SSLと病理の基礎知識から大腸がんリスクまで徹底解説

目次

はじめに

目的と対象読者

この文書は、大腸の「sessile serrated lesion(SSL:鋸歯状病変)」についてわかりやすく解説することを目的としています。主に消化器内科医、病理医、内視鏡技師、関心のある医療従事者と、専門的な用語を理解したい学生向けに書いています。

なぜSSLを扱うのか

SSLは一見すると小さなポリープでも、将来大腸がんにつながる可能性があるため注目されます。内視鏡で見つけにくいことがあり、見落とすと病変が進行するリスクが高まります。臨床での発見と適切な対応が、患者さんの予後に直結します。

本書の構成と読み方

第2章でSSLの基本的な定義と内視鏡像を説明します。第3章では大腸ポリープの中での位置づけを整理します。第4章は病理学的特徴(肉眼所見と組織像)を詳述します。第5章で鋸歯状経路によるがん化メカニズムを解説します。各章は実際の診療や検査で役立つポイントを意識してまとめています。必要に応じて章ごとに読み進めてください。

SSL(sessile serrated lesion)とは何か

定義

SSLは大腸の粘膜にできるポリープの一種です。顕微鏡で見ると、粘膜表面や腺管(小さな管)が鋸歯状にギザギザしていることが特徴です。かつてはSSA/Pという呼び名も使われましたが、現在はSSLが主に用いられています。

見た目と見逃されやすさ

内視鏡では平らか穏やかな隆起に見え、色は周囲より淡く粘液が付いて輪郭がぼやけます。例えると、薄い曇りガラス越しに見ているような印象です。そのため、小さかったり粘液に覆われていると見逃されやすいです。

好発部位と臨床的意義

右側結腸に多く見られます。SSLは前がん病変になり得るため、注意が必要です。通常のポリープと比べて成長の仕方やがん化の仕組みが異なる場合があり、適切な診断と処置が大切です。

検査や対処のポイント

内視鏡では丁寧に観察し、疑わしい病変は採取や切除を検討します。拡大観察や染色で見やすくなることがあります。病理検査で確定診断を行い、結果に応じて経過観察や追加治療を担当医と相談してください。

大腸ポリープの中でのSSLの位置づけ

ポリープの大まかな分類

大腸ポリープは主に「腺腫」「過形成性ポリープ」「鋸歯状病変」に分かれます。腺腫は典型的な前がん病変で、過形成性は多くが良性です。鋸歯状病変は見た目がぎざぎざしており、さらにいくつかの種類に分かれます。

鋸歯状病変の中身

鋸歯状病変には過形成性ポリープ、sessile serrated lesion(SSL)、traditional serrated adenoma(TSA)などがあります。過形成性は一般にがん化しにくい一方、SSLやTSAは腫瘍性の性質をもち、注意が必要です。

SSLの位置づけと臨床的意味

SSLは腫瘍性ポリープで、いわゆる“鋸歯状経路”という別の発がん経路の重要な前段階です。見つけにくく、大腸の近位(右側)に多い特徴があります。小さくて平らなことがあり、観察や切除が難しい場合があります。

対応のポイント

発見時は完全切除が基本で、内視鏡的切除(ポリペクトミーやEMR)が行われます。切除後は病理結果に基づき定期的なフォローアップが勧められます。適切な処置で将来的ながんリスクを下げられます。

SSLの病理学的特徴(肉眼所見と組織像)

肉眼所見

内視鏡ではSSLは平坦〜緩やかに隆起した病変で、表面がやや白っぽく淡い色調です。粘液が付着した“粘液帽”を伴うことが多く、境界が不鮮明で萎縮やびらんが見えにくい特徴があります。多くは10mm以上で、右側結腸(盲腸や上行結腸)にできやすいです。色や形が目立たないため、注意深い観察や色素内視鏡、拡大観察が検出に役立ちます。

組織像

顕微鏡で見ると、鋸歯状(ジグザグ)を示す陰窩構造が目立ちます。特に腺管の基部が側方に広がり、底部が拡張して不規則に並ぶ「底部拡張・側方成長」が特徴です。上層の細胞は粘液産生が豊富で、杯細胞が多く見られます。細胞核は比較的均一で、軽度の異型しか示さないことが多いです。これが早期のがん化を示さないわけではなく、病変が進むと異型や構造の乱れ(腺管の複雑化、高異型性)が現れます。

鑑別のポイント(過形成性ポリープとの違い)

過形成性ポリープと似ますが、SSLは大きさが大きく右側結腸に多い、粘液帽や境界不鮮明がある、基部拡張と側方広がりを示す点で区別します。生検の部位によっては鑑別が難しいため、病変全体を切除して組織学的に評価することが推奨されます。

注意点

内視鏡所見と組織像を総合して判断することが重要です。小さな生検だけでは特徴がとらえにくく、経過観察や追加切除が必要になる場合があります。

SSLと「鋸歯状経路」による大腸がん発生メカニズム

概要

従来の腺腫–がん連続体とは別に、鋸歯状(きょし)経路という大腸がんの道筋が注目されています。この経路では、SSL(sessile serrated lesion)やTSA(traditional serrated adenoma)ががんの起点になります。これらは外見が平らで粘液を帯びることが多く、見つけにくい特徴があります。

鋸歯状経路の主要ステップ

1) 発がんの始まりはSSLやTSAです。2) BRAF遺伝子の変異(特にV600E)が起こり、細胞の増殖シグナルが過剰になります。3) CIMP-highと呼ばれる広範なDNAのメチル化が進み、腫瘍抑制遺伝子の発現を抑えます。4) MLH1というミスマッチ修復遺伝子のプロモーターがメチル化されると、遺伝子修復が働かなくなりMSI-high(多くの短い反復配列の不安定性)になります。これにより突然変異が蓄積してがんに進展します。

臨床的な意味と注意点

鋸歯状経路由来の腫瘍は右側(上行結腸)に多く、短期間で進行することがあります。内視鏡では平坦で境界が不明瞭なため、注意深い観察と完全切除が重要です。分子検査(BRAF、MSI、MLH1メチル化)は診断や治療方針の判断に役立ちます。したがって、SSLを見つけた場合は慎重に対処することをお勧めします。

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