はじめに
本記事の目的
本記事はAWS PrivateLinkの基本から運用・料金・導入時の注意点まで、技術者や運用担当者が実務で使える形で分かりやすく解説することを目的とします。専門用語は最小限にし、具体例を交えて説明します。
想定する読者
- AWSを利用している技術者・ネットワーク担当
- セキュアなサービス接続を検討する運用担当
- 導入可否を判断するための基礎知識が必要な意思決定者
本記事で扱う内容(全章の概要)
- PrivateLinkの概要と仕組み
- 特徴と導入で得られる利点
- 他のAWSネットワークサービスとの違い
- 代表的なユースケースと具体例
- 導入手順の概略と設定のポイント
- 料金体系の見方とコスト最適化の考え方
- 導入時の注意点と運用上の留意点
読み方のアドバイス
各章は独立して読めますが、先に概要と特徴を押さえると導入や料金の章が理解しやすくなります。手を動かす前にユースケースと注意点を確認してください。
AWS PrivateLinkとは
概要
AWS PrivateLinkは、インターネットを経由せずにAWSのサービスや他のVPC(仮想ネットワーク)内のリソースへ直接接続するための仕組みです。通信はAWSのネットワーク内に留まるため、外部からの攻撃や情報漏えいリスクを下げられます。
仕組みの簡単な説明
提供側は「エンドポイントサービス」を公開し、利用側は「インターフェイスエンドポイント」を作ります。エンドポイント同士がプライベートに接続され、トラフィックはVPCの内部やAWSバックボーンで完結します。
具体例でイメージ
社内アプリ(VPC)からS3や外部のSaaSサービスへアクセスする際、PrivateLinkを使うと通信がインターネットへ出ません。結果として通信の安全性と制御が高まります。
用語の補足(短く)
- エンドポイントサービス:サービス提供者が公開する接続先
- インターフェイスエンドポイント:サービスを利用するために作るVPC内の接続点
次章では、PrivateLinkの特徴とメリットを分かりやすく説明します。
AWS PrivateLinkの特徴とメリット
概要
AWS PrivateLinkは、サービスをVPC内のプライベートエンドポイントで利用できる仕組みです。トラフィックはAWSネットワーク内で完結するため、インターネットに露出しません。サービス提供側と利用側でVPCを直接つなぐ形ではなく、エンドポイントを介して接続します。
セキュリティ面の特徴
- データはAWSのバックボーン内のみを通過します。パブリックIPやインターネットゲートウェイ不要で、攻撃面を減らせます。
- セキュリティグループで細かくアクセス制御できます。ログはVPC Flow Logsなどで追跡可能です。
ネットワーク構成の簡素化
- NAT Gatewayやロードバランサーを経由せずにサービスへ到達できます。そのためルーティングやNAT管理の手間が減ります。
- VPCピアリングの数やルートテーブルの複雑さを避けられ、運用負荷が下がります。
他アカウント/Marketplaceとの接続
- 別のAWSアカウントやAWS Marketplaceのサービスを安全に利用できます。提供側はエンドポイントサービスを作り、利用側はVPCエンドポイントを作成して接続します。
オンプレミスとの連携
- Direct ConnectやSite-to-Site VPNと組み合わせると、オンプレミス環境からPrivateLink経由で安全にアクセスできます。社内ネットワークとクラウド間の経路をすべてプライベートに保てます。
主なメリット(要点)
- セキュリティ強化:通信がインターネットに出ない
- 運用簡素化:NATや複雑なルーティングが不要
- 柔軟性:アカウントやサードパーティーサービスと接続可能
- ハイブリッド対応:Direct Connect/VPNと組み合わせて利用可能
他のAWSネットワークサービスとの違い
概要
PrivateLinkはサービス間を“プライベートに”つなぐ方式です。インターネット経由を不要にし、相手のVPCへ直接広い範囲でアクセスを与えません。ここでは代表的な他サービスと分かりやすく比較します。
PrivateLink と VPCピアリング
- VPCピアリングはVPC同士をそのままつなぎ、サブネット間で自由に通信できます。一方、PrivateLinkは特定のサービス(ポートやAPI)だけを公開します。
- ピアリングはCIDRの重複を許しません。設定はルートテーブルやセキュリティ設定が増え、管理がやや複雑です。PrivateLinkは相手VPCの全体構成を気にせず利用できます。
PrivateLink と VPCエンドポイント
- VPCエンドポイント(インターフェース型)は内部的にPrivateLink技術を使い、AWSのマネージドサービスや社内サービスへ安全にアクセスします。つまりエンドポイントはPrivateLinkの利用形態の一つです。
Transit Gateway、VPN、Direct Connectとの違い
- Transit Gatewayは多数のVPCをハブでまとめ、トランジティブ(中継)ルーティングを提供します。多数接続や大規模設計に向きます。PrivateLinkは点対点のサービス接続に適しています。
- VPNやDirect Connectはオンプレミスとの接続手段で、用途が異なります。
使い分けの目安
- サービス単位で安全に公開したい:PrivateLink
- VPC間の広範な通信が必要:VPCピアリング/Transit Gateway
- AWSマネージドサービスへプライベートに接続:VPCエンドポイント
それぞれの特性を踏まえ、セキュリティ要件や接続数、運用負荷で選んでください。
主なユースケース・具体例
概要
AWS PrivateLinkは、VPCから外部サービスへインターネットを経由せずに接続する仕組みです。ここでは具体的な利用シーンと分かりやすい例を挙げます。
1) SaaSやAWS Marketplaceのサードパーティ接続
・例:自社VPCからCRMやログ解析サービスへ直接アクセスし、データを公開ネットワークに出しません。設定はVPCエンドポイントを作るだけで、サービス提供側はエンドポイントサービスを公開します。
2) 金融・医療・公共などセキュリティ重視のシステム
・例:顧客情報や診療データを扱う場合、通信経路を全てプライベートに保てます。監査やコンプライアンス要件を満たしやすくなります。
3) オンプレミスからAWSサービスへのプライベートアクセス
・例:オンプレ環境からS3や内部マイクロサービスに安全に接続します。VPNやDirect Connectと組み合わせて構築します。
4) 複数リージョン・複数アカウント間の安全なサービス共有
・例:あるリージョンで稼働する内部APIを別リージョンや別アカウントのVPCから利用します。各アカウントに公開せず集中管理できます。
5) 生成AI(例:Amazon Bedrock)との連携
・例:機密データを含むプロンプトをプライベート経路で送受信し、応答もインターネットに漏らさず受け取ります。企業のデータガバナンスを保ちながらAIを活用できます。
各ケースとも、通信をVPC内に閉じることでリスクを下げ、運用や監査を簡素化します。導入前にネットワーク設計とアクセス制御を確認してください。
導入・設定方法
準備
- 前提: 提供側と利用側が同一リージョンにあること、各VPCに適切なサブネットとセキュリティグループが設定されていること。
サービス提供側(エンドポイントサービス作成)
- アプリをALBやNLBの背後に配置します。
- VPCコンソールでエンドポイントサービスを作成し、ロードバランサーを指定します。
- 接続許可(Allowed Principals)や承認の設定を行います。必要なら自動承認を有効にします。
- セキュリティポリシーやIAMポリシーでアクセス制御を設定します。
利用側(インターフェイスVPCエンドポイント作成)
- VPCコンソールで「インターフェイスエンドポイント」を作成します。
- サービス名に提供側のエンドポイントサービスを指定し、サブネットとセキュリティグループを選びます。
- 必要に応じてプライベートDNSを有効にし、既存のDNS名で透過的にアクセスできるようにします。
- 作成後、提供側で承認が必要な場合は承認を行います。
テストと確認
- VPC内からサービスのエンドポイントDNSへHTTP/HTTPSでアクセスして応答を確認します。
- セキュリティグループのインバウンド/アウトバウンドやNACLをチェックし、通信を許可します。
よくある注意点
- セキュリティグループでポートが閉じていると通信できません。
- リージョンやアカウントのミスマッチに注意してください。
- プライベートDNSを有効にすると既存の名前解決に影響することがあります。
料金体系
概要
AWS PrivateLinkの料金は、基本的に「エンドポイントごとの固定料金」と「データ転送に対する従量課金」の組み合わせです。専用線やVPNと比べて初期費用や運用負担を抑えやすい点がメリットです。
料金の構成(主な項目)
- エンドポイント基本料金:エンドポイントごとに時間単位または月額換算で発生します。エンドポイント数が増えると固定費が増えます。
- データ処理(データ転送)料金:送受信したデータ量に対してGB単位で課金されます。
- 関連する追加費用:VPC内でのネットワーク構成(NATゲートウェイ、インターネットゲートウェイ、リージョン間転送など)により別料金が発生する場合があります。
計算の考え方(簡単な式)
月額概算 = エンドポイント数 × (時間単価 × 稼働時間) + 転送GB × GB単価 + 関連サービス費
具体的な金額はリージョンや選ぶエンドポイント種類によって変わります。導入前に最新の料金表で確認してください。
コスト最適化のポイント
- エンドポイントの共用:同じサービスに対して複数のVPCからアクセスするなら、共有できる構成を検討して固定費を抑えます。
- 転送量の削減:不要なトラフィックを削減したり、バッチ処理でまとめて転送することで従量課金を下げられます。
- モニタリングとアラート:Cost Explorerや予算アラートを設定して、想定外の増加を早期に察知します。
注意点
- エンドポイントを多数作ると想定以上に固定費が増えます。
- リージョン間やアベイラビリティゾーン間の転送は別途課金される場合があるので設計時に確認してください。
- 料金は時期やリージョンで変動します。導入前に必ず最新の料金ページで確認してください。
まとめ・注意点
AWS PrivateLinkを使うと、インターネットを経由せずにサービスへ安全に接続できます。ネットワーク経路が閉じるため、セキュリティと可用性が高まり、運用もシンプルになります。
- 主な利点
- トラフィックがAWS内部に留まり、公開エンドポイントを公開しなくて済みます。例:社内アプリがSaaSに安全に接続できます。
-
セキュリティグループやエンドポイントポリシーで細かく制御できます。
-
注意点(設計・運用時に確認すること)
- エンドポイントはAZ単位で配置する必要があり、冗長化は設計段階で確保してください。
- ENI(仮想ネットワークインターフェース)がIPを消費します。CIDR設計を確認してください。
- エンドポイントポリシーやIAMを適切に設定し、不要なアクセスを与えないでください。
- セキュリティグループ設定やログ(VPCフローログ、CloudWatch)の監視を行い、挙動を追跡してください。
- コストはデータ転送とエンドポイント時間で発生します。利用想定で試算してください。
運用は設計に依存します。導入前にセキュリティポリシー、IP設計、可用性要件を確認し、テストを重ねてから本番に移行してください。












