はじめに
目的
本章では、本ドキュメント全体の目的と読み方をやさしく説明します。AWSのレプリケーション機能を初めて学ぶ方でも理解できるよう、用語はできるだけ簡単にし、具体例を交えて解説します。
本書の狙い
本書は、AWSにおけるデータの複製(レプリケーション)について体系的にまとめたガイドです。特にAmazon S3のレプリケーション機能に焦点を当て、種類や特徴、実際の設定手順までを丁寧に扱います。業務でのバックアップや災害対策、データ共有の場面で役立てられる内容です。
対象読者
・クラウド初心者でS3を使い始めた方
・運用担当者でレプリケーションの導入を検討している方
・S3の運用設計を見直したいエンジニア
本書の構成
第2章から第6章まで順に、基本概念、S3の機能、種類、特徴、設定手順を説明します。章ごとに具体例と注意点を挙げるため、手順に沿って学べます。
AWSレプリケーションの基本概念
定義
レプリケーションとは、データの「複製(レプリカ)」を別の場所に作ることです。AWSではデータを自動でコピーして、障害やデータ消失に備えます。身近な例では、写真をスマートフォンからクラウドに自動バックアップするイメージです。
なぜ必要か
データの冗長化で可用性を高めます。たとえば、一つの場所が故障しても別の場所のコピーでサービスを継続できます。業務の継続や災害復旧(DR)対策として重要です。
主なユースケース
- 高可用性:ユーザーが常にデータへアクセスできるようにします。
- ディザスタリカバリ:別リージョンへコピーして災害時に復旧します。
- 地域要件の順守:データを特定地域に保持する必要がある場合に対応します。
同期と非同期の違い
同期は書き込みと同時に複製を行い、一貫性が高いです。非同期は遅延を許容して高速に書き込みます。用途により使い分けます。
注意点
コスト、レイテンシー、整合性(どの程度最新を保つか)を設計時に考慮してください。小さなデータや頻繁な更新ではコストが増える場合があります。
Amazon S3のレプリケーション機能
概要
Amazon S3のレプリケーション機能は、あるS3バケットに置いたオブジェクトを自動で別のバケットへ非同期にコピーする仕組みです。同じリージョン内、別リージョン、あるいは別AWSアカウントでも動作します。例えば、本番ログを別リージョンのバケットへ自動で複製して災害対策に使うといった運用が簡単にできます。
主な特徴(分かりやすく)
- 自動化:オブジェクトの配置後に自動でコピーされます。手作業は不要です。
- フィルタ:プレフィックス(特定のフォルダ風の名前)やタグでコピー対象を絞れます。例:”logs/”で始まるオブジェクトだけ複製。
- 非同期処理:コピーは即時ではなく順次行われます。大量のオブジェクトでも順次処理されます。
- バージョニング連携:バージョン管理を有効にしておくと、バージョンごとに複製できます。
運用上の注意点
- コスト:転送やPUTリクエストの料金が発生します。どの範囲を複製するかで費用が変わります。
- アクセス権限:送信元・宛先それぞれのバケットに適切なアクセス許可が必要です。別アカウントへ複製する場合は権限設定を忘れないでください。
- メタデータと暗号化:オブジェクトのメタデータや暗号化方式によっては追加設定が必要です。暗号化キーを共有する必要があるケースもあります。
- レプリケーション遅延:通常は短時間で複製されますが、負荷やサイズにより遅延が発生することがあります。
活用例
- 災害対策:リージョン間でバックアップを保持します。
- データ共有:別アカウントの分析チームへ自動的にデータを渡します。
- 監査・保管:特定プレフィックスを別のバケットに複製して長期保存します。
以上がAmazon S3のレプリケーション機能の使い方と注意点です。設定はシンプルで、自動化による運用負荷の軽減に役立ちます。
S3レプリケーションの2つの種類
ライブレプリケーション(新規・更新の自動複製)
ライブレプリケーションは、新しく作成されたオブジェクトや更新されたオブジェクトを自動でコピーします。例えば、東京リージョンのバケットに写真をアップロードすると、設定した先(同一リージョンまたは別リージョン)に自動で複製されます。運用中のデータ保護やアクセス高速化に向きます。
特徴:
– 新規オブジェクトと更新を自動で処理します。
– レプリケーション設定後の動作です。設定前にあったファイルは対象外です。
クロスリージョン(CRR)と同一リージョン(SRR)の違い
CRRは異なる地域(例:東京→米国)へコピーします。地理的に離れた場所での冗長化や法令対策に向きます。SRRは同一リージョン内で別のバケットへ複製します。例えば障害分離や別部署向けのバックアップに便利です。
オンデマンドレプリケーション(既存オブジェクトの複製)
オンデマンドは、レプリケーション設定前に存在していたオブジェクトを後から複製する機能です。大量の既存データを一括で移したい場合に使います。操作は管理コンソールやAPIから開始できます。
使い分けのポイント
- 継続的に新規データを複製したいならライブレプリケーション。
- 既にあるデータを移したいならオンデマンドレプリケーション。
注意点
- ライブは設定前の既存オブジェクトを自動で複製しません。オンデマンドで補います。
- コピー先の権限設定やライフサイクルは確認してください。
S3レプリケーションの主な特徴
メタデータを保持してコピー
S3レプリケーションは元のオブジェクトのメタデータ(タグ、カスタムヘッダー、ACLではなくバケットポリシーでのアクセス制御情報)を維持して複製できます。たとえば、アップロード時に付けたタグやContent-Typeはレプリカでも同じになります。
異なるストレージクラスへの複製
レプリケーション先で別のストレージクラス(例:S3 GlacierやStandard-IA)を指定できます。頻繁にアクセスするオブジェクトは標準、長期保管はGlacierにするとコスト最適化に役立ちます。
ライフサイクル設定との併用
ライフサイクルルールと組み合わせると、保存期間や階層移行を自動化できます。たとえばレプリカを一定期間後にさらに安価なクラスへ移す運用が可能です。
複数リージョンでの利点
複数リージョンでデータを保持すると、読み取りレイテンシーの低下、法令対応(データ保管場所の指定)、冗長性とディザスタリカバリの強化に役立ちます。
運用上の注意点
バージョニングが有効である必要があり、既存オブジェクトは自動で複製されない点に注意してください。レプリケーションには専用のIAMロールとバケットポリシーが必要です。レプリケーションの状態はメトリクスやイベントで監視できます。
S3レプリケーションの設定方法
以下はAWSマネジメントコンソールを使ったS3のレプリケーション設定手順です。手順は5つのステップに分かれています。各ステップで必要なポイントをわかりやすく述べます。
1. レプリケーション設定画面へのアクセス
- S3コンソールでソースバケットを開き、「管理」→「レプリケーション」へ進みます。
- 新しいレプリケーションルールを作成します。
2. ソースの設定とレプリケーション条件の指定
- ルールに名前を付けます。
- 全オブジェクトを対象にするか、特定のプレフィックスやタグで絞るかを選びます。例:images/以下だけ複製する、など。
- バージョニングが有効であることを確認してください(必須)。
3. 送信先バケットの選択
- 同一アカウント内か別アカウント・リージョンかを選びます。
- クロスアカウントの場合、送信先バケットに対する書き込み権限(バケットポリシーやACL設定)が必要です。
- コンソールでレプリケーション用のIAMロールを自動作成するか、既存ロールを指定できます。
4. ストレージクラスの選択
- レプリケーション先での保存先ストレージクラスを選びます(Standard、Standard‑IA、Intelligent‑Tieringなど)。
- コストやアクセス頻度に応じて選ぶとよいです。
5. オブジェクト所有者の設定
- “Destination ownership”(オブジェクト所有者の変更)を選べます。送信先のバケット所有者にオブジェクトを移すか、そのまま元の所有者にするか決めます。
- クロスアカウントでは送信先所有者にする設定を推奨します。理由はアクセス管理を簡単にするためです。
既存オブジェクトのレプリケーションについて
- S3の標準レプリケーションは新規追加後のオブジェクトを対象とします。既にあるオブジェクトを複製するには、S3 Batch ReplicationやS3 Batch Operations、あるいはオブジェクトのコピー処理を行います。
- 大量のデータ移行では料金と実行時間が発生するため、事前に見積もりとスケジュール調整をしてください。
最後に、ルールを保存して有効化したら、コンソールでレプリケーションステータスやCloudWatchメトリクスで動作を確認してください。












