はじめに
本記事の目的
本記事は、Web制作の業務内容を初めて学ぶ方や担当者になった方に向けて、全体像をわかりやすく伝えることを目的とします。用語はなるべく噛み砕き、具体例を交えて解説します。
読者対象
- これからWeb制作に関わる予定の方
- 社内で依頼や調整を担当する方
- 制作の流れを整理したい個人・小規模チーム
本記事の構成と使い方
記事は全11章で構成します。第2章で基本の定義を説明し、第3章で制作に必要な6つのフェーズを概観します。第4章以降は各フェーズを具体的な作業や注意点とともに詳しく示します。例:企画では目標設定、実装ではコーディングやCMS導入について触れます。
読後に得られること
- 制作全体の流れがつかめます
- 各段階で何を確認すべきか具体的に分かります
- 外注や社内調整の際に役立つチェック項目を持てます
まずは全体像をつかみ、必要な章を順に読むことをおすすめします。
Web制作とは
定義
Web制作は、見た目のデザインやHTML/CSSのコーディングだけでなく、企画、設計、プログラミング、サーバー設定、運用など幅広い作業を指します。新規サイトの制作や既存サイトのリニューアルも含まれ、クライアントの目的に応じて進め方が変わります。
含まれる主な業務
- 企画:目的・ターゲットの整理、要件定義
- 設計:情報設計(サイト構成、導線)、ワイヤーフレーム作成
- デザイン:視覚デザイン、ブランドに合わせたUI
- 実装:HTML/CSS、JavaScript、CMS導入、バックエンド開発
- サーバー・公開:ドメインやSSL設定、デプロイ作業
- 運用・保守:更新作業、セキュリティ対応、アクセス解析
新規制作とリニューアルの違い
新規制作は目的と要件をゼロから固めます。リニューアルは既存のデータやユーザー行動を分析して改善点を優先的に直します。
クライアントごとの違い
企業サイト、ECサイト、採用サイトなどで求められる機能や優先順位は異なります。目的に合わせて必要な工程や工数を調整します。
成功のポイント
最初に目的を明確にし、関係者と認識を合わせることが重要です。段階ごとに確認を重ねると完成後のズレを減らせます。
Web制作の6つの重要なフェーズ
Web制作は全体を6つの段階に分けて進めます。ここでは各フェーズの目的、主な作業、具体例、成果物をわかりやすく説明します。
1. 企画
目的やターゲットを決めます。クライアントヒアリングや市場調査を行い、サイトの役割を明確にします。具体例:集客目的のLPか、情報掲載の企業サイトか。成果物:要件定義書、サイトマップ。
2. 設計
情報設計やページ構成を作ります。ワイヤーフレームで画面要素の配置を決め、導線を設計します。具体例:購入フローの改善や導線短縮。成果物:ワイヤーフレーム、画面仕様書。
3. デザイン
視覚要素を制作します。ブランドカラーや写真、ボタン配置などを決めて実際の画面を作ります。具体例:ファーストビューのビジュアル、レスポンシブ設計。成果物:デザインカンプ、画像資産。
4. 実装
フロントエンド・バックエンドを開発します。HTML/CSS/JavaScriptのコーディングやCMS導入を行います。具体例:問い合わせフォームの動作実装。成果物:動作するサイト、管理画面。
5. テスト・品質保証
動作確認や表示チェックを行います。ブラウザ・スマホでの表示やリンク切れ、フォーム送信の確認をします。成果物:テスト報告書、修正リスト。
6. 運用・保守
公開後の更新や障害対応、アクセス解析を行います。定期的なバックアップやセキュリティ対策も含まれます。具体例:記事更新、SSL更新。成果物:運用マニュアル、保守契約書。
各フェーズは順に進めますが、必要に応じて行き来しながら品質を高めます。
第1段階:企画
企画段階ではプロジェクトの目的、対象ユーザー、成功の基準を定めます。クライアントの要望を深く理解し、実現可能な計画に落とし込むことが役割です。
クライアントヒアリング
- 聞くべき項目:目的、対象、予算、納期、参考サイト、必須機能
- 具体例:新規来店を増やしたい飲食店なら、ターゲット層や予約導線を確認します
- ポイント:チェックリストを用意し、録音や議事録で記録します
市場調査・競合分析
- 調査内容:類似サービスの特徴、価格帯、ユーザーの評判
- 具体的な作業:競合の画面や訴求点をスクリーンショットで収集し、強み弱みを整理します
要件定義書作成
- 含める項目:機能一覧と優先度、非機能要件(表示速度や対応端末)、想定スケジュール
- 例:会員登録、決済、レスポンシブ対応の有無を明示します
ユーザーペルソナ作成
- 目的:誰のために作るかを具体化するためです
- 記載例:年齢、職業、行動パターン、抱える課題
成果物と次のステップ
- 主な成果物:要件定義書、調査レポート、ペルソナ
- 次に行う作業:これらをもとに設計フェーズへ移ります
注意点
- 表面的な要望と本質的な課題を区別すること
- スコープや予算は早めに確認し調整します
- 相互の認識を合わせるため、こまめに報告・確認を行ってください
第2段階:設計
目的
設計段階はサイトの骨格を作るフェーズです。ここで方針を定めると、後のデザインや実装がスムーズになります。
情報設計(IA)
誰に何を伝えるかを整理します。ユーザーの行動を想定して、コンテンツの優先順位を決めます。例:商品ページを主軸にする場合は購入導線を最短にします。
ワイヤーフレーム作成
ページごとのレイアウトを線画で示します。ヘッダー、ナビ、主要なCTA、フォーム位置などを明確にします。低〜中解像度で複数案を作り、関係者で確認します。
技術選定・構成設計
CMSの有無、静的/動的の判断、ホスティングやデータベースの構成を決めます。ページ速度やセキュリティも考慮し、運用コストを見積もります。
サイトマップ作成
全ページの階層とURL案を作ります。検索エンジンやユーザーが辿りやすい構造にすることが目的です。
ユーザビリティ・SEO・拡張性の配慮
モバイル優先の設計、アクセシビリティ対応、メタ情報の配置を検討します。将来機能を追加しやすいコンポーネント設計にしておくと、保守が楽になります。
第3段階:デザイン
概要
デザイン段階では、見た目だけでなく使いやすさを設計します。ここではデザインカンプ作成、UI設計、プロトタイプ制作、ビジュアル制作を行い、ブランドガイドラインに沿った統一感のある表現を目指します。ユーザー体験を高めるための創造的な作業が中心です。
デザインカンプ作成
デザインカンプは画面の完成イメージです。パソコンとスマートフォンそれぞれのレイアウトを用意し、色やフォント、写真の配置を確定します。クライアントと認識を合わせるための重要な成果物です。
UIデザイン(ユーザー視点)
ボタンやナビゲーションの見た目だけでなく、押しやすさや視認性を重視します。優先度の高い情報を目立たせ、迷わず操作できる導線を作ります。具体例としては、重要な行動を促す色を統一するなどです。
プロトタイプ制作
クリックで動く試作品を作り、実際の操作感を確認します。簡易なプロトタイプでユーザーテストを行い、早期に問題点を見つけて修正します。デザインの説得力を高める手法です。
ビジュアルデザインとブランド
カラー、タイポグラフィ、写真のトーンをブランドに合わせます。ガイドラインに沿って各ページで一貫性を保ち、信頼感を与える見た目にします。アイコンや余白も細かく調整します。
実務上のポイント
最終デザインは開発へ渡すためのガイドを含めます。スタイルガイド、画像やフォントの素材、各要素の仕様を明確にして、実装時の齟齬を減らします。レスポンシブ対応やアクセシビリティにも配慮しておくと運用が楽になります。
第4段階:実装
実装段階では、設計やデザインで決めた内容を実際の動くWebサイトにします。ここではフロントエンドとバックエンドの開発、ECやCMSに関する具体作業を分けて説明します。
フロントエンド実装
HTMLで構造を作り、CSSで見た目を整え、JavaScriptで動きを付けます。例えば、スマホでも見やすいレイアウト、メニューの開閉、フォームの入力補助などを実装します。表示速度やアクセシビリティ(読みやすさ)にも配慮します。
バックエンド実装
PHP、Ruby、Pythonなどを使い、データの保存や業務ロジックを実装します。具体例はユーザー登録やお問い合わせの保存、ログイン機能、管理画面の処理です。入力の検証やパスワードの安全な扱い、通信の暗号化などセキュリティ対策を組み込みます。
ECサイト特有の作業
商品データベースの設計、在庫管理、注文フローの実装を行います。決済は決済代行サービスのAPIを組み込んで安全に処理します。領収書や注文確認メールの自動送信も設定します。
CMSカスタマイズ
WordPressなどのCMSを採用する場合は、テーマの調整やカスタム投稿の追加、必要なプラグイン設定を行います。編集者が扱いやすい管理画面に整えます。
実装時の注意点
バージョン管理(Git)で変更を追い、開発環境と本番環境を分けて作業します。ブラウザ互換や表示速度、セキュリティのテストを行い、納品前にチェックリストで確認します。
第5段階:テスト・品質保証
目的
実装したサイトが設計通りに動き、利用者にとって使いやすいかを検証します。バグの早期発見と品質担保が中心です。
主な作業
- UI/UX確認:デザインと操作感が一致しているかを目視でチェックします。ボタン位置やフォントサイズ、余白などを実際に操作して確認します。
- ユーザビリティテスト:代表ユーザーに簡単なタスクを依頼して観察します。例えば「商品を検索して購入まで進める」といった流れで迷いがないかを確認します。
- 動作確認とデバッグ:フォーム、リンク、画像、ファイルアップロードなどの機能をテストし、問題があれば修正します。開発者ツールでエラーを確認します。
- 環境テスト:主要ブラウザやスマホで表示や動作を確認します。解像度やネットワーク速度の違いも考慮します。
- パフォーマンスチェック:表示速度や画像の最適化、キャッシュ設定を確認します。遅い箇所は改善します。
- アクセシビリティとセキュリティ簡易チェック:キーボード操作や代替テキスト、入力のバリデーションを確認します。
管理と運用
- バグ管理:優先度を付けて追跡し、修正→再テストを繰り返します。
- 自動テストと手動テスト:繰り返す検証は自動化し、ユーザビリティなどは手動で行います。
- ステージングで総合確認し、受け入れ基準を満たしたら本番へ移行します。
この段階で丁寧に検証することで、本番でのトラブルを減らせます。
第6段階:運用・保守
概要
Webサイト公開後は継続的な管理が必要です。サーバーの維持、コンテンツ更新、障害対応、効果測定と改善を行い、サイトの価値を守ります。
主な業務
- サーバーとドメインの監視・保守
- 定期バックアップと復旧手順の整備
- コンテンツの追加・修正・公開作業
- セキュリティ対策(脆弱性対応、SSL更新)
- 障害対応とログ確認
- アクセス解析と改善施策の実施
運用の流れ(例)
- 監視ツールで稼働状況を確認
- 異常発生時に即時対応し原因を特定
- 定期的にバックアップを実行、検証
- 月次でアクセス解析と改善計画を立て、実行
重要なポイント
- バックアップは自動化し、復元の確認を行ってください。
- 更新・修正はステージング環境で検証してから公開します。
- 役割分担を明確にして迅速な対応を可能にします。
コンテンツ更新のコツ
短く読みやすい文章、画像の最適化、SEOを意識した見出しで効果を高めます。更新履歴を残すと管理しやすくなります。
トラブル対応の例
表示遅延:原因を特定(負荷、ネットワーク、画像サイズ)し、対策を順に試します。改ざんや不正アクセスが疑われる場合はアクセスログを保存し、該当アカウントの権限を一時停止します。
効果測定と改善
KPI(訪問数、滞在時間、CVRなど)を設定し、定期レポートからA/Bテストや改善施策を実行します。
注意点
運用・保守は一度で終わる作業ではありません。定期的な見直しと改善を続けることが重要です。
目的別のWeb制作業務の特徴
LP(ランディングページ)
- 目的:短期間でのコンバージョン獲得。読み手を行動に誘導します。
- 重点作業:ファーストビューの訴求、ページ内の動線設計、JavaScriptによるアニメーションや遅延読み込み、コンバージョン計測の設置(タグ管理)、A/Bテストの実施例。例:CTAボタンの文言や配置を変えて効果を比較します。
採用サイト
- 目的:応募者の獲得と企業理解の促進。
- 重点作業:応募フローの設計(フォームの最適化)、応募データの管理(CSV連携やATS連携)、CMS導入で情報更新を簡単にすること、社員の声や働く環境の鮮度維持。
サービスサイト
- 目的:継続的な利用と顧客サポート。
- 重点作業:API連携や会員管理、UX設計(機能の優先順位付け)、プロダクト説明のわかりやすさ、セキュリティ対策。
メディア・ニュースサイト
- 目的:情報発信と読者維持。
- 重点作業:運用しやすいテンプレート設計、検索・カテゴリ設計、SEOに配慮した構造、更新作業の効率化(CMSの権限設計)。
各目的で優先される作業やツールが変わります。まず目的を明確にし、それに合わせて技術と運用を組み立てることが大切です。
Web制作に含まれる周辺業務
概要
Web制作はデザインやコーディングだけでなく、その後の成果につなげるための多彩な業務を含みます。目的に応じて適切な周辺業務を組み合わせることが重要です。
コンテンツ制作(テキスト・画像・動画)
記事や商品説明、撮影した写真、説明動画の制作を行います。例えば、商品の使い方を示す短い動画や、検索キーワードに合った記事を用意すると効果的です。
SEO対策(キーワード設計・メタタグ最適化)
狙うキーワードの選定や、タイトル・ディスクリプションの最適化、URL設計を行います。検索結果で目立つように構成を工夫します。
サイト最適化(表示速度・アクセシビリティ)
画像圧縮やキャッシュ設定、モバイル対応で表示速度を改善します。読み上げや色のコントラストなど、使いやすさにも配慮します。
広告・集客(キャンペーン設計・運用)
検索広告やSNS広告の設計、クリエイティブ制作、予算管理、効果測定を行います。ランディングページの改善も重要です。
運用サポート・保守
CMSの更新、定期バックアップ、脆弱性対応、問い合わせ対応を行います。定期的な点検で安定稼働を維持します。
分析と改善(アクセス解析・A/Bテスト)
アクセスデータを分析して課題を特定し、A/Bテストで改善案を検証します。数値に基づいて優先度を決めます。
法務・セキュリティ・翻訳
プライバシーポリシーや利用規約の整備、SSL導入、脆弱性対策を行います。多言語対応が必要ならローカライズも実施します。
プロジェクト管理・クライアント対応
スケジュール管理、成果物の納品、定期報告や要望の調整を行います。関係者との連携を密にし、着実に進めます。












