はじめに
目的
本書は、Google Analytics 4(GA4)を使ってWebサイト内の「内部リンククリック」を正しく計測・分析する方法を分かりやすくまとめたガイドです。実務で使える設定手順や確認方法、注意点を具体例とともに解説します。
対象読者
サイト運営者、コンテンツ担当者、マーケター、GA4の基本操作が分かる開発者を主な対象としています。GA4の用語が分からない方にも配慮して説明します。
本書の構成
全10章で、概念→設定→計測→分析→注意点の順に進めます。各章は独立して参照できますが、順に読むと理解が深まります。
前提と読み方のコツ
GA4のプロパティにアクセスできることを前提にします。設定画面やレポート画面を実際に開きながら読み進めると理解が速まります。小さなテスト環境で試してから本番に反映することをおすすめします。
GA4における内部リンク計測の基本概念
概要
GA4には「内部リンククリック」専用のデフォルトイベントがありません。かわりにpage_referrerというパラメータを使い、あるページの参照元が同一ドメインかどうかを判別して内部リンクの遷移を測定します。デフォルト設定では自動記録されないため、計測用のカスタマイズが必要です。
page_referrerの利用方法
page_referrerはpage_viewなどのイベントに含まれる参照元情報です。新しいpage_viewが発生した際に、そのpage_referrerが自サイトのドメインであれば内部遷移とみなせます。判定はホスト名(例: example.com)を比較するだけで済みます。
内部リンクの定義と判定例
内部リンクとは「同一ドメイン内のページAからページBへ移動するクリック」です。たとえば example.com/article1 → example.com/article2 は内部、example.com → other.com は外部と判定します。
実装上の注意点
シングルページアプリ(SPA)やリダイレクトではpage_viewが発生しない場合があります。その場合はクリックイベントをカスタムで発火し、link_targetやlink_textとともに送信してください。また、サブドメインやクロスドメインを扱う場合はホスト名一覧を明示して判定することをおすすめします。
具体的なおすすめ手順
- page_viewにpage_referrerが含まれることを確認する
- 自サイトホスト名のリストを作成する
- page_referrerのホストを比較し、内部ならカスタムイベントまたはカスタムディメンションに設定する
- データ探索で集計して動作確認する
以上が基本概念です。実装方法は次章で詳しく説明します。
カスタムディメンションの作成と設定手順
概要
内部リンククリックの詳細を取得するために、GA4管理画面で「カスタムディメンション」を作成します。ここでは「link_domain」と「link_url」の2つを作ります。スコープは「イベント」を選び、イベントパラメーター名を正しく指定します。
手順(管理画面)
- GA4の管理(歯車アイコン)を開きます。
- 「カスタム定義」→「カスタムディメンション」を選択します。
- 「カスタムディメンションを作成」をクリックします。
- 名前欄に分かりやすい表示名(例:リンクドメイン)を入力します。
- スコープは「イベント」を選択します。
- イベントパラメーター欄に送信するパラメーター名(link_domain または link_url)を正確に入力します。
- 説明を加えて保存します。
イベントパラメーターとの対応
GA4はカスタムディメンションだけでは値を受け取れません。サイト側でclickイベントにlink_domainやlink_urlを含めて送る必要があります(gtagやGTMで設定)。例:link_domain: “example.com”, link_url: “/about” またはフルURL。
確認方法と注意点
- DebugViewやリアルタイムでテストイベントを送って値が来ているか確認します。
- カスタムディメンションは過去データには遡及しません。作成後のデータから反映されます。
- 名前は小文字・スネークケース(例:link_domain)に統一すると管理しやすいです。
内部リンククリック計測の仕組み
基本的な考え方
GA4では「新しいページビューが発生したとき、その直前のページが自社サイト内だったら『内部リンククリック』と扱う」というルールで計測します。つまり、ユーザーがサイト内の別ページへ移動すると内部リンクとしてカウントされます。外部サイトから来た場合は内部リンクには入りません。
計測の流れ(簡単なステップ)
- ユーザーAがページAを表示する。
- ページAのリンクをクリックしてページBへ移動する。
- ページBでpage_viewが発生する。
- GA4が直前のページ情報を見て、同一ドメインなら内部リンクとして記録する。
具体例
トップページ(/)から製品ページ(/product)に移動した場合、page_viewの発生をきっかけに内部リンククリックが計測されます。ポップアップや同一ページ内のアンカー移動は通常のページ遷移にならないため計測されない点に注意してください。
注意点
- JavaScriptで遅延遷移する場合や、クライアント側ルーティング(SPA)はpage_viewが正しく発生しないと計測されません。
- リファラー情報が消える遷移(https→httpや一部ショートリンク)は誤計測の原因になります。実装時はpage_viewが確実に発火するか確認してください。
GA4のデータ探索による内部リンククリック数の確認方法
概要
データ探索(フリーフォーム)を使うと、どのページから自サイト内のリンクがクリックされたかを確認できます。行に参照元やページ階層を置き、値に表示回数やイベント数を指定します。
手順(簡潔)
- 「探索」→「フリーフォーム」を開きます。
- ディメンションに「参照元ページURL(page_referrer)」「ページ階層」「スクリーンクラス」などを追加します。
- 指標は「イベント数(event_count)」「表示回数」など、計測しているクリックイベントに合うものを選びます。
- 行(Rows)に参照元URLやページ階層、列(Columns)やセグメントにスクリーンクラスを配置します。
- フィルタで参照元に自ドメインを含む条件を設定し、内部リンクのみを抽出します。
フィルタとセグメントの使い方
- フィルタ:参照元に自サイトのドメインを含む(例: contains “example.com”)
- セグメント:特定のページ群やデバイス別に絞ると見やすくなります。
表示の工夫
- 絞り込み後に上位の参照元をソート表示すると、どのページが内部導線に寄与しているか一目で分かります。
- 必要なら「CSVでダウンロード」して外部で集計します。
トラブルシューティング
- 表示がない場合は、クリックイベントが正しく送信されているか(イベント名やパラメータ)を確認してください。タグ設定やデバッグビューで送信状況を確かめます。
page_viewイベントを活用した詳細分析方法
概要
GA4の「page_view」イベントを組み合わせると、内部リンク経由で実際に表示されたページを詳細に把握できます。行(ディメンション)にイベント名・ページの参照URL(page_location)・ページ階層やscreen_classを入れ、値にイベント数を設定します。
設定手順(探索での基本例)
- 指標(値)に「イベント数(event_count)」を追加します。
- 行に「イベント名(event_name)」「page_location」「page_path」「screen_class」を並べます。
- フィルタでドメインを指定(例:page_location に自サイトのドメインを含む)し、event_name に「page_view」を含めます。
フィルタとセグメントの使い分け
- フィルタは表示データを絞るときに使います。まずは自ドメイン+page_viewで絞り込みます。
- セグメントはユーザーやセッション単位で比較する際に使います。内部リンク経由のセッションのみ抽出して他と比較すると効果的です。
具体的な分析例
- 特定のランディングページへ内部リンクで遷移した数を確認したいときは、page_location をそのページで絞り、前ページ(ページ参照元)やpage_pathでグルーピングします。
- ページ階層別に集計すると、サイト構造のどの階層が内部導線で強いか見えます。
注意点
- page_viewはページ表示を捉えるので、クリックだけで遷移が発生しないケース(JavaScriptで部分更新するSPAなど)は別途実装が必要です。
- データの反映にラグが出ることがあります。表示結果が想定と違う場合は期間やフィルタ設定を見直してください。
特定ページへの内部リンククリック数の調査方法
目的
特定のまとめページへ、サイト内のどのページから何回クリックが発生しているかを把握します。流入元ページの一覧が得られると、内部導線の有効性を評価できます。
手順(GA4探索の例)
- 「探索」→「自由形式」を作成します。
- ディメンションに「page_location(ページ階層)」「スクリーンクラス」「page_referrer」や、内部リンク計測で使っているカスタムディメンション(例: link_target)を追加します。
- 指標に「イベント数」または内部リンククリックのイベントを追加します。
- フィルタで対象ページを絞ります。page_locationに対象ページのURL(完全一致や部分一致で /matome/ や /article/xxx を指定)を入れ、スクリーンクラスにも対象ページを指定します。イベント名は内部リンククリックイベントで絞ると精度が上がります。
- 行に「page_referrer」や「出発ページとなるpage_path」を設定すると、どのページから流入があったかが一覧で表示されます。
- 結果をイベント数で降順に並べ、主要な流入元を確認します。必要に応じてリンクテキストやリンクのクラス名などをセカンダリディメンションとして追加します。
実務上の注意点
- URLの一致方法(完全一致/部分一致)で集計結果が変わります。クエリパラメータの有無も考慮してください。
- SPAやアンカーリンク、JavaScriptで生成するリンクは計測漏れが起きやすいので確認します。
- 期間指定を忘れずに。比較期間を設定すると改善効果が分かりやすくなります。
この方法で、まとめページに対する各ページからのクリック状況を手早く把握できます。必要なら実例を使って具体的な設定画面の説明もご案内します。
経路データ探索による内部リンククリックの分析
概要
経路データ探索は、内部リンクの“どこからどこへ”が一目で分かる便利な方法です。クリック元とクリック先の両方を可視化できる点が大きなメリットです。注意点として、ページはタイトル表示のみでURLは見えません。
メリット
- クリックの流れ(分岐や集約)を視覚的に把握できます。
- 起点(開始ページ)と終点(到達ページ)を切り替えて分析できます。
操作手順(簡潔)
- データ探索を開き、「経路データ探索」を選びます。
- 起点または終点に対象ページを指定します(ページタイトルや内部リンクイベントで絞る)。
- 表示方向を「前方(クリック先)」か「後方(クリック元)」で選び、ステップ数を設定します。
- ノードをクリックして次の階層や詳細を展開します。フィルタで特定のリンクやセクションに絞り込み可能です。
注意点
- ページはタイトル表示のみのため、同名ページがあると判別しにくくなります。そこでイベントパラメータやカスタムディメンションでURLやパスを送ると便利です。
- ノード数を増やすと図が複雑になります。必要なステップに絞って可読性を保ってください。
外部リンククリックとの違いと自動計測機能
自動計測の基本
GA4では拡張計測(Enhanced Measurement)をONにすると、サイトから別ドメインへ遷移する外部リンククリックを自動で記録します。イベント名は従来の”outbound_click”の場合と、最近増えている”click”の場合があります。探索で確認するときは両方を候補に入れておくと見落としません。
外部リンクの判別方法(実務例)
外部リンクはlink_urlパラメータに遷移先の完全なURLが入ります。自サイトのドメインと異なるURLなら外部と判別できます。探索では「イベント名がclick または outbound_click」かつ「link_urlに自社ドメインが含まれない」を条件にすると分かりやすいです。
内部リンクとの違い
内部リンクは通常、自動では計測されません。したがって、ページ内遷移や別ページへの移動を正確に把握したい場合は、クリックイベントを自前で送るか、GTMなどでクリックトリガーを設定します。クロスドメイン設定があると外部に見えないケースもありますので注意してください。
実務上の注意点
- 拡張計測がONでも、記録されるイベント名が環境で変わる可能性があります。
- 外部か内部かを判別する際はlink_urlと自社ドメインの照合を優先してください。
- 内部リンクを精密に測りたい時は、クリック時に明示的なイベント(dataLayerやカスタムイベント)を送る運用を検討してください。
これらを踏まえ、まずは拡張計測を確認し、探索でclickとlink_urlの組み合わせを使ってデータの取り方を確かめるとよいです。
GA4内部リンク計測の注意点と実装効率の向上
注意点
- 始点(どのページからクリックされたか)の把握が難しいことがあります。自由形式の探索ではページごとに分解が必要で手間がかかります。具体例:カテゴリ一覧から詳細ページへ移る内部リンクが多い場合、各カテゴリを個別に分解して集計します。
- パラメータやカスタムディメンションを増やしすぎると運用が複雑になります。必要最小限に絞ることが大切です。
- データの反映やサンプリングに注意してください。リアルタイムでの確認はDebugViewを使い、実際のレポートでは遅延がある点を念頭に置きます。
実装効率を上げる方法
- 統一したイベント名とパラメータを使う:例えば internal_link_click、link_text、link_url、source_page を全ページで同じにします。
- カスタムディメンションを乱立させない:可能ならパラメータで分析し、どうしても必要な指標だけをディメンション化します。
- ページ側でdata属性を付ける:のように付け、クリック時に一つのイベントを送る方法が分かりやすく効率的です。
- 複雑な経路分析は経路データ探索を使う:始点→中継→到達ページのような流れを可視化できます。手作業での分解を減らせます。
- テストと監視を自動化する:DebugViewで動作確認し、定期的にレポートの一致をチェックします。
ただし、実装方法はサイト構造や運用体制で最適解が変わります。まずは最小限の計測を導入し、必要に応じて拡張する方法をおすすめします。












