛争対応
動作保証期間、バグ対応の範囲、著作権侵害の責任分担、紛争時の管轄や仲裁方法を定めます。
7. その他の実務的留意点
支払い条件、著作者人格権の扱い(公開方法への同意など)、秘密保持、契約解除後の使用権を明文化します。トラブルを防ぐには、具体例を盛り込んだ明確な契約書が最も有効です。












