はじめに
本記事の目的
本記事は「SSLターミネーション」について、初心者にも分かりやすく解説します。意味や仕組み、導入するときの利点や注意点を、ロードバランサやプロキシ、APIゲートウェイでの利用例を中心に説明します。内部通信の安全性や、TLSパススルーとの違いも扱います。実務で役立つ設計ポイントやベストプラクティスまで触れます。
誰に向けているか
- サーバーやネットワークの構成を検討しているエンジニア
- 運用担当者や導入を進める意思決定者
- セキュリティの基礎を知りたい技術者
専門用語はできるだけ減らし、具体例で補足します。
読み方のポイント
各章は順を追って読めば理解しやすくしています。まず概念をつかみ、仕組み→利点→設計と進めると実務に活かせます。章末のチェックリストで導入準備が整います。
本記事で期待できること
実際の導入で検討すべき項目が整理できます。設計時の落とし穴や注意点を押さえ、安全かつ効率的な運用につなげられます。
SSLターミネーションとは何か
定義
SSLターミネーションは、インターネット経由の暗号化通信(SSL/TLS)を特定の機器やサーバで復号する仕組みです。代表的な役割はロードバランサやリバースプロキシ、APIゲートウェイが担います。クライアントはHTTPSで接続し、これらの機器が暗号を解除して内部のサーバに明文で渡します。
具体的なイメージ
例えば、ウェブサイトの入口にあるロードバランサで証明書と秘密鍵を使い暗号を解除します。その後、複数のアプリサーバへ負荷分散して応答を返します。これにより各アプリサーバは暗号処理の負荷から解放されます。
利用理由(簡潔に)
- 証明書管理を集中化できる
- サーバの負荷を下げられる
- 通信内容を監視やログ取得しやすくなる
注意点(要点)
内部ネットワークを信頼できることが前提です。秘密鍵の管理を厳重に行い、必要に応じてバックエンドへ再暗号化(TLSでの接続)を行う設計を検討してください。
SSLターミネーションの仕組み
概要
クライアントはHTTPSで暗号化したリクエストを送ります。ロードバランサやリバースプロキシがその先でSSL/TLSの接続を受け取り、サーバ側で暗号化を解除(ターミネーション)します。暗号化・復号処理をそこで一元化する仕組みです。
通信の流れ(簡潔な手順)
- クライアントがHTTPSで接続要求を送る。
- ロードバランサがサーバ証明書でTLSハンドシェイクを行い、暗号化通信を確立する。
- ロードバランサが受信データを復号し、内容を確認する。
- 復号したデータを内部ネットワークのアプリケーションサーバへ転送する。この段階は多くの場合HTTP(平文)です。
内部通信の扱い
内部でも暗号化したい場合は、ターミネーション後に再度TLSを張る(再暗号化)構成を取れます。小規模な環境では内部を信頼して平文にすることが多く、管理負荷と性能を見て選びます。
技術的ポイント
- 証明書と秘密鍵はロードバランサ側で管理します。集中管理により更新作業が楽になります。
- CPU負荷を軽減するために、ハードウェアTLSアクセラレータや専用モジュールを使う場合があります。
- SNI(ドメイン識別)やセッション再利用により複数ドメインの運用や接続効率を改善できます。
注意点
復号後の平文が内部で流れるため、内部ネットワークのアクセス制御と監視を強化する必要があります。証明書と秘密鍵の保護も重要です。
SSLターミネーションのメリット
概要
SSL/TLSの終端をロードバランサやプロキシで行うことで得られる主な利点を、具体例を交えてわかりやすく説明します。運用効率と性能、安全性の両面で効果があります。
1. サーバー負荷の軽減
暗号化・復号はCPU負荷が高い処理です。終端を専用装置に任せると、アプリケーションサーバは業務ロジックに専念できます。たとえば多数の短時間接続があるAPIでは、バックエンドのレスポンス速度が改善します。
2. パフォーマンス向上とスケーラビリティ
ロードバランサ側でセッション再利用やハードウェアアクセラレーションを使えます。これにより同じリソースでより多くの接続をさばけます。動画配信や高トラフィックなECサイトで効果が出やすいです。
3. 証明書管理の一元化
証明書の更新や自動化を終端機器で行えば、複数サーバに個別配置する手間が減ります。たとえばLet’s Encryptの自動更新をLBに集中させると運用ミスが減ります。
4. セキュリティポリシーと監査の集中管理
暗号化の設定(プロトコル、暗号スイート)や監査ログを一箇所で管理できます。復号後にIDSやログ解析を連携すれば、不正検知や詳細な監査がしやすくなります。ただし内部ネットワークの保護は別途必要です。
SSLターミネーションのセキュリティ設計と注意点
概要
SSLターミネーションではロードバランサやAPIゲートウェイで復号を行い、内部へ平文で渡すことが多いです。内部通信が暗号化されない状態は想定外の漏えいにつながるため、設計段階での対策が不可欠です。
主なリスク
- 内部ネットワーク上での盗聴や傍受(オンプレミスでは特にリスクが高い)
- 設定ミスによる未認可アクセス(クラウドのセキュリティグループやACLの誤設定)
- SSRFのようなリバースパスでの攻撃(APIが内部資源へアクセスする場合)
設計上のポイント
- バックエンドTLSを検討する:LB→バックエンド間もTLSで保護すると安全性が高まります。簡単な例では内部証明書を発行しサーバ間でTLSを張ります。
- 最小権限のネットワーク設計:サブネットやセキュリティグループで通信範囲を絞ります。必要なポートのみ開放してください。
- 認証と認可の強化:ゲートウェイでのIP制限やAPIキー、mTLSなどを導入します。
運用と監視
- ロギング:復号後のリクエストは監査ログに残し、不審なアクセスを早期検知します。
- 設定の定期確認:クラウド設定や証明書の有効期限を自動チェックします。
- 脆弱性対策:ライブラリやミドルウェアを常に更新し、攻撃手法の変化に対応します。
備考
組織のリスク許容度に応じて、平文内部通信を許容するか内部TLSを採用するか判断してください。導入前に小規模で検証環境を作ると安全です。
SSLターミネーションとTLSパススルーの比較
概要
SSLターミネーションはロードバランサーやリバースプロキシで暗号を解除し、バックエンドは平文や再暗号化で受け取ります。TLSパススルーは暗号化を解除せず、そのままバックエンドに転送し、サーバー側で復号します。
主な違い(わかりやすい例)
- SSLターミネーション: 受付窓口が荷物の封を開け、中身を確認して各担当に渡すイメージ。負荷軽減と集中管理が可能です。
- TLSパススルー: 封を開けずに直接各担当に届けるイメージ。配送中は内容が保護されます。
比較(性能・セキュリティ・運用)
- 性能: ターミネーションはサーバー側のCPU負荷を下げます。パススルーは各サーバーで暗号処理が必要です。
- セキュリティ: パススルーは通信の終端まで暗号が維持されるため安全性が高い場面があります。ターミネーションは内部ネットワークの信頼に依存します。
- 運用: 証明書管理はターミネーションで一元化、パススルーでは各サーバーで分散します。
選び方の指針
通信の機密性や規制要件、運用体制を基準に選びます。内部ネットワークが信頼でき、運用を簡素化したいならターミネーションが向きます。厳しいエンドツーエンド暗号化が求められる場合はパススルーを検討してください。再暗号化(復号→再暗号化)で折衷する手もあります。
主要な導入例とベストプラクティス
概要
代表的な導入先と、具体的な設定ポイントを分かりやすく説明します。クラウドサービスやゲートウェイ、WAF/プロキシでの利用例を中心にまとめます。
クラウドロードバランサ(例:AWS ALB、Azure Application Gateway)
- 設定例:証明書をACMやKey Vaultに登録し、HTTPSリスナーを作成します。バックエンドはHTTPかHTTPSで通信できます。例:ALBでACM証明書を割り当て、ターゲットにHTTPを指定。
- ポイント:証明書の自動更新とヘルスチェックの設定を忘れないでください。内部通信も暗号化する場合はバックエンド側で再暗号化(HTTPS)を行います。
APIゲートウェイ
- 設定例:カスタムドメインに証明書を割り当て、認証(OAuthやJWT)やレート制限を組み込みます。
- ポイント:API単位で認可を厳格にし、クライアント証明書やWAF連携で不正アクセスを防ぎます。
WAF・プロキシ
- 設定例:WAFでルールを適用し、悪意あるパターンをブロックします。リバースプロキシで証明書を一元管理します。
- ポイント:ログを集中収集し、異常検知を自動化します。
ベストプラクティス(短く)
- 証明書管理は自動化(ACM、Key Vault)。
- エッジで終端→内部は必要に応じて再暗号化。
- 強い暗号スイートとTLSバージョン制限を設定。
- ログ・監査を有効にし、定期的に設定を見直す。
以上を踏まえ、運用負荷を減らしつつセキュリティを確保してください。
SSLターミネーション導入時のチェックポイント
1) 証明書の管理と更新
- 有効期限の自動更新を設定します(例:ACME/Let’s Encryptや自動化スクリプト)。
- 複数の環境(本番・ステージング)で鍵や証明書の分離を行います。鍵は安全な場所に保管し、アクセス権を限定してください。
2) 内部ネットワークのセキュリティ設計
- 必要に応じてバックエンド間でもTLSを有効にします。社内トラフィックでも暗号化することでリスクを下げます。
- セグメント化して管理する(例:ロードバランサーとアプリ間を別サブネットにする)と侵害範囲を縮小できます。
3) ロードバランサー/APIゲートウェイのアクセス制御
- 管理画面や証明書取り扱い権限は最小権限にします。
- クライアント認証(mTLS)やIP制限、レート制限を検討してください。
4) 運用監査とログ管理
- SSL/TLSハンドシェイク失敗や証明書更新のログを収集し、通知ルールを作ります。
- ログは一定期間保管して監査可能にし、重要イベントでアラートを出すよう設定します。
5) クラウドサービス固有の設定ミス防止
- セキュリティグループやファイアウォール、IAMロールを定期点検します。
- テンプレート(CloudFormation/Terraform)で設定をコード化し、レビューを必須にしてください。
実務チェックリスト(短縮)
- 証明書の有効期限と自動更新設定
- 鍵の保管場所とアクセス権限
- バックエンドTLSの有無とネットワーク分離
- LB/GWの認証・アクセス制御設定
- ログ収集・アラート・保管方針
- クラウド設定のコード化と定期レビュー
これらを導入前と導入後に確認すると、運用ミスやセキュリティリスクを大きく減らせます。












