はじめに
本書の目的
本書は、AWSアーキテクチャ図(AWS Diagram)の作成方法と活用法を分かりやすくまとめることを目的としています。図を用いてシステムの構成やデータの流れを見える化し、設計や運用、関係者間の共有をスムーズにします。
対象読者
クラウドの専門家から初学者まで幅広い方を想定しています。設計担当者、運用担当者、プロジェクトマネージャーなど、図を使って説明や意思決定をする機会がある方に役立ちます。
この章で得られること
本章では、本書全体の構成と読み方を説明します。各章で何を学べるか、実務でどう活かせるかを具体例で示します。たとえば、単純なWebアプリの図を描く目的や、運用ドキュメントに図を添える利点を紹介します。
進め方
各章は独立して読みやすく構成しています。まず基本を押さし、その後で具体的な図の作り方や自動化ツール、実例へと進みます。図を描きながら読み進めると理解が深まります。
AWSアーキテクチャ図とは何か
目的
AWSアーキテクチャ図は、クラウド上で動くシステムの構成や関係を視覚化する図です。設計意図を関係者と共有し、設計レビューや運用、障害対応を効率化します。例えば「Webサーバーからデータベースにどうつながるか」を一目で示せます。
図が表す主な要素
- コンポーネント:仮想サーバー(例:EC2)、ストレージ(例:S3)、データベース(例:RDS)など。
- ネットワーク:パブリック/プライベートの境界やサブネット、ルーター的な役割。
- 関係性:通信の流れや依存関係、アクセス経路。
利点
- 設計意図を言葉では伝えにくい部分まで可視化できます。
- レビューで抜け漏れを早く見つけられます。
- 運用者が障害箇所を特定しやすくなります。
よく使う表記と具体例
- アイコンでサービスを表現:例えば、S3はバケツの形、データベースは円筒形。
- 矢印で通信方向を示す:外部からのHTTPアクセス→ロードバランサー→Webサーバー。
作成時の注意点
- 目的に応じて抽象度を変える(経営向けは高レベル、運用向けは詳細)。
- 最新の構成と一致させること。図が古いと誤解を招きます。
- 誰が見るかを考えて注釈を入れると親切です。
代表的な構成例とその図示方法
以下では、実務でよく使う二つの構成(三層アーキテクチャとサーバーレス)を例に、図の描き方を分かりやすく説明します。
三層(3-Tier)構成
- プレゼンテーション層:Amazon S3(静的資産)、CloudFront(CDN)、ALB(負荷分散)を配置します。図では外側にユーザー、次にCDN/ALBを並べます。
- アプリケーション層:EC2、ECS、またはLambdaを中央に配置し、ALBから矢印で接続します。スケールアウトすることを示すため、複数アイコンやオートスケーリングの注記を付けます。
- データ層:RDS、DynamoDB、Auroraを下段に置き、プライベートサブネットやマルチAZを枠で示します。DB接続は暗号化やセキュリティグループの注記を付けます。
サーバーレス構成
- 通常はAPI Gateway(入口)→Lambda(処理)→DynamoDB/S3(保存)という流れにします。認証はCognitoを図に追加します。外部サービスやIAMロールは点線で表し、権限関係を矢印で示します。
図示のポイント
- 公式AWSアイコンを使い、レイヤーごとにボックスでまとめます。VPCやパブリック/プライベートの境界を明示します。
- 矢印でデータフローを示し、プロトコルやポート、同期/非同期をラベルします。
- 可用性(複数AZ)やスケーリング、監視(CloudWatch)や障害対策(バックアップ)を注記として加えます。
- 目的別に詳細度を変えます。経営層向けは簡潔に、運用向けはサブネットやセキュリティ要素まで描きます。
図作成の簡単な手順(例)
- ユーザーと境界を描く(外部/内部)。
- エッジ(CloudFront/API Gateway)→アプリ→DBの順に配置。
- VPC/サブネット、AZ、セキュリティを枠や注釈で追加。
- 矢印で主なデータフロー、失敗時の挙動やスケール情報を補足。
このように、目的と対象読者を意識して図の粒度を調整すると分かりやすくなります。
AWSアーキテクチャ図作成の最新ツール・自動化
概要
最近は図を手で描く代わりにツールで自動化する流れが進んでいます。要件を文章で与えるだけで初期図を作るAI、自動で最新の状態に保つ仕組みなどが注目されています。以下、主要な選択肢と導入時のポイントを分かりやすく説明します。
AI自動生成(例: Amazon Q Developer CLI)
文章で要件やリソースを指定すると、構成図を自動生成します。手早くラフ図を作るときに便利です。注意点としては、出力がベストプラクティスに沿うとは限らないため、人の確認を必ず入れてください。
ビジュアルツール(Lucidchart、Cloudcraft、AWS Application Composer)
ドラッグ&ドロップで直感的に作れます。公式アイコンセットが使えるため、共有資料や運用ドキュメントにそのまま流用できます。複数人で共同編集でき、レビューしやすい点が利点です。
自動化ワークフロー
インフラをコード(IaC)で管理している場合、デプロイ時に図を更新するパイプラインを組めます。例えば、TerraformやCloudFormationの状態から図を生成し、変更履歴を追うことができます。
導入時のポイント
- 最初は小さなプロジェクトで試す
- 自動生成図はレビュー必須
- チームでアイコン・命名規則を決めると見やすくなる
簡単な利用例
要件を箇条書きでCLIに与え、生成された図をLucidchartで補正して共有する流れが実務では使いやすいです。
ベストプラクティスと注意点
明確なラベル付け
各コンポーネントに短く一意な名称を付けます。例:「web-ec2-prod」「db-rds-stg」など。役割・リソース種別・環境を含めると参照しやすくなります。図の外に凡例(略語の説明)を必ず置きます。
図のシンプル化
冗長な要素や同一情報の重複を省き、必要最小限にまとめます。例えば詳細なサブコンポーネントは別図に分け、全体図ではレイヤ(プレゼンテーション、中間、データ)で表現します。矢印は通信の向きと主要ポートだけ記載します。
セキュリティとネットワーク分離の明示
パブリックサブネット/プライベートサブネットをボックスで分け、ロードバランサやNAT、インターネットゲートウェイの位置を示します。セキュリティグループやファイアウォールで許可する通信を注記し、データベースは必ずプライベート側に置くことを明示します。
可読性とアクセシビリティ
色は機能別に統一し、コントラストを保ちます。フォントは読みやすいサイズにし、線や矢印は重なりを避けます。凡例とバージョン情報(作成日、作成者、変更履歴)を必ず入れてください。
運用・管理面の注意
図は設計書と同期させ、IaC(Infrastructure as Code)や構成管理とリンクすると差分が見えやすくなります。定期的にレビューを行い、変更時に図を更新する運用ルールを決めます。
チェックリスト(短縮)
- 名前ルールを定める
- 不要なアイコンを削除
- サブネットとセキュリティを明示
- 凡例・バージョンを記載
- 図と実装を同期
注意点として、図に機密情報(IPの全範囲やパスワード等)を載せないでください。簡潔で安全な図は、設計の共有と運用を大きく助けます。
実例紹介:三層Webアプリとサーバーレス構成
三層Webアプリ構成例
プレゼンテーション層:CloudFrontとALBを組み合わせ、静的はS3、動的はALB経由で配信します。ALBはパブリックサブネットに配置し、セキュリティグループで80/443を許可します。
アプリケーション層:ECS FargateやEC2をプライベートサブネットに置き、ALBのセキュリティグループだけから受け付ける設定にします。オートスケールとヘルスチェックを図に明記します。
データ層:Aurora PostgreSQLやRDSを隔離サブネットに配置し、データベースはアプリ層のセキュリティグループからのみ接続を許可します。NATゲートウェイでプライベートからの外向き通信を確保します。
図で示すポイント:サブネット(Public/Private/Isolated)、セキュリティグループの依存関係、ルートテーブル、NATやBastionの位置、通信ポートを矢印で明示します。
サーバーレス構成例
静的サイトはS3+CloudFrontで配信します。APIはAPI Gateway経由でLambdaを呼び、データはDynamoDBに保存します。認証はCognitoで行い、トークンをAPI Gatewayで検証します。
アクセスフロー:ユーザー→CloudFront→(S3 or API Gateway)→Lambda→DynamoDB。S3イベントでLambdaをトリガーする場合や、LambdaをVPC内に置いてRDSに接続する例も図に示します。
セキュリティと運用:IAMロールは最小権限にし、CloudWatchログやX‑Rayでトレースを可視化します。VPCエンドポイントを使うとS3/DynamoDBへの安全な通信経路が図に描けます。
図の活用シーンと今後のトレンド
活用シーン
- 設計レビュー:図を使うと構成要素やデータフローの誤解を早く見つけられます。例えば、DBの冗長化やネットワーク経路を視覚で示すと議論がスムーズになります。
- コミュニケーション:非技術者や顧客にも構成を伝えやすく、要件確認や見積りの合意形成が速くなります。
- 運用・障害対応:影響範囲の特定や原因切り分けを迅速化します。運用手順に図を組み込むと復旧時間を短縮できます。
- ドキュメント化・教育:オンボーディング資料や運用マニュアルに図を入れると理解が早まります。
具体的な活用例
- 設計レビュー時は「現在図」「変更箇所図」「将来図」を用意して比較します。
- 障害時は図にサービス依存をマークして影響範囲を即座に共有します。
- 顧客向けは抽象度を上げた図で全体像を説明します。
今後のトレンドと準備
- AI自動生成:自然言語から図を作るツール(例:Amazon Q)で初期設計を素早く作れます。
- Diagram as Code:Mermaid.jsや記述ベースの図でバージョン管理や自動生成を進めます。
- 自動更新と監視連携:構成変更を検出して図を最新化する運用が増えます。
- コラボレーション統合:チャットやCIと連携して設計レビューの効率を高めます。
導入時のポイント
- 図の正確性と更新性を担保する運用ルールを作ってください。
- 過度に詳細化せず対象に合わせた抽象度を選びます。
- 権限管理と変更履歴を明確にして誤情報を防ぎます。











