はじめに
本書の目的
本書は、ジュエリー製作における3DCAD（デジタル設計）と関連技術の全体像を分かりやすくまとめた入門ガイドです。業界動向や設計から試作、製作に至る流れ、代表的なソフトの特徴や学習方法まで、実務で役立つ知識を丁寧に解説します。
想定する読者
- ジュエリーデザイナーや職人の方
- CAD導入を検討する工房・企業の担当者
- これから学ぶ学生や趣味で始めたい方
それぞれの立場で実務に結びつく情報を優先して記載します。
本書の構成と読み方
第2章で3DCADと3Dプリントがもたらす変化と活用例を紹介します。第3章はジュエリー専用CADの特徴、第4章で代表的なソフトと機能を比較します。まずは第2章以降の実例を読むことで、導入のイメージがつかめます。
用語と前提
専門用語は最小限にし、必要な場合は具体例で補足します。既存の手作業とデジタル設計の違いを実践的に理解できるよう配慮しています。
ジュエリー業界におけるデジタル設計革命～3DCADと3Dプリント技術の活用～
デジタル設計がもたらす変化
コンピューター支援設計（3DCAD）は、デザインの表現力と効率を大きく高めました。手描きやワックスの原型だけでは難しかった微細な形状や複雑な構造も、正確に再現できます。デザイナーは試作を短時間で繰り返し、アイデアを形にしやすくなりました。
具体的な利点
- 精度の向上：ミクロン単位の調整が可能で、石座やフィット感を正確に作れます。
- 時間短縮：修正やバリエーション生成が速く、試作回数を増やせます。
- カスタマイズ：顧客の要望に合わせた個別設計が現実的になりました。
3Dプリントとの連携
3DCADで作ったデータは3Dプリンターで原型にできます。ワックスや光造形（レジン）で高精細な原型を出力し、そのままロストワックス鋳造に回せます。これにより手作業の工程を減らし、製造の一貫性を高めます。
ワークフローの一例
1) スケッチや要望を元にCADでモデリング
2) モデルを調整し、出力用データに変換
3) 3Dプリンターで原型を作成
4) 鋳造・仕上げで製品化
注意点
素材やプリンターの解像度によって仕上がりが変わります。データ形式や支え材の設計にも気を配る必要があります。しかし、適切に組み合わせれば、表現の幅と生産性を同時に高められます。
技術の導入で、ジュエリーデザインはより自由で精緻になりました。ものづくりの現場で新たな可能性を開くツールとして、今後ますます重要になります。
ジュエリーCADと一般的なCADの違い
概要
一般的なCADとジュエリー専用CADは目的が異なります。一般CADは建築や機械の寸法や機能を正確に表現するために設計されています。一方、ジュエリーCADは装飾性や微細な曲線、宝石の組み込みに最適化されています。
形状表現とディテール
ジュエリーでは有機的で滑らかな曲線や微細な彫刻が重要です。ジュエリーCADは自由曲面やスカルプト機能を強化し、指輪のふくらみや彫り模様を直感的に作れます。機械部品向けの一般CADは直線や正確な角度を扱うのが得意です。
宝石配置と石枠（セッティング）
専用CADは石座（石を収める枠）を自動で作る機能や、複数の石を均等に並べるアレンジ機能を備えます。石の直径や留め方（爪留め、ベゼルなど）を選ぶだけで適切な切り欠きを生成できます。
寸法・公差と製造連携
ジュエリーはミクロン単位の仕上がりを要求することが多く、リングサイズや石のクリアランスを考慮した検査ツールが組み込まれます。出力もワックス原型や3Dプリント用に最適化したファイル形式を選べます。
表現とプレゼン
金属や宝石の見え方をリアルに確認するレンダリング機能が充実しています。顧客への提示用に複数の仕上げ（鏡面、マット）や石の輝きを再現できます。
職人の使い方の違い
職人は簡単な修正やデザイン共有のために一般CADを使うこともありますが、細部まで詰めるにはジュエリーCADが効率的です。専用機能により手作業とCAD設計が自然につながります。
ジュエリーCADソフトウェアの種類と機能
代表的なソフトとその特徴
- 3Design
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ウィザード形式の画面で操作を進められます。アイコン中心の操作で習熟が早く、店舗で顧客と一緒にデザインを詰める場面に向きます。例えば、指輪の太さや宝石のサイズをその場で調整し、即時に見た目を確認できます。
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Jewelry CAD Dream
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強力なモデリングエンジンを備えています。ソリッド（体積を持つ形）とサーフェス（滑らかな曲面）の両方を扱えるため、細かな彫りや複雑な曲線の表現に向きます。細工が多い一点物や彫刻的なデザインで威力を発揮します。
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RhinoGold / MatrixGold（Rhinoベース）
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自由度が高く、カスタムワークに強いです。プラグインで宝石配置や刻印などの機能を追加できます。エンジニア寄りの細かい調整が必要な仕事に適しています。
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無料ソフト（例: Blender + プラグイン）
- 初期費用を抑えたい場合に有効です。学習曲線はありますが、レンダリングや形状作成の幅は広いです。
共通の主要機能（実務でよく使うもの）
- 形状作成：指輪、ペンダント、ブレスの基本形を作ります。
- 宝石配置：石のサイズや座の作り方を調整します。
- 寸法・厚みチェック：強度を確保するために寸法を確認します。
- 出力（STLなど）：3Dプリントや鋳造用のデータを作成します。
- レンダリング：完成イメージの画像を作り、顧客に見せます。
選び方のポイント
- 店頭で顧客と合わせるなら操作が簡単な3Design。
- 彫刻や複雑形状を多く作るならJewelry CAD DreamやRhino系。
- 予算を抑えるなら無料ソフト＋プラグインの組み合わせも検討します。
用途と作業スタイルに合わせて選ぶと、作業効率と顧客満足度が上がります。
