CMSと要件定義の基本知識と重要ポイントを詳しく解説

目次

はじめに

本稿の目的

本調査はCMSの要件定義に関する内容を分かりやすく整理しています。CMS導入や入れ替えを成功させるには、要件を早い段階で明確にすることが重要です。本シリーズはその手助けを目的とします。

想定読者

プロジェクトマネージャー、開発者、編集担当者、経営層の意思決定者など、CMS導入に関わる幅広い立場の方を想定しています。専門用語は最小限にし、具体例で補足します。

本シリーズの構成

第2章から第8章まで、基本定義、機能と非機能の分類、要件定義書の項目、進め方、成功のポイント、リスク、具体例を順に解説します。各章で実務で使えるチェックリストや書き方の例を示します。

読み方のヒント

まず全体を通して全体像を掴み、第4章のテンプレートを使って現場で書き出してください。第5章のプロセスに沿って関係者と確認を繰り返すと実務で役立ちます。以降の章で具体例も示しますので、順に読み進めてください。

CMS要件定義の基本定義

要件定義とは

要件定義は、CMS(コンテンツ管理システム)に何を実現するかを明確にする作業です。経営層やユーザーの目的や要望を、システムの機能や性能、操作性、品質、制約条件に落とし込みます。

目的と効果

目的は利用目的と成功基準を共有することです。これにより開発の方向性が定まり、手戻りや誤解を減らせます。例えば「編集者が10分以内で記事を公開できる」といった具体基準が役立ちます。

主な項目(例)

  • 機能:記事作成、公開フロー、検索、メディア管理
  • 性能:応答速度、同時アクセス数
  • 操作性:編集画面の使いやすさ、権限管理
  • 品質・安全性:バックアップ、認証、ログ管理
  • 制約:予算、納期、法令遵守

関係者と進め方のポイント

関係者(経営、企画、編集、運用、開発)を早期に巻き込みます。要件は具体的で測定可能にし、優先度を付けて段階的に実装する方が現実的です。

機能部分と非機能部分の分類

概要

CMSの要件は大きく「機能部分」と「非機能部分」に分かれます。機能部分はユーザーが直接使う具体的な動作、非機能部分は使い勝手や運用面、性能などの品質要素を指します。両方を明確にすると設計や試験が進めやすくなります。

機能部分の例

  • 記事投稿・編集・公開/差し戻し
  • カテゴリ管理、タグ付け
  • ユーザー権限とログイン
  • 画像・ファイルのアップロードと最適化
  • コンテンツのスケジューリング、ワークフロー
    具体的に「誰が何をできるか」を短い文で書き、受け入れ条件を付けます(例:編集者は下書きを保存できる、保存は3秒以内)。

非機能部分の例

  • 表示速度や同時接続数(例:同時1000ユーザーに耐える)
  • UIの基本ルール(フォントサイズ、配色、行間)
  • セキュリティ(認証方式、暗号化、ログ管理)
  • 運用(バックアップ頻度、マニュアル、サポート体制)
  • アクセシビリティ、SEO、データ保持期間
    これらは数値やルールで定義すると検証しやすくなります。

分類の実務手順

  1. ステークホルダーと機能を洗い出す(運用担当者、編集者、開発者など)
  2. 各項目を「機能」か「非機能」かに振り分ける
  3. 非機能は測定基準(KPI)を設定する
  4. 受け入れ基準とテスト方法を明記する

優先度付けのコツ

  • まず必須(MUST)を決める
  • 次にあった方が良い(SHOULD)、最後に任意(WANT)を分ける
  • 運用負荷とリスクを基準に優先順位を見直す
  • 早期にプロトタイプで確認し、運用担当の意見を入れることを勧めます。

要件定義書に記載すべき項目

CMS導入で要件定義書は設計と合意の基礎です。ここでは必ず記載すべき項目と、記載時の注意点をやさしく説明します。

1. 業務(ビジネス)要件

  • 目的と背景:導入目的、期待効果を明確に記載します。
  • As-Is/To-Be:現状業務フロー(As-Is)と導入後の業務フロー(To-Be)を比較します。フローチャートで業務範囲を切り分け、担当者や入出力を示します。

2. 機能要件

  • 編集、公開、承認、権限管理、検索、テンプレートなど具体的な機能を列挙します。例:ドラフト保存、公開スケジュール。

3. 非機能要件

  • パフォーマンス、可用性、拡張性、運用性、バックアップ方針を記載します。想定ユーザー数や応答時間の目標値を入れてください。

4. インフラ要件

  • サーバー構成、クラウド可否、ネットワーク、ストレージ、CDN利用の有無を明示します。

5. セキュリティ要件

  • 認証・認可、ログ管理、脆弱性対応、個人情報取り扱い、SSL要件を記載します。

6. 導入後のフロー・運用要件

  • 運用体制、保守窓口、問い合わせ対応、エスカレーション、教育・マニュアル、SLAを明示します。

7. サイト要件・コンテンツ要件

  • ページ構成、多言語対応、SEO要件、アクセシビリティ基準、CMSで扱うコンテンツ種別を記載します。

8. 移行・データ要件

  • 既存データの移行範囲、変換ルール、マッピング、検証方法を含めます。

9. 受入基準とスケジュール

  • 受入テスト項目、合格基準、マイルストーン、リリース手順、役割分担を明確にします。

10. 前提・制約・リスク

  • プロジェクトの前提条件、制約、想定されるリスクと対応策を記載します。

最後に、要件と設計の追跡を容易にするために、要件トレーサビリティ表(どの設計/テストがどの要件に対応するか)と、関係者の合意(サインオフ)を必ず含めてください。

要件定義の進め方と具体的なプロセス

概要

CMS要件定義は大きく3つの段階で進めます。1) 要求のヒアリング、2) システム開発上の検討、3) 要件定義書の作成です。それぞれで現状把握と合意形成を重視します。

進め方(3ステップ)

  1. 要求のヒアリング:関係者(編集者、運用担当、経営、IT)から使い方・困っている点を聞き取ります。具体例:更新頻度、承認フロー、画像管理の課題。
  2. 開発要件の検討:機能要件(記事投稿、権限管理など)と非機能要件(速度、可用性、セキュリティ、バックアップ)を整理します。優先度を付けるためにMoSCoW(必須/望ましい/検討)を使います。
  3. 要件定義書の作成:機能一覧、ユーザーストーリー、画面イメージ、受け入れ基準、スケジュール、担当を明記します。

具体的なプロセス(段階ごと)

  • 現状分析:ログや運用手順を確認し問題点を数値化します。例:平均更新時間、エラー率。
  • 目標設定:新CMSで達成したい成果を明確にします(例:更新工数を半減)。
  • 詳細設計準備:ワイヤーフレームや簡易プロトタイプで動きを確認します。
  • レビューと合意:ユーザーとベンダーで要件を読み合わせ、コメントを反映して版を確定します。
  • 変更管理:要件変更は影響範囲と工数を評価して承認ルールを設けます。

合意形成と役割分担

ステークホルダーの承認を早めに取り、責任者(意思決定者)、要求収集担当、技術担当を明確にします。合意が取れていることがプロジェクト成功の鍵です。

CMS要件定義を成功させる5つのポイント

CMS要件定義を成功させるには、設計だけでなく運用まで見通すことが重要です。ここでは実務で役立つ5つのポイントを具体例とともに解説します。

1. CMSに求めるものを明確にする

目的と成果を具体化します。例:月10本の記事を運用する、スマホで編集しやすくする。チェック項目:対象コンテンツ、更新頻度、編集担当。

2. 機能を詰め込みすぎない

必要最小限を優先します。多機能は運用やコストを増やします。例:最初は記事編集・画像管理・公開承認だけに絞る。優先度リストを作成してください。

3. CMSの構造や言語を理解する

テンプレートやコンテンツ型の違いを押さえます。例:ページ型は固定情報、記事型は時系列の更新に向きます。CMSが得意とする表現を確認してください。

4. 運用フローを明確に定める

誰が作成し、誰が承認し、誰が公開するかを決めます。承認ステップや権限の範囲を文書化すると混乱を防げます。例:編集→承認→公開の3段階フロー。

5. 要件定義段階からWeb制作会社に依頼する

早期に制作側を巻き込むと実現可能性が高まります。ワークショップで技術制約やコスト感を共有してください。成果物:優先度付き要件リストと簡単な画面イメージ。

各ポイントで具体的なチェックリストを作ると、関係者の合意が取りやすくなります。

要件定義が不十分な場合のリスク

概要

要件定義が不十分だと、本来の目的に合わないCMSが完成します。運用での手戻りや追加開発が増え、時間とコストを浪費します。ここでは代表的なリスクと具体例、回避策を分かりやすく説明します。

主なリスクと具体例

  • コスト増(予期せぬ追加開発)
    例:公開後に必要な機能が欠けていて、数カ月の追加開発が発生する。
  • スケジュール遅延
    例:要件のあいまいさで仕様変更が相次ぎ、リリースが延期になる。
  • 運用負荷の増大
    例:管理画面が使いにくく手作業が増え、担当者の工数が跳ね上がる。
  • ユーザー体験の低下
    例:検索や表示が遅く利用者が離れてしまう。
  • セキュリティや法令対応の不備
    例:個人情報の扱いを想定しておらず、後から改修が必要になる。
  • ベンダー依存(ロックイン)
    例:特定ベンダーのカスタム機能に頼りすぎて移行が困難になる。

リスク回避のポイント(短く)

  • 現状の業務と課題を具体的に洗い出す。
  • ユーザーと運用者の要望を文書化して優先順位を付ける。
  • プロトタイプやPoCで早期検証を行う。
  • 受け入れ基準を明確にして合意を得る。
  • 段階的な導入と十分なテストで問題を早期発見する。

以上の対応で、多くのトラブルを未然に防げます。

機能要件の具体例

以下ではCMSにおける代表的な機能要件を、実務で使いやすい具体例とともに丁寧に示します。

権限管理

  • 例:管理者、編集者、一般ユーザーごとに閲覧・編集・公開の権限を設定します。特定フォルダは編集不可にするなど細かく制御できます。

コンテンツ編集とテンプレート

  • 例:固定ページと記事で異なる編集画面、入力項目の必須設定やテンプレート切替を用意します。再利用ブロックを作れると効率化します。

検索とフィルタ

  • 例:商品名、タグ、作成日で検索でき、複数条件を組み合わせた絞り込みをサポートします。保存検索やカスタム列表示も役立ちます。

購入履歴・分析用データ出力

  • 例:ユーザー別・期間別の購入履歴を検索しCSV出力できます。再利用やマーケティング分析のためのデータ連携も含めます。

公開ワークフローと承認

  • 例:下書き→レビュー→公開の承認フローを実装し、差し戻しやコメント機能を付けます。

メディア管理・最適化

  • 例:画像の自動リサイズ、タグ付け、使用箇所の一覧表示を提供します。

多言語・SEO項目

  • 例:言語ごとにコンテンツを管理し、タイトルやメタ説明、canonicalを設定できます。

ログ・バージョン管理

  • 例:編集履歴を残して差分確認と復元を行えます。監査用の操作ログも記録します。

API・外部連携

  • 例:会員DBやECシステムと連携するAPIを用意し、外部サービスとデータを同期します。

これらを具体的に要件に落とし込むと、運用が安定し業務効率が上がります。

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