はじめに
背景
現代のウェブサービスは、世界中のユーザーに高速で安定した配信を求められます。Kubernetesはアプリケーションのデプロイとスケーリングを容易にしますが、静的コンテンツや大容量ファイルの配信は別の工夫が必要です。CDN(コンテンツデリバリーネットワーク)を組み合わせると、応答時間の短縮やトラフィック負荷の分散が期待できます。
本書の目的
本ドキュメントは、Kubernetes環境にCDNを統合する方法とその利点をわかりやすくまとめます。実践的な構成例や運用上の注意点を示し、導入の判断材料を提供します。専門用語は最小限にし、具体例で補足します。
対象読者
- Kubernetesの基本を理解しているエンジニア
- CDN導入を検討している運用担当者
- パフォーマンス改善を目指すプロダクトオーナー
本章の位置づけ
第2章以降で実装手順や設計上のポイント、ネットワーク最適化の手法を詳しく解説します。本章では全体像と目的、読者に期待する前提知識を明確にします。
読み進め方の提案
まず全体像を把握し、次に自分の環境に近い実装例を読みます。小さな環境で検証を行い、段階的に本番導入へ進めることを推奨します。
Content Delivery Network (CDN) with Kubernetes: A Practical Guide
概要
KubernetesとCDNを組み合わせると、グローバルに分散したユーザーへ速く安定して配信できます。CDNは静的ファイルをエッジにキャッシュし、Kubernetesは動的処理を担います。
なぜ組み合わせるか
- レイテンシ低下:近くのエッジから配信します。例:画像やCSS。
- 負荷分散:トラフィックススパイク時にオリジン負荷を軽減します。
適したケース
高トラフィックのEC、頻繁に変わるコンテンツと静的資産の混在、エッジでのレスポンス改善が必要なアプリです。
基本アーキテクチャ
Ingressでリクエストを振り分けます。静的はCDNへ、APIや動的はKubernetesサービスへルーティングします。オリジンシールドやジオルーティングを有効にすると効果的です。
実装の手順(概念)
- 静的ファイルをオブジェクトストレージへ配置。
- CDNにオリジンとしてKubernetesのIngressまたはストレージを指定。
- Ingressルールでパスごとに振り分け。例:/static -> CDN、/api -> svc
- キャッシュ制御とTTLを設定。更新時はパージかバージョニングを行います。
- TLSはCDNで終端し、オリジン間は相互TLSを検討します。
監視・最適化
エッジヒット率、オリジン負荷、レイテンシを監視します。ヒット率が低ければTTLやパス戦略を見直します。
セキュリティ
WAFやレート制限をCDN側で有効にし、オリジンへの直接アクセスを遮断します。APIは認証を必須にしてください。
Connecting distributed Kubernetes with Cilium and SD-WAN: Building an intelligent network fabric
概要
分散したKubernetesクラスタを接続する際、CiliumとSD-WANを組み合わせると、セキュアで賢いネットワークを実現できます。本章では実務で役立つ設計と導入手順を、具体例(東京と大阪のクラスタ)を使って解説します。
主要コンポーネントと役割
- Cilium:eBPFを使い、Pod間の通信制御・可視化・ポリシーを提供します。Hubbleでフローを可視化できます。
- SD-WAN:複数拠点の回線を統合し、最適な経路選択と障害時の切替を行います。暗号化やトラフィック分離も担います。
基本設計(例)
- 各拠点にKubernetesクラスタ(東京・大阪)。
- SD-WANで拠点間の下位ネットワークを構築(暗号化トンネルを利用)。
- Ciliumを各クラスタに導入し、ClusterMeshや外部IPルーティングでクラスタ間のPodアドレスを通す。
- SD-WANのポリシーで重要なトラフィック(APIやデータベース)を優先します。
導入手順(実践)
- 前提:各ノードで互いに到達可能なIP経路と適切なMTUを確認します。
- Ciliumをインストールし、Hubbleを有効にして可視化を準備します。
- マルチクラスタ連携はCilium ClusterMeshか外部ルートで実現します。ClusterMeshはエンドポイント情報を同期し、Pod間の直接通信を可能にします。
- SD-WANコントローラで拠点間トンネルを作成し、アプリケーションごとの経路制御を設定します。WireGuardやIPsecでトンネル暗号化を行うと安全です。
運用と注意点
- 可観測性:Hubbleでフローを定期確認し、SD-WANのログと突合します。
- パフォーマンス:トラフィック経路とMTUを合わせ、二重カプセル化を避けます。
- セキュリティ:Ciliumのネットワークポリシーでサービスごとにアクセス制限を行います。
トラブルシューティングのポイント
- 接続不可時はまずノード間のルーティングとトンネル状態を確認します。
- CiliumのエージェントログとHubbleでフローが通っているかを追跡します。
- パケット断片化が疑われる場合はMTUとカプセル化方式を見直します。
以上を踏まえると、Ciliumの細かな制御とSD-WANの経路最適化を組み合わせることで、分散Kubernetes環境のネットワークを賢く運用できます。
KubernetesとCDN統合のベストプラクティスと実装例
導入
KubernetesとCDNを統合すると、静的コンテンツを世界中に高速配信し、クラスタの負荷を下げられます。ここでは実践的なベストプラクティスと具体的な実装例を示します。
ベストプラクティス
- 静的と動的を分離する:画像やJS/CSSはCDN、APIや認証はクラスタから直接配信します。ユーザー体験が向上します。
- パスベースのルーティング:Ingressで静的パス(/assets/*)をCDN経由にし、残りはサービスへルーティングします。
- キャッシュ制御を明確にする:Cache-ControlやETagを設定し、更新時は短いTTLで無効化します。
- セキュリティ:プライベートな資産は署名付きURLやトークンで保護します。
- プロビジョニング:CDNのオリジンにKubernetes Ingressのエンドポイントを指定し、ヘルスチェックを有効にします。
実装例(概要)
1) 静的をS3などに置くか、クラスタのServiceをオリジンに設定します。
2) CDN側でオリジンを登録し、ジオルーティングを有効化します。
3) Ingressにてパスごとにヘッダやキャッシュポリシーを設定します。例:
apiVersion: networking.k8s.io/v1
kind: Ingress
metadata:
name: example
annotations:
nginx.ingress.kubernetes.io/configuration-snippet: |
add_header Cache-Control "public, max-age=86400";
spec:
rules:
- http:
paths:
- path: /assets/
pathType: Prefix
backend:
service:
name: static-service
port:
number: 80
運用と監視
- 監視指標:キャッシュヒット率、オリジンレイテンシ、帯域とエラー率を追います。
- ログ収集:CDNのアクセスログとKubernetesのメトリクスを連携して分析します。
- キャッシュ更新:デプロイ時にバージョニングやパージAPIで即時反映します。
注意点
- TTLを長くするとコスト削減になりますが、コンテンツ更新の遅れに注意が必要です。したがって運用ルールを明確に決めます。
Kubernetes環境におけるネットワーク最適化技術
概要
分散したKubernetes環境では、ノード間通信やワークロード間のトラフィックが増えると遅延や可視性の問題が出ます。ここではCiliumとSD‑WANを連携して通信を効率化し、セキュリティと監視を強化する技術をわかりやすく説明します。
なぜ最適化が必要か
Kubernetesはアプリを小さな単位に分けます。その結果、サービス間の通信が多くなります。遅延やパケットロスがあるとユーザー体験が悪化します。ネットワーク最適化で応答性を上げ、運用負荷を下げます。
Ciliumの役割(例を含む)
Ciliumは軽量なプロキシと可視化機能を提供します。eBPFを使いカーネルレベルでパケット処理を高速化します。たとえば、サービスAがデータベースBへアクセスするとき、Ciliumはポリシーで許可・拒否を判断し、どのポッドが通信しているかを可視化します。
SD‑WANの役割(例)
SD‑WANは複数の回線をまとめて管理し、最適経路を選びます。支社とクラウド間で帯域や遅延を見て自動で経路を切り替える例もあります。これにより遠隔地のクラスタ間通信が安定します。
実装のポイント
- ネットワーク分割:トラフィックのタイプごとにポリシーを作成します(管理系、顧客系など)。
- 暗号化:クラスタ間は必ずTLSやIPsecで保護します。
- パス選択:SD‑WANで遅延や損失が低い経路を優先します。
モニタリングと可視化
Ciliumの可視化(例:Hubble)でフローを確認し、SD‑WANのダッシュボードで回線状況を監視します。障害時は両方のログを突合せると原因特定が速くなります。
運用上の注意点
ローリングアップデートで設定を適用し、負荷試験で経路切替やポリシー動作を検証します。小さな変更を段階的に適用すると影響を抑えられます。












