はじめに
目的
本書は、AWSの地理的階層構造について分かりやすく整理することを目的としています。特にリージョンとアベイラビリティゾーン(AZ)の違いや役割、信頼性に関わる基本的な考え方を丁寧に説明します。
本書で扱う内容
- リージョンとAZの基本概念と階層構造
- 両者の独立性と信頼性の考え方
- AWSサービスの分類と利用上の注意点
- リージョン名やコードの見方、北米のリージョン、地域別の選び方、東京リージョンの特徴
想定読者
クラウド導入を検討中のエンジニアや運用担当者、そしてAWSの地理的構造を基本から知りたい方を想定しています。専門用語は最小限にし、具体例を交えて解説します。
読み方のポイント
各章で概念→具体例→運用上の注意点の順に説明します。まず概要をつかみ、必要に応じて詳細部分を参照してください。
AWSゾーンの基本概念:リージョンとアベイラビリティゾーンの階層構造
リージョンとは
リージョンは、AWSがサービスを提供する大きな地理的エリアです。たとえば「東京」「大阪」「バージニア北部」などが該当します。2025年6月現在、37のリージョンが利用可能で、地域ごとに物理的なデータセンター群があります。利用者は近いリージョンを選んで遅延を減らしたり、法規制に合わせたりします。
アベイラビリティゾーン(AZ)とは
AZはリージョンの内部にある独立したデータセンターのグループです。各AZは電源やネットワークなどが分離されており、1つのAZで障害が起きても他のAZでサービスを続けられるように設計されています。多くのリージョンは複数のAZを持ち、冗長性と可用性を高めます。
階層構造のイメージ
リージョンを“都市”とすると、AZはその都市内の“区”のような関係です。都市(リージョン)に複数の区(AZ)があり、区ごとに独立した設備があるため、全体の信頼性が高まります。
実際の選び方のヒント
遅延を抑えたい場合は利用者に近いリージョンを選びます。可用性を重視する場合は、複数のAZにシステムを分散させます。コストや法的要件も考慮してリージョンを決定してください。
リージョンとアベイラビリティゾーンの独立性と信頼性
リージョンの独立設計
各リージョンは地理的に分かれた独立した設計です。電力設備やネットワーク、運用体制を別々に用意し、あるリージョンで大きな障害が起きても他のリージョンに影響しないようにしています。例えば、地震や停電などで一地域が止まっても、別のリージョンは通常どおり稼働します。
AZ(アベイラビリティゾーン)の分離と役割
一つのリージョン内に複数あるAZは、それぞれ独立したデータセンター群です。物理的に離れた場所に設置され、電源や冷却、ネットワーク経路も分離しています。片方のAZで障害が起きても、同じリージョン内の別AZはサービスを継続できます。
高信頼性を実現する仕組み
可用性を高めるために、システムを複数AZに分散させて配置します。負荷分散(ロードバランサー)や自動切替の仕組みで、故障発生時に別AZへトラフィックを転送します。重要なデータは複製を作り、必要に応じて別リージョンへバックアップを置くことで災害対策を強化します。
実践的なポイント(簡潔)
- 高可用性:同一リージョン内で複数AZに分散配置する。
- 災害対策:重要データやシステムは別リージョンにもレプリケーションする。
- 自動化と検証:フェイルオーバーを自動化し、定期的に復旧手順を検証する。
これらにより、リージョンとAZの独立性を活かして安定したサービス運用が可能になります。
AWSサービスの3つの分類
AWSのサービスは提供範囲に応じて大きく3つに分かれます。ここでは特徴と具体例、設計時の注意点をわかりやすく説明します。
リージョンサービス
リージョンごとに独立して提供されるサービスです。ユーザーは利用したいリージョンを選び、その範囲でリソースを作成・管理します。データの配置や法令遵守(データ所在地)を保障したい場合に有利です。遅延を抑えたいときや、地域ごとの冗長化(別リージョンへのレプリケーション)を行うときに使います。
例: Amazon SQS、Amazon DynamoDB(通常はリージョン単位で動作)
AZサービス
特定のアベイラビリティゾーン(AZ)内で動作するサービスやリソースです。単一AZにのみ配置すると、そのAZで障害が起きた場合に影響を受けます。複数のAZに分散配置することで可用性を高める設計が一般的です。
例: EC2インスタンスやEBSボリューム(リソース自体はAZに紐づく)
グローバルサービス
リージョンを越えてAWS全体で管理されるサービスです。アカウント単位で統一した管理や、世界中に共通の設定を適用したいときに使います。DNSや認証、CDNのような機能が該当します。
例: IAM(認証・権限管理)、Route 53(DNS)、CloudFront(CDN)
使い分けのポイント
– データ所在地や法令対応、地域ごとの遅延を重視するならリージョンサービスを選びます。
– システムの可用性を高めたいときはAZをまたいで設計します。
– アカウント全体で一貫した設定が必要ならグローバルサービスを活用します。
実際の設計では、これらを組み合わせて冗長性・性能・管理性をバランスよく確保します。
リージョン名とリージョンコード
2つの識別方法
リージョンは「表示名」と「コード」の2つで識別します。表示名は「アジアパシフィック(東京)」のように人が見て分かりやすい名称です。一方、リージョンコードは「ap-northeast-1」のような短い英数字で、システムやAPIで使います。
リージョンコードの構成例
コードは一般に意味のあるパーツでできています。たとえば「ap-northeast-1」は「ap(アジアパシフィック)」「northeast(北東)」「1(識別番号)」という要素が組み合わさっています。表示名とコードは一対対応ですが、表示名は分かりやすく、コードは正確な指定に便利です。
使い分け例
- コンソール画面では表示名を見て地域を選びます。
- CLIやSDK、APIではリージョンコードを指定します(例: aws s3 ls –region ap-northeast-1)。
実務での注意点
- タイプミスで別のリージョンに作成してしまうことがあるので、コード指定時は慎重に確認してください。
- サービスはリージョンごとに提供状況が異なります。目的のサービスがそのリージョンで使えるか先に確認すると安心です。
小さなコツ
設定ファイルにデフォルトリージョンを入れておくと作業ミスを減らせます。コンソール表示名とコードをセットで覚えておくと便利です。
北米地域のリージョン
概要
北米はAWSが最初にサービスを開始した地域で、今も規模が大きい拠点が集まります。特に米国東部(バージニア北部)は歴史が古く、新機能がまず提供されることが多いリージョンです。グローバル展開や最新機能の早期利用を考える際に中心的な役割を果たします。
主なリージョンとリージョンコードの例
- 米国東部(バージニア北部): us-east-1
- 米国東部(オハイオ): us-east-2
- 米国西部(オレゴン): us-west-2
- 米国西部(北カリフォルニア): us-west-1
- カナダ(中部、モントリオール): ca-central-1
これらは代表的な例で、用途に応じて使い分けます。
選び方のポイント(具体例で説明)
- レイテンシー: ユーザーが西海岸に多ければ us-west-2 を選ぶと応答が速くなります。
- 機能の早期利用: 新サービスをすぐ試したい場合は us-east-1 を検討します。
- コンプライアンス・データ居住性: カナダ向けなら ca-central-1 を選ぶと法的要件を満たしやすくなります。
- コスト: 同じサービスでも料金差があるため、見積もりを比較してください。
運用上の注意点
- グローバル展開時は複数リージョンで冗長構成にすることで可用性が上がります。例として、主要を us-east-1 に置き、バックアップを us-west-2 に置く方法があります。
- リージョン間のデータ転送には遅延と費用がかかるので、設計時に考慮してください。
以上が北米リージョンの概要と選び方の基本です。
リージョン選択の重要性
はじめに
リージョン選びはシステム設計で最初に考えるべき判断の一つです。ここでは、選択が直接影響する主な要素を分かりやすく説明します。
1. レイテンシー(応答速度)
ユーザーに近いリージョンを選ぶと、データの往復時間が短くなり応答が速くなります。例えば、日本のユーザーが東京リージョンを使うと体感速度が良くなります。簡単な測定(pingやHTTPリクエスト)で比較できます。
2. 料金
リージョンごとにサービス料金が異なります。通信費やストレージ料金、データ転送料金を比較してコスト最適化を図りましょう。大規模なトラフィックがある場合、数パーセントの違いでも年間コストに大きく影響します。
3. データ主権とコンプライアンス
各国の法令によりデータの保管場所が制限されることがあります。個人情報や業界規制がある場合は、対象地域のリージョンを選ぶ必要があります。したがって、法務やセキュリティ担当と早めに確認してください。
その他の考慮点
- サービスの提供状況:使いたいサービスがそのリージョンで利用可能か確認します。
- 冗長性とバックアップ:可用性を高めるために複数リージョンでの運用を検討します。
実践的な手順
- ユーザー分布を確認する。2. レイテンシーと料金を比較する。3. 法的要件を確認する。4. テストで実際の動作を確かめ、監視を導入します。
これらを順に行えば、用途に合ったリージョンを選びやすくなります。
地域別のリージョン選択戦略
はじめに
海外ユーザーが主なターゲットの場合、利用者の居場所に合わせてリージョンを選ぶことが重要です。近いリージョンは遅延(レイテンシ)が小さく、応答性が良くなります。
選定の基本ポイント
- レイテンシ:ユーザーに近いリージョンを優先します。
- サービス提供状況:必要なAWSサービスが使えるか確認します。
- 法規制とデータ主権:各国のデータ保護規則に配慮します。
- コスト:転送費やリージョンごとの料金差を考慮します。
地域別の具体例
- 北米:米国東部(バージニア北部、us-east-1)や米国西部(オレゴン、us-west-2)が候補です。東西で分散すると可用性が高まります。
- ヨーロッパ:フランクフルト(eu-central-1)やロンドン(eu-west-2)を検討します。EU内の規制対応が必要な場合はEU域内を選びます。
- アジア太平洋:東京やソウル、シンガポールなどが候補です。ユーザーが多い国に近いリージョンを優先します。
冗長化と運用の考え方
単一リージョンで始め、実負荷と障害対策を見ながら近隣リージョンへレプリケーションやフェイルオーバーを追加するのが現実的です。コストや運用負荷も増える点に注意してください。
テストと監視
実環境でのレイテンシ測定や、CDNを使った配信テストを行い、本番前に応答性と可用性を確認します。ログや監視で地域別の利用状況を把握し、必要に応じてリージョン構成を見直します。
日本国内のリージョン:東京リージョンの特徴
概要
AWS東京リージョンは、日本国内向けに設置されたデータセンター群です。国内ユーザーに近いため、応答速度が速く、サービスの種類も充実しています。
レイテンシとユーザー体験
東京リージョンは国内の利用者に対して低遅延を実現します。たとえば、オンラインゲームや動画配信、通販サイトの応答速度が向上し、利用者満足度に直結します。
利用できるサービスの幅
仮想サーバやオブジェクトストレージ、データベースなど主要サービスが揃っています。多くの機能をローカルで試せるため、開発や検証がスムーズです。
データ主権とコンプライアンス
データを国内に保管できる点は、個人情報や業務データの法令対応で安心材料になります。規制や業界要件がある場合、重要な判断基準になります。
運用・コストのポイント
可用性ゾーンを使った冗長化で障害対策を行えます。一方で、データ転送や冗長構成の設計でコストが増える場面があるため、事前に用途と予算を整理してください。
選択の目安
主要な利用者が日本国内にいる、法規対応が必要、低遅延が重要――このいずれかに該当するなら東京リージョンが適しています。グローバル展開を考える場合は、別リージョンとの併用も検討してください。












