はじめに
本ドキュメントの目的
本ドキュメントは、AWS上でのNVMe(ローカルNVMe SSD)の利用方法と運用上の注意点を、技術者が実務で活用しやすい形でまとめた技術ガイドです。具体的なインスタンス選定、性能の確認方法、運用上の落とし穴と対策を中心に解説します。
対象読者
- クラウド運用やインフラ設計を担当するエンジニア
- ストレージ性能を重視するアプリケーションの開発者
- NVMeを使った検証や導入を検討している技術者
基本的なLinux操作やEC2の基礎知識があると読みやすいです。
本書の構成
- 第2章:AWSにおけるNVMeとは何か(概要と仕組み)
- 第3章:Graviton4 + NVMeローカルSSDインスタンスの概要(新しいインスタンスの特徴)
- 第4章:NVMeローカルボリュームの詳細なパフォーマンス統計機能(監視と計測方法)
本書の使い方
事例やコマンド例を示しながら進めます。まずは目的(高IOPS、低レイテンシ、コストバランス)を明確にしてから該当章を参照してください。設定や検証は実機での確認を前提に記載しますので、運用前にテスト環境での検証をおすすめします。
AWSにおけるNVMeとは何か
概要
AWSでの「NVMe」は主に2つの文脈で使われます。1つはEC2インスタンスに直結するローカルNVMe SSD(インスタンスストア)、もう1つはストレージの接続方式としての意味合いです。本章ではローカルNVMe SSDを中心に分かりやすく説明します。
ローカルNVMe SSDとは
ローカルNVMe SSDはインスタンスの物理サーバーに直接接続された超高速の一時ストレージです。特徴は読み書きの速さと低遅延で、キャッシュや中間データの保存に向きます。例として、アプリケーションのキャッシュ、ビルド作業の一時領域、ログの一時集約などで有効です。
EBS(ネットワークストレージ)との違い
EBSはネットワーク越しの永続ストレージで、スナップショットやサイズ変更といった管理機能を備えます。これに対しローカルNVMe SSDは揮発性で、インスタンスの終了やホストの再配置でデータが失われます。したがって重要データはEBSやS3に保存する設計が安全です。
Nitroシステムとセキュリティ
近年のNitro Systemベースのインスタンスでは、ローカルSSDがNVMeインターフェースで提供されます。Nitroはハードウェアでの仮想化や分離を担い、ゲストから見えるデバイスを安全に割り当てます。これにより性能を落とさずにセキュリティを確保できます。
利用時の注意点
ローカルNVMeは高速ですが揮発性である点を常に意識してください。バックアップやレプリケーションを別途設計し、故障時やインスタンス終了時のデータ保護を行ってください。
Graviton4 + NVMeローカルSSDインスタンスの概要
概要
AWSのGraviton4 + NVMeローカルSSDインスタンスは、Armベースの新しいCPUと高速なローカルNVMeを組み合わせた構成です。Graviton3比で最大約30%のCPU性能向上を実現し、最大192vCPU、最大1.5TiBメモリ、最大11.4TBのローカルNVMe SSDを搭載できます。ネットワーク帯域は最大50Gbps、EBS帯域は最大40Gbpsで、帯域割り当ても柔軟に調整できます。
主な特徴
- 高性能CPU: 並列処理や計算負荷の高い処理に向きます。
- ローカルNVMe: 高いIOPSと低レイテンシを提供し、一時データやキャッシュ、ログの高速書き込みに適します。例: リアルタイム分析の一時領域として。
- 大容量構成: メモリ重視やストレージ集約型のワークロードに対応します。
- 複数ファミリー: C(CPU最適化)/M(汎用)/R(メモリ最適化)があり、用途に合わせて選べます。metal-24xl/48xlでベアメタルも利用可能です。
ユースケースと選び方の目安
- ストレージ集約型Linuxワークロード: NVMeを一時領域やキャッシュに使うと高速化します。
- I/O集約型データベース: 高い書き込み性能が求められる場合に有効です。
- マイクロサービスやリアルタイム分析: 小さな遅延が重要な処理で役立ちます。
選ぶ際は、CPU・メモリ・ローカルSSD容量のバランスを優先してください。
運用上の注意点
ローカルNVMeはインスタンス添付の一時ストレージです。インスタンスの停止や終了でデータが失われます。重要データはEBSやS3にバックアップし、冗長化を設計してください。ベンチマーク(fio等)で事前にI/O特性を確認すると最適な構成を選べます。
NVMeローカルボリュームの詳細なパフォーマンス統計機能
概要
Nitro SystemベースのローカルNVMeボリューム向けに、1秒粒度で11種類の詳細メトリクスが取得可能になりました。追加料金は不要で、全商用リージョンで利用できます。EBSの詳細パフォーマンスと同様の監視体験を提供します。
取得できる主なメトリクス
- キュー長(Queue Depth): 待ち行列の深さを示します。長ければ処理が追いついていない可能性があります。例: バッチ処理で急増する時に確認。
- IOPS(読み書き回数): 秒あたりの入出力回数を把握します。ランダム小さいI/Oかシーケンシャルかの判別に役立ちます。
- スループット(MB/s): データ転送量を示します。大きなファイル転送の負荷を見る用途に有効です。
- I/Oレイテンシヒストグラム: レイテンシの分布を可視化し、遅延の原因特定に有効です。
活用例と推奨操作
- ボトルネック特定: キュー長とレイテンシを同時に見ると、CPUやネットワーク以外にストレージが原因か判断できます。
- パフォーマンス変動の検知: 1秒粒度で急激な変化をすばやく検出できます。
- 最適化: アプリのI/Oパターンに合わせてスレッド数やバッファサイズを調整します。
注意点
監視データは運用で定期的に確認してください。統計はNVMeローカルに限定され、EBSとは別の挙動を示すことがあります。












