はじめに
本ドキュメントの目的
本書は、Amazon S3 Glacier(以下Glacier)に関する調査結果を分かりやすくまとめた資料です。Glacierの特徴、利用するメリット、料金の比較、S3との違い、データ移行や復旧の方法まで順を追って解説します。実務での導入判断や運用設計に役立つことを目指しています。
対象読者
クラウドでの長期保存を検討している方、既にS3を利用しているがアーカイブ運用を始めたい方、コスト最適化を考える運用担当者や技術者を主な対象にしています。専門用語はできるだけ丁寧に説明します。
本書の構成と使い方
全9章で構成し、基礎から実務的な手順まで扱います。まず概要とメリットを理解し、その後に料金比較や移行手順、ライフサイクルによる自動化、Deep Archiveからの復旧方法へと進みます。具体的な操作手順は第7〜9章にまとまっています。
読むうえでの注意
実際の料金や画面表示はAWSの更新で変わる場合があります。ここでは一般的な考え方と代表的な手順を示しますので、導入時は最新の公式情報と合わせてご確認ください。
Amazon S3 Glacierの概要とメリット
概要
Amazon S3 Glacierは、長期間のデータ保存に特化したAWSのクラウドストレージクラスです。データは高い耐久性(99.999999999%)で保持され、世界24ヶ所のデータセンターに自動的に複製されます。容量は事実上無制限で、増減するデータ量にも柔軟に対応します。
主なメリット
- 低コスト:保存料金が安く、長期保存のコストを大きく抑えられます。頻繁にアクセスしないデータに向いています。
- 高い耐久性と可用性:複数拠点への自動複製で災害や障害のリスクを低減します。
- 柔軟な保存期間:数年単位のアーカイブ保存から法令で定められた長期保管まで対応できます。
- セキュリティと管理:保存データの暗号化やアクセス制御が利用でき、監査やコンプライアンス要件に対応します。
利用時の注意点
Glacierはアーカイブ用途に最適化しているため、取り出しに時間がかかる場合があります。用途に応じて取り出し速度(例:数分〜数時間)やコストを確認してください。また、頻繁に読み書きするデータは標準のS3クラスを検討すると良いです。
主な利用シーン
- 法令や規則に基づく長期保存
- バックアップや災害対策のアーカイブ
- メディアや研究データの大量アーカイブ
これらを踏まえ、Glacierはコストと耐久性を重視する長期保存に最適な選択肢です。
低コストでの利用が可能
概要
Amazon Glacierは長期保存向けに設計された低価格のストレージです。目安としてAmazon S3が約0.025 USD/GBに対し、Glacierは約0.005 USD/GBで、S3の約1/5のコストで利用できます。たとえば1000GB(1TB)を1か月保存すると、S3で約25USD、Glacierで約5USDとなり節約効果が分かりやすいです。
トレードオフ
費用を抑えられる一方、データ取得には時間がかかります。即時アクセスが必要なデータには向きません。データの取り出しにはAPIや管理ツールが必要で、操作に慣れが要ります。しかし、アクセス頻度が低いデータを計画的に保存する場合は大きなコストメリットがあります。
いつ使うべきか
・法規制で長期保管が必要な記録
・バックアップの世代保存
・アクセス頻度が年に数回以下のアーカイブ
これらの用途なら低コストの恩恵を最大限に受けられます。
コストを抑える工夫
・不要ファイルを削除して保存容量を減らす
・圧縮や重複排除でサイズを小さくする
・ライフサイクルルールで自動移行する
・復旧頻度に応じて取り出し方法(例:大量取得や迅速取得)を選ぶ
注意点
取り出し時の料金や待ち時間が別途発生します。運用設計で取り出し頻度と復旧時間を明確にし、コスト試算を行ってください。
多くのパートナーサービスに対応
対応範囲
Amazon S3 Glacierはバックアップ、災害対策(DR)、長期アーカイブ、ログ保存など幅広い用途で多くのパートナー製品と連携します。企業の既存ツールはS3互換のAPIやAWS統合機能を使い、Glacierへ直接または仲介サービス経由でデータを送れます。
代表的なパートナー例と役割
- バックアップソフト(例:Veeam、Commvault、Veritas): 定期バックアップをGlacierへ保管します。運用画面から保存先を指定できます。
- 管理型バックアップ(例:Druva、Rubrik、Cohesity): クラウド側でバックアップ管理や重複排除を行い、効率的にアーカイブします。
- AWS側の連携(Storage Gateway、AWS Backup): オンプレの仮想テープやポリシーでGlacierへ移行できます。これにより既存の手順を大きく変えず導入できます。
連携することの利点
パートナー製品と組み合わせると、設定や運用を簡素化できます。例えば、ライフサイクルポリシーを一度設定すると、パートナー製品が自動で古いデータをGlacierへ移行します。暗号化やアクセス制御も統合され、コンプライアンス対応がしやすくなります。
導入時のポイント
連携は容易ですが、復旧時間と取り出しコストを必ず確認してください。定期的にリストアテストを行い、実際の復旧手順と時間を検証します。また、保存ルールや保持期間を明確に決めると管理が楽になります。
Amazon S3とGlacierの3つの主要な違い
違い1:データの取得速度
S3は即時アクセスを前提に設計されています。たとえば写真や頻繁に参照するログは、ブラウザやアプリからすぐに取り出せます。一方、Glacierは長期保存向けで、取り出しに時間がかかります。復元には数分〜数時間、場合によってはもっとかかるため、すぐに使いたいデータには向きません。
違い2:操作方法
S3はAWSのコンソールや一般的なツールで直感的に操作できます。ファイルのアップロードやダウンロードを画面上で簡単に行えます。Glacierは従来、APIやCLI、専用ツールでの操作が中心でした。管理の自動化や大量データの復元にはコマンドやスクリプトが必要になることが多いです。
違い3:構成要素と操作
S3は「バケット」と「オブジェクト」で管理し、GETやPUTなどの操作でファイルを扱います。ファイル単位で権限やライフサイクル設定を付けられます。Glacierはアーカイブを「ボールト(Vault)」単位で保管し、アーカイブの登録や復元ジョブという仕組みで扱います。管理の考え方が少し異なるため、用途に合わせて使い分けると便利です。
料金比較の詳細
料金の基本比較
Amazon S3は1GBあたり約0.025USD、Glacierは約0.005USDと、単純な保存料金ではGlacierが約5倍安くなります。容量が大きく、長期間保管するほど合計コストの差が目立ちます。具体的な金額は以下の計算例をご覧ください。
計算例(分かりやすく1TB=1000GBで計算)
- S3: 0.025USD/GB × 1000GB = 25USD/月 → 年間300USD
- Glacier: 0.005USD/GB × 1000GB = 5USD/月 → 年間60USD
1年で240USD、5年では1200USDの差が出ます。容量がさらに大きければ、差額も大きくなります。
注意すべき追加費用
保存料金以外に以下の点を確認してください。
– データ取り出し(取り出し回数や転送量)に料金がかかる場合があります。頻繁にアクセスするデータでは逆に割高になることがあります。
– 取り出し時間の違いにより、即時アクセスが必要な運用ではS3が適しています。
– APIリクエストや管理操作の費用も発生することがあります。
選び方の目安
- 長期間・ほとんどアクセスしないアーカイブならGlacierが経済的です。
- 定期的に参照するデータや即時復旧が必要なデータはS3を選んでください。
- コスト削減を目的にする場合、まずアクセス頻度と復旧要件を洗い出し、総合的に試算してください。
次章では、S3からGlacierへ実際にデータを移行する方法を丁寧に説明します。
Amazon S3からGlacierへのデータ移行方法
前提条件
- AWSアカウントとS3へのアクセス権(BucketのPut/Get、Lifecycle設定など)
- 必要があれば暗号化やバージョニングの確認
ステップ1:S3コンソールでバケットを選択
- AWS管理コンソールにログインしてS3を開きます。
- 対象のバケット名をクリックしてバケットの詳細画面へ移動します。
ステップ2:新しいバケットを作る場合
- 「バケットを作成」ボタンでリージョンや暗号化を設定します。
- 冷所用のデータ専用に分けると管理が楽になります。
ステップ3:ファイルをアップロードする
- コンソールの「アップロード」からファイルを選びます。
- アップロード画面で「ストレージクラス」を選択し、Glacier系(例:Glacier Flexible Retrieval)を指定します。
- CLI例:
aws s3 cp ./localfile s3://your-bucket/path/ –storage-class GLACIER
ステップ4:既存オブジェクトをGlacierに移行する
- コンソールでオブジェクトを選び「アクション」→「ストレージクラスの変更」を使うと簡単です。
- CLI/APIで行う場合はコピーしてストレージクラスを上書きします(aws s3api copy-objectでStorageClassを指定)。
確認と注意点
- 移行後のデータ取り出しは復旧時間と料金が発生します。
- 小さなファイルを大量に移すと費用が増える場合があります。
- 自動化する場合はライフサイクルルールが便利です(第8章参照)。
ライフサイクルルールを使用した自動移行
概要
ライフサイクルルールは、S3内のオブジェクトを自動で別のストレージクラスに移動したり、一定期間後に削除したりする仕組みです。日数や接頭辞(フォルダ)、タグ、バージョンなどで対象を絞れます。手作業を減らしコスト管理を簡単にします。
設定の基本手順
- バケットのライフサイクル設定を開く
- 対象のプレフィックスやタグを指定
- 移行先(Glacier/Deep Archiveなど)と移行する日数を指定
- 削除(Expire)までの日数やバージョン管理ルールを設定
- ルールを有効化して動作を確認
具体例
- アプリのログ:作成後30日でGlacierへ、365日で削除
- 定期バックアップ:90日でDeep Archiveへ、保持期間を3年に設定
注意点
- アーカイブから取り出す際に時間と料金が発生します。短期で取り出す可能性があるデータは移行を慎重に検討してください。
- バージョニングを使うと古い版ごとのルール設定が必要です。
- ルールはすぐ反映されないことがあります。テスト用オブジェクトで動作確認を行ってください。
運用のコツ
- データのアクセス頻度と復元の緊急度で日数を決める
- プレフィックスとタグを組み合わせ、影響範囲を限定する
- 定期的にルールと請求を見直し、最適化してください。
Glacier Deep Archiveからのデータ復旧
復旧の流れ
Glacier Deep Archiveにあるオブジェクトは、元のデータをそのまま書き戻すのではなく、一時的にアクセス可能なコピーを作成して復旧します。復旧リクエストを出すと、選んだ速度でデータを復元し、指定した日数だけアクセスできるようになります。
コンソールでの操作手順
- AWSコンソールのS3ページを開き、対象のバケットを選択します。
- 対象オブジェクトを探してチェックを入れます。
- 「アクション」→「復旧」を選びます。
- 復旧期間(日数)を指定し、復旧オプション(例:Standard(約12時間)またはBulk(数十時間))を選択します。
- 確認して実行すると復旧処理が開始します。復旧が完了するとオブジェクトに一時的なアクセスが可能になります。
CLIでの簡単な例
以下は復旧リクエストの例です(aws CLIを使用)。
aws s3api restore-object –bucket バケット名 –key オブジェクトキー –restore-request Days=7,GlacierJobParameters={Tier=Standard}
注意点
- 復旧は時間と料金がかかります。短期間だけアクセスする用途に向きます。
- 復旧後は指定した日数が過ぎると再びアクセスできなくなります。必要なら再度復旧してください。
- 大量のオブジェクトを復旧する場合は、バッチ処理やジョブを検討してください。
これらの手順に従えば、Glacier Deep Archiveから必要なデータを安全に取り出せます。












