はじめに
本資料の目的
本資料は、オンプレミス環境とAWS(Amazon Web Services)を比較し、違い・移行方法・コスト・運用・ネットワーク構成などを分かりやすく解説することを目的としています。特にオンプレ経験者がクラウドを理解するためのポイントを丁寧に示します。
背景と重要性
オンプレミスは自社でサーバやネットワークを設置・管理する形態です。対してAWSはインフラをサービスとして提供し、運用負担を軽くします。例えば、自社でラックを用意して機器を管理する代わりに、必要なときにサーバを立ち上げて使うイメージです。
想定読者
・インフラ運用担当者やエンジニア
・クラウド導入を検討する経営・企画担当者
基礎的なネットワークやサーバの知識があると読みやすいです。
本資料の構成
第2章から第7章で、基本的な違い、技術者向け学習ポイント、コスト比較、運用・管理、通信構成、移行とハイブリッド運用の課題を順に説明します。これにより、現状評価と移行計画の検討に役立てていただけます。
オンプレとAWSの基本的な違い
オンプレミスとは
自社でサーバーやネットワーク機器を保有し、設置場所、電源、空調、保守まで自分たちで管理する形態です。例えば社内のサーバールームでハードディスクやラックを直接扱うイメージです。高度なカスタマイズができ、社内ネットワークが生きていれば障害時にも即時アクセス可能です。
AWSとは
AWSはインフラをサービスとして借りる形です。物理的な管理はAWS側が行い、利用者は必要な分だけサーバーやストレージを使います。例として、仮想サーバーの起動や保存先の拡張を画面やAPIで簡単に行えます。設計をマイクロサービス寄りにすれば、拡張や縮小が容易です。
主な違い(分かりやすく)
- 所有と責任:オンプレはハードも運用も自社責任、AWSは物理管理をAWSが担当し設定や運用は利用者が行います。
- 柔軟性:オンプレは構築に時間と費用がかかり、AWSは短時間で拡張・縮小できます。
- コスト構造:オンプレは初期投資が大きく長期保有で元が取れる場合が多いです。AWSは使った分だけ払う料金形態です。
- ネットワーク:社内LANは低遅延で直接アクセス可能、クラウドはインターネットや専用線を介するため設計が必要です。
選ぶ際の視点
法規制やデータ保持、低遅延要件、既存資産の有無、スキルセットなどで判断してください。両方の良さを活かすハイブリッド運用も現実的な選択です。
技術者視点:オンプレ経験者がAWSを学ぶポイント
はじめに
オンプレでの経験は大きな武器です。ハードやネットワークの知識があると、クラウド移行時に構成意図やトラブル対応が早くなります。ただしクラウド特有の考え方を学ぶ必要があります。
押さえるべき基本用語と実例
- VPC(仮想ネットワーク): 物理ネットワークの代わりに、サブネットやルートを設定します。例えばDMZ用にパブリックとプライベートを分けます。
- IAM(アクセス管理): ユーザーや権限を細かく設定します。ルートアカウントと日常用アカウントを分けます。
- EC2/S3/RDS: 物理サーバーはEC2、ファイルはS3、データベースはRDSに置き換えます。
- オートスケーリング: 負荷に応じてサーバー台数を自動で増減します。コスト削減と可用性向上に直結します。
設計思想と運用の違い
マイクロサービス化、ステートレス設計、自動化(IaCやCloudFormation/Terraform)が前提です。ログや監視はCloudWatchなどで集中管理します。責任共有モデルを理解し、セキュリティ設定はクラウド側と自社側の両方で行います。
学習の進め方
まず小さな環境を作ってハンズオンで試してください。CLIやスクリプトで操作を自動化し、IaCで再現性を確保します。実業務では段階的に移行し、既存知識を活かして設計ミスを減らしましょう。
コスト比較:オンプレミス vs AWS
概要
中規模Webシステム(例:アプリサーバ2台、DB1台、ロードバランサ、バックアップ領域)を例に、主要なコスト項目を比較します。オンプレは初期投資が大きく、AWSは従量課金で柔軟性があります。
初期費用(CapEx)
- オンプレ:サーバ、ストレージ、ネットワーク機器、ラックやUPS、設置作業で大きな支出が一度に発生します。例として数百万円〜数千万円。
- AWS:基本的に初期投資は不要です。必要なのはアカウント設定や設計作業の工数だけです。
運用費用(OpEx)
- オンプレ:電気代、保守契約、交換部品、人件費が継続してかかります。冗長化や監視を自前で用意するため運用負荷が高めです。
- AWS:利用した分だけ課金されます。マネージドサービス(例:RDS、S3)で運用負荷を下げられます。ただしデータ転送やログ保存などの費用が積み上がる点に注意が必要です。
冗長化・バックアップのコスト
オンプレは二重化や遠隔バックアップのために追加機器や回線が必要で費用と運用工数が増えます。AWSはリージョンやAZを使った冗長化、スナップショットやバケットで比較的容易に実現できます。
突発的なトラフィック対応
オンプレはピークに合わせた余裕を持つ設計が必要で遊休資源が生じやすいです。AWSはスケールアウトで即時対応でき、短期間の増加には経済的です。
考慮すべきポイント
- 長期稼働で固定負荷が高い場合はオンプレの方が割安になるケースがあります。
- データ転送量や高可用性要件、ライセンス形態で結果が変わります。
- 試算は実使用パターン(平常時・ピーク時・バックアップ頻度)を基に行ってください。
運用・管理の違い
責任の分担(責任共有モデル)
AWSではハードウェアやファシリティ(電源・冷却・物理保守)はAWS側が管理します。一方でOSのパッチやアプリの設定、データは利用者の責任です。オンプレミスは物理サーバーから電源・ラック管理まで自社で対応します。したがって責任の範囲を明確にすると運用が楽になります。
日常運用の違い
オンプレはハードやRAID、UPSなどの保守予定を自社で計画します。例えばディスク故障なら現地で交換してリビルドします。AWSではインスタンスの入れ替えやマネージドサービスの自動パッチを使い、現地訪問が不要です。
障害対応と保守
オンプレでは部品調達や交換、現場作業の手順書が重要です。AWSは基盤障害の多くをプロバイダが対処しますが、アプリ側のリトライやフェイルオーバー設計は自社で行います。自動復旧や冗長化を短時間で試せる点がクラウドの利点です。
セキュリティ運用
物理的セキュリティはAWSが担いますが、アクセス制御(ユーザー権限)、暗号化、ログ管理は利用者が設定します。例えば管理者アカウントの多段階認証や、外部に公開するAPIのファイアウォール設定は運用ルールに沿って実施してください。
監視・バックアップ・ログ管理
オンプレでは監視ツールやバックアップの保存場所を自前で用意します。AWSはCloudWatchやスナップショットで手軽に取得できますが、保存期間やコスト管理は設計が必要です。ログの集約や分析はどちらでも運用ポリシーが鍵になります。
運用チームのスキルと手順
オンプレ中心のチームはハード保守手順や施設対応が得意です。クラウド運用では自動化(インフラ構成のコード化)や権限周りの管理、クラウド固有の監視に慣れる必要があります。移行時は運用手順書を見直し、役割分担を明確にしてください。
通信・ネットワーク構成の違い
概要
オンプレは自社のLAN/WANを設計・構築します。AWSはVPC(仮想プライベートクラウド)を中心に仮想ネットワークを設計します。両者を組み合わせると専用線やVPNで接続できます。
オンプレミスの特徴
物理スイッチやルーター、ファイアウォールを自社で管理します。ケーブル配線やVLANで分離し、機器障害は現地対応が必要です。例:支社間をMPLSで結び業務系と管理系を分離します。
AWSの特徴
VPCでサブネットやルートテーブル、セキュリティグループを設定します。機器の物理管理は不要で、必要なときにサブネットやルールを追加できます。例:パブリックとプライベートサブネットを用意してDBをプライベートに置きます。
接続方法の比較
- VPN(インターネット経由): 導入が早くコストが低めです。遅延や回線品質に注意が必要です。
- 専用線(Direct Connect等): 帯域と遅延に優れ、機密性が高い接続に向きます。コストは高くなります。
設計上の注意点
IPアドレスの重複を避ける、ルーティングの優先度を決める、フェイルオーバー経路を準備する、監視とログを整備することが重要です。セキュリティは境界だけでなく各サーバ単位でも対策してください。
ハイブリッド構成のポイント
経路管理(オンプレ側のルートとクラウド側のルートの競合)を明確にします。認証やアクセス制御を統一すると運用負荷が下がります。回線障害時のフェイルオーバーや帯域監視を定期的に試験してください。
クラウド移行・ハイブリッド運用の現状と課題
現状
多くの企業がクラウドへ移行していますが、業界や用途によってオンプレ回帰やハイブリッド運用も増えています。金融や医療、製造などでは法令やレイテンシの理由で一部をオンプレに残す例が多いです。柔軟性と制御を両立する設計が求められます。
ハイブリッド設計のポイント
- データの置き場所を明確にする(例:個人情報はオンプレ、公開コンテンツはクラウド)
- ネットワークを安定させる(VPNや専用線の利用、帯域確保)
- 監視・認証を統一する(ログやID管理を一本化)
主な課題
- セキュリティ:境界が増えれば監視や権限管理が複雑になります。ログの一元化が難しいこともあります。
- 法規制:データ滞在場所の制約でクラウド不可となる場合があります。
- 既存システム連携:レイテンシやプロトコル差で連携改修が必要です。
- 運用とコスト:スキル不足や予想外の運用費が発生しやすいです。
対策と実践例
段階的移行とPoCでリスクを小さくします。ハイブリッド接続(VPN/専用線)とデータ同期ツールを使い、監視や認証は共通基盤へ統合します。例として、小売では顧客の個人情報はオンプレで管理し、注文処理や分析はクラウドで行う設計が定着しています。
注意点
一度に全部を移す“大掛かりな一括移行”は避け、可視化と関係部門の合意を先に進めてください。法務やセキュリティ担当と早めに連携すると問題を未然に防げます。












