はじめに
この章では、本記事の目的と読み方を丁寧に説明します。クラウドを使うとき、同じサービスでもリージョン(地域)によって料金が変わります。本記事は、その違いがなぜ生じるのか、どのリージョンが比較的安い傾向にあるか、そして日本から利用する際のメリットと注意点をわかりやすく解説します。
対象は、個人開発者から中小企業、コスト意識の高い技術者やマネージャーです。専門用語は極力避け、具体例や比較を交えて説明します。第2章から第7章までで以下を順に扱います。
- リージョンごとの価格差の理由
- 安い傾向にあるリージョンの紹介
- 東京リージョンと米国東部(北バージニア)などの具体例比較
- 安いリージョンを選ぶメリットと節約効果
- 日本から使う際のデメリットと注意点
- どの用途で海外リージョンが有効か
この記事を読めば、料金だけでなく運用や性能面も含めて、地域選択の判断材料が得られます。まずは第2章で料金差の根本を見ていきましょう。
AWSリージョンごとに料金が違うのはなぜか
AWSでは同じサービス、同じインスタンスタイプでもリージョンごとに料金が変わります。これはクラウドが単純に「遠くのサーバー」を貸しているのではなく、現地での運用コストや市場の状況が価格に反映されるためです。
主な要因
- 電力・施設コスト:データセンターは大量の電力を使います。電気代や冷却設備の費用が高い地域は、サービスの単価に影響します。
- 土地・建設費:土地や建物の取得、設備設置にかかる費用が地域で違います。都市部や地価の高い国は高くなる傾向があります。
- 人件費・運用コスト:現地の技術者や保守スタッフの人件費が異なります。監視や現地対応の費用も価格に含まれます。
- 税制・規制:消費税、法人税、データ保護や輸入規制に伴う追加コストが発生します。
- 需要と供給、規模の経済:ユーザー数が多いリージョンでは設備投資を分散できて単価が下がります。逆に利用者が少ないと割高になります。
- 為替レート:料金設定や支払い通貨の違いが価格差に影響します。
具体例
例えば、東京リージョンと米国東部(バージニア北部)で同じt3.microインスタンスを比べると、時間単価が異なることがあります。これは電力や人件費、税・規制、そして地域ごとの需要の差が組み合わさって起きます。価格差は小さく見えても、長期間や大量利用では総コストに大きく影響します。
価格だけでなく、遅延やデータ保護、運用の負荷も合わせて検討することをおすすめします。
一般的に「安い傾向」があるAWSリージョン
概要
複数の情報源で共通する傾向として、北米の大規模リージョンが比較的安価です。特に米国東部(バージニア北部:us-east-1)は最も安いとされ、新サービスの導入も早く選択肢が豊富です。米国西部(オレゴン:us-west-2)も安価な代表例です。
なぜ安いのか(簡単に)
- 規模の大きさ:利用者・設備が多く、単価を下げやすい
- 競争と歴史:古くからあるリージョンはコスト最適化が進んでいる
- サービスの多さ:新機能が早く提供され、効率化が進む
日本ユーザーにとっての使い方の例
- 検証・開発環境:本番では東京を使い、開発はus-east-1でコスト削減
- バッチ処理や一時的な負荷試験:遅延許容できる処理に有効
簡単なチェックポイント
- 実際の価格差をAWS料金表で確認する
- データ転送やAPIの遅延が許容範囲か試す
- サービス提供状況(地域制限)を確認する
以上が「安い傾向」があるリージョンの概観です。
東京リージョンとバージニア北部リージョンの料金比較(例)
比較の前提
代表的なEC2インスタンス(t3.micro)のオンデマンド料金を例にします。米国東部(バージニア北部)は約$0.0104/時間、東京リージョンは約$0.0138〜0.0152/時間という想定です。計算は単純化のためインスタンス料金のみを比較します。
月額の試算(単純計算)
- 稼働時間:24時間×30日=720時間
- バージニア北部:$0.0104×720=約$7.49/月
- 東京(下限):$0.0138×720=約$9.94/月
- 東京(上限):$0.0152×720=約$10.94/月
差額は月あたり約$2.45〜$3.45で、率にすると約25%前後のコスト差になります。1台を長期間フル稼働させればこの差が積み重なります。
注意すべき点
- 為替や料金改定で金額は変動します。円換算は為替次第です。
- インスタンス料金以外(データ転送、ストレージ、サポートなど)も総コストに影響します。
- レイテンシーや法規制、運用の手間も考慮してください。
この例はあくまで目安です。実際の選定では総コストと運用条件を合わせて判断することをおすすめします。
安いリージョンを選ぶメリットと、どの程度コストに効くか
概要
リージョンを安いものに変えるだけで、単純な料金差がそのまま節約になります。実務では同一スペックで20〜30%の差が生じることがあり、特に開発・検証環境やレイテンシ要求が低い処理で効果が高いです。
主なメリット
- 直接的なコスト削減:毎月の請求額がそのまま下がります。
- 限られた予算でリソースを増やせる:同じ予算で台数や容量を増やせます。
- 長期保有のコスト低減:年単位で見ると差が大きくなります。
どの程度効くか(具体例)
例:月額10万円の環境を20%安いリージョンに移すと、月2万円、年24万円の削減になります。複数の環境を運用している場合は合算でさらに大きな効果が出ます。
影響しやすい費目
- コンピュート(インスタンス):地域ごとの単価差が最も効きます。
- ストレージ:単価差は小さくても容量が大きければ影響大です。
- データ転送:リージョン間通信が増えると費用がかさみます。
実務での取り組み方
非本番環境やバッチ処理など、レイテンシや国内法の要件を満たさなくても問題ない workloads から移行を試して効果を確認してください。自動化でリージョン切替やコスト監視を組み合わせると、安全に運用できます。
安いリージョンを使うときのデメリット・注意点(特に日本から)
レイテンシ(応答時間)の増加
日本から遠い海外リージョンを使うと、通信の往復時間が長くなります。たとえばウェブページの読み込みやAPI応答で体感できる遅さにつながります。オンラインゲームやリアルタイム処理、対話型アプリは特に影響を受けます。
データ転送コストと帯域
リージョン間の通信は別途料金がかかることが多く、データ量が多いと費用が膨らみます。バックアップやログを国内に置きたい場合は、転送料金がボトルネックになります。
法的・コンプライアンスの制約
個人情報や重要データは国内保管を求められるケースがあります。規制で国内リージョン利用が必須なら安い海外リージョンは使えません。
運用・監視の難しさ
障害発生時の切り分けやネットワーク問題の原因究明が難しくなります。時差や言語、サポート体制の違いで対応に時間がかかることがあります。
ユーザー体験と可用性
遅延や転送コストの影響でユーザー満足度が下がる可能性があります。冗長構成を海外に置くと復旧時間が伸びることがあります。
対策の例
・一部サービスは国内リージョンで動かし、コスト敏感な処理だけを安い海外リージョンで行う。
・CDNで静的コンテンツを国内配信する。
・データ保護ルールを確認してから配置を決める。
どのような用途なら「安い海外リージョン」が有効か
主に適するケース
コストを最優先にするが、応答性や法規制が厳しくない用途で有効です。具体的には開発・検証環境、バッチ処理や非リアルタイム処理、社内限定ツール、データアーカイブなどが向いています。
具体例と期待できる効果
- 開発・検証環境:開発者向けのテストやCIで利用すると、インスタンスやストレージ費用を大きく削減できます。例えば夜間だけ稼働する環境であれば運用コストがさらに下がります。
- バッチ処理・ログ解析:遅延が数秒〜数分許容されるバッチジョブは、安いリージョンで問題なく処理できます。定期的な大規模処理を安価に回せます。
- 社内ツール・限定利用システム:外部ユーザー向けでない社内向けアプリは、多少の遅延が許容されるためコスト優先で配置できます。
運用上のポイント
- データ転送やバックアップの費用、遅延を事前に見積もってください。
- セキュリティや法令要件がある場合は適用可否を確認してください。
- 小規模から試して効果を測り、段階的に切り替えることをお勧めします。












