はじめに
目的
本ドキュメントは、AWSが示す「99.9999%」という高い可用性に焦点を当て、その意味と実現方法を分かりやすく整理することを目的としています。技術的な数字だけでなく、日常的な例で理解できるように説明します。
対象読者
クラウドを使うシステム担当者や意思決定者、導入を検討している方、クラウドの信頼性に関心がある一般の方に向けています。専門用語は最小限に抑え、具体例で補足します。
本書の構成と読み方
次章以降で、AWSのインフラ可用性の意味、グローバル規模、主要サービスのSLAや耐久性、運用の取り組みを順に解説します。各章は独立して読み進められるように書いていますので、関心のある章からお読みください。
まず押さえておきたい点(例)
「99.9999%」は非常に高い可用性を示します。分かりやすく言うと、年間の想定停止時間は約31秒ほどです。これが実務上どのような意味を持つか、本書で具体的に示していきます。
AWSの99.9999%インフラストラクチャ可用性について
背景と数値の意味
AWSは「99.9999%」の可用性を目標に設計しています。これは年間で許容されるダウンタイムが約26秒に相当します。非常に短い時間で、常時稼働が求められるサービスにとって重要な指標です。
設計上の工夫
電気系統を簡素化することで、電気的なトラブルで影響を受けるラック数を約89%削減しました。具体例としては、配電の段数を減らし、不要な切り替え点を避けることで単一障害点を減らします。これにより、一部の設備障害が全体に波及しにくくなります。
運用と監視
統合監視システムと社内開発のテレメトリーツールを組み合わせ、機器の状態をリアルタイムで把握します。異常を早期に検知して自動的に切り替えたり、運用チームが速やかに対処できるように詳細な診断情報を提供します。日常的に障害対応の訓練や手順の改善も行っています。
お客様への影響
この高い可用性は、オンライン決済や業務系システムなどのダウンタイムリスクを大幅に下げます。万が一トラブルが発生しても、影響範囲が限定され、復旧までの時間を短くできます。
AWSのグローバルインフラストラクチャ規模
概要
AWSは新しいデータセンターコンポーネントにより、34のリージョンと108のアベイラビリティゾーンにスケールできる設計を採用しています。広い地理的分散により、地域ごとの障害が全体のサービスに与える影響を小さく抑えます。
地理的分散の利点
地域を分けて配置することで、ある地域で停電や自然災害が起きても、別の地域でサービスを継続できます。例えば、東京地域で一時的に問題が発生しても、別のリージョンで処理を引き継ぎ、影響を限定できます。
スケーラビリティと設計
新設計のデータセンターはモジュール化され、必要に応じて容量を追加できます。これにより、短期間でトラフィック増加に対応しやすくなります。運用チームは標準化された手順で新しい施設を導入し、同じ品質を保ちます。
導入状況
新設計のデータセンターは2025年初頭から米国で稼働開始予定で、一部施設では既に導入済みです。これにより米国内の冗長性と性能がさらに向上します。
利用者への影響
利用者は低遅延と高い可用性を享受できます。分散された構成は、災害時の復旧や法規制対応にも役立ちます。
Amazon Auroraの可用性SLA
概要
Amazon Auroraは、Multi-AZ(複数のアベイラビリティゾーン)でのデプロイメントに対して99.99%、Single-AZ(単一ゾーン)でのデプロイメントに対して99.9%の可用性SLAを提供します。SLAを下回る場合、AWSはサービスクレジットを提供する仕組みです。
SLAの意味と計算方法
SLAは提供される稼働率の約束です。一般に稼働率は対象期間中の正常稼働時間を総時間で割って算出します。例えば1か月(約720時間)で99.99%が保証される場合、許容ダウンタイムは約4分です。99.9%では約43分になります。
サービスクレジットの流れ
SLA未達が発生したと判断されたら、顧客はAWSサポートに請求を行います。請求には発生日・発生時間・影響範囲などの証拠が必要です。AWSが検証後、合意された基準に基づいて将来の請求額から差し引く形式でクレジットを付与します。
可用性を高める実践例
- 本番環境は可能な限りMulti-AZ構成にする。フェイルオーバーが自動で行われます。
- 読み取り負荷はリードレプリカに分散し、主インスタンスの負荷を下げる。
- 定期的にフェイルオーバーのテストを行い、手順と監視を確認する。
- 監視とアラートを有効にして異常を早期発見する。
運用上の注意
Single-AZはコスト面で有利ですが、ミッションクリティカルな用途には適しません。SLAは補償の枠組みを示すものであり、運用での備えが不可欠です。
Amazon S3の耐久性と可用性
概要
Amazon S3は非常に高い耐久性(99.999999999%)と高い可用性(99.99%)を提供します。この章では、その仕組みと運用上のポイントをやさしく説明します。
耐久性(データの失われにくさ)
S3は同じリージョン内で複数のアベイラビリティゾーン(AZ)へ自動的に複製します。結果として、ハードウェア故障や単一データセンターの障害があってもデータは保たれます。説明すると、写真や書類を別々の金庫に同時に保管するようなイメージです。
可用性(データにアクセスできる割合)
可用性99.99%は、ほとんどの時間でオブジェクトにアクセスできることを意味します。クロスリージョン複製を設定すると、別リージョンへ非同期にコピーを作るため、さらに耐障害性が高まります。
チェックサムと修復
S3は保存時にチェックサムでデータ整合性を確認し、破損を検出すると自動で修復します。これにより長期間の保管でも信頼性を維持します。
運用上のポイント
- 重要データはクロスリージョン複製を検討してください。
- コストと可用性のバランスを考えてストレージクラスを選んでください。
日常の保存用途からビジネス利用まで、S3は高い耐久性と可用性でデータを守ります。
AWSの運用卓越性
概要
AWSは年間3,000回以上のアップグレードを実施しつつ、99.9999%以上の可用性を維持しています。大量のトランザクションを毎秒処理するため、運用は自動化と標準化を軸にしています。運用の目的は「変化を安全に素早く届ける」ことです。
日々の運用手法
- 自動化:デプロイ、テスト、監視を自動化して人為的ミスを減らします。例えば、ロールアウトを段階的に行うことで影響を最小化します。
- モニタリングとアラート:遅延やエラーを早期に検知するため、重要な指標を常時監視します。
- フェイルオーバー設計:障害時に自動で切り替わる仕組みを設け、サービス継続を確保します。
具体例
- ローリングアップデートやカナリアリリースで、変更を小さく検証しながら広げます。
- 事前に動作を確認するステージ環境や負荷試験を実施します。
継続的改善
インシデント後は原因分析と改善策を素早く行い、再発防止を実施します。運用手順は定期的に見直し、教育やドキュメントで知識を共有します。これらの実践が高い可用性と信頼性を支えています。
まとめ
ポイントの要約
AWSが掲げる「99.9999%の可用性」は、電力系統の冗長化、統合監視、世界規模の冗長化が組み合わさって実現しています。Amazon AuroraやS3の設計も、この可用性目標を支える重要な要素です。
実務で押さえること
- 複数のアベイラビリティゾーン(AZ)に分散して配置する(例:本番環境を最低2つのAZへ)。
- 定期的なバックアップと復元テストを行う。
- 監視とアラートを整備し、異常を早期に発見する。
今後の見通し
2025年からの新しいデータセンター設計展開により、さらに耐障害性とサービス品質が向上する見込みです。したがって、設計時には冗長化と運用体制の両方を意識するとよいでしょう。
最後に、技術要素だけでなく運用の備えが可用性を左右します。日々の運用改善が安定稼働の近道です。












