はじめに
目的
この章の目的は、ハンドメイド作品の材料費や原価の考え方に不安がある方向けに、本書全体の見取り図を示すことです。材料費の出し方から労務費、梱包材、間接費まで順を追って学べるように設計しています。実際に数字を当てはめられるよう、具体的な手順と例を中心に解説します。
対象読者
- 初めて自分で値付けをする作家さん
- 材料費が把握できず利益が出ないと悩んでいる方
- ギャラリーやネット販売で価格根拠を説明したい方
本書で学べること(章ごとの概要)
- 第2章:原価の基本構造――どの費用が原価に含まれるかをわかりやすく説明します。
- 第3章:材料費の具体的な計算手順――購入単位や廃棄ロスの扱いまで実務的に解説します。
- 第4章:労務費とその他費用――作業時間の換算方法や間接費の配分を紹介します。
- 第5章:販売価格の決め方――利益を乗せた現実的な価格設定と具体例を示します。
読み方の目安
数字を手元に用意すると理解が早まります。メモ帳やスプレッドシートに材料費や作業時間を記録しながら読み進めてください。章ごとに例題を用意しているので、実際に計算してみると身につきます。
次章からは、まず原価の構造をやさしく整理していきます。準備ができたら読み進めてください。
まず押さえるべき「原価」の基本構造
1. 原価の三要素
ハンドメイド作品の原価は、次の3つで構成されます。
– 直接材料費:作品に直接使う布・ビーズ・革など
– 直接労務費:製作にかかる作業時間を時給で換算したもの
– 間接費:電気代や作業スペースの家賃の一部、販売手数料、梱包費など
2. 材料費の出し方(具体例つき)
材料は使った分だけ正確に計算します。例を示します。
– ビーズ:200個入り500円 → 1個あたり2.5円。30個使えば30×2.5=75円
– 紐・チェーン:1mあたり10円。0.5m使えば0.5×10=5円
– 布:1m×1mで1000円、作品で30cm×30cm(0.09m2)使うなら1000×0.09=90円
小さな部材も見落とさず合計してください。
3. 労務費の出し方
製作時間を計り、時給で換算します。例:作業1.5時間、時給1200円なら1.5×1200=1800円です。仕上げや梱包にかかる時間も加えます。
4. 間接費の考え方
間接費は月ごとに集計して、月内に作った個数で按分します。例:月の間接費が30,000円で100個作れば1個あたり300円になります。販売手数料や配送ラベルなど、個別に発生するものは都度加算します。
5. 一つの商品あたりの計算手順
- 直接材料費を合計する
- 労務費を計算する
- 間接費を按分して加える
- 合計が「原価」です。原価を把握すれば、利益の目標から販売価格が決めやすくなります。
材料費が「わからない」を解決する超具体的な計算手順
はじめに
材料費をはっきりさせるには、数値に落とし込むことが大切です。ここでは誰でも実行できる具体的な手順を順番に説明します。
ステップ1:購入価格から単価を出す
購入時のパッケージ価格を使って1単位あたりの価格を求めます。例:樹脂を600円で60g買ったら、1g=600÷60=10円です。布やテープは「m」「cm」などに換算して単価を出します。
ステップ2:作品1個あたりの使用量を測る
実際に1個分で使う量を秤や定規で測ります。上の例で1個に12g使うなら、材料費は12×10=120円です。
ステップ3:ロス(歩留まり)を加える
切り落としや試作などのロスを%で見積もり、材料費に上乗せします。ロスが10%なら120円×1.1=132円です。
ステップ4:梱包資材を別枠で計算
袋、箱、緩衝材、ラベルなどは個別に単価を出して合算します。例:袋5円、箱20円、緩衝材3円=28円。
合計の出し方
材料費(ロス込み)+梱包費=1個あたりの材料費。上の例では132+28=160円になります。
実務のコツ
- 単価は小数点以下まで出すと正確です。端数は最後に四捨五入。
- 材料リストをスプレッドシートにまとめておくと再計算が早くなります。
- 定期的に仕入れ価格を見直して単価を更新してください。
材料費だけでは赤字になる!「労務費」と「その他費用」の考え方
なぜ材料費だけでは足りないのか
材料費だけで値付けすると、ご自身の作業時間がタダ働きになります。仕事の本質は時間と技術の提供ですから、制作時間に時給を掛けた「労務費」を必ず原価に入れます。
労務費の計算(具体例つき)
手順:制作時間×時給
例:制作に2時間、時給1,500円なら、労務費=2×1,500=3,000円。
この金額は最低限の自分の報酬と考えてください。
その他費用(間接費)の考え方
販売手数料、送料、梱包材費は1作品ごとに明確に計上します。作業部屋の家賃や光熱費、道具代は月単位で集計して、月間生産数で按分します。
手順の例:
1. 月の固定費を合計する(家賃50,000円、光熱費10,000円など)
2. 月間生産数で割る(例:50作品なら60,000÷50=1,200円/作品)
3. 道具は耐用年数で減価償却して月ごとに按分する(例:30,000円を36ヶ月で割る=833円/月→833÷50=約17円/作品)
4. 梱包材や送料は実数を足す(例:梱包100円、送料500円)
具体的な原価計算例
・材料費:700円
・労務費:3,000円(2時間×1,500円)
・梱包材:100円
・送料:500円
・家賃・光熱の按分:1,200円
・道具の減価償却按分:17円
合計原価=5,517円
販売手数料や利益を含めた価格決めのヒント
販売手数料が販売価格の10%と仮定するなら、販売価格Pは次の式で求めます。
P=原価 ÷ (1−手数料率−目標利益率)
例:原価5,517円、手数料10%、目標利益20%ならP=5,517÷(1−0.10−0.20)=5,517÷0.70=7,881円(小数は切り上げ)。
この章では、労務費とその他の間接費を抜かさず計上することで、赤字を防ぐ考え方と具体的な算出方法を示しました。
利益が出る販売価格の決め方【具体例つき】
1. 前提と考え方
利益が出る価格は「総原価(原価合計)+利益」で考えます。原価には材料費、労務費、諸経費(家賃・光熱費・機械償却など)を含めます。ここでは分かりやすく「コストプラス法」を使います。
2. 計算手順(シンプル)
1) 1個あたりの材料費を出す。
2) 1個あたりの労務費(作業時間×時給)を算出する。
3) 1個あたりの諸経費を按分する(例:月の固定費÷月生産数)。
4) 上記を合計して総原価を出す。
5) 総原価に希望利益率を掛けて販売価格を決める(価格=総原価×(1+利益率))。
3. 具体例(手作り石けん)
- 材料費:200円/個
- 労務費:30分×時給1,000円=500円/個
- 諸経費按分:150円/個
総原価=200+500+150=850円
希望利益率30%で価格=850×1.3=1,105円 → 切り上げて1,200円
この例では1個売るごとに約250円の利益(粗利益)を確保できます。
4. 価格決定のポイント
- マーケットチェック:同業他社の価格や顧客の支払い意欲を確認してください。
- 端数処理:1,105円を1,200円や1,080円など顧客に分かりやすい価格に調整します。
- 販売量とのバランス:生産量を増やせば諸経費は下がり、価格に余裕が生まれます。
- 利益率の設定:新商品は低め、安定した商品は標準以上にするなど戦略を持ちます。
5. 注意点
- 利益率は“売価に対する比率”と“原価に対する上乗せ(今回の計算)”で意味が変わります。混同しないでください。
- 定期的に原価を見直して価格を更新してください。
この手順を基に、まずは小さなロットで試し、販売データをもとに調整すると安定的に利益を確保できます。












