はじめに
背景と目的
クラウド上でデータ量が増え続ける現在、柔軟に扱えるデータベースが求められています。本記事は、AWSが提供するNoSQLデータベースの概要と、代表的なサービスであるDocumentDBとDynamoDBの仕組みや機能を分かりやすく解説します。実務での選定や設計に役立つ視点を提供します。
本記事で学べること
- NoSQLの基本概念と利用シーン(例:ユーザープロフィールや商品カタログ)
- AWSの主要NoSQLサービスの違いと特徴
- DynamoDBの内部設計、操作タイプ、応用的な機能(トランザクションや一貫性)
対象読者
クラウドやデータベースの基本を理解しているエンジニア・運用担当者、またはサービス選定を行う技術的な意思決定者を想定します。専門用語は最小限にし、具体例で補足します。
読み進め方
各章は独立して参照できますが、順に読むと理解が深まります。DynamoDBの章では実際の操作例に触れますので、実務での活用イメージがつかめます。
AWS NoSQL データベースの全体像
概要
AWSは用途に応じて複数のNoSQLサービスを提供します。主にDocumentDBとDynamoDBがよく使われますが、キャッシュやグラフ、時系列、台帳向けなど目的別に選べます。ここでは各サービスの特徴を具体例とともに分かりやすく説明します。
主なサービスと用途
- Amazon DynamoDB:サーバーレスでキー・バリューやドキュメントを扱います。例:ECサイトのカートやユーザーセッションの保存。
- Amazon DocumentDB:MongoDB互換でJSONデータの管理に向きます。例:ログやドキュメント中心のアプリ。
- Amazon ElastiCache:Redis/Memcachedで高速キャッシュを提供します。例:頻繁に参照するランキング表示。
- Amazon Neptune:グラフデータベースで関係性を効率的に扱います。例:ソーシャルネットワークや推薦エンジン。
- Amazon Timestream:時系列データに特化します。例:IoTセンサーやメトリクスの保存と集計。
- Amazon QLDB:不変の台帳(監査可能な履歴)を提供します。例:金融トランザクションの履歴管理。
- Amazon Keyspaces:Cassandra互換のスケーラブルな列指向DBです。例:広範な分散データ処理。
選び方のポイント
- データモデル:キー・バリュー、ドキュメント、グラフ、時系列など目的で選びます。
- スケーラビリティと運用負荷:サーバーレス型は運用を減らせます。DynamoDBは自動スケールが得意です。
- レイテンシーとスループット:低遅延を重視するならElastiCacheやDynamoDBを検討します。
- 一貫性と可用性:履歴が重要ならQLDB、複雑な関係性はNeptuneが向きます。
- コスト:保存量やアクセス頻度で費用が変動します。事前に想定アクセスを試算してください。
導入時の注意点
小さなニーズには単一サービスで十分なことが多いです。用途が混在する場合は複数サービスを組み合わせると効率的です。実際のデータ特性で検証してから選定してください。
NoSQL データベースとは何か
概要
NoSQL(ノーエスキューエル)データベースは、従来の表形式(リレーショナル)とは別の設計を採ります。テーブルの厳格なスキーマに縛られず、柔軟にデータを扱えます。大量のデータや高いアクセス負荷に強く、分散して運用しやすい点が特徴です。
主な種類とイメージ
- キー・バリュー型:鍵(キー)で値を取り出す最も単純な形です。例:セッション情報やキャッシュ。
- ドキュメント型:JSONのようなまとまりで保存します。例:商品情報やユーザープロファイル。
- カラム指向型:行ごとの大きなデータを列単位で効率的に扱います。例:分析用の大量ログ。
- グラフ型:ノードと関係(エッジ)でつながるデータを扱います。例:SNSの友人関係。
長所
- スケールしやすく、高速な読み書きが得意です。
- スキーマが緩やかで、データ構造を頻繁に変更できます。
- 分散環境で可用性を高めやすいです。
短所と注意点
- リレーショナルDBのような複雑な結合や強いトランザクション保証を期待しにくい点があります。アプリ側で整合性を保つ工夫が必要です。
- クエリの表現力や二次インデックスに制限がある製品もあります。
使いどころの例
高トラフィックのウェブセッション、ログ集約、製品カタログ、リアルタイム分析などで有効です。用途に応じてタイプを選ぶと効果が高まります。
Amazon DynamoDB の詳細な仕組み
基本構造
DynamoDBはテーブル、アイテム、属性でデータを扱います。テーブルは集合、アイテムは行、属性は列に相当します。スキーマレスなので属性を柔軟に増やせます。キー・バリュー型とドキュメント型の両方を自然に扱えます。
キー設計とパーティション
主キーはパーティションキーだけの単純キーか、パーティションキー+ソートキーの複合キーを選べます。パーティションキーでデータを分散し、ソートキーで同じパーティション内の並びを管理します。例えばユーザーIDをパーティションキー、タイムスタンプをソートキーにすると同一ユーザーの履歴を効率よく取得できます。
分散とレプリケーション
DynamoDBはデータを内部でパーティションに分け、SSD上に各パーティションのコピーを複数配置します。データは通常3回レプリケートされ、高い可用性と耐障害性を確保します。障害時は自動でフェイルオーバーします。
パフォーマンスとアクセス
SSDを用いるため読み書きともに低遅延です。インデックス(グローバル/ローカル)で検索を早める仕組みもあります。スキーマレスのためアプリ側で柔軟に属性を追加できます。
運用のポイント
キー設計が性能に直結します。ホットパーティションを避け、アクセス分散を意識してください。テーブル設計時に想定アクセスパターンを整理すると運用が楽になります。
DynamoDB の操作タイプ
データプレーン(作成・読み取り・更新・削除)
DynamoDBの中心はデータプレーンです。ここで行う操作は一般的なCRUD(作成・読み取り・更新・削除)に相当します。たとえばユーザー情報を保存するにはPutItem、特定ユーザーを取得するにはGetItem、カウンターを増やすにはUpdateItem、不要な項目はDeleteItemを使います。バッチで複数項目をまとめて取引的に処理するBatchやTransactもあり、一連の操作を原子性を持って行えます。実務では条件付き書き込み(存在確認やバージョンチェック)を併用すると安全です。
コントロールプレーン(テーブル管理・インデックス・設定)
コントロールプレーンはテーブルの作成・変更・削除や設定の管理を行います。例としてはテーブルを作るCreateTable、二次索引(GSI)を追加する、スループットやオンデマンド設定を切り替える、TTL(自動削除)やバックアップを有効化する、テーブルの説明を取得するDescribeTableなどがあります。たとえば「メールで検索できるようにする」にはGSIを追加してクエリを効率化します。
DynamoDB Streams(ストリームの有効化・無効化)
DynamoDB Streamsはテーブルの変更履歴を記録する仕組みです。ストリームを有効にすると、アイテムの追加・更新・削除の情報が順序通りに流れます。Viewタイプ(NEW_IMAGE、OLD_IMAGE、NEW_AND_OLDなど)で取得する内容を選べます。よくある利用例は変更を検知してキャッシュを更新する、監査ログを残す、別サービスに同期するなどです。ストリームはテーブル設定から有効化・無効化でき、Lambdaなどで処理します。
実務上のポイント
- データプレーンは低遅延な操作向き。頻繁に使うクエリは適切なキー設計を優先します。
- コントロールプレーンの変更はテーブルに影響するため、計画的に行ってください。
- ストリームは非同期処理で有用ですが、遅延や重複に備えた設計をしてください。
DynamoDB の高度な機能と一貫性
概要
DynamoDBは高いパフォーマンスとスケーラビリティを提供します。キー・バリューとドキュメント両方を扱え、JOINがない代わりに非正規化(データ複製)で柔軟に設計します。
インデックスとクエリ戦略
- パーティションキーとソートキーで主要なアクセス経路を作ります。例:userId(PK)+orderDate(SK)でユーザーの注文履歴を取得。
- GSI(グローバルセカンダリインデックス)は別の検索軸を提供します。例:メールアドレスで検索したい場合にGSIを作る。
- LSIは同一パーティション内で別のソート順が必要なときに有効です。単一テーブル設計と組み合わせて、アクセスパターンごとにインデックスや属性を用意します。
一貫性とトランザクション
- 読み取りは「最終的整合性」がデフォルトで高速ですが、必要に応じて強い整合性を選べます。強い読み取りは最新の状態を保証します。
- トランザクション(ACID)を使えば、複数アイテムの同時更新を安全に行えます。例:在庫引当てと注文作成を同時に実行する場面。
- 競合制御は条件付き書き込みやバージョン番号(オプティミスティックロック)で実装します。
運用機能と拡張性
- キャッシュ:DAXで読み取りを高速化できます。読み負荷が高い場合に有効です。
- ストリームと連携:DynamoDB Streams+Lambdaで変更をトリガー処理できます(更新履歴、外部連携)。
- TTL、バックアップ(PITR)、暗号化など運用向け機能を備えます。
設計上の注意点
- 柔軟性を得る一方でデータ重複と書き込みコストが増えます。アクセス頻度とコストを意識してインデックスや複製を決めてください。
- まず主要なアクセスパターンを洗い出し、それに合わせてキー設計とインデックスを作ることが成功の鍵です。












