はじめに
本シリーズは「サイトリニューアル 提案書」を作る方法を、実務で使える形で丁寧に解説します。社内向けの承認資料やクライアント向けの提案書まで、目的別に使えるポイントを具体例とともに示します。
誰に向けた章か
– 経営層や決裁者に説明する必要がある担当者
– クライアントに説得力ある提案をしたい制作会社やコンサルタント
本章の目的
– 全体の構成と読み方を示し、以降の章で何を学べるかをわかりやすく伝えます。
使い方のポイント
– まず目的(なぜリニューアルするか)を明確にしてください。
– 次に現状データ(流入数、滞在時間、離脱率など)を用意します。
– 想定ターゲット、参考サイト、予算感も先にまとめると提案が速くなります。
本文では専門用語を最小限にし、具体例や図でイメージを伝える方法を重視します。以降の章で各項目の書き方や注意点を順に詳しく解説していきます。
サイトリニューアル提案書とは何か
定義
サイトリニューアル提案書は、現状の課題を明確にし、改善の流れと期待される成果を示す資料です。経営層や意思決定者に対して、実行すべき理由と実施計画を分かりやすく伝えます。
主な役割
- 目的とKPIを明示する(例:月間コンバージョンを20%向上、問い合わせ件数を30件/週に増加)
- 対応範囲・作業項目を整理する(デザイン改修、コンテンツ整理、SEO対策など)
- 費用・スケジュール・体制を提示する(開発期間、担当者、外注の有無)
ユーザー視点とビジネス視点の両立
ユーザー視点では使いやすさ・導線改善を、ビジネス視点では収益や効率の改善を重視します。たとえば、問い合わせ動線を短くして成約率を高めることを数値で示します。
作成時のポイント
- 現状の課題をデータで示す(アクセス解析やユーザーヒアリング)
- ROIや期待効果を具体例で算出する(改善前後の想定値)
- 責任分担と管理方法を明確にする(PM、デザイナー、開発者の役割)
提案書は単なる説明資料ではなく、発注前の意思決定を支える実務文書です。読み手が判断しやすい形で、根拠と見通しを示すことが重要です。
提案書に必要な項目と基本構成
社内向けサイトリニューアル提案書は、誰が見ても理解できる構成にすることが大切です。以下は必須項目と、それぞれの書き方ポイントです。
1. 表紙
タイトル、日付、作成者、所属、ロゴを明記します。版数や連絡先も載せると便利です。
2. 概要・目次
提案の狙いを1ページで要約し、目次で全体構成を示します。忙しい上司が最初に目を通せるようにします。
3. リニューアルの目的
背景と狙いを具体的に書きます(例:情報整理、検索性向上、業務効率化)。期待される効果を箇条書きで提示します。
4. 課題分析
現状の問題点をデータや事例で示します。アクセス解析や社員アンケートの結果を簡潔にまとめると説得力が増します。
5. ターゲットとコンセプト
主な利用者像(社内のどの部署・職種か)を明確にし、デザインや機能の方針を示します。
6. コンテンツ案・デザインイメージ
ページ構成、主要コンテンツ、ワイヤーフレームや色の方向性を載せます。画面イメージは図で示すと分かりやすいです。
7. 目標・成果指標(KPI)
測定可能な指標を設定します(例:検索成功率、ページ滞在時間、問い合わせ件数の変化)。達成基準も明示します。
8. 他社事例
参考になる社内外サイトの良い点を抜粋し、自社に取り入れられる要素を示します。
9. 予算・スケジュール
概算見積もりと主要マイルストーンを提示します。リスクと対応策も簡単に触れておくと安心です。
書き方のコツ:図表や箇条書きを多用し、専門用語は注釈や具体例で補ってください。最初に要約ページを置き、読み手が短時間で全体像をつかめる構成にすると効果的です。
表紙のポイント
はじめに
提案書の表紙は第一印象を決める重要なページです。意図が伝わる表紙にすることで社内決裁がスムーズになります。
タイトルとキャッチコピー
・サイトリニューアルの目的を端的に示すタイトルを入れてください(例:「問い合わせを増やすコーポレートサイトへ」)。
・最終ゴールを示す短いキャッチを添えると意図が伝わりやすいです。
提出者情報の明記
・自社名、担当者名、連絡先、提出日を必ず記載してください。誰がいつ提案したか一目で分かります。
視覚要素とレイアウト
・ロゴやキービジュアルでブランド感を出します。
・配色は既存ブランドに合わせ、写真やアイコンは少数に抑えます。
・余白を十分に取り、重要情報を目立たせます。
可読性の配慮
・見出しは大きく、サブテキストは読みやすいサイズにします。
・PDFで表示確認し、印刷時の崩れもチェックしてください。
具体例(参考)
タイトル:問い合わせ数を2倍にするサイトリニューアル
キャッチ:使いやすさで顧客をつかむ
提出:株式会社○○ 担当:山田太郎 提出日:2025年6月1日
NG例
・長すぎるタイトルや小さすぎる文字、提出情報の未記入は避けてください。
表紙は提案の入り口です。明確で見やすく作り、次ページへ自然に導いてください。
概要・目次で全体像を見せる
1. 一行概要(要約)
提案書の最初に、プロジェクトの狙いと期待する成果を1~2行で示します。忙しい相手でも一目で要旨が分かるため、会議の冒頭やメールで使えます。
2. 目次(ページ見出し)
章立てを見出しとページ番号で並べます。主要セクション(目的、現状、提案内容、KPI、予算、スケジュール、補足資料など)を順序よく配置してください。
3. 作り方のポイント
- 上位層から順に:まず全体像、次に詳細へ進む構成が読みやすいです。
- 見出しは短く具体的に:『目的と指標』より『目標:訪問数を30%増』のように。
- ページリンクや参照を付けると確認が早まります(例:『詳細P.8』)。
4. 目次の具体例(テンプレート)
- 表紙
- 概要・目次
- 現状と課題
- 目的とターゲット
- 提案内容(機能・コンテンツ)
- デザイン案
- KPIと効果予測
- スケジュール・費用
- 参考事例・補足
5. 見せ方の工夫
箇条書き、アイコン、短い要約文を使うと視認性が高まります。PDFなら目次にハイパーリンクを入れて、クリックで該当ページへ飛べるようにしてください。
6. 注意点
目次で過度に細分化すると全体像が見えづらくなります。必要なレベルでまとめ、詳細は別の補足資料に分けるのが効果的です。
リニューアルの目的を明確にする
目的は必ずビジネス成果に結びつける
リニューアルの目的は「見た目を変える」だけで終えてはいけません。問い合わせ数の増加、売上向上、採用応募数の増加、ブランドイメージ向上など、具体的なビジネス成果に結びつけて記載します。例:月間問い合わせを100件→150件にする、ECのCVRを2%→3%にする、年内応募者数を50名増やす。
具体的な数値と期限を入れる
目的には必ず数値と期限を入れてください。曖昧だと評価ができません。現状値、目標値、達成期限を一目でわかる表にしておくと便利です。
優先順位を決める
複数の目的がある場合は優先順位を決めます。短期で効果が出るもの(コンバージョン改善)と、中長期で育てるもの(ブランド認知)の区別をつけ、フェーズごとの目標を示します。
測定方法と成功基準を明示する
どの指標で成果を測るかを明確にします。問い合わせ数ならフォーム送信数、電話なら通話数。売上なら購入件数や平均単価。成功基準(例:KPI達成率80%以上で成功)も決めます。
実行のための要件と制約
必要なリソース(予算、人員、期間)や想定リスクを書きます。これにより現実的な計画になります。例えばフォーム改善は優先度高・費用小で早期実施、といった形で示してください。
課題分析で現状を可視化
目的
現状の問題点を明確にして、改善の優先順位をつけます。数字と声の両方を集めることで、感覚だけで判断しない土台を作ります。
データ収集方法(具体例)
- アクセス解析:ページ別の閲覧数、直帰率、導線(遷移)を確認します。例:トップページから商品ページに到達しない。
- ユーザー行動:ヒートマップやクリック数、スクロール率で視覚的に把握します。例:重要なボタンがほとんど押されていない。
- 定性情報:ユーザーテストや問い合わせ履歴、社内ヒアリングで使い勝手や誤解点を洗い出します。例:FAQが見つからないという声。
課題の分類と可視化
- 見づらい・使いづらい(UI/導線の問題)
- 情報が古い・散在している(更新・構造の問題)
- 成果につながらない(コンバージョン導線の弱さ)
表やユーザージャーニー図で可視化すると関係者に伝わりやすくなります。
優先順位の付け方
影響度(売上や問い合わせへの影響)と実行難易度(工数)で評価します。短期間で効果が見込める改善から着手すると現場の理解が得やすいです。
改善につなげるポイント
- 証拠(データ)を示すこと
- 具体的な課題文(誰が・どこで・どう困るか)で表現すること
- 小さな仮説検証を繰り返し、効果を確認すること
チェックリスト(早見)
- 直帰率や滞在時間に異常はないか
- 主要導線で離脱が集中していないか
- 現場の声とデータが矛盾していないか
- 優先度が明確で施策に繋がるか
ターゲットとコンセプト
なぜ重要か
サイトリニューアルでは、誰に何を届けるかを明確にします。ターゲットとコンセプトを固めると、コンテンツ・デザイン・導線の判断がぶれません。例えばBtoBの決裁者向けなら信頼感重視、採用サイトなら働くイメージを見せることが優先です。
ターゲットの決め方(具体例付き)
- ペルソナを作る:年齢、職種、抱える課題、情報収集の方法を設定します。例:製造業の経営者、年齢50代、コスト削減を重視、資料はPDFで確認。
- 優先度を付ける:主要ターゲットと副次ターゲットを分けます。主要に合わせて設計し、副次は最低限対応します。
コンセプト作成の手順
- コアメッセージを一文で書く(例:「安心と効率で選ばれる業務改革パートナー」)。
- 提供価値を明文化する(何をどう解決するか)。
- トーンとビジュアル指針を決める(硬め/親しみやすさ、色の方向性)。
設計への落とし込み
- コンテンツ:ターゲットが知りたい情報を優先配置します。事例や導入効果を見せると有効です。
- 導線:主要アクション(問い合わせ、資料請求、応募)へスムーズに誘導します。
- CTA:ターゲットの心理に合わせた文言と配置を検証します。
チェックリスト(提案書に載せる項目)
- ターゲ像(ペルソナ)
- コアメッセージ
- 主要コンテンツと優先順位
- 推奨トーン・デザイン
- 想定ユーザーの導線図
この章を基に、以降のコンテンツ案やデザインに一貫性を持たせましょう。
第9章: コンテンツ案・デザインイメージ
はじめに
提案書では、ページ構成と中身を具体的に示すことが大切です。読む側が完成イメージをつかめるよう、要素ごとに例を挙げて説明します。
ページ構成の一覧(例)
- トップページ:サービスを一目で理解できるファーストビュー、導線を明示
- サービス詳細:機能・料金・導入事例を見やすく整理
- 会社情報:信頼感を高める沿革・代表挨拶
- お問い合わせ:コンタクトフォームとFAQ
- ブログ・お知らせ:更新情報でSEOとリピートを促進
各ページのコンテンツ案(具体例)
- トップ:キャッチコピー+主要導線(申し込み/資料請求)
- サービス:比較表、導入事例のビフォー・アフター、よくある質問
- 会社:写真付きのメンバー紹介、アクセスマップ
- 問い合わせ:必須項目を最小化して離脱を防ぐ
ワイヤーフレームとラフデザイン
- ワイヤーフレーム:要素の配置を線画で示します。まずはPCとスマホの代表レイアウトを用意してください。
- ラフデザイン:配色や写真イメージを載せます。高精度のビジュアルは後工程で作成します。
ビジュアル指針(例)
- カラー:ブランドカラー+アクセント1色で統一
- タイポ:見出しは太め、本文は可読性の高いフォントを推奨
- 写真:実写を基本に、必要に応じてアイコンで補う
レスポンシブとアクセシビリティ
- 主要なブレイクポイントで表示を検証します。文字の拡大やコントラストも確認して下さい。
プロトタイプとレビューの進め方
- 初回は低解像度ワイヤーで合意を取り、段階的にデザインを詰めます。ユーザーテストのフィードバックを反映して改善します。
必要なら、ページごとのワイヤーやラフ案を添付して具体的に示すと提案の説得力が高まります。
目標・成果指標(KPI)
目標(ゴール)を明確にする
リニューアルで何を達成したいかを最初に書きます。売上拡大、問い合わせ増加、採用応募の増加など、具体的な成果を一つまたは二つに絞ると評価しやすくなります。
KPIの分類と例
- 定量的指標:測定しやすい数値です。例)問い合わせ数、セッション数、コンバージョン数、CVR(コンバージョン率)、直帰率、平均滞在時間
- 定性的指標:顧客満足度やブランド認知など、評価に工夫が必要です。例)NPS、アンケートでの満足度
具体的な目標例(提案書で使える表現)
- 問い合わせ数を6か月で30%増やす
- 月間セッション数を20%増加させる
- 採用応募(エントリー)を月10件確保する
- コンバージョン率を1.0%から1.5%に改善する
各目標には基準値(現在値)と期間を明記してください。
目標設定のポイント
- 測定可能にする:数値と期間を必ず入れます。
- 優先順位をつける:主要KPI(最重要)と副次KPIに分けます。
- 現実性を担保する:現状データを基に現実的な伸び率を示します。
測定方法と報告頻度
- 使用ツール:Google Analytics、サーバーログ、フォームツールなどを明記します。
- 報告頻度:週次・月次・四半期ごとなど、成果を定期的に確認します。
- 担当者を決める:誰がデータを集め、誰が報告するかを明示します。
提案書での見せ方
- 現状値→目標値→到達期間の3列形式で示すと分かりやすいです。
- グラフや目標達成のシナリオ(楽観/現実/慎重)を添えると説得力が増します。
必要に応じて、具体的な現状データを教えていただければ、目標値案を一緒に作成します。
他社事例の活用
なぜ有効か
同業他社やベンチマーク企業の事例は、経営層に具体的なイメージを伝えます。抽象論よりも実際の画面や数値を示すと説得力が増しますし、自社の課題解決に繋がる根拠にもなります。
事例の選び方
- 業界内の成功事例(似た業態・ターゲット)
- 業界外で参考になるUXや導線
- サイズや予算が近い企業の事例
3〜5社に絞って深掘りすると比較しやすくなります。
比較の見せ方(実務)
- ビフォー/アフターのスクリーンショット
- KPI比較(PV、直帰率、CVRなど)と改善幅
- 変更点(ナビ、CTA、フォーム、モバイル最適化)を列挙
表や図で差分を一目でわかるようにします。必要ならURLや参考スクショを添付してください。
提案書への落とし込み例
各事例から「自社に使える要素」を3点程度抽出し、理由と期待効果を明示します。たとえば「トップの導線を簡素化して問い合わせ導線を短縮→CVR向上見込み」などです。
注意点
事例は模倣ではなくヒントとして扱ってください。著作権やブランド表現には配慮し、数値は出典を明記して引用します。
予算・スケジュール
はじめに
最後に、社内承認を得やすくするための予算案とスケジュールを明示します。作業範囲をはっきり示し、期間の目安と費用根拠を添えることが重要です。
含めるべき作業範囲
- 要件定義・設計
- デザイン(UI/UX)
- 開発(フロント・バックエンド)
- テスト・検証
- コンテンツ移行・入力
- SEO基本設定・公開支援
- 運用・保守(オプション)
予算の提示方法(例)
- 固定見積りまたは時間制(T&M)を明記
- 各工程ごとに金額や幅を示す(例:設計 30万〜50万円、開発 80万〜200万円)
- 予備費(概ね総額の10〜20%)を明記
- 支払条件(例:着手時30%、中間40%、納品時30%)
スケジュールの例
- 準備・要件定義:2〜4週間
- デザイン:2〜4週間
- 開発:4〜12週間(規模により変動)
- テスト・公開準備:2〜3週間
- 公開・安定化:1〜4週間
各工程に承認・レビュー期間(各1週間程度)のバッファを入れてください。
承認を通しやすくする工夫
- 成果物とKPIを結び付けて費用対効果を示す
- 段階的に予算承認を取る(フェーズごと)
- リスクと代替案を明示して安心感を与える
注意点:運用費は長期コストになるため、必ず別項目で見積もりを示してください。
専門用語を避ける・わかりやすく書く
概要
専門用語は極力避け、平易な言葉で書きます。上司や役員にWeb運営の知見がない場合は、補足説明を入れて理解を助けます。
書き換えのコツ
- 日常語に言い換える:例えば「SEO」→「検索で見つけやすくする工夫」
- 具体例を示す:施策を実施したときの見込み(例:表示速度を上げて直帰率が下がる)
- 一文を短くし、結論を先に書く
上司向けの補足方法
- 用語集や脚注を付ける
- 図やフロー図で影響範囲を示す
- 要点を箇条書きにして意思決定しやすくする
書き方の例(前→後)
- 「CMSを導入します」→「サイト更新を簡単にする管理画面を導入します」
- 「コンバージョン率改善」→「資料請求や購入につながる割合を増やします」
チェックリスト
- 専門用語は注釈を付ける
- 例や数値を入れる
- 3行以内で要点を伝える
- 図表を1つ以上入れる
読者の立場に立ち、分かりやすさを最優先にしてください。
まとめのメッセージ
最終メッセージの役割
サイトリニューアル提案書の最後は、関係者に意思決定してもらうための締めくくりです。目的、現状の課題、リニューアル後のイメージ、目標数値を簡潔に示し、納得と行動につなげます。
伝えるべきポイント(チェックリスト)
- 目的の再提示:1〜2文で要点を明確に述べる。
- 現状と課題:重要な問題点を箇条書きで示す。
- 提案の要約:主要な改善点と期待される効果を具体例で示す。
- 目標(KPI):達成基準と期限を明記する。
- 予算・スケジュール:主要な数字だけを示す。
- リスクと対応:想定される主要リスクと対策を簡潔に示す。
- 次のステップ:意思決定者の判断期限や担当者の役割を明確にする。
- 問い合わせ先:担当者名と連絡方法を記載する。
書き方のコツ
短く、具体的に書きます。専門用語は避け、数値や図を使って視覚的に伝えます。最後に簡単な呼びかけ(例:ご承認をお願いいたします)を入れて、行動を促します。
明瞭なまとめは、社内外の理解と合意を得る力があります。提案の価値が伝わるよう、結論を簡潔に伝えてください。












