はじめに
目的
この文書は、WordPressのマルチサイト機能の基礎から導入までを分かりやすく解説します。初めての方でも設定や運用ができるよう、手順やポイントを丁寧に示します。
対象読者
- 複数のサイトを一元管理したい方
- 会社や団体で支店・ブランドごとにサイトを運用する担当者
- 個人で複数のブログを運営したい方
本書で扱う内容
第2章以降で、マルチサイトの仕組み、マルチサイト有効化の手順、サイトアドレス形式の選び方、新規サイトの追加方法、管理に便利なテンプレートタグ、導入時の注意点を順に説明します。具体例を交えて実務で使える情報を提供します。
事前準備
- WordPressの管理者アカウントを用意する
- 作業前にサイトのバックアップを取得することをおすすめします
次章からはマルチサイトの基本的な説明に入ります。
WordPressマルチサイトとは
概要
WordPressのマルチサイトは、1つのWordPress本体(コア)で複数のWebサイトをまとめて管理できる機能です。1つのインストールで新しいサイトを追加でき、ドメインやサブドメイン、サブディレクトリでサイトを分けられます。
主な特徴
- 一元管理:プラグインやテーマを中央で更新できます。
- サイトごとの独立性:見た目やコンテンツは各サイトで変えられます。
- ユーザー共有:ユーザーをネットワーク全体で管理できます(必要に応じて個別の権限設定も可能)。
使いどころ(具体例)
- 大学や企業の支部ごとにサイトを作るとき
- 複数の地域・言語で同じコンテンツ基盤を使うとき
- サービス別に小さなサイトを多数運営するとき
基本的な仕組み(簡単に)
ネットワーク管理画面(Network Admin)からサイトを追加します。テーマやプラグインはネットワーク単位で管理し、個別サイトで有効化する場合と、ネットワーク全体で強制的に有効にする場合があります。
管理者と権限
マルチサイトには「スーパー管理者(Network Admin)」と「サイト管理者(Site Admin)」の役割があります。スーパー管理者はインストール全体の設定やサイト追加を行い、サイト管理者は各サイトの投稿や見た目の管理を行います。
メリットと注意点
メリットは運用負担の軽減と統一管理です。注意点は、プラグインの互換性やサーバー負荷、ドメイン設定などを事前に確認する必要がある点です。複数サイトをまとめて管理したい場合に特に有効です。
マルチサイト設定の基本手順
事前準備
- サイト全体のバックアップを必ず取ります。データベースとファイル(wp-content、wp-config.php、.htaccess)を別々に保存してください。
- 使用中のプラグインは一度無効化します。ネットワーク化後に再有効化して互換性を確認します。
wp-config.php の編集
- FTPやファイルマネージャーで wp-config.php を開きます。
- “/ That’s all, stop editing! Happy blogging. /” の直前に次の一行を追加します:
define(‘WP_ALLOW_MULTISITE’, true); - 保存してアップロードします。
管理画面でネットワークを作成
- WordPress管理画面にログインし、ツール → サイトネットワークの設置 を選びます。
- ネットワーク名、管理者メールを入力します。
- サイトアドレス形式(サブドメイン方式またはサブディレクトリ方式)を選びます。選び方は第4章で詳しく説明します。
- 表示されるコードをメモします。
.htaccess の編集と最終手順
- 管理画面の指示に従い、wp-config.php と .htaccess に示されたコードを追加・上書きします。
- ファイルを保存してサーバーにアップロードします。
- ブラウザで一度ログアウトし、再度ログインします。これでマルチサイトが有効になります。
注意点(簡単に)
- サーバーの種類や既存の設定で手順が変わる場合があります。問題が出たらバックアップから復元してください。
サイトアドレス形式の選択
概要
マルチサイトではサイトの住所にあたる「形式」を2つから選べます。例として、サブドメイン形式は site1.example.com のようにドメイン名の前に付けます。サブディレクトリ形式は example.com/site1/ のようにディレクトリで分けます。
サブドメイン形式(メリット・注意点)
- メリット: サイトごとに独立した印象を与えやすく、独自性を出せます。大規模運用やブランド分けに向きます。
- 注意点: サブドメインを使うにはDNS設定でワイルドカード(*.example.com)を用意する必要があります。SSLはワイルドカード証明書か個別発行が必要です。サーバー設定やDNSに慣れていない場合は手間がかかります。
サブディレクトリ形式(メリット・注意点)
- メリット: 設定がシンプルで初期導入が楽です。既存のドメインを活かした運用に向きます。
- 注意点: メインサイトとURLが近いため、整理を工夫しないとページが混ざって見えることがあります。既に多数のURL構成がある場合は互換性の確認が必要です。
選び方のポイント
- ブランドや独立性を重視するならサブドメインを検討してください。
- 手軽さや既存サイトとの親和性を優先するならサブディレクトリが向きます。
- 一度選ぶと切り替えが手間になるため、導入前にDNSやSSL、サーバーの対応状況を確認してください。
導入チェックリスト(簡易)
- サブドメイン: ワイルドカードDNS/SSL、サーバーのバーチャルホスト設定
- サブディレクトリ: パーマリンク設定の確認、既存URLとの競合回避
以上を参考に、運用方針と技術的条件を照らし合わせて選んでください。
新規サイトの追加方法
前提
マルチサイトネットワークが有効化されていることを確認してください。ネットワーク管理者(Super Admin)でログインして作業します。
新しいサイトを追加する手順
- 管理バーの「サイト」→「新規サイトを追加」をクリックします。
- 入力項目に必要情報を入れます。
- サイトアドレス: サブドメイン/サブディレクトリの形式で入力します(例: example.com/ショップ)。
- サイトタイトル: サイトの見出しになります。
- 言語: サイト表示に使う言語を選びます。
- 管理者のメールアドレス: 既存ユーザーならそのまま割り当て、未登録なら新規ユーザーが作成されます。
- 「サイトを追加」をクリックするとサイトが作成されます。作成時に管理者へ確認メールが送信されます。
追加後の確認と設定
- ネットワーク管理の「すべてのサイト」で新しいサイトが一覧に表示されます。
- 必要に応じてサイトにテーマやプラグインの有効化、プライバシー設定、パーマリンクの確認を行ってください。
注意点とコツ
- サイトアドレスは重複しないよう注意してください。
- 管理者メールは間違いのないものを使い、受信できるか確認してください。
- 新規ユーザーにパスワード設定を促すにはメールの案内を案内文で補足すると親切です。
マルチサイト管理用のテンプレートタグ
概要
WordPressマルチサイトでは複数サイトを安全に扱うための関数が用意されています。ここでは主なテンプレートタグと使い方を、具体例を交えて分かりやすく説明します。
主な関数と説明
-
switch_to_blog( $blog_id )
指定したサイトに切り替えます。例:管理用に別サイトの設定を参照するときに使います。
使い方例:switch_to_blog(2); $title = get_option('blogname'); -
restore_current_blog()
switch_to_blog()で切り替えた後、元のサイトに戻します。必ずセットで使います。 -
get_sites( $args )
ネットワーク内のサイト一覧を配列で取得します。ループ処理で各サイトの情報を取り出せます。 -
is_multisite()
現在のインストールがマルチサイトかを判定します。条件分岐に便利です。 -
update_blog_option( $blog_id, $option, $value )
指定サイトのオプションを更新します。例:テーマカラーなどを一括更新する際に使います。 -
delete_blog_option( $blog_id, $option )
指定サイトのオプションを削除します。 -
wpmu_delete_blog( $blog_id, $drop )
サイトを削除します。データ削除の有無を引数で制御できます。実行前に必ずバックアップを取ってください。
使用上の注意
switch_to_blog()とrestore_current_blog()はセットで使い、戻し忘れに注意してください。- 権限が必要な操作(更新・削除)は適切なユーザーで実行してください。バックアップを取る習慣を付けると安全です。
マルチサイト導入時の注意点
はじめに
マルチサイトは便利ですが、単一サイトより運用が複雑です。導入前に注意点を押さえておくとトラブルを防げます。
サーバーとレンタルサーバーの対応
レンタルサーバーによってはマルチサイト非対応や設定制限があります。サブドメイン方式ではワイルドカードDNSやサーバー側の設定が必要です。契約前に対応可否を確認してください。
バックアップと復元計画
導入前に完全バックアップを取り、復元手順を確認します。データベースとファイル両方を保存し、実際に復元できるかテストすることが重要です。
プラグイン・テーマの互換性
全サイトに影響するプラグインは慎重に選びます。ネットワーク有効化すると全サイトへ反映されるため、事前にテスト環境で確認してください。
SSLとドメイン管理
サブドメイン方式はワイルドカード証明書、サブディレクトリ方式は通常の証明書で対応します。ドメインマッピングを使う場合は各ドメインのSSL対応も忘れずに行ってください。
パフォーマンスとリソース管理
複数サイトでアクセスが集中すると負荷が高まります。キャッシュ導入やオブジェクトキャッシュ、必要ならサーバーのスペック見直しを検討しましょう。
ユーザー権限と運用ルール
ネットワーク管理者とサイト管理者の権限差を明確にします。更新手順やプラグイン追加のルールを文書化すると混乱を避けられます。
テスト環境とロールバック
本番導入前にステージング環境で動作検証を行い、問題発生時のロールバック手順を用意してください。アップデート前にスナップショットを取ると安心です。
トラブル時の基本対応
ログ(PHP・サーバー・WordPressのデバッグログ)を確認し、問題箇所を特定します。レンタルサーバーのサポートや開発者に相談するタイミングを決めておくと対応が早くなります。
最後に
初心者の方は無理に本番環境で始めず、準備と検証を重ねてから切り替えてください。事前準備が安定運用の鍵です。












