SSLとDanteが切り拓く革新的なネットワークオーディオ技術

目次

はじめに

本記事の目的

本記事は、プロ音響の現場で広く使われるSSL(Solid State Logic)製品と、ネットワークオーディオ規格のDante(ダンテ)がどのように連携して働くかを分かりやすく解説します。技術的な背景だけでなく、現場での使い方や構成例、導入時の注意点にも触れます。

対象読者

ライブ音響やスタジオ運用に関わる技術者、機材選定をするプロデューサー、これからネットワークオーディオを学びたいエンジニア向けです。専門用語は最小限に抑え、具体例を使って説明します。

なぜネットワークオーディオなのか

従来のアナログや専用デジタルケーブルに比べ、Danteはイーサネットケーブルで多数のチャンネルを安定して送受信できます。配線の簡略化、柔軟なルーティング、遠隔管理といった利点があり、会場規模を問わず有効です。

本記事の構成と読み方

第2章以降でDanteの特徴、信頼性評価、SSL製品との具体的な組み合わせ例、運用のコツや構成図を順に解説します。まずは全体像をつかみ、必要な章を順に読み進めてください。

Danteとは何か?プロ現場で求められる理由

概要

DanteはAudinate社が開発したAudio-over-IPの技術です。標準のイーサネットケーブル(LANケーブル)で非圧縮・低レイテンシーのマルチチャンネル音声をやり取りできます。従来のアナログマルチケーブルを置き換え、配線を大幅に簡素化します。

プロ現場で求められる理由

1) 音質と遅延の両立
Danteは非圧縮伝送で音質を保ち、通常1ms未満の低遅延を実現します。ライブや放送でタイムアライメントが重要な場面に適しています。

2) 配線と設営の効率化
複数チャンネルを一本のLANケーブルで伝送できるため、ケーブルの本数・重量を減らせます。搬入や設営時間を短縮できます。

3) 柔軟なルーティングと拡張性
ソフトウェア上で入出力を自由に割り当てられ、機材を追加してもシステムを簡単に拡張できます。異なるメーカー機器の相互接続にも対応しています。

4) 管理と運用のしやすさ
Dante Controllerなどのツールで接続状況を視覚的に確認でき、トラブル対応が迅速です。PCと組み合わせて仮想デバイスを使うことも可能です。

具体例

フロント・オブ・ハウスのミキサーとステージボックスをCAT6で結び、複数の入力を一括して扱うことでケーブル処理を大幅に簡略化できます。

導入時のポイント

ネットワーク設定(スイッチやQoS)や同期の理解が必要です。初期設定を正しく行えば、現場での恩恵が大きくなります。

Danteの信頼性と安全性 ― ライブ現場で評価される理由

はじめに

ライブ現場で最も怖いのは「音が途切れる」「機材が落ちる」ことです。Danteはそのリスクを低くするための仕組みを備えており、現場で高く評価されています。

リダンダンシーの基本

Danteはプライマリ/セカンダリの2系統ネットワークを使います。機器は2つの物理ポートや2本のケーブルでネットワークに接続でき、片側で障害が起きると自動でもう片方へ切り替わります。切り替えは速く、通常のライブ音声ではほとんど気づかれません。

クロック同期と安定性

音声データは時間情報(サンプルのタイミング)が重要です。Danteは高精度のクロック同期(PTP)を使い、機器間のズレやジッタを抑えます。これによりクリック音や位相の問題が起きにくくなります。

トラフィック管理(QoS)とスイッチ設定

ネットワークが混雑しても音声を優先するために、Danteはパケット優先度(QoS)を活用します。現場ではマネージドスイッチでDSCPやIGMPスヌーピングを有効にすることが推奨されます。これにより、必要な音声パケットが滞らず伝送されます。

運用上の注意と現場での対策

物理的な冗長(ケーブルやスイッチの二重化)、事前のテスト、Dante Controllerによる監視が重要です。現場では通信経路を分けて管理したり、不要なデバイスを同一ネットワークに入れないといった基本対応でトラブルを防げます。

ライブでの実例(簡単に)

コンサート現場では、コンソールとアウトボードに二系統のネット回線を引き、片側が断線しても即時にもう片方へ切り替えて進行を維持します。これがDanteが多く採用される理由の一つです。

SSLミキサー/インターフェイスとDanteの関係

SSLとネットワークオーディオの位置づけ

SSLは音質重視の機材で知られ、小型のSiXからデジタルコンソールまで幅広く展開します。SiX自体はDanteを内蔵していませんが、外部のDante対応機器と組み合わせてネットワーク化することが増えています。これによりSSLの音質を保ちながら、柔軟なルーティングが可能になります。

接続パターン(分かりやすい例)

  • 外部Dante対応I/Oにアナログ出力を接続し、ネットワーク上へ送る。例:マイクプリやライン出力をDante変換器に繋ぐ。
  • PCとDante Virtual Soundcardを使い、DAWと双方向にやり取りする。
  • Dante AVIOのような小型アダプターで個別チャンネルをネットワーク化する。

できること(メリット)

チャンネル拡張、ステージボックスとの接続、DAWでのマルチトラック録音/再生、リモートのソフトウェアエフェクト処理などが可能です。SSLのフロントエンドを残しつつ、処理や入出力をネットワーク側で増やせます。

実務上の注意点

ネットワークは専用のギガビットスイッチを使い、遅延やサンプリング周波数を合わせることが重要です。Dante Controllerでルーティングとクロックの状態を管理し、可能なら冗長構成を取ると安心です。

SSL SiXとネットワークオーディオの実際の使われ方

概要

SSL SiXはアナログ卓ですが、USBや外部デジタル機器を組み合わせることで、ネットワーク化された制作・配信環境の中核に入れます。小規模な現場でも多チャンネルの送受やPCでの処理が可能になります。

よくある組み合わせ

  • SiXのアナログ出力→USBオーディオインターフェイス経由でPC録音・配信
  • SiXの出力をDante対応I/O(またはDante変換アダプタ)へ送り、ネットワークケーブル1本で FOH やモニターへ配信
  • USBオーディオでDAWと連携しつつ、別途Danteでステージボックスを接続するハイブリッド構成

具体的な使い方例

1) ライブ配信:SiXで音作りをした信号をUSBまたはDante経由で配信PCに送ります。PC側で配信用のエンコーダやエフェクトをかけられます。
2) 小規模レコーディング:マルチチャンネルをDante対応I/Oに送り、同時に複数トラックを収録します。編集はPCで行います。
3) ハウス/モニター分配:Danteネットワークで複数の出力先へルーティングし、必要な個所へ音を振り分けます。

設定で気をつけること

  • クロック同期と遅延(レイテンシー)を確認してください。ネットワーク経由だと設定次第で遅延が増えます。
  • ルーティングはシンプルにして、トラブル時に素早く切り替えられるようにしておきます。
  • バックアップ経路(USBとDanteの両方など)を用意すると安心です。

これらを踏まえ、SiXはアナログの操作感を保ちながら、現代のデジタルワークフローにも柔軟に対応できます。

Dante対応I/OとSSLシステムを組み合わせる構成例

概要

Dante対応のI/Oボックスやプロ用インターフェイス(MADI、Digilink、Thunderbolt対応など)をハブにして、SSLコンソールやSSL機器をネットワークに取り込む例を紹介します。現場で実用的な構成を中心に説明します。

構成例:ライブFOH(前方ミキシング)

  • 前段:SSLコンソールをFOHに配置。アナログ出力やDigilinkで接続します。
  • 中核I/O:Dante対応のマルチフォーマットI/O(MADI↔Dante、Thunderbolt↔Danteなどを備える)を設置し、すべての信号をDanteネットワークに集約します。
  • ステージ側:Dante対応ステージボックスをステージに配置し、マイクやインストを送受信します。
  • 録音/モニター:レコーディングPCはThunderboltで接続、モニタリング用は別のDanteポートから出力します。

冗長化と同期

ネットワークはギガビットの管理スイッチを使い、可能ならDanteの冗長(Primary/Secondary)を有効にします。クロックはI/O機器をマスターにするか外部ワードクロックで統一します。

実務上のポイント

  • ケーブルはCat6を推奨。距離とチャンネル数を事前に確認します。
  • 機器名とチャンネルを明確にラベリングしておくと運用が楽です。
  • 試運転でレイテンシやチャンネルマッピングを事前チェックしてください。

このようにして、多様なデジタル接続を一元化し、SSL機器を含むシステムを柔軟に運用できます。

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