はじめに
この章では、本記事の目的と読み方を丁寧に説明します。本記事は、Amazon Web Services(AWS)を使う際の「稼働率(可用性)」と「サービスレベルアグリーメント(SLA)」について、実務で役立つ形でまとめたものです。
- 目的
- AWSの稼働率に関する基本知識を分かりやすく伝えます。
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稼働率の数字が実際のダウンタイムやコストにどう影響するかを理解できます。
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対象読者
- クラウド運用担当者、システム設計者、ITマネージャー、導入を検討する担当者など。
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専門用語が苦手な方でも読み進められるように書きます。
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本記事の構成(全9章)
- はじめに
- AWS稼働率の概要とSLAの意味
- 主要AWSサービスの稼働率
- 稼働率とダウンタイムの関係
- 現実的な稼働率設計とコスト
- マルチAZ・冗長化設計の重要性
- SLAに違反した場合の対応
- AWS稼働率の実績と障害発生時の対応
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まとめ:AWS稼働率とビジネス継続性
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読み方のヒント
- まず第2章と第3章で基本の数字を押さしてください。
- 運用設計に関心がある方は第5章と第6章を重点的にお読みください。
この記事を通じて、稼働率に関する判断がより現実的で実践的になることを目指します。
AWS稼働率の概要とSLAの意味
SLAとは何か
SLA(サービスレベルアグリーメント)は、サービス提供者が約束する稼働率や対応条件を文書化した契約です。たとえば「月間稼働率99.95%」と明示されると、年間の許容ダウンタイムがどれくらいか把握できます。具体例を出すと、99.9%は月に約43分、99.99%は月に約4分の停止を意味します。
AWSのSLAの特徴
AWSはサービスごとにSLAを定めています。S3やEC2、RDSなどで個別の数値が書かれており、可用性の保証範囲やクレジット(料金割引)の条件も異なります。SLAは最小限の保証であり、実務では設計で上回ることが望まれます。
可用性は設計で変わる理由
同じサービスでも設計次第で可用性は大きく変わります。例えば単一のAZ(アベイラビリティゾーン)で構成すると、そのAZ障害で停止します。対してマルチAZや負荷分散を組むと、可用性は高まります。コストと複雑さのバランスを考えながら設計してください。
補償(サービスクレジット)について
SLA違反時は、一定の条件で料金の一部が返還されることが多いです。ただし申請手続きや例外条項があるため、実際の補償を受けるには契約内容をよく確認してください。
主要AWSサービスの稼働率
概要
代表的なサービスごとの月間稼働率(SLA)を分かりやすく説明します。数値はSLAが保障する可用性で、残りが許容される最大ダウンタイムです。
各サービスのSLA(目安)
- Amazon EC2: 99.99%以上(マルチAZ非利用時は適用外)
- 意味: マルチAZや冗長構成を使うことで高可用性を確保します。単一インスタンスだけだとSLAは下がります。
- Amazon S3: 99.99%(マルチAZ前提)
- 意味: データは複数AZに分散され、耐障害性が高いです。
- Amazon RDS: 99.95%以上
- 意味: マルチAZ構成でフェイルオーバーが可能になり、ダウンタイムを短く抑えます。
- Amazon FSx: 99.9%〜99.99%(ファイルシステム種別や構成で変動)
- 意味: 種類によって保証が異なるので選定時に確認します。
- Amazon Neptune: 99.99%(2025年4月から引き上げ)
- 意味: グラフデータベースでも高可用性を目指す設計が推奨されます。
ダウンタイムの目安(30日換算)
- 99.99% → 約4.3分
- 99.95% → 約21.6分
- 99.9% → 約43.2分
これらは月間の最大許容停止時間の目安です。
実務的なポイント
- 重要なサービスはマルチAZや冗長構成を使うと良いです。SLAが高くても設計次第で実際の可用性は変わります。
- S3は冗長設計が前提で利用しやすく、EC2やRDSは構成次第で大きく差が出ます。
- FSxは用途に合った種別と可用性クラスの確認が必要です。
運用ではSLAの数値だけでなく、実際の構成・運用手順を合わせて可用性を評価してください。
稼働率とダウンタイムの関係
稼働率とは
稼働率(可用性)は、サービスが正常に使える時間の割合です。パーセンテージが高いほど障害に許される時間は短くなります。
年間・月間のダウンタイム目安
- 99.9%(3ナイン): 年間 約8時間45分、月間 約43分
- 99.99%(4ナイン): 年間 約52分、月間 約4分
- 99.999%(5ナイン): 年間 約5分、月間 約26秒
- 99.9999%(6ナイン): 年間 約31秒、月間 約2.6秒
桁が1つ上がると何が変わるか
稼働率の桁が一つ上がるごとに許容ダウンタイムは大幅に短くなります。短縮幅は非常に大きく、設計・運用・監視の負担が増えます。加えて、高い可用性を実現するためのコストは指数的に増えます。
設計の考え方(実例で考える)
- 収益に直結するサービス(例: オンライン決済)は、99.99%以上を目指すことが多いです。自動復旧や冗長化、監視の強化が必要です。
- 社内向けツールや開発環境は、99.9%で十分な場合が多く、コストを抑えられます。
運用で抑えるポイント
- 障害時の手順(Runbook)を整備する
- 監視とアラートで早期発見する
- 定期的な障害対応訓練を行う
- バックアップと復旧手順を確認する
ビジネスの需給とコストを見比べて、適切な稼働率目標を設定してください。
現実的な稼働率設計とコスト
概要
稼働率は高ければ安心ですが、急激にコストが上がります。理論上は極めて高い値も可能ですが、実務では99.9%〜99.99%あたりが現実的です。目標はビジネスへの影響と投資額のバランスで決めます。
稼働率ごとの年間ダウンタイム目安
- 99.9%:年間約8.8時間(約8時間と考えて差し支えありません)
- 99.99%:年間約53分
- 99.999%:年間約5.3分
コストと設計のトレードオフ
高い稼働率ほど冗長化や監視、運用工数が増えます。例えば、99.9%構成は多くのケースで大規模構成の約25%のコストで済むことがあります。逆に99.99%やそれ以上を狙うと、マルチリージョンや専用回線、継続的な運用体制が必要になり費用が急増します。
目安と判断方法
- ダウンタイム1時間あたりのビジネス損失を算出します。2. 稼働率を上げた場合の追加コストを見積もり、損失削減効果と比較します。費用対効果が合えば投資します。
実践的アドバイス
- 最低ラインはビジネス影響に合わせて決める。小規模サービスは99.9%で実用的です。
- 重要な機能のみ高可用化を優先する。全体を同じレベルにする必要はありません。
- 監視・自動復旧を整備するとコスト効率が良くなります。
マルチAZ・冗長化設計の重要性
マルチAZとは
マルチAZは、複数の独立したデータセンター(AZ)にシステムを分散して配置する設計です。自然災害や電力障害など、あるAZで障害が起きても他のAZが代替します。
冗長化の基本
冗長化はサーバー、データベース、ストレージなどを重ねて単一障害点を無くすことです。例:Webサーバーを2つのAZに置き、負荷分散で振り分けます。DBはマルチAZ構成で同期レプリケーションを行います。
設計のポイント
- 可用性とコストのバランスを明確にする。複数AZにすると費用は増えます。
- フェイルオーバー時間を確認する。自動で切り替わるか手動かで運用が変わります。
- データ整合性を考える。同期レプリケーションは遅延を招く場合があります。
運用上の注意
定期的にフェイルオーバー訓練を行い、監視とアラートを整備してください。バックアップと復旧手順も必須です。
具体例
- Web層:2つ以上のAZでAuto Scaling+ロードバランサー
- DB層:RDSのマルチAZ(自動フェイルオーバー)
- ストレージ:S3やクロスリージョンレプリケーションで耐久性を高めます
これらを適切に組み合わせることで、AWSの高可用性を実際のサービス稼働に反映できます。
SLAに違反した場合の対応
SLA違反時に受けられるもの
AWSがSLAに記載された稼働率を下回ると、一般に「サービスクレジット(利用料の一部返金)」が提供されます。これは実際の現金ではなく、今後の請求に適用されるクレジットです。例えば、Amazon FSxでは月間稼働率が99.0%以上99.99%未満で10%、95.0%以上99.0%未満で25%、95.0%未満で100%のクレジットが発生します。
クレジット請求の準備と手順
- 発生時刻と影響範囲を特定します。サービス名、リージョン、インスタンスやファイルシステムの識別子、障害が始まった時刻と終了時刻を記録します。
- 証拠を集めます。監視ログ、CloudWatchのメトリクス、アプリ側のエラーログ、ユーザーからの影響報告などを保存します。
- サポートに提出します。AWSサポートセンターでSLAクレームを作成し、必要な証拠と影響の説明を添えます。SLA文書に記載された申請方法を確認してください。
注意点と実務上の考え方
- サービスクレジットは利用料の調整であり、ビジネスで被った損失全額を補償するものではありません。重要な業務損失を補填するには別途保険や契約が必要です。
- クレームには期限が設けられている場合があります。SLAやサポートページで申請期限を確認し、早めに手続きしてください。
- クレジット算出はSLAの定義に従います。稼働率の計算方法や除外項目(メンテナンス、顧客側の設定ミスなど)を事前に把握しておくと対応が早くなります。
再発防止と内部対応
障害時はクレジット請求と並行して、原因分析と対策を進めます。ログ解析で原因を特定し、冗長化や監視の強化、運用手順の見直しを行います。AWSとの技術的なやり取りは記録しておき、今後の契約や設計改善に活かしてください。
以上が、SLA違反時の基本的な対応の流れと注意点です。実際の手続きはサービスごとのSLA文書に従ってください。
AWS稼働率の実績と障害発生時の対応
概要
AWSは高い稼働率に加え、障害時の迅速な復旧と情報公開に力を入れています。監視やアラートの自動化、運用支援ツールの活用が稼働率維持に役立ちます。
障害発生時の基本フロー
- 検知:監視で異常をとらえます。例:レスポンス悪化やエラーレート上昇。
- 切り分け:原因を絞り込みます。ネットワーク、インスタンス、サービス依存の順で確認します。
- 復旧:自動フェイルオーバーやインスタンス再作成を実行します。
- 通知:社内外に状況を共有します。
- 事後対応:原因解析と改善策の実装を行います。
監視とアラート自動化の実例
監視(例:CloudWatch)で閾値を設定し、異常時は自動通知や自動修復(再起動、スケール)を起動します。合成監視でユーザー目線の確認も可能です。
復旧手順と運用ツール
IaCやオートスケーリング、スナップショット/バックアップを用意すると復旧が速くなります。手順書(Runbook)を整備するとオペレーションが安定します。
情報公開とコミュニケーション
障害発生時は状況を短く正確に伝え、定期的に更新します。顧客向けのテンプレートや内部連絡フローを用意すると混乱を防げます。
事後対応と継続的改善
障害後はRCA(原因解析)を行い、再発防止策を実施して検証します。定期的な障害演習で運用力を高めましょう。
まとめ:AWS稼働率とビジネス継続性
AWSの高い稼働率は、サービスの信頼性とビジネス継続性に直結します。重要なポイントを分かりやすく整理します。
- 基本の考え方
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稼働率は可用性の目安です。99.9%と99.99%では許容できる年間ダウンタイムが大きく変わります。
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設計の優先順位
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まず業務要件を明確にし、どこまでのダウンタイムが許容できるか決めます。例えば、ECサイトの決済処理は高可用性を優先し、週次バッチ処理は低コスト重視にできます。
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実装の具体例
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マルチAZでのデータベース冗長化、ロードバランサーでインスタンスを分散、定期バックアップと復旧手順の検証を組み合わせます。
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コストとリスクのバランス
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可用性を上げるほどコストは増えます。小さなサービスはシンプルな冗長化で十分な場合があります。
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運用で重要なこと
- 定期的な障害訓練、監視の整備、SLAの理解と支払補償の確認を行ってください。
結論として、技術的な対策とビジネス要件を両立させる設計が大切です。要件を明確にし、段階的に対策を導入していくことをおすすめします。












