はじめに
本書の目的
この文書はWebサーバーの基本をやさしく丁寧に解説することを目的としています。技術的な用語はできるだけ抑え、具体例を交えて説明します。Webサイトがどのように動いているかを知りたい方に向けた入門書です。
なぜ重要か
Webサーバーはブラウザと情報をやり取りする入口です。写真や文章などの静的なファイルを渡すだけでなく、検索や注文といった動的な処理も仲介します。例えば、画像を表示する仕組みと、ログインして個人情報を表示する仕組みは扱い方が異なります。
想定読者
初心者のエンジニアやウェブ担当者、運用を始めたばかりの方を想定しています。専門家向けの詳細は別章で補足します。
本書の構成
第2章以降で、Webサーバーの役割、基本動作、主要機能、他サーバーとの違い、構成要素を順に解説します。章を追うごとに理解が深まる構成です。
Webサーバーとは
短い定義
Webサーバーは、インターネット上でWebサイトやWebアプリを公開し、利用者の要求に応じてページやデータを届ける仕組みです。ハードウェア(コンピュータ)とソフトウェア(配信を行うプログラム)で成り立ちます。
基本的な役割
- ユーザーの要求を受け取る(ブラウザからのアクセス)
- 要求に合ったデータを準備する(ファイルやプログラムの実行)
- 準備したデータを返す(Webページや画像など)
例えば、ブラウザでURLを入力すると、ブラウザがサーバーに「このページをください」と伝えます。サーバーは該当するファイルやプログラムを探し、結果を返します。
ハードウェアとソフトウェア
ハードウェアは実際に稼働する機械(自宅のPC、専用のサーバー、クラウド上の仮想マシンなど)です。ソフトウェアはリクエストを受けて応答するプログラムで、よく使われる例としてApacheやNginxがあります。これらは設定によってどのファイルを返すかを決めます。
HTTPとHTTPS(通信の仕組み)
通信はHTTPという約束ごとで行われます。HTTPSは通信内容を暗号化して安全に送る仕組みです。通常、HTTPはポート80、HTTPSはポート443を使います。
静的コンテンツと動的コンテンツ
- 静的コンテンツ:HTMLや画像など、ファイルそのままを配る場合。処理が少なく高速です。
- 動的コンテンツ:ユーザーの情報やデータベースを使ってページを作る場合。注文履歴や検索結果などがこれに当たります。
情景をイメージすると
個人ブログなら静的なページを返すことが多く、オンラインショップは注文処理や在庫確認で動的な処理が増えます。用途によってサーバーの構成や性能が変わります。
以上が「Webサーバー」の基本的な説明です。今後の章で仕組みや機能をより詳しく見ていきます。
Webサーバーの基本的な仕組み
1. リクエストとレスポンスの流れ
ユーザーがブラウザでURLを入力すると、ブラウザがHTTPリクエストを送ります。Webサーバーは受け取ったリクエストを解析し、要求されたページやファイルを探します。見つかればHTMLや画像をHTTPレスポンスとして送り返します。ブラウザは受け取った内容を解析して画面に表示します。例えば、ニュース記事のページを開くと、まず記事のHTMLが返り、続けて画像やスタイル情報が読み込まれます。
2. 静的コンテンツと動的コンテンツ
静的コンテンツはサーバー上の決まったファイルです(例:画像、CSS、静的なHTML)。動的コンテンツはリクエストごとに生成します。ブログの記事一覧は動的な例で、サーバーがデータベースから記事を取り出してページを作ります。
3. 処理の大まかな順序
- 接続の受け入れとリクエストの受信
- リクエストの解析(どのページか判断)
- 静的ファイルを返すか、アプリケーションに処理を渡すか決定
- 必要ならデータベースから情報を取得
- レスポンスを生成して送信
4. エラーとキャッシュ
要求が見つからないと404、処理で問題が起きると500などを返します。キャッシュは同じデータを再利用して処理を軽くする仕組みです。ブラウザやサーバー側でのキャッシュにより応答を速くできます。
5. 簡単な安全対策と負荷分散
入力の検証や通信の暗号化(TLS)で安全性を高めます。アクセスが多い場合は複数のサーバーに振り分けて負荷を分散します。
Webサーバーの主要機能
概要
Webサーバーは、ウェブページや画像、スタイルシートなどのファイルを保存し、利用者の要求(HTTPリクエスト)に応じてそれらを返します。ここでは代表的な機能を平易に説明します。
静的コンテンツの配信
HTMLや画像、CSSといった静的ファイルを高速に配信します。例として、ウェブサイトの画像や会社案内のPDFをそのまま返す動作がこれに当たります。ファイルを効率よく転送する仕組みを持ちます。
動的コンテンツの生成
PHPやPythonなどのサーバーサイド言語と連携し、利用者ごとに内容を変えるページを作れます。例えばログイン後に表示する個人ページや、検索結果の表示などが該当します。Webサーバーはスクリプトの実行結果を受け取り、利用者へ返します。
セキュリティと認証
通信の暗号化(HTTPS)やアクセス制限、ユーザー認証機能を提供します。管理画面はパスワードやトークンで保護し、不正アクセスを防ぎます。また、悪意あるリクエストを遮断する機能も備えます。
ログ記録と監視
アクセスログやエラーログを記録して、利用状況や問題の原因を追跡します。ログを見ればどのページにアクセスが集中しているかや、エラーの発生箇所が分かります。
負荷分散とスケーリング
多数の利用者からの要求を複数のサーバーに分散して応答時間を短くします。需要が増えた際にはサーバー台数を増やし、性能を確保します。
帯域制御とキャッシュ
送受信の速度や回数を制限する機能で、通信の公平性を保ちます。さらに、キャッシュ機能で同じデータを繰り返し送らずに済ませ、応答を速くします。CDN(配信ネットワーク)と組み合わせるとより高速です。
管理機能
設定の変更、証明書の更新、バージョン管理など運用に必要な管理機能を備えます。定期的な保守で安全と安定を保てます。
Webサーバーと他のサーバーの役割分担
概要
Webサイトを支えるサーバーは役割を分けて動きます。役割を分けることで処理を効率化し、運用や保守を楽にします。
Webサーバーの役割
Webサーバーは主にHTTPでのやり取りを受け、静的なファイル(HTMLや画像、CSS、JavaScript)を返します。例として、会社のトップページや画像はWebサーバーが直接配信します。
アプリケーションサーバーの役割
アプリケーションサーバーは動的処理を担当します。フォームの送信処理やログイン認証、商品検索のロジックをここで実行します。プログラム(スクリプト)が動き、必要に応じてデータベースへ問い合わせます。
データベースサーバーの役割
データベースサーバーは情報の保存と検索を行います。ユーザー情報や注文履歴を安全に管理し、検索・更新・トランザクション(処理のまとまり)やバックアップも担います。
リクエストの流れ(具体例)
- ブラウザが商品ページを要求→Webサーバーに到着
- 静的部分はWebサーバーが返す。価格や在庫はアプリケーションサーバーに問い合わせる
- アプリケーションサーバーがデータベースに問い合わせ、結果を組み立てて返す
分担の利点と注意点
負荷を分散でき、セキュリティやメンテナンスがしやすくなります。一方で通信の遅延や構成管理が複雑になる点に注意してください。
Webサーバーの構成要素
全体の役割
Webサーバーは単独で動くこともありますが、運用では複数の要素が協調します。ここでは主要な構成要素を分かりやすく解説します。
ファイアウォール
外部からの不正なアクセスを遮断します。ネットワークレベルで許可する通信のみ通す仕組みです。例:管理画面は特定のIPだけ許可する設定にします。
ロードバランサー
複数のWebサーバーへアクセスを振り分け、負荷を均等化します。サーバーが落ちても別のサーバーへ誘導できます。例:アクセス増時にレスポンス遅延を防ぎます。
WAF(Webアプリケーションファイアウォール)
SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティングなど、アプリケーション層の攻撃を防ぎます。ルールで不正なリクエストをブロックします。
DNSサーバー
ドメイン名をIPアドレスに変換します。ユーザーは覚えやすい名前でアクセスでき、裏側でIPに解決されます。例:example.com→203.0.113.5
アプリケーションサーバー
ビジネスロジックを実行し、データベースと連携します。Webサーバーが静的ファイルを返す一方で、動的処理はここで行います。
データベースとストレージ
ユーザー情報やコンテンツを保存します。読み書きの性能やバックアップが重要です。例:会員情報はRDB、画像はオブジェクトストレージに保存します。
SSL/TLS(証明書管理)
通信を暗号化して第三者からの盗聴を防ぎます。証明書の更新や配置を適切に管理します。
モニタリングとログ
稼働状況やエラーを監視し、ログから問題を分析します。アラート設定で早期対応できます。
OS・ミドルウェア・ハードウェア(またはクラウド)
基盤となるOS、Webサーバーソフト(例:Apache、Nginx)、物理または仮想のハードウェアやクラウド環境が必要です。性能や冗長性を考えて構成します。
以上がWebサーバー運用で連携する主な構成要素です。各要素が役割を分担して、安全で安定したサービス提供を支えます。












