はじめに
概要
本ドキュメントは、AWSのコンテナイメージ管理サービスであるAmazon Elastic Container Registry(ECR)について、やさしく丁寧に解説します。ECRの役割や基本的な機能、実装で押さえておきたい点を順を追って説明します。具体例を交え、実際の運用で役立つ知識を提供します。
目的
ECRがどのようにコンテナ運用を支えるかを理解していただくことが目的です。イメージの保存・配布、他のAWSサービスとの連携、セキュリティ対策、料金の見方まで幅広く取り上げます。
対象読者
クラウドやコンテナの初心者から中級者までを想定します。開発者、運用担当者、アーキテクトなど、実際にコンテナを使ってサービスを運用する方に向けた内容です。
このドキュメントで学べること
- ECRの役割と基本概念(例:Dockerイメージの保存と配布)
- ECRの主要な構成要素
- ECRと他のAWSサービスの連携方法
- セキュリティ機能(脆弱性スキャンなど)
- 料金体系の見方とコスト管理のポイント
読み方のヒント
まず第2章で基本を押さし、第3章以降で実践的な構成や運用、セキュリティ、料金を順に読み進めることをおすすめします。事前知識として、コンテナ(Docker)の基礎とAWSの基本操作があると理解が早まります。
AWS ECRとは
概要
Amazon ECR(Elastic Container Registry)は、コンテナイメージを安全に保管・管理するためのフルマネージドサービスです。Docker Hubのようにイメージを保存できますが、AWS環境と深く連携しており、認証や権限管理を簡単に設定できます。
主な役割
- コンテナイメージの保存とバージョン管理(タグで管理します)
- チーム内やアカウント間でのイメージ共有
- 自動スキャンやライフサイクル管理で古いイメージを整理
- デプロイパイプラインへイメージを供給
誰に向いているか
AWS上でアプリケーションを動かす開発チームや、CI/CDでイメージを自動配信したい運用チームに向きます。オンプレのレジストリよりも運用負荷を下げたい場合に適しています。
日常的な使い方の流れ(例)
- ローカルでコンテナイメージをビルド
- ECRにログインしてイメージにタグを付ける
- ECRへプッシュ
- 本番やステージングでECRからプルしてデプロイ
主なメリット
- フルマネージドで運用負荷が低い
- IAMなどで細かなアクセス制御が可能
- AWSの他サービスとスムーズに連携できる
この章ではまずECRの役割と日常的な使い方を押さえました。次章で内部の構成要素を詳しく見ていきます。
AWS ECRの構成要素とコンポーネント
レジストリ
ECRの中心はレジストリです。レジストリはコンテナイメージを保存する場所で、アカウントごとに一つ用意されます。プライベートレジストリはそのアカウント内でのみ使え、パブリックレジストリは公開して誰でも取得できます。
リポジトリ
リポジトリはレジストリ内のフォルダのようなもので、サービスやアプリごとに分けて保存します。例として、backendやfrontendといったリポジトリを作り、その中にイメージを置きます。
イメージとタグ
コンテナイメージはビルド成果物で、タグでバージョン管理します。たとえばbackend:1.0やbackend:latestのように使います。タグで明示すればデプロイ時に狙ったバージョンを取得できます。
ライフサイクルポリシー
不要になった古いイメージを自動で削除する仕組みです。保存容量を節約し、管理の手間を減らします。ルールは保持する世代や作成日で指定できます。
脆弱性スキャン
ECRはイメージ内の既知の脆弱性を検出できます。スキャン結果はレポートになり、問題のあるライブラリやパッケージを特定できます。
アクセス制御
IAMやリポジトリポリシーで誰がプッシュやプルできるかを制御します。チーム単位で権限を分けると運用が安全になります。
クロスリージョン/クロスアカウント
イメージを別リージョンや別アカウントに複製できます。災害対策や複数拠点での配布に役立ちます。
操作方法
Docker CLIやAWSマネジメントコンソールでイメージのプッシュ・プル・管理を行います。CI/CDから自動で操作することも一般的です。
AWS ECRと他のAWSサービスとの関係性
Amazon ECS
ECRはコンテナイメージの保管庫を提供し、ECSはそのイメージを実行します。例えば、ECSタスク定義でECRのリポジトリURIを指定すると、コンテナが自動でイメージを取得して起動します。認証はIAMロールやCI/CDツール経由で安全に行います。
Amazon EKS
EKS(Kubernetes)でもECRのイメージを使えます。kubectlでイメージを指定し、KubernetesのイメージプルシークレットやIAMロール(IRSA)でアクセス権を付与します。これにより、Kubernetes環境でもプライベートイメージを安全に配布できます。
AWS Lambda
Lambdaはコンテナイメージをデプロイ対象として受け入れます。ECRに格納したイメージを指定すれば、関数として実行できます。特に依存が多いアプリやランタイムを含めたい場合に便利です。
CI/CD(CodeBuild/CodePipelineなど)
CodeBuildはビルドしたイメージをECRにプッシュします。CodePipelineと連携すれば、ソース→ビルド→ECR→デプロイ(ECS/EKS/Lambda)という自動化が簡単に組めます。実例として、ソースコードのコミットで新イメージを自動的に反映できます。
セキュリティと運用(IAM、KMS、VPCエンドポイント、EventBridge)
アクセス制御はIAMで行い、KMSで保存データを暗号化します。VPC内から安全にアクセスしたい場合はECRのインターフェースVPCエンドポイントを使います。イメージのプッシュやプルなどのイベントはEventBridgeやCloudWatchに通知して運用を監視できます。
まとめると、ECRはコンテナイメージの中心的な保存先として多くのAWSサービスと密接に連携し、ビルドからデプロイ、運用までの流れを支えます。
AWS ECRのセキュリティ機能
概要
Amazon ECRはコンテナイメージの保管と配布だけでなく、セキュリティ面でも複数の機能を提供します。ここでは主要な機能をわかりやすく解説します。
1. 脆弱性スキャン
ECRはイメージの脆弱性スキャンに対応します。イメージをリポジトリにプッシュすると自動でスキャンする設定が可能です。結果は重大度ごとに表示され、例として「高」や「重要」な脆弱性が見つかればデプロイを止めるなどの対応が取りやすくなります。
2. 認証とアクセス制御
IAMと連携し、誰がどのリポジトリにアクセスできるか細かく制御できます。リポジトリポリシーで特定のアカウントだけ許可したり、CI用のロールに限定した権限を与える例が一般的です。
3. 暗号化と通信保護
保存データはサーバー側で暗号化され、KMSのカスタマー管理キーも利用できます。通信はTLSで保護されるため、ネットワーク経路上の盗聴リスクを低減します。
4. 監査とログ
ECRの操作はCloudTrailで記録できます。誰がプッシュ/プルしたかが残るため、不審な操作の追跡や監査が容易になります。
5. 運用面の補助機能
イメージの不変化(イミュータブルタグ)やライフサイクルポリシーで古いイメージを自動削除することで、攻撃対象を減らせます。さらに、クロスアカウントやクロスリージョンの利用時もアクセス制御と暗号化で安全性を保てます。
ベストプラクティス(簡潔)
- スキャンは自動化し、高・重大な脆弱性でパイプラインを停止する
- 最小権限のIAMロールを使う
- KMSで鍵を管理し、CloudTrailで操作を監査する
以上がECRで活用できる主なセキュリティ機能です。運用に合わせて組み合わせると、より安全なコンテナ運用ができます。
料金体系
概要
Amazon ECRは使用量に応じて課金されます。必要な分だけ支払う仕組みで、利用が少ないときはコストを抑えられます。以下に主要な料金要素と節約のポイントをわかりやすく説明します。
主な料金項目
- ストレージ(GB/月): コンテナイメージを保存する容量に対して課金されます。古いタグや不要なイメージを削除すると節約できます。
- データ転送: イメージのプッシュ/プルやリージョン間のレプリケーションで発生します。同一リージョン内のやり取りは安く、リージョン間やインターネットへの転送は高くなる傾向があります。
- 追加機能の費用: 画像スキャンやクロスリージョン複製などは別途料金がかかる場合があります。必要な機能だけ有効にすると無駄が減ります。
コスト削減の実践例
- ライフサイクルポリシーで古いイメージを自動削除する。
- イメージの層を小さくし、差分だけをプッシュする。
- 同一リージョンのレジストリを利用し、不要なクロスリージョン転送を避ける。
請求の確認と管理
AWS請求ダッシュボードやCost ExplorerでECRの使用状況を確認します。タグ付けでプロジェクト別に集計すると、どこで費用が発生しているか把握しやすくなります。
まとめ
Amazon ECRは、AWS上でコンテナイメージを安全に保存・管理するための基本サービスです。ECS、EKS、Lambdaなどの実行環境とスムーズに連携し、CI/CDから本番まで一貫したイメージ運用を実現します。
- 主な利点
- 中央リポジトリとしてイメージを一元管理できます。例:開発チームがビルドしたイメージをECRに置き、各環境で同じイメージを使えます。
- 脆弱性スキャンや暗号化、細かいアクセス制御でセキュアに運用できます。
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使用量ベースの料金で、無駄なコストを抑えられます。
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運用のポイント
- ライフサイクルポリシーで不要なイメージを自動削除してください。ストレージコストが減ります。
- イメージにタグの付けルールを決め、immutableタグ(例:リリース番号)を使うと信頼性が上がります。
- IAMやKMSで最小権限と暗号化を設定し、脆弱性スキャンをCIに組み込んでください。
ECRはシンプルに始められ、拡張性とセキュリティを両立します。まずは小さなリポジトリで運用を試し、運用ルールを少しずつ整えていくことをおすすめします。












