はじめに
この章では、本ドキュメントの目的と読み方を分かりやすく説明します。本書は、AWS Batchを用いたクラウド上でのバッチ処理の設計・構築・運用について、入門から実践までをまとめたガイドです。たとえば「毎晩のログ集計」や「大量画像のバッチ変換」など、定期的かつ大量に処理する作業をクラウドで安全かつ効率的に行う方法を扱います。
対象読者
– バッチ処理の基礎を学びたいエンジニア
– AWSで運用を始める担当者
– 既存システムをクラウドへ移行したい技術者
本書で扱う内容(章構成の概要)
– 第2章: AWS Batchの概要
– 第3章: バッチ処理の基本概念と具体例
– 第4章: AWS Batchの主な特徴と利点
– 第5章: アーキテクチャと構成要素の詳細
前提条件と準備
– 基本的なクラウドやサーバの知識があると読みやすいです。プログラミング経験がなくても、概念の理解は可能です。実際に手を動かす場合はAWSアカウントが必要になります。
本書は実務で使える知識に重点を置き、実例や設計上の注意点を交えて丁寧に解説します。
AWS Batchとは何か
概要
AWS Batchは、クラウド上で大量のバッチ処理を簡単に実行できるサービスです。ユーザーは処理(ジョブ)をキューに入れるだけで、必要な計算リソースを自動で用意して実行します。サーバーの起動・停止やスケジューリングを手作業で行う必要がありません。
主な特徴
- 自動スケーリング: 処理量に応じてコンピュートを増減します。無駄な稼働を減らせます。
- 実行基盤の選択: EC2やFargate、ECS、EKSなどから適した実行環境を選べます。
- ジョブ管理: 依存関係や優先度を設定して順序を制御できます。
どんな場面で使うか(具体例)
- 大量画像の変換やサムネイル生成
- 夜間バッチでの集計・レポート作成
- 機械学習のバッチ学習やハイパーパラメータ探索
利点と注意点
利点は、運用負荷の軽減とコスト効率の向上です。例えば、ピーク時のみリソースを増やし、非稼働時は自動で縮小します。一方で、ジョブ設計やリトライ戦略、ランタイムの監視は必要です。
利用の流れ(簡単)
- ジョブ定義を作成
- キューにジョブを投入
- AWS Batchが実行環境を用意して処理
- 結果を確認・ログを取得
この章では、まずAWS Batchが何をするサービスかを具体的に示しました。次章でバッチ処理そのものについて詳しく説明します。
そもそもバッチ処理とは
概要
バッチ処理は、一定量のデータやタスクをまとめて一括で処理する方式です。日中に発生した取引を夜間に集計する売上処理や、撮影した大量の画像を一括でリサイズ・変換する作業が典型例です。リアルタイム性をあえて求めず、まとまった単位で効率よく処理します。AWS Batchはこの考え方をクラウドで自動化し、必要なときにだけ計算資源を使えるようにします。
具体例でわかりやすく
- 売上集計:一日の取引をまとめて夜間に集計・レポート作成。処理は毎日決まった時間に行います。
- 画像処理:数万枚の写真を一度に縮小・ノイズ除去する。処理順序を気にせず並列実行できます。
- バックアップやログ解析:古いログをまとめて集計・圧縮し、保管します。
特徴と向き不向き
- 大量データや重い計算に強い。並列で作業を分散するため高速化できます。
- 即時応答が必要な場面には不向きです。処理開始から完了まで時間がかかるため、ユーザー操作に対する即時処理には向きません。
選ぶ目安
定期的に大量の処理をまとめて行いたいときや、コストを抑えて計算資源を効率化したいときにバッチ処理を選びます。短時間で結果が必要な場合は、別の方式を検討してください。
AWS Batchの主な特徴
概要
AWS Batchは、ユーザーがコンテナイメージとジョブ定義を用意するだけでバッチ処理を実行できるフルマネージドサービスです。サーバー台数やクラスタの細かい管理を不要にし、運用負荷を大きく減らします。
フルマネージドで運用負荷を軽減
インフラ管理をAWSが担います。たとえば、OSのパッチ適用やノードの起動・停止を自分で行う必要がありません。これにより開発者は処理ロジックに集中できます。
自動スケーリングでリソースを最適化
ジョブキューの状況に応じて自動でコンピューティングリソースを増減します。短時間に大量ジョブが入っても自動で拡張し、利用が減れば縮小して無駄を減らします。
コスト効率(オンデマンド・スポット利用)
オンデマンドとスポットインスタンスを組み合わせて使えます。スポットを使えば同等の処理を低コストで実行できます。予算に合わせて柔軟に設定できます。
コンテナベースで環境依存を低減
コンテナイメージで実行するため、ローカル環境と同じ設定で動かせます。結果として「動く・動かない」の差を減らせます。
他サービスとの統合
Amazon S3やRDS、CloudWatch、Step Functionsなどと連携できます。たとえばS3上のデータを処理して結果を保存し、CloudWatchでログとメトリクスを確認できます。
使いどころの例
大規模データのバッチ処理、定期的なレポート作成、機械学習のトレーニングジョブなどに向きます。
AWS Batchのアーキテクチャ・構成要素
コンピューティング環境
コンピューティング環境はジョブを実行する計算リソースの設定です。EC2インスタンス群やFargate(サーバーレスのコンテナ実行)を選べます。例えば、大量の並列処理はスポットインスタンスでコストを下げ、短時間で高性能が必要ならオンデマンドを使います。VPCやサブネット、セキュリティグループの指定もここで行います。
ジョブキュー
ジョブキューはジョブを受け取り順に管理します。優先度を設定して重要なジョブを先に処理できます。複数のキューを作り、用途や優先度で振り分ける運用が一般的です。ジョブが到着すると、スケジューラが適切なコンピューティング環境へ割り当てます。
ジョブ定義
ジョブ定義は実行する内容を記述します。コンテナイメージ、コマンド、環境変数、CPUやメモリの要求量を指定します。例として、Pythonスクリプトを実行するコンテナイメージと必要メモリを定義します。
その他の構成要素
- IAMロール:Batchとリソースが安全に連携するために必要です。
- ロギング:CloudWatch Logsで実行ログを確認します。
- ストレージ:S3やEFSをデータ入出力に使います。
これらを組み合わせて、要件に応じたバッチ処理のアーキテクチャを設計します。












