はじめに
本書の目的
この文書は「Web制作における役割分担」を分かりやすく整理するために作りました。プロジェクトで誰が何を担当するかを明確にし、品質と納期を安定させることを目指します。具体的な職種ごとの仕事内容や、工程ごとの担当範囲を丁寧に解説します。
誰に向けているか
・制作会社のディレクターやプロジェクトマネージャー
・デザイナーやコーダーにキャリアチェンジを考えている方
・社内でWeb制作を内製化しようとしている担当者
短時間で全体像をつかみたい人にも向いています。
本書で扱う範囲
企画・設計・デザイン・実装・検証・運用までの各フェーズで、代表的な役割と作業の境界線を示します。役割分担のメリットや注意点、実務で使える例も紹介します。
読み方のポイント
まず第2章で役割分担の重要性を理解し、第3章以降で各職種の具体的業務を順に確認してください。実務で使えるチェックリストも随所に載せます。
なぜWeb制作では「役割分担」が重要なのか
概要
Web制作は企画・設計・デザイン・実装・テスト・公開・運用と工程が続きます。各工程で求められる知識や作業は異なり、適切に分担しないと効率と品質が落ちます。
役割分担が必要な理由
分担すると専門性を活かせます。例えばデザイナーはユーザー体験に集中でき、コーダーは表示や動作の最適化に集中できます。責任範囲が明確になると判断や対応が速くなります。
起こりやすい問題(具体例)
- スケジュール遅延:一人に負担が集中すると納期が守れません。
- 品質のバラつき:複数人で同じ作業をすると基準がぶれることがあります。
- 手戻りの増加:デザインと実装で認識が違うと作り直しが発生します。
分担で得られる効果
品質が安定しやすく、生産性が上がります。外注や大規模案件でも責任範囲が明確なら調整がスムーズになります。
実務で心がけること
役割や成果物を文書で合意する、レビューのタイミングを決める、小さな検証を早めに行う。これだけで手戻りを大幅に減らせます。
Web制作に必要な主な役割一覧
Webディレクター/プロジェクトマネージャー
プロジェクト全体を見渡し、計画と進行を管理します。要件の整理、スケジュール作成、クライアント対応が主な仕事です。例:納期調整や見積もりの提示、関係者への進捗報告。
Webデザイナー(UI/UXデザイナー含む)
見た目と使いやすさを作ります。ワイヤーフレームや画面設計、配色やフォント選定を行います。例:トップページのレイアウト設計やスマホ時の使いやすさ検討。
コーダー/フロントエンドエンジニア
デザインを実際に動く画面にします。HTML/CSSやJavaScriptで実装し、レスポンシブ対応や動きの調整を担当します。例:ボタンの動作や画面崩れの修正。
バックエンドエンジニア
データ処理やサーバー側の仕組みを作ります。データベースや認証、APIの設計・実装を担当します。例:会員登録や注文処理の仕組み構築。
コンテンツ担当(ライター/編集)
文章や画像などの中身を準備します。読みやすい文章作成や校正、写真選定やSEOを意識した構成を行います。例:商品説明文やブログ記事の作成。
テスター/品質管理担当
完成前に問題を見つけて報告します。動作確認、表示チェック、リンク切れ確認を実施します。例:異なるブラウザでの表示検証やフォーム送信の確認。
運用担当(マーケティング/分析/更新)
公開後の改善を進めます。アクセス解析で課題を見つけ、更新やプロモーションを行います。例:アクセス数を見て記事を改善したり、SNSで告知したりします。
Webディレクター/プロジェクトマネージャーの役割
役割の全体像
Webディレクター(PM)はプロジェクトの舵取りをします。目的を明確にして、誰が何をいつまでにするかを決め、品質・納期・予算を管理します。クライアントと制作チームの橋渡し役としても重要です。
主な業務(具体例)
- クライアントヒアリング:要望と背景を聞き出し、目的と優先度を整理します。
- 要件定義・KPI設定:何をもって成功とするかを決めます(例:問い合わせ数、CVR)。
- 企画書・提案書作成:目的に沿った構成案と見積もりを作ります。
- スケジュール・予算・体制設計:担当者と工数を割り振ります。
- 進行管理:タスクの進捗をチェックし、遅延や課題に対応します。
- 品質管理:成果物のレビュー、テスト計画の調整を行います。
- 関係者調整:社内外の承認や合意形成を促します。
1日の流れ(例)
午前:進捗確認と優先タスク整理。午後:クライアント打ち合わせと仕様調整。夕方:関係者へ報告と翌日のタスク割当。
必要なスキル
- コミュニケーション力:要点を短く伝える力
- 課題発見と解決力:早めに問題を見つけ対応する力
- スケジュール管理力:マイルストーンを設定する力
- 基本的な技術理解:デザイン・コーディングの流れが分かること
- 文書作成力:提案や議事録を分かりやすくまとめる力
成功のコツと注意点
- ゴールとKPIを初期に決め、小さなマイルストーンを置く。
- 変更は影響範囲を明確にして合意を取る。
- レポートは定期化し、リスクは早めに共有する。
よくある課題と対処法
- スコープ膨張:追加要求は都度見積もりと承認を求める。
- 納期遅延:優先度を見直し、必要ならスコープを調整する。
- 認識差:議事録と決定事項を必ず書面で残す。
短く言えば、Webディレクターは「目的達成のために人と工程を動かす」役割です。
Webデザイナー(UI/UXデザイナー含む)の役割
概要
Webデザイナーはユーザーの使いやすさ(UX)と見た目(UI)を形にする役割です。企画や要件をもとに情報を整理し、訪問者が迷わない流れと見やすい見た目を作ります。多くの現場でデザイン以外の工程も一部担当します。
主な業務
- 情報整理とページ構成の方向付け:サイトマップや目的に沿って、どのページに何を置くか決めます(例:商品ページに購入ボタンを目立たせる)。
- ワイヤーフレームとラフ作成:紙や簡易ツールで配置を試し、関係者と共有します。
- デザインカンプ制作:色、フォント、写真の使い方を決めて実際の画面案を作ります。
- レスポンシブ対応:スマホやPCで見え方を調整します。簡単な例はメニューが折りたたむ挙動です。
- UI要素の設計:ボタンやフォームの見た目と操作感を整えます(例:入力エラー時の赤表示)。
- データ整理と引き渡し:素材やスタイルガイドをまとめてコーダーに渡します。
実務で意識する点
- ユーザー視点を最優先にし、実際の操作を想像して設計します。
- 開発者やディレクターと早めに確認して手戻りを減らします。
- アクセシビリティや読みやすさも考え、色や文字サイズを調整します。
他職種との連携
デザイナーはディレクターの要件を受け取り、コーダーと実装で調整します。制作中に仕様変更が出たら柔軟に対応し、デザインの根拠を説明すると進行がスムーズになります。
よくある役割範囲
現場によってはユーザーテスト、簡単な画像加工、アニメーションの指示なども担当します。役割は明確にしておくと責任範囲がぶれません。
コーダー/フロントエンドエンジニアの役割
役割の概要
コーダーはデザインをブラウザ上で動く形にし、見た目と動きを実装します。HTML/CSSで構造と見た目を作り、JavaScriptでインタラクションを担います。レスポンシブや表示速度、アクセシビリティにも配慮します。
主な業務
- マークアップ:意味のあるタグで構造化します(例:記事は
、見出しは )。
- スタイリング:CSSでデザインを再現し、変化に強い設計を行います。
- インタラクション実装:モーダル、スライダー、フォーム検証などの動きを作ります。
- レスポンシブ対応:画面サイズに応じたレイアウトを実装します。
- 表示速度改善:画像最適化、遅延読み込み、不要なコード削減を行います。
- アクセシビリティ・SEO:altやラベルの整備、見出し構造の適切化をします。
バックエンドとの連携
APIの仕様確認やデータ受け渡しの形式を決め、実装時に問題が出ないよう早めに調整します。テンプレートやサーバー側のレンダリング方針も共有します。
品質管理と運用
クロスブラウザ・実機での確認、Lintや自動ビルド、Gitでのバージョン管理を行い、安定した納品を目指します。
実務で意識するポイント
設計段階から関わり、実装可能な代案を提示してください。小さな工夫(画像形式の選定やCSSの無駄削除)がユーザー体験を大きく改善します。












