第1章: はじめに
目的
本ドキュメントは、CDN(コンテンツデリバリーネットワーク)に関するリスクやデメリットを分かりやすく整理することを目的としています。CDNの利点を理解したうえで、運用や設計で注意すべき点を具体的に示します。
対象読者
ウェブサイトやサービスの運用担当者、開発者、またはCDN導入を検討しているマネジメント層を想定しています。専門用語は最小限に抑え、具体例を交えて説明します。
本書の構成と読み方
全4章で構成します。第2章でCDNの仕組みと基本的なメリット・デメリットを解説します。第3章ではCDN導入で増えるシステム障害リスクを取り上げます。第4章はキャッシュに起因する具体的な事故や反映遅延のリスクに焦点を当てます。まずは第2章の基礎を把握すると読み進めやすくなります。
注意事項
各組織の環境や利用形態でリスクの度合いは変わります。ここで述べる内容は一般的な問題点と対策の整理です。導入判断は自社環境での検証をおすすめします。
CDNとは何か?仕組みと基本的なメリット・デメリット
はじめに
CDN(コンテンツ配信ネットワーク)は、世界中に置かれた「エッジサーバー」にウェブの静的ファイルや画像、動画などを預け、利用者に近いサーバーから配る仕組みです。ユーザーの表示速度を上げ、元のサーバー(オリジン)の負荷を減らします。
CDNの仕組み
- ユーザーがページを要求すると、DNSなどの仕組みで最も近いエッジが応答します。
- 初回リクエストではオリジンからキャッシュに取り込みます。以降はキャッシュから配信します。
- キャッシュ時間(TTL)やヘッダーで挙動を制御します。
主なメリット
- 表示が速くなります(画像やスクリプトが近くから来るため)。
- オリジンの負荷を下げ、アクセス集中に強くなります。
- 地域ごとの配信品質を安定させやすくなります。
主なデメリット(注意点)
- コンテンツの反映に遅れが出ることがあります(キャッシュが残るため)。
- CDN自体が障害や設定ミスで影響範囲を広げる可能性があります。
- 誤ったキャッシュ設定で古い情報を配信したり、セキュリティ設定を忘れると情報漏えいのリスクがあります。
運用で気をつけること
- キャッシュ設定(TTL、パージ方法)を具体的に決めて運用してください。
- 本番反映前にステージングでキャッシュ挙動を確認してください。
- 監視とログを整備し、万が一の切り戻し手順を準備してください。
CDN導入で増える「システム障害リスク」
配信経路に増える障害要因
CDNを入れると配信経路に新しいコンポーネントが加わります。単純に言えば「渡し先」が一つ増えるため、その部分が止まると配信に影響します。たとえばオリジン(元のサーバー)は正常でも、CDN側の障害で動画が再生できなくなったり、ウェブページが表示されなくなったりします。
単一CDN依存の危険性
単一のCDNに頼るとそのCDNが単一障害点(SPOF)になります。大規模障害時にはサービス全体が止まるリスクが高まります。また設定ミスやバグが短時間で広範囲に影響を及ぼす点も注意が必要です。具体例として、小さな設定ミスで多くのサイトが同時に接続不能になった事例があります。
マルチCDNでの対策
リスクを下げる方法の一つがマルチCDNです。複数のCDNを組み合わせ、障害時は別のCDNへ切り替えます。DNSやルーターでのフェイルオーバー、トラフィック分散(active-active)など運用方法は複数あります。切り替えの検証と自動化が重要です。
運用上の注意点と学び
運用では監視と手順書(runbook)を整備してください。プロバイダ間の差やキャパシティ制限を把握し、定期的にフェイルオーバーの演習を行いましょう。実際の障害では、世界規模で経済的損失や業務停止が発生した例があり、小さなミスが短時間で波及する教訓を残しています。
キャッシュ由来のリスク(反映遅延・キャッシュ事故・キャッシュミス)
反映遅延(キャッシュの古さ)
CDNはコンテンツを一定時間保管して配信します。更新した情報がすぐに反映されないと、古い記事や価格がユーザーに届きます。例えば、ニュースの訂正やECサイトの価格変更が遅れると信頼を損ねます。対策としてはTTL(有効期限)の適切な設定、変更時の自動パージ(削除)を用意することが重要です。
キャッシュ事故(誤って敏感情報を配信)
設計ミスで個人情報やログイン情報をキャッシュしてしまうと、別のユーザーに公開される重大事故になります。ファイルのパスやヘッダー管理が不十分だと発生します。対策は、キャッシュ対象を明確にし機密データを明示的に除外すること、設計段階でセキュリティレビューを行うことです。
キャッシュミス(オリジンサーバーへの負荷集中)
キャッシュに存在しないリクエストが多いと、オリジンサーバーに負荷が集中して応答が遅くなります。アクセスが集中する時間帯に問題が顕在化します。モニタリングでミス率を監視し、ヒット率が低いコンテンツはキャッシュ戦略を見直します。
具体的な対策と運用ポイント
- TTLをコンテンツ種類ごとに分ける(静的は長め、動的は短め)。
- 更新時に自動パージやインクリメンタル更新を実装する。
- キャッシュ対象のリスト化とセキュリティチェックを必須化する。
- キャッシュヒット率とオリジン負荷を監視し閾値でアラートを出す。
運用と設計を両輪で整えると、これらのリスクを大きく減らせます。












