はじめに
調査の目的
本調査は、BtoB企業がオウンドメディアを通じて実際に成果を出した事例と、その背景にある運用戦略を整理することを目的としています。誰に向けて、どのような情報を届けるかを明確にしたうえで、具体的な取り組みを学べるように構成しました。
本書で扱う内容
具体的には、成功事例として複数の企業の成果と戦略を取り上げます。各事例では、取り組みの目的、コンテンツの作り方、運用体制、効果測定の方法を分かりやすく紹介します。共通点として、戦略性、継続的なコンテンツ作成、顧客ニーズの理解が浮かび上がりました。
読者への期待
本稿を通じて、自社のオウンドメディア運用のヒントをつかんでください。すぐに実行できる小さな改善点から、中長期の戦略設計まで参考にしていただける構成です。
BtoB企業のオウンドメディア成功の定義と背景
概要
BtoB企業がオウンドメディアで成功するとは、単にアクセスを増やすだけでなく、見込み客との信頼関係を築き、質の高いリードを獲得し、ブランドの業界内での認知度を高めることを指します。業務課題の解決や効率化に直結する情報提供が重要です。
成功の定義
- 信頼構築：専門性が伝わり、問い合わせや紹介につながる
- リード獲得：営業が対応できる質の良い見込み客を定期的に生む
- ブランド認知：業界内でのポジショニングが明確になる
- 営業支援：コンテンツが商談を前進させる
BtoBの特性と求められるコンテンツ
BtoBは検討期間が長く、意思決定に複数の関係者が関わります。したがって、具体的で実践的なコンテンツが必要です。例：導入事例、ROI計算シート、ホワイトペーパー、業界レポート、技術解説、テンプレートやチェックリスト。
成功指標（KPI）
定量指標：問い合わせ数、MQL数、商談化率、コンテンツ経由の受注額、滞在時間や直帰率
定性指標：顧客の信頼度、営業チームの評価、ブランド認知の変化
背景（注力の理由）
自社でメッセージを一貫して発信できる点が強みです。広告頼みではなく、長期的に資産化できるため費用対効果が高くなります。顧客教育や採用、リファレンス獲得にも寄与します。
初め方のポイント
小さく始めて改善を重ねること。ターゲット課題を明確にし、営業や顧客窓口と連携してKPIを設定します。コンテンツは問題解決に直結するものを優先し、効果を測りながら改善していきます。
ナイルのSEO相談室の事例
概要
ナイル株式会社が運営する「ナイルのSEO相談室」は、Webマーケティングに関する実務に役立つ情報を提供するオウンドメディアです。運用開始から約3年で、受注額を約9倍、資料ダウンロード数を34倍、ブログ経由の資料ダウンロード数を25倍に伸ばす成果を上げました。
取り組みのポイント
- ペルソナの明確化：主にWebマーケターや担当者を想定し、悩みや検索意図に合わせた記事を用意しました。具体例として、SEO改善の手順や成功事例を分かりやすく段階化して提示しています。
- 一貫したコンテンツ設計：短いノウハウ記事と深掘り記事を組み合わせ、初心者でも実行できる手順と専門的な分析の両方を提供しました。
- CTA（行動喚起）の最適化：資料ダウンロードや相談窓口への導線を自然に配置し、導線ごとに訴求文言を変える工夫を行いました。
成果の要因
- 読者の課題に寄り添った情報提供が信頼を生んだ点
- 検索で見つけやすい構成とキーワード設計により流入が安定した点
- コンテンツごとに適切な誘導を設けたことで成果に直結した点
学べること
小さく始めて改善を繰り返すこと、読者視点での情報設計、そして導線の検証を続けることが重要です。具体的な記事設計やCTAの工夫が、BtoBオウンドメディアの成果を大きく左右します。
シースラ!!の事例
概要
シースラ!!はパワーポイントに関する実務的な情報を提供するオウンドメディアです。テンプレートやスライド作りの手順、時短テクニックなどを中心に、すぐ使えるノウハウをわかりやすく伝えています。
成功の要因
顧客ニーズを細かく把握した点が大きいです。受講者やサイト訪問者がつまずく具体的な場面（図表の見せ方、アニメーションの使い方、資料の構成）に絞って記事を作成しています。無料で使えるテンプレート配布や実際のビフォー・アフター事例により、読者が即座に成果を感じられます。
コンテンツの特徴
・手順を追える形式で、初心者でも実践しやすいです。
・図解や動画を多用して視覚的に理解を促します。
・業種別のテンプレートやチェックリストを用意して、利用シーンを明確にしています。
運用の工夫
コンテンツは定期的に見直し、ユーザーの質問を元に改善しています。問い合わせフォームやダウンロードのデータを活用して、何が求められているかを測定し、優先順位を決めて記事化しています。
成果と学び
資料作成に困っている担当者の支持を集め、導入後の相談や有料講座への誘導にもつながりました。実用性を最優先にすることで、信頼を築きやすくなっています。
契約ウォッチの事例
概要
契約審査の品質向上と効率化を目指すAIレビューサービスを提供する株式会社LegalOn Technologiesが運営する「契約ウォッチ」は、法律や法改正に関する情報を発信するオウンドメディアです。開始半年で20万PV、開始3年で100万PVを達成し、「法改正」「契約」などの単一ビッグワードで上位表示に成功しました。
コンテンツ戦略
主な読者は法務担当者や総務、企業の管理職です。具体的には、次のような記事を継続的に作成しました。
– 法改正の速報と分かりやすい解説
– 契約書のチェックポイントやテンプレート例
– よくある質問をまとめたFAQ
– 事例紹介と現場の工夫
記事は正確性を重視し、弁護士や専門家の監修をつけています。
SEOと運用の工夫
キーワードは読者の疑問に即した語句を選定し、見出しや導入で意図を明確にしました。関連する記事同士を内部リンクでつなぎ、滞在時間を伸ばす工夫も行いました。コンテンツは定期的に更新し、改正があれば速やかに情報を反映しています。
成果と学び
短期間での流入増加は、専門性の高い継続的な情報発信と検索ニーズに合わせた設計の賜物です。BtoBオウンドメディアでは、信頼性の担保と検索意図を満たすコンテンツ作りが重要だと示しています。
LIG（株式会社LIG）の事例
概要
LIGブログはデザインや開発、働き方に関する幅広い情報を長年発信してきたオウンドメディアです。BtoBの相談や採用、ブランディングに寄与する記事を継続して公開し、認知とリード獲得につなげています。
体制と運用
社内に編集体制を整え、デザイナーやエンジニア、営業が協力して記事を作ります。担当を固定せず多様な視点を取り入れることで、ネタ切れを防ぎつつ安定した更新を実現しています。編集カレンダーで優先順位を決め、品質管理に注力しています。
コンテンツの特徴
実務に即した具体的なノウハウ記事や事例紹介を中心に、読みやすい構成と図解を多用します。検索ニーズに応える記事を積み重ねることで、長期的に安定した流入を獲得しています。
リード獲得の仕組み
記事からサービス紹介ページや問い合わせフォームへ自然につなげる導線を設計しています。ホワイトペーパーやセミナーの案内で見込み顧客を獲得し、営業につなげる流れを作っています。
学びと示唆
継続的な体制構築と質の担保が要点です。外注だけに頼らず社内知見を記事化することで、信頼性の高い情報発信が可能になります。BtoB企業にとって参考になる実践例です。
株式会社キャップドゥー・ジャパンの事例
背景
株式会社キャップドゥー・ジャパンは、BtoB向けサービスの認知拡大とリード獲得を目的にオウンドメディアを強化しました。慢性的な流入不足と問い合わせの少なさが課題でした。
実施した施策
- ブログの記事数を増やし、週1本の定期更新を継続しました。具体例として導入事例や導入コストの目安、業界別の課題解決法を掲載しました。
- 読者が次のアクションを取りやすいよう、各記事に問い合わせボタンと資料ダウンロードを設置しました。
- 過去記事のリライトと内部リンク整備を行い、関連コンテンツをつなげて回遊率を高めました。
結果
- 平均アクセス数は10倍以上に増加しました。
- お問い合わせ件数は30倍以上、売上は6倍以上に増加しました。
成功の要因
- 継続的なコンテンツ供給により、検索流入が安定しました。
- 読者の疑問に直接答える具体的な記事が信頼を生み、問い合わせにつながりました。
- 導入事例や数値を示すことで意思決定を助けました。
実践的なポイント
- まず週1本でも継続する計画を立ててください。定期更新が重要です。
- 記事ごとに明確なゴール（問い合わせ、資料請求など）を決めて導線を作ってください。
- 古い記事はリライトして再活用してください。
BizHintの事例
概要
BizHintは株式会社ビズヒントが運営する、経営者や経営幹部向けのオウンドメディアです。経営課題の解決に直結する実践的な情報を中心に提供し、信頼できる情報源として認知を高めています。
取り組みの特徴
- ターゲットを絞る：中小企業の経営者や管理職に焦点を当ててコンテンツを設計しています。
- 課題解決型コンテンツ：具体的な手順やテンプレート、チェックリストを用意し、すぐ使える形で提供します。
- 専門性の担保：外部専門家の監修や事例インタビューを掲載して信頼性を高めます。
成果と効果
明確なターゲット設定と実務寄りの内容が評価され、サイト経由の問い合わせや資料請求が増えています。検索流入も安定し、業界内での認知向上につながりました。
実践するためのポイント
- ペルソナを具体化し、優先する課題を3〜5個決める。
- テンプレートやチェックリストを用意して読者がすぐ使える価値を出す。
- 専門家コメントや事例を必ず掲載して信頼性を担保する。
- KPIを設定して、問い合わせ数や資料ダウンロード数で効果を測る。
このように、BizHintは読者の実務に寄り添うコンテンツ設計でオウンドメディアの価値を高めています。
三菱重工の事例
概要
三菱重工は、技術力の高さを伝える専門記事と、課題解決を具体化するホワイトペーパーを組み合わせて、信頼と先進性を示しています。企業のビジョンや取り組みは動画で感情に訴えかける形で表現し、対外的な共感も獲得しました。
具体的な施策
- 専門性の高い記事：研究開発や製品の技術解説を分かりやすく噛み砕いて掲載し、技術者や購買担当者の信頼を得ています。
- 文脈に合わせたホワイトペーパー：訪問者の閲覧履歴やページ内容に応じて、最適なホワイトペーパーを提示し、自然なダウンロード導線を作っています。
- 動画でのビジョン表現：社内プロジェクトや社会課題への取り組みを動画で伝え、企業の存在意義を感覚的に理解してもらう工夫をしています。
- マルチフォーマット提供：記事・白書・動画を連動させ、異なる接点で情報を届けることで理解の幅を広げます。
成果と学び
こうした組合せにより、専門領域での信頼性向上と、見込み顧客の獲得率アップを実現しました。他のBtoB企業は、情報を単一形式に頼らず、利用者の文脈に合わせた導線設計と感情に響く表現を取り入れると良いでしょう。
Faber Companyの事例
概要
Faber Companyはテキストと動画を併用し、実務者目線の多層的な情報提供を行っています。業界の第一人者へのインタビューを定期的に行い、専門性と信頼性（E-E-A-T）を高めています。
戦略
- 目的を明確に：ターゲットは実務者や意思決定者です。実務で使えるノウハウ提供を最優先にしました。
- フォーマットの使い分け：解説記事で基礎を、動画で実務の手順や雰囲気を伝えます。
実施内容
- インタビュー企画：業界の第一人者と対談形式で深掘りし、引用や実例を豊富に盛り込みます。
- ハウツー記事とケーススタディ：現場の具体例を写真や図で補足します。
- 動画の短尺化：要点を短くまとめ、再生時間を抑えつつ理解を助けます。
成果
- 権威性の向上：第一人者の発言が引用されることで信頼度が上がりました。
- ユーザー満足度の改善：実務に直結する情報で滞在時間と再訪率が増加しました。
ポイント
- 実務者目線を徹底すること。
- テキストと動画を補完関係にすること。
- インタビューは編集で分かりやすくし、引用を明確に示すこと。
BtoB企業のオウンドメディア成功の共通ポイント
戦略を最初に固める
目的とターゲットを明確にし、チャネルを単体で考えずに横串を刺します。例えば「リード獲得」と「ブランド認知」は同時に狙えますが、コンテンツの型や配信タイミングを分ける必要があります。KPIは問い合わせ数、質の高いリード、滞在時間などで定めます。
継続的なコンテンツ作成体制を作る
短期で終わる施策では効果が出にくいです。編集カレンダーを作り、社内の担当者と外部パートナーの役割を決めます。週次・月次でのネタ出し、レビュー、原稿作成、公開の流れを標準化すると安定します。既存コンテンツの更新や再利用（記事→ホワイトペーパー→メール配信）も重要です。
顧客ニーズを深く理解する
顧客の業務課題や導入判断のプロセスを調べ、実践的な解決策や具体例を提供します。事例紹介やチェックリスト、テンプレートは導入障壁を下げます。ペルソナに合わせた言葉遣いとフォーマットを揃えてください。
測定と改善を習慣化する
定期的にデータを確認して仮説検証を行います。効果の高いテーマ、逆に反応が薄い形式を見つけ出し、優先順位を付けて改善します。小さな実験を繰り返すことで成功の確度が上がります。
組織の協働とナレッジ共有
営業やカスタマーサクセスと連携し、現場の声をコンテンツに反映させます。社内ナレッジをストックして社外発信に活かす仕組みを作ると、負荷を下げつつ質を保てます。
