はじめに
目的
この章では、本書の目的と読み方をやさしく説明します。ホームページに自分や社員の顔写真を載せる際のリスクと、その対策を分かりやすく伝えることが目的です。実例を交えながら、企業や個人が取るべき注意点を整理します。
対象読者
中小企業の担当者、個人事業主、広報・人事担当者、または自分の写真を載せようと考えている方が対象です。専門知識は不要で、実務で使える知識を優先します。
本書の構成と使い方
第2章から第9章までで、顔写真掲載のリスクを具体的に解説し、最後に信頼と安全を両立する方法を示します。まずはリスクを理解し、その後で対策を検討してください。章ごとに例や注意点を挙げるため、必要な箇所だけ読んでも分かるようにしています。
大切にしたい視点
顔写真は信頼の一助になる一方で、個人情報や悪用のリスクを伴います。読み手の安全を優先し、安心して情報発信できる方法を一緒に考えましょう。
ホームページに顔写真を載せると、なぜリスクになるのか?
顔写真は個人情報の一部です
顔写真は見ただけでその人を認識できる重要な情報です。名前や所属と組み合わせると、第三者がその人物を特定しやすくなります。会社のスタッフ紹介ページに顔写真と役職が並ぶと、インターネット検索で個人を簡単に見つけられます。具体例として、写真と名前があればSNSや名刺情報と照合されやすくなります。
写真から推測できること
顔だけで年齢層や性別、服装や背景から所属(制服や名札)、居住地域の手がかりが得られます。例えばオフィスの背景に写った看板や風景で勤務地や居住地が推測されることがあります。趣味や職業のヒント(楽器、道具、スポーツウェアなど)も読み取られます。
公開後の拡散と消去の難しさ
インターネットに一度出した写真は簡単にコピー・保存・転載されます。スクリーンショットやSNSへの共有、ウェブアーカイブなどで元の掲載を消しても残る場合があります。完全に削除することは非常に難しく、後から問題が発覚しても取り返しがつかないことが多いです。
リスクが生む具体的被害例
公開された顔写真はプライバシー侵害や嫌がらせ、なりすましの材料になります。住所や勤務先が特定されるとストーキングや悪質な連絡、詐欺に使われる恐れがあります。企業が掲載する場合でも、個人の安全性に配慮する必要があります。
ホームページに顔写真を載せる主なリスク
はじめに
顔写真を載せると親しみや信頼を得やすくなりますが、同時にさまざまなリスクが生まれます。本章では代表的なリスクを分かりやすく列挙します。
1. プライバシー侵害・個人の特定
写真から氏名や居住地、勤務先を探されることがあります。例えば、背景に写った建物やユニフォームで所在地が特定される場合があります。
2. 個人情報保護の観点からの問題
本人の同意がない掲載は法的問題や苦情につながります。撮影時の同意確認や利用目的の明示が重要です。
3. なりすまし・詐欺の材料になる
同じ写真を使って偽アカウントが作られ、名義貸しや詐欺に利用されることがあります。求人や取引での悪用例が多く報告されています。
4. 嫌がらせ・いじめ・ストーキング
写真を手がかりに嫌がらせや追跡が行われる恐れがあります。特に個人情報をあわせて公開していると危険性が高まります。
5. 画像の改ざん・ディープフェイク被害
顔写真は合成や編集で別の文脈に使われやすく、SNSや動画で偽情報の素材にされるリスクがあります。
6. 企業イメージへの影響
社員写真の不適切な掲載は企業の信頼を損ないます。掲載前には社内ルールや確認手続きを整える必要があります。
プライバシー侵害と個人の特定リスク
はじめに
顔写真と氏名・会社名・部署・役職が同じページにあると、個人が簡単に特定されます。ここでは、なぜ特定が進みやすいのか、どんな被害が起きるのかを具体例で説明します。
個人が特定されやすい理由
- 名前と写真の組み合わせで検索が容易になる。検索エンジンやSNSで一致する情報を照合できます。
- 会社の情報があると、社員名簿や名刺情報と突き合わせられやすいです。
- 顔認証技術の進化で、公開写真から個人を割り出すツールが増えています。
第三者による転載・拡散の具体例
- 記事やページをコピーされ、別サイトで氏名と写真だけが抜き出されることがあります。
- 転載先でコンテキストが変わると、意図しない印象や誤解を生みます。
- 連絡先や業務内容が合わせて広まると、勧誘や不当な問い合わせが増える可能性があります。
精神的・生活上の被害
- 知らない相手からのメッセージや電話が増え、日常生活に支障が出る場合があります。
- プライバシーが侵害されることで不安やストレスが生じます。
身を守るためのポイント
- 必要最小限の情報にとどめる。顔写真を使う場合は、氏名や部署を詳しく載せない選択肢を検討してください。
- 写真掲載の同意を明確に取り、保存・転載の範囲を示す。
- 加工や背景のぼかしで個人特定を難しくする方法を活用する。
- 社内で掲載ルールを作り、定期的に見直すことが重要です。
個人情報保護法違反のリスク(同意なしの掲載)
概要
従業員や顧客の顔写真は「個人情報」に該当する場合が多く、本人の明確な同意なく掲載すると個人情報保護法に抵触する可能性があります。目的や掲載範囲を十分に説明しないと、本人の権利を侵害するおそれがあります。
具体的なリスク
- 同意なしの掲載は法違反となる可能性があるため、行政の指導や是正を受けることがあります。
- 肖像権やプライバシー権の侵害として損害賠償請求を受けることがあります。
- 記録や同意の管理が不十分だと、後から「同意していない」と主張されやすくなります。
実務上の注意点(例を交えて)
- 同意は口頭より書面や電子記録で取ると証拠になります。例えば、入社時に同意書を交付する、顧客にチェックボックス付きの確認画面を用意するなどです。
- 利用目的(社内紹介、広報、SNS掲載など)と掲載範囲(自社サイトのみ、第三者提供の有無)を具体的に示します。
- 同意撤回の方法と対応期間を明示しておくと、トラブルを防げます。
防止策
- 顔が判別できないように加工(モザイクやトリミング)する。
- 同意が得られない場合は掲載を控える。
- 同意書の保存期間と廃棄方法を決め、管理責任者を明確にする。
警視庁も無断使用を肖像権侵害と指摘しており、無断掲載は企業の信用にも悪影響を与えます。法的リスクを抑えるために、同意の取得と記録管理を徹底してください。
ソーシャル・エンジニアリング(なりすまし・詐欺)の材料になる
概要
顔写真と氏名・部署・役職が並ぶと、第三者が簡単に信頼性のある人物像を作れます。名前と顔の一致は説得力を増し、電話やメールで本人や上司を装う攻撃に使われやすくなります。
なりすましが起きやすい理由
- 顔写真で本人確認が取りやすくなるため、受け手が疑いにくくなる。
- 役職情報があると権威を示し、指示に従わせやすくなる。
具体的な手口(例)
- 電話で「私が上司です。緊急で振込してほしい」と指示する。
- メールで本人を装い、機密ファイルの送付やパスワード要求をする。
- SNSで偽アカウントを作り、同僚に接触して情報を引き出す。
対策(個人・組織両方)
- 顔写真と詳細な役職を同時に公開しない。最低限の情報に留める。
- 金銭や重要情報の依頼は、必ず別の手段で本人確認する運用を作る。
- 社内でなりすまし対策を周知し、疑わしい依頼は即確認する文化を育てる。
- 可能であればメール認証や二要素認証を導入する。
日常の小さな配慮が、被害を大きく減らします。
インターネット上での嫌がらせ・いじめ・ストーキング
概要
顔写真が公開されると、見知らぬ人や過去の知り合いに発見されやすくなります。SNSや匿名掲示板で写真が貼られたり、個人情報と結びつけられたりして、誹謗中傷・晒し・ストーキングの対象になる危険があります。
想定される被害
- 誹謗中傷:顔写真を使って悪意ある投稿やデマが拡散される。\
- 晒し投稿:個人を特定する情報とともに写真が共有される。\
- ストーキング:写真から生活圏を割り出され、直接の接触や監視につながる。\
- 子どもの場合:無自覚な掲載が将来のいじめや画像の長期保存につながる。
具体例
採用ページやスタッフ紹介に載せた写真を、元同級生や元同僚が見つけ匿名掲示板で話題にすることがあります。そこからSNSで拡散され、集中的な誹謗中傷や出身校・個人情報のリークに発展するケースが報告されています。
被害を減らすための対策(具体的)
- 掲載前に本人の明確な同意を得る。\
- 写真は顔全体を避けるか、サムネイルや横顔にする。\
- フルネームと結び付けない。役職のみの記載にする。\
- 公開範囲を限定する(会員専用ページやパスワード保護)。\
- 画像のメタデータ(撮影場所など)を削除する。\
- 子どもの写真は原則掲載しないか、モザイクや後ろ姿にする。
必要があれば、具体的な掲載例のチェックリストや同意書文例も作成します。ご希望があればお知らせください。
なりすまし・偽アカウント・ディープフェイク等への悪用
第三者によるコピーと流用
ネット上の顔写真は簡単に保存・転載できます。たとえばプロフィール写真をコピーして、別のSNSや出会い系で使えば、その写真を元に偽アカウントが作られます。実名や経歴を組み合わせると、信頼を得て不正に金銭を要求する詐欺に使われやすいです。
なりすましと具体的被害例
企業の担当者を装ったメールやメッセージに、本人の顔写真が使われると、取引先や顧客が騙される危険があります。知人になりすまして連絡を取り、個人情報や送金を促す手口も増えています。
ディープフェイクによる深刻な悪用
AI技術で顔を合成するディープフェイクは、性的な映像や違法な行為の映像に合成されるなど重大な被害を生みます。修正や証明が難しく、精神的な苦痛や reputational damage が大きくなります。
防止策(実践的な対策)
- 高解像度の顔写真は避け、必要ならトリミングや背景を加工する。
- 顔写真に目立つ透かしを入れる。
- SNSのプライバシー設定を強化し、公開範囲を制限する。
- 偽アカウントを見つけたら速やかに通報し、法的相談も検討する。
これらを組み合わせて被害リスクを下げましょう。
企業イメージ・信頼性への悪影響
なぜ企業イメージが損なわれるか
従業員や関係者の顔写真を無断で掲載したり、古い写真を放置すると、プライバシーや人権への配慮が不足していると見なされます。SNSで批判が広がると、企業全体の信頼に直結します。
具体的な悪影響
- 顧客の信頼低下:個人情報の扱いが不適切だと感じられ、取引を控えられることがあります。
- 採用への影響:応募者が企業文化に不安を覚え、採用が難しくなります。
- 法的・金銭的リスク:同意のない掲載で違反指摘や賠償請求につながる場合があります。
実際の例(簡潔)
- 退職者の写真が残り、社外の人が古い情報で誤解する。
- 社内の嫌がらせを助長するような写真の使い方が外部で非難される。
防止策(具体的)
- 明確な同意取得と記録を行う。掲載目的・期間を示す。
- 掲載リストを定期点検し、退職者は速やかに削除する。
- 顔をぼかす・イラスト化するなど匿名化を検討する。
- 社員教育と苦情対応窓口を設け、SNSでの炎上に速やかに対応する。
したがって、顔写真の運用を慎重に設計し、継続的に管理することが企業の信頼維持に欠かせません。












