はじめに
本書へようこそ。
目的
このドキュメントは、AWSでジョブやタスクを定期実行する仕組みを分かりやすくまとめることを目的としています。特にAmazon EventBridge Schedulerを中心に、スケジュール設定の考え方や具体的な式(cron、rate)の使い方、企業運用での注意点、オンプレミス製品とAWSをつなぐ実例までカバーします。
対象読者
- クラウド上で定期処理を設計・運用するエンジニア
- 既存のオンプレジョブをクラウドへ移行したい運用担当者
- スケジュール実行の基礎を短時間で学びたい方
本書で学べること(章立ての短い案内)
- スケジュール実行の基礎概念と用語
- Amazon EventBridge Schedulerの概要と使い方
- cron式やrate式による具体的なスケジュール設定例
- 企業運用で必要な管理・監視のポイント
- オンプレ製品とAWSの連携パターン
読み方のヒント
実例を重視して解説します。まず第2章で全体像をつかみ、第3章以降で具体的な設定や運用を順に学んでください。実際に手を動かす前に、各章の概念を確認すると理解が早まります。
AWSにおける「スケジュール実行」とは何か
概要
AWSでの「スケジュール実行」とは、あらかじめ決めた日時や周期で処理(ジョブ/タスク)を自動的に起動する仕組みです。人手で操作せずに定期処理を回せるため、夜間バッチや日次レポート、定期バックアップなどに使います。
具体例
- 毎日深夜にLambda関数を起動してログを集計する
- 毎週末にEC2インスタンスのスナップショットを作成する
- S3にファイルが置かれたらデータ処理を開始する(到着トリガー)
オンプレとの違い
オンプレではcrontabや専用ジョブスケジューラ製品が中心でしたが、AWSではマネージドサービスを使います。これによりインフラ管理の負担が減り、スケールや監査ログ、障害時の再実行設定など運用面が楽になります。一方で、クラウド特有のサービス選びや権限設計が必要です。
実現の仕組みと選び方
代表的な方法はEventBridge(旧CloudWatch Events)でcronや周期指定をしてLambdaやStep Functions、EC2、Batchへつなぐものです。単純な定期処理ならLambdaとEventBridgeの組合せで済みます。複雑なワークフローや大規模バッチではStep FunctionsやAWS Batchを検討してください。
以上がAWSにおけるスケジュール実行の基本です。用途に応じてサービスを組み合わせることが重要です。
サーバーレスで使える「Amazon EventBridge Scheduler」の概要
概要
Amazon EventBridge Schedulerは、AWSが提供するサーバーレスのスケジューリングサービスです。サーバーやcronを自分で管理せずに、時間に応じたタスクを作成・実行できます。GUIやAPIでスケジュールを一元管理し、実行状況の履歴も確認できます。
主な特徴
- インフラ管理不要:サーバー設定やパッチ適用は不要です。
- 高いスケーラビリティ:大量のスケジュールを扱っても自動で拡張します。
- 多様なターゲット:Lambda、Step Functions、SNS、SQS、APIエンドポイントなどへ直接イベントを送れます。
- 管理性:スケジュールの一覧や実行履歴、再試行設定を集中管理できます。
主な活用例(具体例)
- 毎朝9時にLambdaで日次レポートを生成してS3へ保存する
- 月初に請求処理をStep Functionsで順次実行する
- 夜間にEC2を停止・翌朝に起動する(コスト最適化)
利用イメージ
コンソールでスケジュールを作成し、実行タイミングとターゲットを指定するだけで運用開始できます。APIから動的にスケジュールを生成・削除することも可能です。
導入時の注意点
- 実行回数や遅延に関する要件は事前に確認してください。
- 権限(IAM)の設定を適切に行い、ターゲットへのアクセスを制限してください。
EventBridge Schedulerで重要な概念:スケジュールパターンとSchedule group
スケジュールパターンとは
EventBridge Schedulerでは、実行タイミングを表す「スケジュールパターン」が基本です。大きく分けて一度だけ実行するOne-time scheduleと、繰り返し実行するRecurring scheduleがあります。パターンには実行時刻のタイムゾーンや開始・終了日時を指定できます。
One-time schedule(指定日時に1回実行)
指定した日時に一度だけ処理を走らせます。例えば「年末のデータバックアップを2025-01-01 03:00に実行する」といった用途に向きます。短期のバッチやリリース作業の自動化に便利です。
Recurring schedule(cron式またはrate式による繰り返し)
cron式で細かいカレンダー指定(毎日・毎月・平日のみなど)を行えます。rate式は「5分ごと」「3時間ごと」など単純な間隔指定に向きます。例えば、cronで毎日午前2時に実行、rateで6時間ごとに実行、などが可能です。
Schedule groupとは
Schedule groupは複数のスケジュールをまとめる単位です。同じプロジェクトや環境ごとにグループ分けして運用や権限管理を行うと管理が楽になります。たとえば開発環境用グループと本番環境用グループを分けると、誤操作のリスクを減らせます。
運用のポイント
- グループごとに命名ルールを決め、誰が何を管理するか明確にしてください。
- IAMでSchedule group単位の権限を設定すると安全です。
- 定期実行はログと再試行設定を確認しておくとトラブル対応が楽になります。
cron式とrate式で柔軟なスケジュール設定(EventBridge)
概要
EventBridge Schedulerでは2種類の書き方で繰り返しを指定できます。単純な間隔はrate式、複雑な日時パターンはcron式が向いています。コンソールはcron式入力の補助画面を用意しており、初心者でも扱いやすくなっています。
rate式(シンプルな間隔指定)
rate式は「何分おき」「何時間おき」などの繰り返しに使います。書式の例:rate(5 minutes)。定期的なログ集計やポーリング処理に適します。設定が分かりやすく、誤りが少ない点が利点です。
cron式(柔軟な日時指定)
cron式は曜日や月、毎月の特定日など細かい指定に向きます。例:毎朝9時は cron(0 9 * * ? )、平日の午前10時は cron(0 10 ? * MON-FRI )。時間帯指定(タイムゾーン)も設定でき、運用の都合に合わせて動作させられます。
コンソールの入力補助と実務のコツ
コンソール画面ではフィールドごとに選択肢が出て、結果をプレビューできます。初めてのときは補助を使い、動作確認は短い間隔のrate式で実施してください。さらに開始時刻や終了時刻を指定して誤実行を防ぐと安心です。
企業運用向け:「クラウド型ジョブスケジューラーサービス」とは
概要
企業向けのクラウド型ジョブスケジューラーサービスは、AWSネイティブ機能と補完関係にある運用向けツールです。開発者向けのトリガー設定と異なり、業務スケジュールの管理や運用オペレーションに重きを置きます。オンプレミスの運用感覚を保ちながらAWS上の業務アプリを運用したい組織に向いています。
主な特徴(具体例つき)
- カレンダー形式のGUI:月表示や週表示で実行予定を直感的に確認できます。例:毎月末に一括処理が視覚的に確認できる。
- 繰り返しルール作成:複雑な繰り返し(毎営業日9:00や第2月曜)を簡単に設定できます。
- 休日振替ルール:祝日が重なる場合に翌営業日に自動振替するルールを用意できます。
- 将来実行予定の把握支援:数ヶ月先までの実行一覧を出力し、影響範囲を確認できます。
- 依存関係・ワークフロー管理:あるジョブが成功してから次を開始する、といった連携をGUIで定義できます。
運用面での利点
- オペレーターが直感的に操作でき、運用負荷を下げます。
- ロールベースアクセスや監査ログでガバナンスを確保します。
- 障害時の再実行やリトライポリシーを細かく設定できます。
AWSの機能との棲み分け
EventBridge Schedulerはトリガー作成に特化します。クラウド型ジョブスケジューラーは業務スケジュール管理、可視化、依存管理といった運用機能が豊富です。両者を組み合わせることで、開発者向けの柔軟性と運用者向けの使いやすさを両立できます。
選定のポイント
GUIの使いやすさ、休日ルールの柔軟性、監査や認可の仕組み、AWSとの連携度(マルチアカウント対応やAPI)を確認してください。コストやサポート体制も重要です。
オンプレ製品とAWSをつなぐ「Job Scheduler for Cloud(AWS)」
概要
オンプレの運用管理ツールをそのまま使いながら、AWS上の処理を起動したい企業向けの製品がJob Scheduler for Cloud(AWS)です。既存のジョブスケジューラ(例:Senju/DC)の運用を維持しつつ、クラウド上の状態をきっかけに処理を実行できます。
何ができるか
- AWS S3のオブジェクト有無を監視してオンプレ側のジョブを開始
- EventBridgeやSchedulerで発生したイベントをトリガーに処理を呼び出し
- 認証や接続設定を集中管理し、セキュアに連携
連携の流れ(具体例)
- Senju/DCに“S3の存在確認”を行うジョブを設定します。
- Job Scheduler for CloudがAWS APIにアクセスして、指定バケットにファイルがあるか確認します。
- ファイルが見つかれば、オンプレのワークフローを起動して後続処理を行います。
この手順でオンプレとクラウドの役割を分け、既存運用を変えずにクラウド資源を利用できます。
導入メリット
- 既存の運用ルールやログをそのまま活かせる
- クラウド専用のスクリプトを書かずに済むため導入コストを下げられる
- ネットワークや認証を管理しやすく、安全性を確保できる
運用上の注意点
- 接続情報や権限は最小権限で設定する
- ネットワーク遅延やAPI制限を考慮してリトライ設計を行う
- 監査ログや障害時のエスカレーションフローを明確にする
導入イメージ(ユースケース)
- バッチ処理の入力ファイルをS3で受け取り、オンプレで集計するケース
- クラウドで生成されたレポートを検出して社内システムに取り込むケース
既存投資を活かしつつ、AWSのイベントやリソース状態を契機に確実に処理を開始したい場合に有効な選択肢です。












