はじめに
本ドキュメントの目的
本書は、AWS EC2の料金体系をわかりやすく整理することを目的としています。料金の基本、インスタンスごとの違い、割引の仕組み、比較や具体例まで幅広く扱います。これにより、コストの見積もりや最適化に役立てていただけます。
想定読者
クラウド利用を検討中の方、運用コストを見直したいエンジニアや担当者、コスト感を把握したいマネージャーなどを想定しています。専門用語は最小限に留め、具体例で補足します。
本書の使い方
各章で料金に関するポイントを段階的に説明します。第2章は料金体系の全体像、第3章はインスタンスタイプ別の目安、第4章以降では割引や比較、通信コスト、GPU動向などを扱います。実際の見積もりはAWSの公式料金表も参照してください。
注意点
料金はリージョンや時間帯、オプションによって変わります。ここで提示する情報は理解の助けとし、最終判断は実際の料金を確認してください。
AWS EC2の料金体系の完全ガイド
概要
Amazon EC2は基本的に従量課金制です。用途や運用形態に合わせて、オンデマンド、リザーブドインスタンス、Savings Plans、スポットの4種類から選べます。以下で分かりやすく説明します。
オンデマンド
必要なときにインスタンスを起動し、使った分だけ支払います。事前契約が不要で、テスト環境や短期のバッチ処理向けです。柔軟性が高く、突然の負荷増にも対応しやすいです。
リザーブドインスタンス
1年または3年の契約で割引を受けられます。長期間安定して稼働させる本番環境に向きます。契約形態によって支払い方法が異なり、割引率と柔軟性のバランスを選べます。
Savings Plans
使用量(時間あたりのvCPUやメモリ)を一定期間コミットすることで割引が受けられます。インスタンスタイプの変更やリージョン移動にも柔軟に対応しやすい点が特徴です。
スポットインスタンス
余剰キャパシティを割安で利用できます。最もコストを抑えられますが、中断されるリスクがあります。バッチ処理や再起動可能なワークロードに適します。
比較のポイント
短期や不定期ならオンデマンド、長期で安定稼働ならリザーブドかSavings Plans、低コストで中断許容ならスポットを検討します。運用の柔軟性とコスト削減のバランスを基準に選ぶと良いです。
コスト管理のヒント
タグ付けで利用状況を把握し、未使用インスタンスを停止する習慣をつけます。試算ツールで想定利用料を出し、最適な契約を決めてください。
注意点
契約前に稼働パターンを分析してください。割引は魅力的ですが、利用が想定と異なると逆に高くなることがあります。
インスタンスタイプ別の月額料金目安
前提
価格は東京リージョン(2025年6月時点)、Linuxのオンデマンド想定、24時間稼働の概算月額です。ストレージや通信は含みません。
主なインスタンス例と目安
- t3.small:約2,800円/月
- 特徴:低コストで軽い処理向け。コーポレートサイトや小規模なAPIに最適です。
- m5.large:約13,000円/月
- 特徴:バランス型で一般的なWebアプリや中規模サービスに向きます。CPUとメモリのバランスが良いです。
- m5.xlarge:約28,800円/月
- 特徴:性能に余裕があり、トラフィック増加や複数のワーカーを動かす用途に適します。
運用のヒント
- スケールで対応:負荷に合わせてインスタンス数を増減すると無駄を減らせます。
- コスト削減策:長期利用ならリザーブドや Savings Plan、短期ならスポットを検討してください。
- 注意点:記載額は目安です。OSやリージョン、稼働時間によって変動します。
リザーブドインスタンスによる割引効果
概要
リザーブドインスタンス(RI)は一定期間インスタンスを予約する代わりに割引を受ける仕組みです。利用時間が長く安定しているサーバーに向きます。
支払いオプションと割引率
RIは支払い方法で割引率が変わります。代表例は以下の通りです。
– 全額前払い(All Upfront):最も割引率が高い
– 一部前払い(Partial Upfront):中程度の割引
– 前払いなし(No Upfront):毎月の請求で割引
一般的に、1年契約の全額前払いでオンデマンド比約4割(40%)の割引、3年契約の全額前払いでは最大で約6割(60%)の割引が可能です。
料金差の具体例
仮にオンデマンドが0.10 USD/時の場合、月(30日)では0.10×24×30=72 USDになります。1年・全額前払いで40%割引なら約43.2 USD/月、3年・全額前払いで60%割引なら約28.8 USD/月となります。前払い額は契約期間で割って実効の月額を出します。
使うべきケースと注意点
- 長期間、同じインスタンスを使う予定なら有利です。短期や変動が激しい負荷には不向きです。
- Standard RIは割引率が高く柔軟性は低め、Convertible RIは設定変更が可能で柔軟性が高いが割引はやや低いです。
- ゾーン指定のRIは容量確保ができますが、リージョン単位より制約が増えます。
契約前に過去の利用状況を確認し、ブレークイーブン(月数)を計算して判断することをおすすめします。
EC2とFargateの料金比較
前提
バッチサーバーを例に、同等のリソースで比較します。目安として、EC2(t4g.medium)は月額約33ドル、ECS on Fargateは月額約23.7ドルとします。数値は地域や設定で変わりますが、傾向を示す参考値です。
コスト構造の違い
- EC2はインスタンス単位で課金します。長時間稼働すると単価が下がりやすいです。運用ではOSの管理やパッチ適用が必要になります。
- Fargateは使った分だけ課金します。秒単位で請求され、アイドル時間を課金しません。サーバー管理の手間を減らせます。
稼働時間別の判断
- 1日8時間程度の断続的なバッチなら、Fargateの「使った分だけ」課金が有利で、月額約23.7ドルが現実的です。
- 24時間継続稼働する場合は、EC2を常時稼働させた方がトータルで安くなることが多いです(t4g.mediumで約33ドル/月の目安)。
運用面の違いと注意点
- スケールや自動化を重視するならFargateが簡単です。
- 大量に長時間動かすならEC2でReservedやSavings Planを組むとさらに安くなります。
- 停止・起動でコストを抑えられる場合はEC2の運用方法次第で結果が変わります。
選び方の目安
- 短時間・断続実行:Fargate
- 常時稼働・コスト最優先:EC2(割引併用を検討)
小規模構成での月額コスト目安
想定構成と前提
- EC2: t3.micro(Webサーバー、常時稼働)
- RDS: db.t3.micro(単一AZ、バックアップ設定あり)
- S3: 静的ファイル保管(例:100GB)
- CloudFront: キャッシュ配信(例:月間200GB転送)
- Route53: 1ドメイン管理
- SSL: ACMの無料証明書を利用
各項目の目安コスト(目安は東京リージョン想定)
- EC2(t3.micro): 常時稼働で月およそ1,000〜2,000円
- RDS(db.t3.micro): 月およそ2,000〜6,000円(バックアップやストレージで変動)
- S3: 容量100GBで月数百円〜1,000円程度
- CloudFront: 転送200GBで数千円(帯域とリクエスト数で増減)
- Route53: ホストゾーンの基本料金は数百円、クエリ数で追加
- SSL(ACM): 無料
合計イメージ
- 軽めのトラフィックで運用する場合、合計は概ね1万円〜2万円/月のレンジに収まります。トラフィック増加やバックアップ・スナップショットの増加で費用は上がります。
コストを抑るポイント
- EC2はアイドル時に停止するか、スケールダウンで費用削減
- RDSは不要なら自動スケールや停止を検討(運用可能な時間帯のみ稼働)
- S3はライフサイクル設定で古いデータを安価なストレージに移行
- CloudFrontを有効にしてオリジンサーバーの転送を削減
- モニタリングで転送量やI/Oの増加を早めに検知
注意点
- データ転送(アウト)は最も変動しやすい要素です
- バックアップやスナップショット容量も意外に増えます
- まずは実績を数ヶ月分見て、使用状況に合わせた調整をおすすめします。
通信料金の計算例
前提
- リクエスト数:200,000件
- 1リクエストあたりの転送量:2MB
- 合計転送量:400GB(200,000 × 2MB)
- この例では合計のうち100GBが非課金扱いで、課金対象が300GBとします
計算手順(わかりやすく)
- 合計転送量を求める
- 200,000件 × 2MB = 400,000MB = 400GB
- 課金対象量を確定する
- 合計400GB − 非課金100GB = 課金対象300GB
- 単価を掛ける
- この例では300GBで約34.2ドルになる想定です(後述の単価で計算)
単価の仮定と内訳
- 課金額34.2ドルを課金対象300GBで割ると、約0.114ドル/GBとなります。
- したがって、300GB × 0.114ドル/GB = 34.2ドル
- 円換算は為替や小数処理で前後しますが、概算で約4,900円です。
1リクエストあたりの目安
- 34.2ドル ÷ 200,000件 ≒ 0.000171ドル/リクエスト
- 円に直すと概ね0.02〜0.03円/リクエストのイメージです(概算)
注意点
- 実際の請求はリージョンやサービス(インバウンド/アウトバウンド、CDNの有無など)で単価が変わります。必ず利用するサービスの料金表で確認してください。
- リクエスト数やデータ量を抑える工夫(圧縮、キャッシュ)で通信費を下げられます。
GPU高速インスタンスの最新料金動向
背景
2025年5月31日付けで、Amazon EC2のNVIDIA GPU搭載インスタンスの料金が大幅に引き下げられました。特にP5シリーズで改定があり、GPUを多用する機械学習の学習や推論、グラフィックス処理でコストパフォーマンスが改善しています。
何が変わったか(簡単な説明)
- P5などのハイエンドGPUインスタンスの時間単価が引き下げられました。これにより、同じ作業をより安く実行できます。
- リソース集約型のワークロードでの採算ラインが下がり、GPU活用のハードルが低くなりました。
影響の見方(具体的な試算方法)
- AWSの時間単価を確認します。2. “利用時間(時間/月)×時間単価”で月額を算出します。3. 学習バッチや推論リクエストごとにGPU使用率を測り、実稼働時間を見積もります。これで実際の月額に近い値が出ます。
利用時の注意とコスト最適化のコツ
- SpotインスタンスやSavings Plans、リザーブドを組み合わせて割引を活用してください。
- GPU利用率が低い場合はインスタンスタイプを見直すか、バースト処理に切り替えて割安な時間帯で実行すると効果的です。
- モニタリングを設定し、稼働時間と利用率を定期的に確認してください。
選ぶべきケース(目安)
- 大規模モデルの学習や大量推論を行う場合は、改定後のP5が有力候補です。軽めの推論や少量学習なら中~小型のGPUインスタンスで十分なこともあります。
必要に応じて、具体的なインスタンスタイプ名や見積り手順を一緒に計算します。












