はじめに
概要
本記事は、AWS環境で利用できるバックアップサービス「AWS Backup」をわかりやすく解説する連載の最初の章です。基本的な考え方や目的、記事全体の流れを整理します。初心者の方でも読み進めやすいように、具体例を交えて説明します。
この記事の目的
AWS Backupの概念をつかみ、どのような場面で役立つかを理解していただくことが目的です。単に機能を羅列するのではなく、日常の運用や障害時の対応でどう活かせるかに重点を置きます。
想定する読者
・クラウドでシステムを運用している方
・これからAWSでバックアップ設計を学ぶ方
・運用者や担当者で基本的な用語や流れを知りたい方
本記事で学べること
・AWS Backupの役割とメリットの概要
・どのようなリソースで使えるか(概念レベル)
・記事の後半で扱う設定手順や運用、災害対策(DR)への活用イメージ
読み進め方の提案
まず本章で全体像をつかんでください。次に、特徴や増分バックアップなどの技術的な章を順に読むと理解が深まります。実際に設定する場合は、手順の章を参照しながら進めると実務に役立ちます。
本連載を通じて、AWS Backupを日常運用や障害対策に落とし込める知識を提供します。ご不明点があれば、次章以降で具体例を交えて補足します。
AWS Backupとは?
概要
AWS Backupは、Amazon Web Servicesが提供するフルマネージドのバックアップサービスです。複数のAWSサービス(例:EC2/EBS、RDS、DynamoDB、Auroraなど)のバックアップを一か所で管理し、自動化できます。操作はコンソールやAPIから行えます。初心者でも使いやすい設計です。
主な機能(かんたん説明)
- スケジュール設定:定期的に自動でバックアップを取得します。例として毎日深夜にEBSのスナップショットを作成します。
- 保持ポリシー:古いバックアップを自動で削除し、保存期間を決められます。法規や運用ルールに合わせやすいです。
- 復元テスト:実際に復元できるかを試すことができます。問題を早期に見つけられます。
利用シーンの例
- 障害時にインスタンスやデータベースを速やかに戻したい
- コンプライアンスで一定期間の保管が必要
- 定期的に復元手順を確認したい
メリットと注意点
メリットは運用の一元化で手間が減る点と、ポリシーで一貫した管理ができる点です。注意点は利用状況に応じたコストの把握と、対応リソースを事前に確認することです。復元テストを定期的に行い、実運用で問題が起きないようにしてください。
AWS Backupの主な特徴
一元管理
複数のAWSサービス(たとえばEC2のボリュームやRDSのデータベース、EFSなど)のバックアップを1つの画面でまとめて管理できます。運用担当者は個別サービスごとの操作を減らせるため、作業ミスや見落としが減ります。
ポイントインタイムリストア
特定の時点のデータに戻せます。たとえば誤って数時間前の状態に戻したい場合、指定した時刻まで巻き戻して復元できます。RDSやAuroraではデータベース全体を特定の時点へ戻すことも可能です。
データの暗号化
バックアップデータは保存中(at-rest)と転送中(in-transit)の両方で暗号化できます。鍵管理を使えば、組織のセキュリティ要件に合わせた運用が可能です。
復元テスト
バックアップから定期的に復元テストを行えます。テスト環境で実際に復元して動作を確認することで、いざというときの信頼性を高められます。
タグ付けによる柔軟な管理
リソースにタグを付けて、バックアップ対象を絞り込めます。たとえばEnvironment=prodのものだけバックアップ対象にする、といった運用が可能です。
柔軟な保持ポリシー
保持期間を細かく設定できます。RDSの自動バックアップが最大35日なのに対し、AWS Backupでは最大で100年間の保持が設定できます。長期保存が求められる法令対応やアーカイブ用途に役立ちます。
増分バックアップ方式
概要
AWS Backupは最初にデータの完全バックアップ(フルバックアップ)を取得し、その後は変更された部分だけを保存する「増分バックアップ方式」を採用します。これにより、毎回全データをコピーする必要がなくなり、時間と保存容量を節約できます。
仕組みと具体例
初回で100GBを保存したとします。翌日の変更が5GBだけなら、次回はその5GBだけをバックアップします。スナップショットも同様で、初回以降は差分のみを格納します。AWS側で差分を管理するため、利用者は差分の結合や管理を意識せず復元できます。
利点
- バックアップ時間が短くなります。短時間で処理が終わるため運用負荷が下がります。
- ストレージ使用量を大幅に削減できます。コスト面で有利です。
注意点
- 復元時は初回のフルとその後の差分を組み合わせて復元する仕組みのため、AWSが内部で依存関係を管理します。ユーザー側は通常、個別の差分を気にする必要はありません。
- 一部のサービスや設定によっては、差分の粒度や保存方法が異なる場合があります。運用前に対象リソースの仕様を確認してください。
対応するリソースとストレージ
概要
AWS Backupは多様なAWSリソースとオンプレミス環境のバックアップを一元管理します。ここでは主な対応リソースと、バックアップの保存先や運用で押さえる点を分かりやすく説明します。
対応する主なリソース
- Amazon S3:オブジェクト単位ではなくバケットの保護やライフサイクル管理と連携してバックアップします。具体例として、重要なデータを定期的に保護できます。
- Amazon EBS/ファイルシステム(EFS、FSx):ボリュームやファイルシステムのスナップショットを取得します。システム全体や特定のボリュームを復元できます。
- Amazon RDS/Aurora/DocumentDB:データベースのスナップショットやポイントインタイム復旧に対応します。業務データの整合性を保ちながら復元できます。
- DynamoDB:テーブルのバックアップを取得し、復元できます。特に短時間でのリストアが必要な場合に有効です。
- 特殊なリソース(VMware、SAP HANA、Storage Gateway、VMware Cloud on AWS):オンプレミスの仮想マシンや専門的なデータベースもサポートします。Backup Gatewayを使えばオンプレミスとクラウド間でシームレスにバックアップを行えます。
ストレージと保管方法
- バックアップボールト(Vault):AWS Backupはバックアップをバックアップボールトに格納します。暗号化やアクセス制御を設定できます。
- クロスリージョン/クロスアカウントコピー:災害対策のために別リージョンや別アカウントへコピーできます。
- アーカイブとライフサイクル:一定期間後に低コストのアーカイブへ移行するルールを設定し、保管コストを抑えられます。
運用上のポイント
- データ整合性:データベースやファイルの整合性確保には、アプリケーションの一時停止や一貫性のあるスナップショット設定が重要です。
- コスト管理:保管期間やアーカイブルールでコストを最適化します。
- 定期テスト:定期的に復元テストを行い、実際にデータが使えるか確認してください。
AWS Backupの設定手順
以下は実際にAWS Backupを設定する際の手順です。順を追ってわかりやすく説明します。
1. バックアップボールトの作成
AWSコンソールのBackupから「ボールトを作成」を選びます。保存先となるボールト名を設定し、暗号化にはAWS KMSキーを指定します。例:カスタマー管理キー(CMK)を使えばアクセス制御がしやすくなります。
2. バックアッププランの作成
スケジュール(毎日/毎週など)と保持期間を決めます。ライフサイクル設定で短期→長期の移行を設定できます。スナップショット頻度やウィンドウもここで指定します。
3. リソースの割り当て
バックアップ対象はリソースIDで指定するか、タグでまとめて割り当てます(例:Environment=prod)。EC2、RDS、EFSなどを選べます。
4. IAMロールの設定
AWS Backupが操作するための権限を与えるロールを用意します。既定のAWSBackupDefaultServiceRoleを使うか、最小権限でカスタムポリシーを作成します。ロールにKMSのDecrypt/Encrypt権限が必要です。
5. 復旧ポイントの確認とテスト
バックアップ実行後、復旧ポイントが作成されるかコンソールで確認します。EC2ではAMIやEBSスナップショットが自動で作られ、復元時に利用できます。実際にテスト復元を行い、期待通りに起動・接続できるか確認してください。
運用のコツ:タグ運用を徹底し、保持期間と暗号化のポリシーを事前に決めると管理が楽になります。テスト復元は定期的に実施しましょう。
AWS Backupと他のバックアップ手法の違い
概要
AWSにはいくつかのバックアップ手法があり、用途や運用規模で向き不向きが分かれます。ここではEBSスナップショット、手動でのAMI作成、Amazon Data Lifecycle Manager(DLM)とAWS Backupの違いを分かりやすく説明します。
EBSスナップショット
- 特徴:ボリュームの状態をS3相当の領域に保存します。増分方式で効率的です。
- 利点:個別ボリュームのバックアップが素早く行えます。コストも比較的抑えられます。
- 注意点:スナップショットはサービスごとに管理が必要で、複数サービスをまたぐポリシー設定は手作業になりがちです。
手動AMI作成
- 特徴:EC2インスタンスを丸ごとイメージ化して保存します。復旧するときにそのまま起動できます。
- 利点:簡単で確実にインスタンスを復元できます。
- 注意点:手動作成だと自動化や一元管理が難しく、頻繁な作成は運用負荷が高まります。
Amazon DLM
- 特徴:EBSスナップショットやAMIのライフサイクル(作成・削除)を自動化します。
- 利点:自動保存と古い世代の削除が容易になり、運用負荷を減らせます。
- 注意点:対応範囲はEC2関連に限られ、RDSやDynamoDBなど他サービスは対象外です。
AWS Backupの位置づけ
- 特徴:RDS、EFS、DynamoDB、FSx、Storage Gateway、EBSなど複数サービスを一元管理できるバックアップサービスです。ポリシーやライフサイクル、クロスリージョン/クロスアカウントコピーを統合して設定できます。
- 利点:組織全体で統一したバックアップポリシーを適用でき、コンプライアンス対応や監査に役立ちます。
- 注意点:多機能な分、最初の設定や権限設計が必要になり、単純な個人利用ではオーバースペックになる場合があります。
選び方の目安
- 単一ボリュームを手早く保存したいとき:EBSスナップショット。
- インスタンス丸ごとを簡単に保存したいとき:手動AMI(自動化するならDLM)。
- 組織全体で複数サービスのバックアップを統合したいとき:AWS Backupを検討してください。
運用効率とガバナンス
概要
AWS Backupは日常のバックアップ作業を自動化して、運用負担を大きく減らします。ルールを決めておけば、手動での作業やミスを減らせます。
自動化による効率化
バックアッププランでスケジュールや保持期間を一度設定すると、その後は自動で実行されます。たとえば「毎日深夜に差分バックアップ、90日で削除」のように設定すれば、手作業が不要になります。ライフサイクル機能で古い世代を自動でアーカイブや削除できます。
ガバナンスとアクセス管理
アクセスはIAMポリシーで限定して、誰がバックアップを作成・復元・削除できるかを明確にします。Vault Lockを使うと、設定した保持ルールを管理者でも変更できないように固定できます。これで改ざん防止や法令対応にも備えられます。
地域コピーとコンプライアンス対応
リージョン間コピーを組み合わせれば、データを別の地域に保管できます。規制でデータ保持が求められる場合は、保持ポリシーとコピー設定を組み合わせて対応します。
運用例と注意点
運用チームは自動化ルールを定期的にレビューし、ログや監査情報(例: CloudTrail)で実行状況を確認します。また、保存期間やコピー先を安易に増やすとコストが増えるため、必要最小限のポリシーを設計してください。
第9章: DR(ディザスタリカバリ)戦略への活用
概要
AWS Backupは災害時の復旧(DR)にも使えます。バックアップから復旧ポイントを選び、復元先のVPCやインスタンスタイプなどを指定して、安全にリソースを復元できます。既存リソースを上書きせず新規作成するため、影響を抑えられます。
基本フロー(例)
- 復旧したい時点のバックアップを選択
- 復元先の設定(VPC、サブネット、インスタンスタイプ)を指定
- 復元を実行し、ネットワークや設定を確認
実務上の注意点
- ネットワーク設定:復元先VPCに必要なサブネットやルートがあるか確認してください。例:プライベートサブネットで復元する場合、管理用のアクセス経路を用意します。
- アクセス権限:復元には適切なIAM権限が必要です。ロールやポリシーを事前に整備してください。
- 依存関係:DNS、ロードバランサー、外部接続など関連リソースの復旧手順を明確にします。
運用のコツ
- 定期的にリストアテストを行い、復旧時間と手順を検証します。
- 復旧用のテンプレート(復元先の設定を含む)を用意し、自動化を進めると作業が早くなります。
- コストとRTO(復旧目標時間)をバランスさせ、必要な保持期間や冗長性を決めてください。
まとめ
AWS Backupは、AWS環境のバックアップを一元管理し、自動化できる便利なサービスです。多様なリソースに対応し、増分バックアップや暗号化、柔軟な保持ポリシー、復元テストなどの機能で運用を簡素化します。以下に要点と実践のポイントをまとめます。
- 主なポイント
- 一元管理と自動化:バックアップ作成から保持までを集中管理できます。運用負荷を減らせます。
- 増分バックアップ:差分だけを保存するため、ストレージと時間を節約できます。コスト面で有利です。
- セキュリティとコンプライアンス:暗号化や保持ルールでデータ保護や監査要件に対応できます。
-
DRや復元テスト:定期的な復元テストで実際の復旧手順を確認できます。
-
実践のポイント
- バックアップポリシーを明確にする(保持期間、頻度、対象リソース)。
- 定期的に復元テストを行い、手順と時間を検証する。
-
コストとライフサイクルを監視し、不要な世代は削除する。
-
導入時の注意点
- 対応リソースやリージョンを確認してください。サービスによって挙動が異なります。
- 適切なアクセス権限を設定し、誤操作を防ぎます。
まとめとして、AWS Backupを使うとバックアップ運用の効率化と信頼性向上が期待できます。まずは小さなリソースで試験運用し、徐々に適用範囲を広げることをおすすめします。












