はじめに
本書の目的
本書は、AWS上でゲームサーバーを構築する際の道しるべです。各サービスの特徴や費用・運用面の違いを分かりやすく示し、実際の構築手順や設計のポイント、運用のコツまで体系的に解説します。
対象読者
- ゲーム開発者やサーバー担当者
- 小規模から中規模の運用を検討する技術者
- AWSでの設計・運用を学びたい方
基本的なネットワークやサーバーの知識があると理解が早まりますが、初学者にも配慮して説明します。
取り扱う範囲
主にEC2とAmazon GameLiftを中心に比較します。スケーラビリティ、セキュリティ、コスト、運用性といった観点でのベストプラクティスを紹介します。具体的な手順や設定例、実際の事例も掲載します。
読み方のヒント
章を順に読むことで全体像がつかめます。まず第2章でサービス比較を確認し、目的に応じて第3章(EC2)か第4章(GameLift)に進んでください。設計や運用の注意点は第5章、事例は第6章にあります。
AWSでゲームサーバーを構築する方法とサービス比較
概要
AWSでは主に「EC2による仮想マシン型」と「Amazon GameLiftによるマネージド型」の2つが代表的です。どちらもスケールや高可用性を実現できますが、重視する点で向き不向きがあります。
EC2(自由度重視)
- 特徴: 仮想マシンを自由に設定してゲームサーバーを稼働します。OSやミドルウェア、ネットワーク設定まで細かく制御できます。
- 長所: カスタマイズ性が高く、既存のサーバー構成をそのまま再現できます。特殊なゲームロジックや独自ミドルウェアに向きます。
- 懸念点: サーバー管理・スケール・パッチ適用・監視など運用負荷が大きくなります。
Amazon GameLift(運用簡潔)
- 特徴: ゲーム向けに最適化されたマネージドサービスで、マッチメイキングや自動スケーリング、DDoS保護が組み込まれます。
- 長所: 運用作業を大幅に減らせます。プレイヤー数の変動に自動対応しやすいです。
- 懸念点: サービスの枠組みに合わせた設計が必要で、極端に特殊な構成には向かない場合があります。
比較のポイント
- 初期開発の自由度: EC2 > GameLift
- 運用負荷: GameLift > EC2
- コスト管理: 想定負荷次第で変動(小規模はGameLiftが安くなる場合あり)
- セキュリティ/ネットワーク: 両方で細かく設定可能ですが、GameLiftはゲーム向け機能が充実しています。
選び方の目安
- カスタム構成や既存資産を活かしたい: EC2
- 運用を簡素化し、プレイヤー数の変動に強くしたい: GameLift
補足として、ECS/EKSなどコンテナ基盤も選択肢になります。用途と運用体制を踏まえ、まずは小さな構成で検証することをおすすめします。
EC2を使ったゲームサーバー構築手順
概要
EC2でゲームサーバーを作る基本手順を分かりやすく説明します。流れは「準備→ネットワーク設定→インスタンス起動→ソフト導入→公開」です。初心者向けに具体例(Minecraft)も示します。
1. 準備
- AMI選び:公式のAmazon LinuxやUbuntuを選ぶと扱いやすいです。
- インスタンスタイプ:同時接続数に応じてCPU・メモリを決めます。小規模ならt3.small程度から始めます。
- キーペア:SSH接続用にキーペアを作成します。
2. ネットワーク設定
- VPC/サブネット:基本的にはデフォルトで問題ありません。
- セキュリティグループ:ゲームの受信ポート(例:Minecraftは25565)とSSH(22)を許可します。IP制限で安全性を高めます。
- Elastic IP:サーバーの固定IPが必要なら割り当てます。DNSでホスト名を当てると便利です。
3. 起動と接続
- コンソールでインスタンスを起動し、キーペアでSSH接続します。初回はOSの更新を行います(例:sudo apt update && sudo apt upgrade)。
4. サーバーソフト導入(例:Minecraft)
- Javaをインストール(openjdk)。
- サーバーjarをダウンロードし、適切なディレクトリに置く。
- screenやsystemdで常駐起動を設定し、サーバーを起動します。
5. 運用のポイント
- ログとメトリクスをCloudWatchに送ると監視が楽になります。
- 定期的にスナップショットを取り、データをバックアップしてください。
- 負荷が増えたらインスタンスタイプの変更やオートスケールを検討します。
Minecraft簡易手順(要点)
- Javaインストール(openjdk-17)
- wgetでserver.jar取得
- java -Xmx2G -Xms1G -jar server.jar noguiで起動(最初にeula.txtを編集)
- セキュリティグループで25565を開ける
- screenやsystemdで常駐化
以上がEC2での基本手順です。必要ならコマンド例やsystemd設定ファイルのサンプルもご用意します。
Amazon GameLiftによる専用ゲームサーバー構築
概要
Amazon GameLiftはマルチプレイヤー向けに設計されたマネージドサービスです。自動スケーリング、DDoS対策、複数リージョン対応を標準で備え、サーバーの起動や負荷分散を自動化できます。専用サーバーが必要な対戦ゲームやリアルタイム同期型ゲームに向いています。
導入の流れ(簡潔)
- IAMでGameLift用の権限を用意します(プレイバック用のロールやポリシー)。
- 開発環境でゲームサーバーをビルドし、実行可能ファイルやDockerイメージを用意します。
- AWS CLIまたはコンソールでGameLiftにビルドをアップロードし、フリート(サーバー群)を作成します。
- エイリアスやルーティングを設定し、ゲームセッションを開始します。SDKでセッション作成やプレイヤー割当を行います。
開発とデプロイのポイント
- ローカルでのテスト: 小さな実行環境を用意して接続ロジックを先に検証します。
- 健全性チェック: ヘルスチェックやログ出力を組み込み、GameLiftが異常を検出できるようにします。
- 継続的デプロイ: 新しいビルドを段階的に配信し、プレイヤーへの影響を最小化します。ブルー/グリーン展開が有効です。
運用・監視
- 自動スケーリングポリシーを設定し、同時接続数に応じてインスタンスを増減します。
- CloudWatchでメトリクスやログを収集し、異常時にアラートを飛ばします。
- コスト管理: スポットインスタンスやプロビジョニングの組合せで運用コストを抑えます。
OSS連携例
- MagicOnion(C#)やAgones(Kubernetes向け)はGameLiftと組み合わせて柔軟性を高められます。たとえば、Agonesでローカル開発とK8s運用を行い、本番はGameLiftに切り替える運用が可能です。
注意点
- ネットワーク設定(ポート、セキュリティグループ)を正しく開けること。
- リージョン選定はレイテンシとプレイヤー分布に基づいて行ってください。
- 初期設定やテストに時間を確保して、想定外の停止に備えます。
第5章: AWSでゲームサーバー構築時の設計・運用ポイント
設計での方式選択
どの方式を選ぶかで運用負担と柔軟性が変わります。EC2は自由度が高く、独自のゲームロジックや特殊なネットワーク構成に向きます。一方、GameLiftはセッション管理や自動スケーリングをAWSが代行するため、運用を軽くしたい場合に適します。例:マッチメイク周りを簡単にしたければGameLift、細かいチューニングを重視するならEC2を検討します。
ネットワークとセキュリティ設計
VPCを役割ごとに分割します。例:パブリックサブネットにロードバランサ、プライベートにゲームサーバーとデータベースを配置します。アクセスはセキュリティグループとネットワークACLで絞り、IAMロールでサービス権限を最小化します。DDoS対策にはAWS ShieldやWAFを使い、異常トラフィックは自動検知で遮断する仕組みを導入します。
コスト最適化と運用自動化
利用状況に応じてインスタンスを自動起動・停止します。例えばプレイ時間に合わせてスケジュールで起動し、閑散時間は縮小します。Spotインスタンスを一部に混ぜるとコストが下がりますが、再起動対策を設けます。サーバーレス(LambdaやFargate)をAPIやマッチメイキングに使うと運用が楽になります。
運用でのベストプラクティス
監視はCloudWatchでメトリクスとログを集め、アラートと自動復旧を設定します。定期バックアップ、AMIでのローリングアップデート、脆弱性パッチ適用の仕組みを整えます。CI/CDやインフラ構成管理(Terraformなど)で再現性を持たせ、運用手順はRunbookとしてドキュメント化します。これらで負担を減らし、安定したサービス運用を目指します。
AWSでゲームサーバーを構築した事例
はじめに
実際の事例をもとに、ネットワーク設計やインスタンス選択のポイントを分かりやすく解説します。
事例1: EC2でのMinecraftサーバー
構成例: t3.large(2vCPU, 8GB)+ gp3ボリューム。ポートはTCP/25565を開放し、Elastic IPで固定化します。ポイント: mod導入やプレイヤー数増加でメモリ負荷が上がるため、スナップショットで定期バックアップを取り、必要時にインスタンスタイプをm5へスケールアップします。
事例2: PalworldやSatisfactory向け専用サーバー
構成例: ゲーム処理はc5.xlarge(高速CPU)、セッション管理やログはt3.medium、共有データはEFS。UDPポート帯を開放し、ENI(拡張ネットワーク)を有効にして低遅延を確保します。ポイント: プレイヤー数に応じてオートスケールを導入し、スポットでコストを抑えつつオンデマンドで冗長性を確保します。
事例3: マルチプレイ勉強会でのホスティング
構成例: t3.smallで複数台作成し、事前にAMIとデプロイ用スクリプトを用意します。ネットワークは限定公開(参加者のみアクセス)にしてセキュリティグループで管理。ポイント: 起動自動化により短時間で環境を再現でき、費用も最小化できます。
各事例ともにCloudWatchで監視し、ログとメトリクスを基にインスタンス種別やネットワーク設定を微調整すると安定運用につながります。
まとめ:AWSゲームサーバー構築の選択肢と今後
選択肢の整理
AWSでは主に3つの選択肢があります。EC2は自由度が高く、独自の環境やミドルウェアを使いたい開発に向きます。GameLiftはマッチングやスケール管理を簡単にする専用サービスで、運用負担を減らせます。EKS+Agonesはコンテナ基盤での自動スケーリングと移植性を重視する場合に適します。
用途別の目安
・小規模で低コスト重視:EC2のオンデマンドやスポットを組み合わせる。具体例—少人数のテストサーバー。
・大量接続で自動スケール重視:GameLiftやサーバーレス設計。具体例—同時接続が波打つオンライン対戦。
・マルチサービスでコンテナ運用:EKS+Agones。具体例—ゲームロジックと周辺サービスを分離したい場合。
運用面で優先すること
スケーラビリティ、セキュリティ、コスト管理を最初に設計します。監視やログ収集を導入し、障害時の自動復旧を準備してください。運用の負担を減らしたければGameLiftやマネージドサービスを検討します。
今後の見通し
要件に応じて選択肢を組み合わせるのが実用的です。まず小さく始めて、実運用のデータを基に拡張することをおすすめします。公式ドキュメントや技術記事を参考に、運用しながら最適化してください。












