はじめに
目的
本ドキュメントは、AWS Direct Connectに関する基礎から応用までの理解を助けるために作成しました。クラウドとオンプレミスを安定して接続する仕組みを分かりやすく整理しています。
対象読者
技術担当者やネットワーク設計者、クラウド導入を検討している管理者の方を想定しています。専門用語は必要最小限にし、具体例で補足していますので、基礎知識があれば読み進められます。
本書の構成と読み方
全8章で構成します。第2章でDirect Connectの定義と既存のインターネット接続との違いを説明し、第3章以降でメリットや構成要素、接続方式、実装パターン、通信の仕組み、適用シーンを順に解説します。初めて学ぶ方は第2章から順に読むと理解しやすいです。既に概要を把握している方は、興味のある章だけ参照しても差し支えありません。
注意事項
本資料は技術的な概要を中心にまとめています。具体的な設定手順や最新のサービス仕様は、AWSの公式ドキュメントを参照してください。
AWS Direct Connectとは
概要
AWS Direct Connectは、企業のオンプレミス(社内サーバやデータセンター)とAWSを専用線でつなぐサービスです。インターネットを介さずに光ファイバーの専用回線を使うため、通信が安定し、遅延のばらつきが少なくなります。
特徴
- 専用回線:帯域を占有できるため、通信品質が安定します。
- セキュリティ:インターネットを経由しないため、経路を限定して安全に通信できます。
- 帯域の柔軟性:数十Mbpsから数Gbpsまで回線容量を選べ、用途に応じて確保します。
インターネット接続との違い(具体例)
通常のインターネットやVPNは多くの利用者で帯域を共有する「ベストエフォート」です。たとえば夜間に大量バックアップをすると日中の業務が遅くなる場合があります。Direct Connectは専用線なので、バックアップ中でも業務の通信が影響を受けにくくなります。
利用時のイメージ
社内システムをクラウドへ移行する際、基幹データやリアルタイム処理を安定してやり取りしたい場合に適します。大容量データ転送や映像配信など、通信品質を重視する用途で特に効果を発揮します。
AWS Direct Connectの主要なメリット
概要
AWS Direct Connectは専用線を使ってAWSと自社拠点をつなぐサービスです。ここでは利用者が実感しやすい主要なメリットを、事例を交えて分かりやすく説明します。
1. 高セキュリティで安全に通信できる
インターネットを経由せず閉域網で接続するため、第三者による介入リスクが大きく減ります。たとえば、金融機関が機密データを送る場合、専用線を使うことで外部からの盗聴や改ざんの不安を低減できます。
2. 安定した通信速度と低遅延
回線が専有されるため、時間帯やトラフィック変動の影響を受けにくくなります。定期的なデータ同期や大容量の動画配信・バックアップでも、速度のばらつきを抑えられます。
3. データ転送コストの削減
大量データを頻繁にやり取りする場合、インターネット経由やVPNより転送料金が割安になることが多いです。例として、オンプレミスの定期バックアップやビッグデータ分析のデータ取り込みでコストメリットが出ます。
以上が利用者にとって分かりやすい主要なメリットです。導入検討時は通信量や用途を整理し、効果を見積もることをおすすめします。
AWS Direct Connectの構成要素
概要
AWS Direct Connectの主要なリソースは「接続(Connection)」と「仮想インターフェイス(VIF)」です。接続はデータセンター側で確保する物理的なイーサネットポートに相当します。接続に対して帯域(例えば1Gbpsや10Gbps)を割り当て、そこから仮想インターフェイスを作成します。
接続(Connection)
接続は物理ポートの予約と回線種別の管理を行います。例として、1つの10Gbpsポートを確保して、そのポートを使って複数の論理的な通信路を作ることが可能です。接続はロケーション(Direct Connectロケーション)ごとに作成します。
仮想インターフェイス(VIF)
VIFは接続上に作る論理インターフェイスです。主に3種類あります。プライベートVIFはVPCへ直接接続するため、プライベートな通信に使います。パブリックVIFはS3などのパブリックAWSサービスへ最適化します。Transit VIFはTransit Gateway経由で複数のVPCやアカウントをつなぐ用途です。1つの物理ポートにつき最大50個のプライベートまたはパブリックVIFと1個のTransit VIFを作成できます。
LAG(Link Aggregation Group)
LAGは複数の接続を束ねて帯域を増やす機能です。例えば10Gbpsの接続を2本束ねれば合計20Gbps相当になります。冗長性も高まり、片方の回線障害時に通信を維持しやすくなります。
その他の要素
VIFではVLANタグやBGPによる経路交換を設定します。また、Direct Connect Gatewayを介して複数リージョンや複数VPCへの接続を柔軟に設計できます。実務ではポート帯域、VIFの種類、冗長設計を最初に決めると導入がスムーズです。
接続方式の種類
概要
AWS Direct Connectには大きく分けて専用接続(Dedicated Connection)とホスト型接続(Hosted Connection)の2種類があります。用途や回線の細かさ、導入スピードで使い分けます。
専用接続(Dedicated Connection)
専用接続は物理イーサネットポートを単一ユーザーが占有する方式です。提供帯域は主に1 Gbps、10 Gbps、100 Gbpsと大容量向けが中心です。物理ポートを直接使うため、安定性と一貫した性能が期待できます。大規模なデータ転送やレイテンシに敏感な業務、長期間の専用回線を望む場合に向きます。
特徴の具体例:
– 1 Gbps/10 Gbps/100 Gbpsのポートを単独で利用
– 高い安定性と予測できる帯域幅
– 導入には物理的な接続作業や手続きが必要で、準備期間と初期費用がかかることが多い
ホスト型接続(Hosted Connection)
ホスト型接続は専用接続を論理的に分割して複数ユーザーで共有する方式です。帯域は50 Mbpsから25 Gbpsまで細かく選べます。通常はAWSのパートナーネットワーク(通信事業者や接続事業者)が提供するため、導入が比較的早く、柔軟に帯域を調整できます。
特徴の具体例:
– 50 Mbps〜25 Gbpsの幅で細かい帯域を選択可能
– パートナー経由で手続きが簡単で短納期になりやすい
– 論理的に分割されるため、専有に比べてコストを抑えやすい
選び方のポイント
- 帯域と安定性が最優先なら専用接続を検討してください。大容量転送や低レイテンシ要件に適します。
- 導入の早さやコスト優先ならホスト型が有利です。段階的に帯域を増やしたいときにも向きます。
- 小〜中規模で明確な専有要件がない場合、ホスト型から始める実務が多いです。必要に応じて専用へ移行できます。
実務上の補足
- ポートを束ねるLink Aggregation(LAG)で冗長化や帯域拡張が可能です。
- どちらでもVLANや仮想インターフェースで複数のVPCやパブリック接続を共存させられます。
- ホスト型はパートナー選定が重要です。SLAやサポート内容を確認してください。
実装パターンと高可用性構成
パターン1:Direct Connectを主系、VPNを待機系にする
通常は専用線(Direct Connect)を主に使い、障害時はSite-to-Site VPNへ自動で切り替えます。費用を抑えつつ可用性を確保できます。ルーティングはBGPで制御し、Direct Connect経路に高い優先度を設定します。
パターン2:物理回線を冗長化する(デュアルDX)
別のデータセンターや設備に二本目のDirect Connectを引き、ルーターも別系統にします。LAG(論理結合)や複数VLANを使い、回線・機器の単一障害点を減らします。重要な業務ではこの構成を推奨します。
パターン3:Direct Connectゲートウェイで接続を集約する
Direct Connectゲートウェイを使うと、1つの仮想インターフェイスで複数のVPCやリージョンに接続できます。ネットワーク設計を簡素化し、運用を効率化します。
高可用性を高めるための実践ポイント
- 物理経路を分ける(異なる施設や経路)
- BGPによる経路制御とフェイルオーバーテストを定期実施
- モニタリングと通知で障害検知を早める
- 設定や接続手順を文書化して切替を確実に行う
これらを組み合わせて、コストと可用性のバランスを取る設計を目指してください。
通信の仕組み
概要
AWS Direct ConnectはオンプレミスのサーバーとVPC内のリソースをプライベートIPで直接つなぎます。インターネットを経由しない専用の経路を使うため、通信が安定しやすく、遅延や変動が小さくなります。
通信の流れ(図の代わりに説明)
- 物理回線:お客様サイトとAWSのロケーションを専用線で接続します。
- 仮想インターフェイス:その上に“仮想の出入口”を作り、VPCや仮想ゲートウェイと接続します。
- 経路のやり取り:オンプレミスとAWSが経路情報を自動で交換し、どのネットワークへ送るか決めます(一般的にBGPという仕組みを使います)。
グローバル接続の考え方
Direct Connect Gatewayを使えば、東京と米国など異なるリージョン間でもAWSのバックボーン経由で接続できます。たとえば東京拠点からAWS経由で米国拠点のVPCへ安定した経路を確保できます。
セキュリティと注意点
Direct Connectはインターネットを通らないため安全性は高いです。しかし、通信は自動で暗号化されないので、機密性が高いデータはVPNを重ねるかアプリ側で暗号化してください。また、可用性のために冗長回線や経路設計、監視を準備することをおすすめします。
性能面の特徴
専用回線により帯域が安定し、遅延と揺らぎが小さくなります。そのためデータ複製やリアルタイム処理、バックアップなどに向きます。
適用シーン
セキュリティ重視の接続
機密データを扱う場合に向きます。インターネット経由を避けて専用回線で通信するため、盗聴や経路の不確かさを減らせます。たとえば社内の人事情報や金融系システムのバックエンド連携に適しています。
大量データの転送や移行
毎晩数TB〜数十TBのデータをAWSへ転送する場合に効果的です。専用線はスループットが高く、長時間の大容量転送で安定します。メディアの映像ファイルや大規模バックアップ、データベースの初期移行でよく使われます。
低遅延・高信頼性を求めるシステム
トレーディング、リアルタイム制御、VoIPなど遅延やジッタが許されない用途に向きます。インターネット経由より遅延が安定しやすいため、ミッションクリティカルな通信に適しています。
ハイブリッドクラウドとオンプレ連携
既存の社内システムとAWSを密に連携させる場合に便利です。オンプレとクラウド間で頻繁にデータをやり取りするアプリを直接つなげて、操作性や一貫性を高めます。
コンプライアンスやデータ主権対応
業界規制で通信経路の管理が求められるときに役立ちます。専用回線を用いることで監査対応やアクセス制御を設計しやすく、規制要件を満たしやすくなります。
導入の判断は、必要な帯域、セキュリティ要件、コストのバランスで決めます。専用線は安定性と性能に優れますが、契約や設備に時間と費用がかかる点は考慮してください。












