はじめに
ハンドメイド作家として作品を作り続けると、「材料費がいくらか分からない」「値段をどう決めればよいか分からない」と悩む場面が増えます。本書は、そうした悩みを解消するための実用的なガイドです。
この第1章では、目的と読み方を簡潔に示します。以降の章で扱う内容は次の通りです。
- 材料費が具体的に何を指すか(どこまで含めるべきか)
- 作品1点あたりの材料費の正しい計算法と具体例
- 材料費以外に考えるべきコスト(総原価)の考え方
- 利益率を踏まえた価格設定のポイント
読者は初心者から経験者まで想定しています。計算が苦手な方でも実際に使えるよう、手順を丁寧に示します。電卓と購入履歴(レシートや明細)を用意すると、次章からすぐに取りかかれます。
まずは「材料費」を正しく把握することが出発点です。ここを整えれば、価格設定や利益管理がぐっと楽になります。次章から一緒に具体的に見ていきましょう。
そもそも「材料費がわからない」とは何がわからないのか?
問題の本質
「材料費がわからない」と感じるとき、漠然とした不安があります。具体的には「1つの作品に使った材料の正確な金額が出せない」「まとめ買いの按分方法がわからない」「副資材や切れ端の扱いが曖昧」などです。これらがはっきりしないと、適正な価格決めが難しくなります。
具体的にわからない点(例)
- 単価の算出:ビーズ10gで300円のとき、ネックレスに使った3gはどう計算するか。実際は重さや個数で按分します。
- 端材・余りの処理:布や革の端切れは次作に回せるのか、その分は差し引くか。使い切れない分も材料費に含めると安全です。
- 包装や接着剤などの小物:見落としがちですが、封筒やタグ、糸、ボンドなども累積すると無視できない費用になります。
よくある勘違い
多くの作家さんは「材料費=主要材料だけ」と考えます。これだと実際のコストを過小評価します。逆にすべてを過剰に分けてしまい計算が煩雑になり続けないこともあります。まずは現実的に計測できる範囲から始めましょう。
次に進むために
まずはレシートを集め、主要材料と副資材に分けて記録してください。次章では「何を材料費に含めるべきか」を具体例で説明します。
「材料費」に含めるべきもの・含めないもの
まえがき
作品の材料費は「作品そのものに直接消費されるもの」を基準にします。ここをはっきりさせると、価格設定や原価計算がぐっと楽になります。
含めるべきもの(直接材料)
- 布・糸・フェルト・フェイクファーなどの生地
- ビーズ・ボタン・ファスナー・金具などのパーツ
- 接着剤・塗料・詰め物(綿)などの消耗品
- 作品に貼るラベルやタグ、専用の仕上げ材
これらは1作品につき確実に使い切る、または割合で按分できるものです。
含めないもの(間接費・販売経費)
- 作業時間の対価(人件費)
- 工房の家賃・光熱費・機械の減価償却
- 梱包材・送料・販売手数料(ショップや配送費)
これらは材料ではありませんが、価格決めでは別枠で計上します。
境界があいまいなものの判断基準
- 道具(ミシンやハサミ)は耐久消費財なので材料に含めません。寿命で割ると原価配分できます。
- 小さな消耗品(針、糸くず処理袋)は1点あたり微量なら材料として計上しても問題ありません。
簡単な扱い例
バッグなら布・裏地・ファスナーは材料。撮影用小物や封筒は販売経費側に回します。明確な基準を持つと誤差が減り、納得のいく価格を作れます。
作品1つあたりの材料費の正しい出し方
■概要
購入単位で買う材料を作品1個分に細かく割り戻して計算します。細かく数えることで赤字を防ぎ、利益を守れます。
■手順(実務で使える順)
1. 材料をすべて書き出す(例:ビーズ10個、チェーン20cm、丸カン2個、留め金1個、包装袋1枚)。
2. 購入単位の単価を出す。例:ビーズ100個入り500円→1個5円。チェーン1m120円→1cm1.2円。
3. 使用量で換算する。チェーン20cm→24円、ビーズ10個→50円。
4. ロスや切断分を見込む。量が少ない場合は5〜10%上乗せ、個数なら端数を切り上げると安全です。
5. 付随する消耗品も加える(糸、接着剤、台紙、袋、ラベルなど)。小額でも積み重なります。
6. 合計し、販売単位に合わせて四捨五入や切り上げを行う。端数を切り捨てると利益を圧迫します。
7. 仕入れごとに単価を記録・更新する。セールやロット差を反映させてください。
■具体例
ビーズ10個=50円、チェーン20cm=24円、留め金=30円、糸=5円、包装=10円→合計119円→切り上げて120円に設定。
■ポイント
在庫の端数や初心者が作るときのロス率を見積もっておくと安心です。定期的に見直して正確さを維持しましょう。
材料費だけではダメ?「総原価」の考え方
■ 総原価とは
材料費に加え、作業時間の人件費や家賃・光熱費などの間接費も含めた合計コストを指します。材料だけで価格を決めると、実際には赤字になることがあります。総原価で考えると損益を把握しやすくなります。
■ 含める主な項目(具体例)
– 直接費:材料費、作品を作るためにかかる直接の人件費(作業時間×時給)
– 間接費:工房の家賃、光熱費、工具や設備の減価償却、事務用品、梱包・発送費、広告費など
■ 間接費の配分方法(簡単なやり方)
1. 月間の間接費合計を出す(例:家賃+光熱費+通信費=60,000円)
2. 同じ月に作る作品点数や総作業時間で按分する(例:月100点なら1点あたり600円)
■ 総原価の計算式(実践例)
総原価=材料費+直接人件費+1点あたりの間接費
例:材料300円+作業500円+間接費600円=1,400円
■ 価格決定(コストプラス法)
販売価格=総原価×(1+利益率)または総原価+希望利益額
例:総原価1,400円に対して利益率30%→販売価格1,820円
■ 注意点と運用のコツ
– 間接費は月ごとに見直すと実態に合います。家賃や光熱は季節変動します。
– 市場価格も確認し、総原価が高すぎると値上げやコスト削減を検討します。
– 販売数が採算に直結するため、想定販売数量を現実的に設定してください。
この章では、材料費以外のコストを見落とさないことが安定した価格設定につながる点を説明しました。
「材料費3倍」は危険?利益率から考える価格
材料費3倍が抱える問題
材料費を単純に3倍にして価格を決める方法は手軽です。しかし、材料費が販売価格に占める割合が高くなりがちで、経営が苦しくなります。目安として材料費は販売価格の15〜25%に収めると安心です。
利益率から価格を出す手順(簡単4ステップ)
- 変動費を合計する(材料費+梱包費+販売手数料+1個あたりの作業賃金)。
- 固定費を月で集計し、想定生産数で割って1個あたりに振る。
- 目標とする利益率(例:20%)を決める。
- 売価 = (変動費+固定費配分) ÷ (1 – 目標利益率)
数字で見る例
材料費300円、梱包100円、手数料150円、作業賃金200円、固定費配分100円、目標利益率20%とすると:
変動費合計=300+100+150+200=750円。売価=(750+100)÷(1-0.2)=850÷0.8=1,062.5円。材料比率は約28%ですが、材料費3倍だと900円で利益が出にくくなります。
実務的な心得
- 時間価値を必ず入れること。安売りは長期的に疲弊します。
- 商品別に利益率が変わっても構いません。主力商品で補う戦略が有効です。
- 定期的にコストを見直し、販売実績に応じて価格調整してください。












