はじめに
本書の目的
本書は QNAP の NAS を Web サーバーとして使う方法を、設定手順や注意点を中心にわかりやすくまとめた解説書です。実機でサイトや簡単な Web アプリを公開したい方に向けて、取り組みやすい順序で説明します。
想定読者
技術的な基礎(ネットワークやファイル操作)がある初〜中級者を想定します。コマンド一発の専門知識は不要で、管理画面(QTS)を操作できれば進められます。
本書で扱う主な内容
- QTS での Web サーバー機能有効化
- 複数サイト運用の仮想ホスト設定
- DNS・ルーターの外部公開に関する基本設定
- PHP や HTML の配置場所と運用上の注意点
- 基本的なセキュリティ対策
注意事項
NAS を公開すると外部からのアクセスが可能になります。バックアップやアクセス制限を事前に検討してください。
QNAP NAS を Webサーバーにするメリットとは?
概要
QNAP の NAS には標準で Web サーバー機能があり、追加の専用サーバーを用意せずに Web サイトを公開できます。小規模〜中規模の社内ポータルや開発・検証用サイトに向いています。
主なメリット
- 一台で役割を兼用できる
- ファイル共有と Web ホスティングを同じ機器で運用できます。機器や電力の節約になり、管理も集中します。例えば社内のドキュメント共有と簡易ポータルを同時に運用できます。
- 導入と管理が簡単
- QTS の GUI で設定できるため、Linux のコマンド操作に不慣れな方でも始めやすいです。Web サーバー有効化や仮想ホスト、SSL の設定が画面で行えます。
- 複数サイトの運用が可能
- 仮想ホスト機能を使えば1台で複数のドメインやサイトを運用できます。テスト用と本番用を同じ NAS で分ける運用が簡単です。
- コストと省スペースの利点
- 専用サーバーを買うより初期費用・運用コストを抑えられます。小さな事業所や個人利用に適しています。
注意点
- セキュリティ対策は必須です。公開すると外部から攻撃対象になり得ます。ファイアウォール、強固なパスワード、定期的なアップデート、必要に応じて WAF を検討してください。
- ネットワーク設定が必要です。ルーターのポート開放やグローバル DNS 設定、固定 IP(または DDNS)の準備が要ります。
- 性能の限界に注意
- NAS は高負荷の大規模トラフィック向けではありません。アクセスが多いサイトや重い処理が必要な場合は専用サーバーを検討してください。
以上を踏まえ、用途に合えば QNAP NAS は手軽で合理的な Web サーバー選択肢になります。
Webサーバー構築前に必要な事前準備
以下では、QNAPをWebサーバーとして公開する前に必ず準備しておきたい項目を分かりやすく説明します。
1. DNSレコードの設定(独自ドメインを使う場合)
- ドメイン管理画面でAレコード(IPを指定)やCNAME(別名)を設定します。例:example.com → A 203.0.113.5、www → CNAME example.com
- TTLは短めにしておくと切り替え時に便利です。設定後、digやnslookupで反映を確認します。
2. ルーターのポートフォワーディング
- HTTP(TCP 80)とHTTPS(TCP 443)をNASのローカルIPに転送します。例:ルーターの設定で外部ポート80 → 内部192.168.1.50:80
- ISPがポート80をブロックする場合は代替ポートやリバースプロキシを検討してください。
3. NASに固定ローカルIPを割り当てる
- NASのIPが変わるとルールが無効になります。ルーターのDHCP予約またはNAS側で静的IPを設定してください。
4. SSL証明書の準備
- HTTPS運用には証明書が必要です。myQNAPcloudやLet’s Encryptで自動発行できる場合があります。既存の証明書がある場合はNASへインポートします。
- プライベートキーは安全に保管してください。
5. myQNAPcloud / DDNSの利用
- 固定グローバルIPがない場合、DDNSでホスト名を割り当てると外部アクセスが簡単になります。myQNAPcloudはセットアップが簡単です。
6. ファイアウォールとアカウント管理
- NASとルーター両方の不要なポートを閉じ、管理アカウントのパスワードを強化します。可能なら2段階認証を有効にしてください。
7. Webコンテンツの配置と権限確認
- Web公開用フォルダーの場所とアクセス権を事前に決めます。機密ファイルが公開フォルダーに入らないよう注意してください。
8. 動作確認の手順
- まずLAN内でアクセス確認、その後外部からドメイン名やDDNS名で確認します。SSLやリダイレクトが正しく動くかもチェックしておきます。
これらを整えておくと、QNAPでのWeb公開がスムーズに進みます。次章でQTSでの設定手順を詳しく解説します。
QTS で Webサーバー機能を有効化する手順
前提
QTS に管理者(admin)アカウントでログインできることを確認してください。NAS の IP アドレスや管理ポート(通常は 8080/443)を把握しておくと操作がスムーズです。
手順(画面操作)
- QTS に管理者でログイン。
- コントロールパネル → 「アプリケーション」→「Web サーバー」を開く。
- 「Web サーバーを有効にする」にチェックを入れる。
主な設定項目と具体例
- ポート番号: デフォルトは HTTP=80、HTTPS=443 です。内部で競合する場合は例えば HTTP=8080 に変更できます。ポートを変更したら外部からアクセスする際はその番号を使ってください(例: http://192.168.1.10:8080)。
- HTTPS(SSL): 有効化すると安全な通信になります。手元の SSL 証明書(.crt/.pem と秘密鍵 .key)をインポートして設定します。Let’s Encrypt 等を使う場合は QNAP の証明書管理機能を使って取得も可能です。
ルーター側の設定と動作確認
任意ポートに変更した場合は、ルーターのポートフォワーディングで外部ポートを NAS の該当ポートへ転送してください。設定後、ブラウザで http://(NASのIP):(ポート) または https://… にアクセスしてトップページが表示されるか確認します。
注意点
- 管理者権限で作業してください。
- 外部公開する場合は必ず HTTPS を有効にし、強固なパスワードを設定してください。
- 他のアプリとポートが競合する場合は番号を調整して再起動してください。
QNAP の「仮想ホスト」で複数 Webサイトを運用する
概要
QNAP の仮想ホストは、1台の NAS でドメインごとに表示先を切り替える機能です。同じ IP・同じポートでも、リクエストされたホスト名(例: example.com, blog.example.com)に応じて別々のフォルダを返せます。小規模の会社サイトや社内ポータル、検証環境をまとめて運用できます。
有効化と設定手順(簡易)
- QTS に管理者でログインし、Web サービス(または Web サーバー)設定画面を開きます。\
- 「仮想ホスト」タブを選び、新規追加をクリックします。\
- ドメイン名、使用ポート(通常80/443)、Web ルートディレクトリを入力して保存します。\
各項目の意味
- ドメイン名: ブラウザに入力するホスト名です。ワイルドカードは機種によって非対応のことがあるので注意してください。\
- ポート: 80 や 443 を指定します。複数サイトで同一ポートを使う場合はホスト名で振り分けられます。\
- Web ルート: 該当サイトの公開フォルダを指定します(例: /Web/site1)。
実用例
- example.com → /Web/company
- blog.example.com → /Web/blog
この設定で同じ NAS の同じグローバル IP に対し、2つのサイトを同時に公開できます。
注意点とチェック項目
- DNS で各ドメインを NAS の IP に向ける必要があります。\
- 443 を使う場合はドメインごとに SSL 証明書を用意し、仮想ホストに割り当てます。\
- フォルダのアクセス権限を確認し、Web サーバー(httpd)の読み取り権限を与えてください。\
- ログや403/404 の表示を見れば設定ミスを特定しやすいです。
以上の手順で、QNAP の仮想ホスト機能を使って複数サイトを整理して運用できます。
Webコンテンツ(HTML / PHP など)の配置場所
概要
QNAP の一般的な Webルートは「/Web」フォルダ、実際のパスでは「/share/Web」です。ここに HTML、CSS、JS、PHP などのファイルを置くと Web サーバーで公開できます。
標準の配置場所
- /share/Web/
- index.html や index.php を置くとトップページになります。
仮想ホスト利用時
- サイトごとにフォルダを分けます(例:/share/Web/site1, /share/Web/site2)。
- ドメインごとに別フォルダにすることで設定や権限を分離できます。
ファイルのアップロード方法
- File Station:ブラウザでドラッグ&ドロップして簡単にアップロードできます。
- SMB/CIFS(Windows の共有):エクスプローラーからコピーします。
- FTP:大量ファイルや自動化で便利です。
アクセス確認
- ブラウザで「http://ドメイン(:ポート)/」または仮想ホストならルート直下で確認します。
- サブフォルダに置いた場合は「http://ドメイン/フォルダ名/」でアクセスします。
権限とセキュリティの注意点
- フォルダは 755、ファイルは 644 のように適切な権限を設定してください。
- PHP ファイルを置く場合は PHP モジュールが有効であることを確認します。
- 機密ファイルは公開フォルダに置かないようにします。
以上を守ると、QNAP 上で複数サイトを安全に運用できます。
WebDAV と Webサーバーの関係
概要
QNAP の WebDAV は HTTP/HTTPS を使って NAS 上のファイルを遠隔でやり取りする仕組みです。Web サーバー機能が ON でないと動作しません。WebDAV を有効にすると、例えば Windows のネットワークドライブや macOS のサーバ接続で直接ファイルを開けます。
有効化手順(簡単)
- QTS の「コントロールパネル」を開きます。
- 「Win/Mac/NFS/WebDAV」を選びます。
- 「WebDAV を有効にする」にチェックを入れて適用します。
- 必要なら HTTPS を有効にし、ポートや証明書を設定します。
動作のポイント
- WebDAV は既存の Web サーバー(HTTP/HTTPS)上で動きます。つまり Web サーバーを停止すると WebDAV も使えません。
- ファイルの保存先は NAS の共有フォルダーです。アクセス権は QTS のユーザー権限に従います。
セキュリティと運用上の注意
- 公開する場合は必ず HTTPS を使い、自己署名証明書ではなく信頼できる証明書を推奨します。
- 強いパスワードとユーザーごとのアクセス権で不用意な閲覧や上書きを防いでください。
- ルーター経由で外部公開する際はポート開放とポートフォワーディングを正しく設定し、不要なときは無効にします。
よくある用途
- 外出先からのファイル編集や資料共有
- Web サイトのコンテンツ更新(HTML/PHP を直接編集)
- バックアップ用途の一部(ただし性能要件は確認してください)












