はじめに
目的
本記事はハンドメイドルアーメーカーの世界をやさしく案内することを目的としています。職人の技術継承や多様な製造方法、地域資源の活用、専門性の追求、そして新規起業の事例まで、業界の特徴と動向を具体例を交えて紹介します。
誰に向けて書いたか
釣り好きのかた、ものづくりに興味があるかた、小さな工房での起業を考えているかたに役立つ内容です。専門用語はできるだけ使わず、写真や実例を想像できるように説明します。
本シリーズの構成
第2章では職人としての道のりと技術の継承、第3章は古民家を活用した起業事例、第4章はトップウォーター専用ルアーの特徴、第5章で業界の共通点と今後の動きをまとめます。読み進めるほど、製造方法や考え方の違いが見えてきます。
読み方のポイント
各章で紹介する事例は一例です。ご自身の興味や地域資源に合わせて、ヒントを取り入れてください。丁寧に読むほど、手作りルアーの魅力が伝わります。
ADUSTA「LURE DESIGNER」- ハンドメイドルアー職人の道
学びの出発点
ADUSTAのLURE DESIGNERページは、職人が一人前になるまでの過程を丁寧に描いています。最初に学んだのはネイティブ・カトウクラフトの加藤さんからのリアル系ルアー作りの基礎です。観察力を磨き、魚の形や動きをルアーに落とし込む考え方を身につけました。
技術の継承と実践
加藤さんのもとでは、スケッチ、プロポーション設計、塗装の順で基本を積み重ねます。具体例としては、目の位置で泳ぎが変わることを実際に試作して確認するなど、手を動かして学ぶ方法です。
木製ルアーの習得
ニシネルアーワークスの西根さんとの出会いで、ウッドルアー制作の技術を深めました。木の選び方、削り出し、サンディング、目止めといった工程を学び、素材の性質を生かす加工法を身につけます。
西根さんの実演が示すもの
西根さんの実演は、単なる技術の披露にとどまりません。道具の持ち方、リズム、刃の入れ方まで見せることで、職人技の「勘所」を伝えます。これは技術と芸術の合わさった領域だと説明できます。
若い職人へのメッセージ
LURE DESIGNERは、模倣だけでなく自分の感性を育てることを重視します。基礎を学んだ後は、何度も試作を重ねて独自の表現を見つけることが大切です。具体的には小さな改良を積み重ねて泳ぎや色味を調整することを勧めています。
TTT – 古民家でのルアーメーカー起業
起業のきっかけ
滋賀県の古民家を拠点にしたTTTは、昔からの建物と地元の自然に惹かれて起業しました。独学で技術を磨いた“ディバイザー”の手法を参考に、効率と手作りの良さを両立させる道を選びました。生活空間と作業場が近いことで小回りの利く運営が可能です。
製造の核：CNCフライスでの金型作り
TTTはCNCフライスを導入し、金型の精度を高めています。CNCはコンピュータ制御で形状を正確に削り出す機械で、例えば細かなボディラインやリップの角度も安定させられます。これにより、量産時の個体差を抑え、泳ぎの安定性を確保します。
樹脂整形器での量産と品質管理
金型からはシリコン型や簡易注型を作り、樹脂を流して成形します。樹脂整形器を使うと同じ型で短時間に複数個を作れます。成形後はバリ取り、研磨、塗装、コーティングといった工程で仕上げを統一します。作業台を分けて工程ごとに品質チェックを行い、不良率を下げています。
古民家という場の活かし方
古民家は広い作業スペースや物置を兼ねられ、試作や在庫の管理に向いています。木の梁や土間を生かして乾燥や塗装のスペースを作る工夫もあります。ただし換気や電源容量の確保、作業環境の安全対策は必須です。
運営と今後の展望
地域の釣り仲間や観光客を交えたワークショップ開催で認知を広げています。CNCで作る金型の汎用化や、小ロットごとに異なる色・仕上げを加えることで差別化を図っています。今後はオンライン販売と古民家での体験を組み合わせ、ブランドの魅力を伝えていく計画です。
Ethics（エシックス） – トップウォーター専用ハンドメイドルアー
ブランドと方針
Ethics（エシックス）は奈良の地元材を活かし、トップウォーター専用のハンドメイドプラグを制作するブランドです。地域資源を大切にし、一本ずつ手作業で仕上げることで職人の個性をルアーに反映します。
素材と製法
主に奈良産の広葉樹や針葉樹を使い、木取り、粗削り、細部のカービング、塗装、目入れ、仕上げまで手作業で行います。木材の杢目や硬さを見極めてパーツを作るため、同じ型でも表情が変わります。塗装は耐水性の高いウレタンやエポキシを使い、耐久性と美観を両立させています。
ルアーの特徴と使い方
トップウォーター専用としてバランス調整や浮き姿勢を重視します。ウォーキング系（横に誘う動き）やポッピング系（表層で水音を出す動き）に向く設計が中心です。軽めのキャストで自然に動かすと効果が出やすく、静かな朝夕やカバー周りでの使用に向いています。
職人性と差別化
大量生産品と違い、手作りならではの微妙な重心位置や彫りのニュアンスが独自のアクションを生みます。地域の木材を使うことで見た目にも温かみがあり、コレクション性も高めます。特定分野に特化することで、釣り人に対して明確な価値提案をしています。
購入・メンテナンスのポイント
ハンドメイドは数に限りがあるため早めの確認がおすすめです。使用後は淡水で洗い、乾燥させてから収納すると塗装や木材を長持ちさせられます。小さな傷は補修剤で直せることが多く、職人に修理を依頼できる場合もあります。
ハンドメイドルアーメーカーの特徴と業界動向のまとめ
1. 個人職人技術の継承と個性
ハンドメイドルアーは職人の手仕事が核です。手削りや手塗りといった技術は世代を通じて伝わり、作り手の好みや経験がそのまま製品に表れます。顧客は同じ形でも塗装や仕上げの違いを楽しみ、作り手の個性を評価します。
2. 多様な製造方法と効率化
完全手作りから部分的に機械を使う方法まで幅があります。例えば原型は手で作り、同型の複製は型取りで効率化します。小ロットでの生産や受注生産を基本にして、外注や簡易な設備投資でコストを抑えます。
3. 地域資源の活用
地元の木材や古材、地域の伝統技術を取り入れるメーカーが増えます。古民家を工房に改装して観光客や地元とつながる取り組みも見られます。地域の素材を使うことで差別化と地域貢献を両立できます。
4. 専門性の追求と市場の細分化
トップウォーター専用や特定魚種向けなど、専門性を高めてニッチ市場を狙う流れがあります。カスタムオーダーや限定品で高付加価値を付け、ファンを増やします。
5. 起業環境とコミュニティ
個人起業がしやすく、SNSやネットショップで販路を作れます。地域のイベントやワークショップで認知を広げ、職人同士の情報交換も活発です。
6. 業界動向
職人性を大切にしつつ、効率化や協業で安定した経営を目指す動きが強まります。素材の多様化やサステナブル志向も進み、地域密着型の起業が今後も増える見込みです。
