はじめに
目的
この資料は、ハンドメイド作品を販売する方が「原価率」を正しく理解し、実務で使える計算方法や価格づけの考え方を身につけることを目的としています。材料費だけでなく時間や経費を含めた実践的な見方を丁寧に解説します。
対象読者
ハンドメイド作家、これから販売を始める方、ネットショップやフリマアプリで販売している個人事業主など、収益を安定させたい方に向けています。初心者でも分かるよう具体例を交えて説明します。
本資料の使い方
各章は段階的に理解を深められる構成です。まず第2章で基本を押さえ、第3〜5章で計算方法と価格設定を学びます。第6〜8章で実務的な応用やツールの活用法を紹介します。
注意点
用語はできるだけ平易に説明します。まずは基本概念を理解し、実際の数字で試算してみることをおすすめします。
ハンドメイド原価率の基本知識
原価率とは
原価率は「販売価格に対して原材料費が占める割合」を指します。たとえば材料費が300円で販売価格が1,000円なら、原価率は30%です。手作り品の採算を考える基本指標になります。
なぜ重要か
原価率を知ると利益の見込みがはっきりします。材料だけでなく人件費や梱包、配送費を合わせると実際の負担が見えるため、価格設定や販促の判断に役立ちます。
含めるべき費用
- 材料費:布、金具、糸などの実費
- 人件費:製作にかかる時間の対価(時給換算で計算します)
- 梱包資材:箱、袋、タグなど
- 配送費:送料や発送手数料
- その他:道具の減価償却やブース出店費など(小額ずつ按分します)
目安と注意点
ハンドメイドでは一般に20〜40%が目安で、30%を基準にすることが多いです。目安は商品や販売チャネルで変わります。材料費だけで計算すると過小評価になりやすいので、必ず人件費や諸経費を含めてください。
原価率の計算方法
基本の計算式
原価率は「原材料費 ÷ 販売価格 × 100」で求めます。例えば原材料費が3,000円、販売価格が10,000円なら、3,000 ÷ 10,000 × 100 = 30%です。数字が小さいほど利益の取り分が大きくなります。
目標原価率から販売価格を出す
目標の原価率から販売価格を逆算する場合は「販売価格 = 原材料費 ÷ 目標原価率(小数)」を使います。例:原材料費3,000円で目標原価率30%(0.3)なら、販売価格 = 3,000 ÷ 0.3 = 10,000円です。
利益率の計算
利益率は「(販売価格 − 原価)÷ 販売価格 × 100」で計算します。上の例では(10,000 − 3,000)÷ 10,000 × 100 = 70%です。利益額と比率を両方押さえると価格判断がしやすくなります。
実務上の注意点
- 原材料費だけでなく、梱包・送料・手数料・製作時間(時給換算)も原価に入れてください。
- 小さな端数処理で原価率が変わるので、四捨五入のルールを決めておくと便利です。
- 目標原価率は商品ごとに変えて、販売戦略に合わせて調整してください。
実践的な原価の計算方法
概要
適正価格を決めるには、原価を正確に出すことが基本です。原価は材料費、工賃(製作時間換算)、包材費、配送費の4つに分けて考えます。ネットショップの手数料も忘れずに含めます。
1. 材料費は実際の使用量で計算
材料は購入単位と作品で使う量が違います。例:糸を100gで買い、1作品で10g使うと、材料費=購入価格×(使用量/購入量)で求めます。複数材料は個別に計算して合算します。
2. 工賃は時間×時給で出す
製作にかかる時間を測り、自分の時給を掛けます。作業時間を短縮できれば原価も下がります。
3. 包材・配送費は実費を按分
包材(箱・袋・タグ)は1点あたりの単価を出します。配送費は複数同梱や定形外を想定して平均を出すと現実的です。
4. ネットショップ手数料の扱い
手数料が販売額の割合なら、目標販売価格を仮定して手数料分を計算し原価に加えます。固定の出品料や振込手数料は1点あたりに割り振ります。
計算例(10点まとめて作った場合)
- 合計原価(10点分)=15,450円
- 1点あたり原価=15,450 ÷ 10 = 1,545円
内訳例:材料8,000円(1点800円)、工賃3,000円(300円)、包材1,200円(120円)、配送3,250円(325円)=合計15,450円
この手順で一つ一つ数値を出すと、無理のない価格設定ができます。
販売価格の計算方法
基本の式
販売価格は「販売価格 = 原価 ÷ 原価率」で計算します。原価率を30%(0.3)と決めた場合、原価1,545円なら
販売価格 = 1,545 ÷ 0.3 = 5,150円(小数点は四捨五入)
利益率から計算する方法
利益率70%を基準にする場合は、販売価格に占める利益の割合が70%になります。式に直すと
販売価格 = 原価 ÷ (1 − 利益率) = 1,545 ÷ 0.3 = 5,150円
したがって、どちらの考え方でも同じ結果になります。
実務での手順(5ステップ)
1) 原価を正確に出す(材料費、部品、梱包)。
2) 送料や決済手数料、制作時間の人件費を加える。
3) 目標の原価率(例:30%)を決める。
4) 式に当てはめて計算する。
5) 小売価格に合わせて端数処理や見栄えの良い価格に調整する。
注意点
・送料や出店手数料、消耗品を見落とさないこと。
・心理的価格(例:4,980円)や競合価格も確認して調整してください。
適正価格設定の5ステップ
はじめに
価格は作品の価値と売れ行きを左右します。ここでは誰でも実行できる5つの手順で適正価格を作ります。
ステップ1: 原価を計算する
原価は「材料費+工賃+包材費+配送費+手数料」です。例:材料500円、工賃1,000円、包材100円、配送300円、手数料200円→合計2,100円。
ステップ2: 原価率30%で試算する
目安として原価率30%を使うと販売価格=原価÷0.30。上の例なら2,100÷0.30=7,000円。端数は次のステップで調整します。
ステップ3: 他社の販売価格と比較する
同ジャンルの価格帯を調べます。自分より高ければ理由(素材・技術・ブランド)を分析し、安ければ値下げ余地を検討します。販売チャネル(ショップ、SNS、イベント)も比べます。
ステップ4: ブランドや希少性で調整する
ブランド力、限定数、特別な素材がある場合は上乗せします。目安として希少性で+10〜30%など、根拠を持って調整してください。逆に認知向上を優先するなら割安に設定することもあります。
ステップ5: 買いやすい価格に調整する
心理価格(例:9,999円)や端数カットで購入障壁を下げます。送料込みにするか別にするかで感じ方が変わるのでテスト販売で反応を見てください。
チェックリスト
– 利益率が確保できているか
– 競合と比べて妥当か
– ターゲットが買いやすい価格か
– 在庫回転や販売戦略に合っているか
上の手順を順番に実行し、必要に応じて価格を見直してください。
原価率の目安と変動要因
原価率の目安
手作り品の原価率の目安は一般に20〜40%です。軽い素材で短時間で作れるアクセサリーは20%前後、布製品や手間のかかる工芸品は30〜40%になりやすいです。これはあくまで目安なので、商品の特性やブランド戦略で変えます。
原価率が高いとどうなるか
原価率が高いと1個当たりの利益が減ります。たとえば原価400円で販売価格1,000円なら原価率は40%で、粗利は600円(60%)です。粗利から固定費や手数料を引くと最終利益が決まるため、原価だけで判断せず全体の収支を見ます。
原価率を左右する主な要因
- 材料費:希少素材や高品質素材は原価を押し上げます。具体例:天然石や本革。
- 工賃と時間:製作に時間がかかるほど人件費換算で上がります。
- 外注・加工費:染色や特殊加工を外注すると単価が上がります。
- 包装・送料・手数料:見落としやすいが小さな商品ほど割合が大きくなります。
- 販売チャネル:委託販売やマーケットは手数料が高くなる傾向があります。
運用上のポイント
- 商品ごとに目標原価率を設定して管理します。
- 少量多品目なら原価率が高まりがちなので、バッチ生産で下げる工夫をします。
- ブランド価値を重視する商品は原価率が高くても価格転嫁を検討します。
- 定期的に材料調達先や工程を見直してコストダウンを図ります。
各要因を把握して目安を基準に運用すれば、無理なく利益を改善できます。
自動計算ツールの活用
はじめに
Creemaやminne向けの無料自動原価計算フォームを活用すると、価格設定がぐっと楽になります。ツールは「ざっくり」「しっかり」「もっと詳しい」の3段階があり、用途に合わせて使えます。
入力項目と出力
一般的に入力するのは、部品原価、作業時間(時給換算で入力)、送料、梱包原価、オプション原価、ラッピング原価、販売手数料などです。出力は原価合計、原価率、推奨販売価格や利益額が表示されます。
使い方の手順
- 計算レベルを選ぶ(時間がない時は「ざっくり」)。
- 部品や資材の実額を入力します。
- 作業時間を分単位で入れ、時給を設定して労務費に変換します。
- 送料や梱包、オプションを加えます。
- 手数料や固定経費を確認し、出力結果を確認します。
例:部品300円、作業30分(時給1,000円→500円)、梱包50円、送料200円なら原価合計1,050円。販売価格2,500円なら原価率42%、利益1,450円がわかります。
活用のコツ
- 定型アイテムはテンプレート保存で効率化します。
- CSVやスプレッドシートに出力して月次集計に利用します。
- 送料は実測重量で入力し、誤差を少なくします。
- 時間外の事務作業や在庫損耗の小口費用も織り込むと実態に近づきます。
ツールは計算の手間を減らし、価格調整の判断を助けます。まずは1点分を試算し、実際の販売で見直してください。












