はじめに
本書の目的
本ドキュメントは、Webサーバー構築・運用に適したOSの選び方を分かりやすく示すことを目的としています。Windows系とUNIX・Linux系の特徴、代表的なLinuxディストリビューションの比較、主要なWebサーバーソフトの違いを整理し、実務で使える判断材料を提供します。
想定読者
サーバー管理者や開発者、これから自分でWebサーバーを立てようとする方を主な対象とします。ITの専門家でなくても理解できるよう、専門用語は必要最小限に留め、具体例で補足します。
なぜOS選びが重要か
OSはWebサービスの安定性やセキュリティ、運用コストに直結します。たとえば同じアプリケーションでも、ログ管理や自動更新の仕組みがOSごとに異なり、運用負荷が変わります。互換性やサポート体制も考慮すると、選択ミスで手戻りが発生しやすくなります。
本書の構成と使い方
第2章でOSの主要なカテゴリを説明し、第3章で主流ディストリビューションを比較します。第4章ではWebサーバーソフトの特徴を整理し、最後に実際の選定ポイントを示します。用途や運用方針に合わせて該当箇所を参照してください。
Webサーバー用OSの主要な2つのカテゴリ
Webサーバー用OSは大きく「Windows系」と「UNIX・Linux系」の二つに分かれます。ここではそれぞれの特徴と、選ぶときのポイントを分かりやすく説明します。
Windows系
- 特徴: グラフィカルな操作画面(GUI)が充実し、設定や管理が直感的にできます。マイクロソフト製品との連携が強く、.NETで作ったアプリやActive Directoryといった機能を使う現場に向きます。具体例はWindows ServerとIIS(Webサーバーソフト)です。
- メリット: 操作が分かりやすく、公式サポートを受けやすい点。企業内システムとの統合が楽です。
- 注意点: ライセンス費用がかかることが多く、更新や保守に費用が発生します。
UNIX・Linux系
- 特徴: 安定性やセキュリティに優れ、オープンソースのためソフトが豊富です。コマンド操作が中心ですが、自動化やカスタマイズで強みを発揮します。代表的な例はUbuntu Server、Debian、CentOS系(AlmaLinuxなど)です。よく使われるWebソフトはApacheやNginx、MySQL、PHPなどです。
- メリット: コストが抑えられ、世界中のレンタルサーバーで採用されています。トラフィックの多いサイトでも安定して動きます。
- 注意点: 初期学習にコマンド操作が必要な場合があります。
比較して選ぶポイント
- 使うアプリがWindows向けかどうか(.NETなど)
- 予算(ライセンス費用の有無)
- 管理のしやすさ(GUIを優先するか自動化や細かい設定を優先するか)
- サポート体制(ベンダーサポートとコミュニティサポート)
簡単なチェック: Windowsアプリを使うならWindows系、オープンな環境で低コストと高い安定性を求めるならUNIX・Linux系をおすすめします。
主流のLinuxディストリビューション比較
Ubuntu Server
ユーザーフレンドリーで導入が簡単です。パッケージ管理やセットアップ手順が分かりやすく、初心者から運用担当まで使いやすいです。クラウド環境やコンテナと相性が良く、LTS(長期サポート)版は安定して長く使えます。コミュニティやドキュメントが豊富で、トラブル時の情報を見つけやすい点も魅力です。
Red Hat Enterprise Linux (RHEL)
企業向けに設計され、安定性と公式サポートが充実しています。更新管理やセキュリティ対応が体系化されており、ミッションクリティカルな用途に向きます。商用サポートが必要な場合、契約により手厚いサービスを受けられます。
CentOSとその代替(Rocky Linux / AlmaLinux)
CentOSはRHEL互換で人気でしたがサポート方針が変わりました。現在はRockyやAlmaがRHEL互換の無償代替として注目されています。既存のCentOS環境を移行する際は、互換性とサポート期間を確認してください。
Debian
非常に安定したリポジトリを持ち、保守性を重視する場面で頼りになります。パッケージ数が多く、サーバー用途で長く使われることが多いです。リリース周期はゆっくりなので、大きな変更を避けたい場合に向きます。
FreeBSD(補足)
Linuxではありませんが、ネットワーク機能やセキュリティ設計で評価が高いOSです。ZFSやjailといった特徴的な技術があり、特定用途で選ばれます。互換性や運用方法がLinuxと異なる点に注意してください。
Webサーバーソフトウェアの選択
概要
WebサーバーOSを選ぶ際は、サーバーソフトの特徴を理解すると運用が楽になります。ここではApache、Nginx、LiteSpeedの長所と短所、使いどころを具体例で説明します。
Apache(アパッチ)
特徴:機能が豊富で安定性が高いです。モジュールを追加して機能拡張しやすく、.htaccessでディレクトリ単位の設定ができます。
具体例:小規模なWordPressサイトや多機能なCMSで使われます。PHPをそのまま動かす仕組みと相性が良いです。
短所:高負荷時はNginxに比べてメモリを多く使うことがあります。
Nginx(エンジンエックス)
特徴:同時接続や静的ファイル配信に強く、メモリ消費が少ないです。イベント駆動で高負荷に強く、リバースプロキシやロードバランサーとしても使われます。
具体例:アクセスが多いサイトやAPIサーバーのフロントに置いて、PHPはphp-fpmで裏側に処理させる構成が一般的です。
短所:細かいディレクトリ単位の設定はApacheほど簡単ではありません。
LiteSpeed(ライトスピード)
特徴:高速な応答性とApache互換性を両立します。HTTP/2やHTTP/3に対応し、負荷の高い環境で効果を発揮します。
具体例:ホスティング事業者や高トラフィックなサイトで有料版を導入しているケースがあります。
短所:商用版はライセンス費用が必要になる場合があります。オープン版(OpenLiteSpeed)もありますが機能差があります。
選び方のポイント
- 期待するアクセス数:高トラフィックならNginxやLiteSpeedを検討してください。低〜中規模で機能重視ならApacheが扱いやすいです。
- 動的コンテンツの処理:PHPなどを多用するなら、php-fpmとの組み合わせも視野に入れてください。
- 予算とサポート:商用サポートが必要ならLiteSpeedの商用版や商用サポートを検討します。
- テスト:実際の負荷で試してから本番移行してください。












