はじめに
本資料の目的
本資料は、2021年のCMS（コンテンツ管理システム）市場の動向と主要トレンドを分かりやすくまとめることを目的としています。CMSの基礎から市場規模、主要製品のシェア、注目技術や選定のポイント、日本の事情まで幅広く解説します。
背景
2021年は、従来からのWordPressの高いシェアが続く一方で、ヘッドレスCMSやSaaS型CMSが台頭し始めた過渡期でした。企業や開発者の要望が多様化し、使い方や選び方が増えた年でもあります。
想定読者
CMSの導入を検討している担当者、運用中だが見直しを考えている方、CMSの市場動向を把握したい技術者やマーケターを想定しています。専門知識がなくても理解できるように、具体例を交えて丁寧に説明します。
本資料の構成
全7章で構成し、基礎から実務的な選定ポイント、日本の事例まで順に解説します。各章は独立して読めるように配慮していますので、関心のある章だけでもご参照ください。
CMS（コンテンツ管理システム）とは何か
基本の説明
CMS（コンテンツ管理システム）は、専門的なプログラミング知識がなくても、Webページや画像、記事などのデジタルコンテンツを作成・編集・公開できるソフトウェアです。たとえば、会社のニュースを社内ブログに載せたり、商品の説明文を更新したりする作業を、担当者がブラウザ上で簡単に行えます。
主な機能と具体例
- 編集画面（エディタ）：ワープロ感覚で記事を書けます。見出しや画像の挿入も直感的です。
- テンプレートとデザイン：共通の見た目をテンプレートで管理し、ページごとに手作業で整える必要を減らします。
- ユーザー権限：複数人で編集する際に、編集者・公開担当者など役割を分けられます。
- メディア管理：画像や動画を一元管理し、どのページで使われているか確認できます。
種類と利用シーンの例
- オープンソース型：自由にカスタマイズでき、社内ブログや小～中規模サイトに向きます。
- クラウド（SaaS）型：初期設定が簡単で、ECやコーポレートサイトを短期間で始めたい企業に便利です。
- ヘッドレス型：表示部分と管理部分を分け、アプリや複数の画面に同じコンテンツを配信する場面で力を発揮します。
利点と注意点
利点は、更新の速さと担当分担の明確化、運用コストの削減です。注意点としては、運用ルールが不明確だと編集の重複や品質低下が起きやすい点や、過度なカスタマイズで管理が難しくなる点があります。
次章では、2021年の市場規模と成長について見ていきます。
2021年のCMS市場規模と成長
市場規模の概況
2021年の世界のWebコンテンツ管理（CMS）市場は約69億ドルに達しました。これは企業や個人がオンラインで情報発信を強化した結果で、サイト構築や運用の需要が高まったことを反映します。市場は既に大きく、今後も重要な分野です。
成長予測
多くの調査では、CMS市場は2026年に約143億ドルへ倍増すると予測されます。年平均成長率（CAGR）が高く、クラウド化やヘッドレスCMSの普及が成長を後押ししています。企業は柔軟な配信や高速な開発を求めてCMS導入を進めています。
普及率と利用サイト数
2021年時点で、全Webサイトの約71.4%が何らかのCMSを利用しています。CMSは全世界で2億を超えるWebサイトで稼働していると推計され、個人ブログから大規模コーポレートサイトまで幅広く使われています。
成長の要因と留意点
成長の背景には、低コスト化、テンプレートやプラグインの充実、開発ツールの進化があります。一方で、セキュリティ対策や運用体制の整備が追いつかないケースもあります。導入時は目的に合うCMS選びと保守計画が重要です。
主要CMSのシェアと人気ランキング（2021年版）
概要
2021年はWordPressが圧倒的なシェアを持ち、CMS利用サイトの約60.7%を占め、全Webサイトでは約43.3%に達しました。その他にはDrupalやJoomlaといったオープンソース、ShopifyやWix、SquarespaceなどのSaaS型、Adobe Experience ManagerやContentfulなどのエンタープライズ／ヘッドレスCMSが注目されました。SaaS型やヘッドレスの台頭で選択肢が広がっています。
上位CMSと特徴（2021年）
- WordPress：豊富なプラグインとテーマが強みで、ブログから企業サイト、EC（WooCommerce）まで幅広く使われます。使いやすさとコミュニティの大きさが魅力です。
- Shopify：ホスティング型のEC特化CMS。商品管理や決済が簡単で、少人数で運用したい店舗に向きます。
- Wix / Squarespace：ドラッグ＆ドロップで簡単にサイトが作れます。デザイン重視の中小事業者に人気です。
- Drupal：柔軟性が高く、複雑な要件や大規模サイトに適しますが、専門知識が必要です。
- Joomla：中規模サイト向けで拡張性はありますが、コミュニティ規模は縮小傾向です。
- Adobe Experience Manager：大企業向けの統合プラットフォームで、サポートやセキュリティが充実しています。
- Contentful：API中心のヘッドレスCMSで、複数チャネルへ同じコンテンツを配信する用途に適しています。
選び方のヒント
目的別に選ぶと分かりやすいです。ブログや小規模サイトはWordPress、ECはShopifyやWordPress＋WooCommerce、デザイン重視ならWixやSquarespace、企業システムや複数チャネル配信ならAdobeやContentfulを検討してください。運用体制や予算、将来の拡張性を合わせて判断すると失敗が少なくなります。
2021年の注目トレンド
ヘッドレスCMSの台頭
ヘッドレスCMSはバックエンドと表示部分を分離し、APIでコンテンツを配信します。スマホアプリやデジタルサイネージ、ウェブなど複数デバイスへ共通のコンテンツを柔軟に届けられる点が評価されました。例：RESTやGraphQLで画面を選ばず配信します。
ハイブリッド型CMSの登場
従来型の編集体験を残しつつ、ヘッドレスの利点も取り入れるハイブリッド型が増えました。既存サイトを急に作り替えずに段階的に移行したい組織に向きます。
パーソナライズとマルチチャネル配信
ユーザーの属性や行動に合わせた表示が重要視されました。メール、SNS、アプリ、店舗端末など複数チャネルで一貫した体験を作るニーズが高まりました。
ノーコード／ローコード化の進展
専門知識がなくても編集やページ作成ができる操作画面が増えました。ブロックを組み合わせるだけでページを作れる仕組みが広がり、中小企業でも導入しやすくなりました。
運用面の注目点
API管理、キャッシュ、セキュリティの整備や、編集ワークフローの明確化が重要です。新しい仕組みを導入するときは運用ルールを先に決めることを勧めます。
CMS選定のポイントと2021年の課題
1) 選定で重視すべき基本視点
CMSは単なる公開ツールではなく運用基盤です。運用のしやすさ、拡張性、セキュリティ、そして提供するデジタル体験の質を総合的に評価します。例えば、コーポレートサイトで頻繁に更新するなら編集画面の直感性が最重要です。
2) 運用のしやすさ
編集者が迷わず使えるUI、ワークフローや承認機能、検索・履歴の整備を確認します。複数人で更新する場合は権限管理の柔軟さも大切です。
3) 拡張性と将来性
将来的な機能追加（多言語、EC、会員機能など）を見越して、プラグインやAPIで拡張できるかを検討します。ベンダーロックインを避ける観点から、標準化されたインターフェースを持つかを確認します。
4) セキュリティと運用負荷
バックアップ、脆弱性対応、ログ管理、自動更新の仕組みを評価します。外部サービス連携が増えるほど監視や運用負荷が高まるため、運用体制も合わせて検討します。
5) デジタル体験（UX）
エンドユーザーの体験を左右する表示速度やレスポンシブ対応、パーソナライズの可否も選定要因です。単に編集しやすいだけでなく、成果につながる表現ができるか確認します。
6) 選定プロセスの実務手順
- 要件整理（運用・技術・予算）
- 候補の絞り込みと比較表作成（機能・コスト・導入実績）
- PoC（小規模な検証）で実運用を試す
- 移行計画と運用ルールの策定
- 教育と定期的な見直し
2021年の課題
使いにくい既存CMSからのリプレイス需要が続き、短期で成果を求める案件が増えました。短納期での導入は運用ルールや教育が不十分になりがちです。組織は機能だけでなく運用体制も含めた総合判断をする必要がありました。
日本独自のCMS事情と事例
概要
日本国内では国産CMSが独自の進化を遂げてきました。a-blog cmsをはじめ、baserCMSやWordPressの日本語向けプラグインなど、現場のニーズに合わせた機能が増えています。
日本語サイト特有の対応
日本語は形態素や助詞の扱いが重要です。そのため検索には形態素解析や全文検索の工夫が入ります。たとえばカスタムフィールドで商品名やふりがなを登録し、検索の精度を上げる運用が一般的です。
実際の事例
・企業の製品サイト：a-blog cmsで多階層のカテゴリと詳細検索を実装し、運用負荷を下げた事例。
・自治体サイト：baserCMSやカスタム開発でアクセシビリティや多言語対応を行った例があります。
運用上のポイント
更新しやすさと編集権限の細分化を両立させることが重要です。テンプレートとパーツを整備し、担当者が迷わず更新できる仕組みを用意してください。
将来に向けて
国産CMSは日本語運用のノウハウを蓄積しています。導入検討では実運用の事例を確認し、検索やカスタムフィールドの対応状況を重視してください。
