はじめに
本ドキュメントの目的
このドキュメントは「Webサーバーレス」について、基本概念から仕組み、種類、従来のIaaS/PaaSとの違いまでを分かりやすく整理して解説します。実務で使える視点を重視し、専門用語は最小限にして具体例で補います。
サーバーレスとは簡単に
サーバーレスとは、開発者がサーバーの管理を意識せずにコードを実行できる仕組みです。必要なときにだけ実行環境が立ち上がり、処理が終わると自動で止まります。代表的な例はFaaS(Function as a Service)で、AWS Lambdaなどがよく知られています。
本書で扱う範囲
- サーバーレスの基本概念と従来のWebサーバーとの違い
- イベント駆動の仕組みと動作の流れ
- Web開発で用いられるサーバーレスの種類(FaaS、コンテナベース、BaaSなど)
- IaaS/PaaS/従来Webサーバーとの比較と使い分けの考え方
読者対象と前提
クラウドやWeb開発の基礎知識がある方を想定しています。専門知識が浅くても読み進められるように、用語には具体例を添えます。
読み方の提案
まずは第2章で基礎を押さえ、第3章で仕組みを理解してください。実際の設計や選択に迷う場合は第5章の比較を参照すると判断しやすくなります。
第1章 サーバーレスとは何か?Webサーバーと何が違うのか
概要
サーバーレスとは、開発者がサーバーやOSを直接管理せずにコードを動かせるクラウドの仕組みです。物理サーバーや仮想マシンの細かな設定はクラウド事業者が行い、利用者は関数やコンテナ単位で処理を用意すれば動きます。サーバーは存在しますが、意識する必要がない点がポイントです。
サーバーレスの特徴(具体例付き)
- イベントで起動します。例:ファイルがアップロードされたら処理を走らせる。
- 必要なときだけ実行します。使った分だけ課金されます。
- インフラ運用を削減できます。例:OSのパッチ適用やWebサーバーの設定を自分で行いません。
従来のWebサーバーとの違い
- 従来:ApacheやNginxを自分で構築し、常時稼働させます。アクセス増減に応じたスケールは設定や運用が必要です。
- サーバーレス:常時立ち上げずに短時間で処理を始めます。APIやバッチ処理を小さな単位で配置できます。
実用例
- 簡単なAPI:コードを関数としてクラウドに置き、HTTPリクエストで呼び出す。サーバー設定は不要です。
- 静的サイト+動的機能:静的ファイルはCDNに置き、フォーム送信などは関数で処理します。
- 定期実行タスク:毎朝データ集計を自動で実行します。
メリットと注意点
メリット:運用工数の削減、初期コストの抑制、自動スケール。注意点:実行時間やメモリの制限、起動遅延(コールドスタート)、ベンダー依存のリスクがあります。
第2章 サーバーレスの仕組み:イベント駆動と動作ステップ
概要
サーバーレスは常時動くサーバーと違い、何かが起きたときだけ実行環境を立ち上げて処理します。リクエストがない時間帯はリソースを使わないため、無駄な課金が発生しません。ここでは典型的な動作の流れと、実務で気を付けたいポイントをわかりやすく説明します。
動作ステップ(代表的なFaaSの流れ)
- イベント発生
-
ユーザーのHTTPリクエスト、ファイルのアップロード、スケジュール実行、データベースのトリガーなどが該当します。
-
実行環境の用意
-
クラウド側が関数用のコンテナや実行プロセスを立ち上げます。短時間で準備しますが、初回は時間がかかることがあります(コールドスタート)。
-
処理の実行
-
起動した関数がリクエストを処理します。処理は短時間で終えるのが基本です。長い作業はキューに分けて非同期処理にするのが有効です。
-
環境の解放
- 処理終了後、一定時間アイドル状態が続くと実行環境を破棄します。破棄されると次回は再び起動が必要になります(これがコールドスタートの原因です)。
特性と実践的対策
-
コールドスタート: 起動遅延のことです。小さなコードや軽いランタイムにする、プロビジョンドコンカレンシーを使う、定期的に軽いリクエストでウォームアップするなどで緩和できます。
-
実行時間制限: 多くのFaaSは最大実行時間があります。長時間処理は分割してジョブキューに送ると安全です。
-
ステートレス設計: 関数内に状態を持たず、必要なデータは外部のデータベースやキャッシュに保存します。これでスケールや再起動に強くなります。
これらの流れを理解すると、サーバーレスの利点と制約を踏まえた設計がしやすくなります。
第3章 Web開発におけるサーバーレスの種類
FaaS(Function as a Service)
サーバーレスの中心はFaaSです。関数単位でクラウドにアップロードし、イベントに応じて実行します。代表例はAWS Lambda、Azure Functions、Google Cloud Functionsです。HTTPリクエストでWeb APIを実装したり、ファイルアップロードをトリガーに画像処理を行ったり、バックエンドの多くを置き換えられます。特徴は短時間実行・自動スケール・運用負担の軽減です。
コンテナベースのサーバーレス
近年はコンテナを使ったサーバーレスも増えています。AWS FargateやGoogle Cloud Runのように、コンテナをそのままデプロイして自動で起動・停止できます。既存のライブラリや環境が必要な場合、長時間処理や特殊な依存関係がある処理に向きます。
BaaS(Backend as a Service)
BaaSは認証・データベース・ストレージなどをサービスとして提供します。FirebaseやAuth0、Supabaseが例です。サーバー側のコードを書かずに機能を使えるため、フロント中心の開発で早く動かせます。
使い分けと注意点
使い分けは目的と制約で決めます。小さなAPIやイベント処理はFaaS、複雑な依存や長時間処理はコンテナ、認証やDBはBaaSが便利です。注意点として、FaaSはステートレス設計が前提で、初回の遅延(コールドスタート)や外部サービス呼び出しの遅延に気をつけてください。また、実行時間や呼び出し頻度によってコスト構造が変わるため、負荷パターンを把握して選択すると良いです。
第4章 サーバーレスとIaaS/PaaS/従来Webサーバーの違い
概要
サーバーレス(FaaS)、IaaS、PaaSはそれぞれインフラの管理範囲や実行形態、課金方式が異なります。ここでは分かりやすい具体例を交えて違いを説明します。
IaaS(仮想サーバー)の特徴
- ユーザーがOSやミドルウェアを管理します。例:仮想マシン(VPSやクラウドのVM)。
- サーバーは常時起動が基本で、設定や更新は自分で行います。
- 課金はVM単位や時間単位が中心です。レガシーなアプリや細かい制御が必要な場合に向きます。
PaaS(プラットフォーム)の特徴
- プラットフォーム側がミドルウェアやランタイムを管理します。例:HerokuやGoogle App Engine。
- デプロイは簡単で、自動でスケールすることが多いですが、基盤は常時稼働する設計です。
- 開発効率が高く、運用の手間を減らしたいときに便利です。
サーバーレス(FaaS)の特徴
- 関数はイベントに応じて起動し、処理が終わると停止します。例:AWS Lambda。
- 課金は呼び出し回数と実行時間に応じた従量制で、使わないときは費用がほぼ発生しません。
- 短時間処理やトラフィックが変動する用途に向きます。コールドスタートや実行時間制限に注意が必要です。
比較のポイント
- 管理責任:IaaSはユーザー、PaaSは共有、サーバーレスはクラウド側が多く担います。
- 実行形態:IaaS/PaaSは基本常時稼働、サーバーレスはイベント駆動で必要時のみ動きます。
- コスト:固定資源の維持費が不要な分、サーバーレスは小規模・断続的負荷で有利です。したがって、無駄なリソースを減らせます。
- 制約:サーバーレスは実行時間や状態管理の制約があり、長時間処理や細かなチューニングには向かない場合があります。
選び方の目安
- レガシーや常時稼働が前提ならIaaS。
- 開発効率とある程度の自動スケールが欲しいならPaaS。
- トラフィック変動が大きく、短時間処理中心ならサーバーレスを検討してください。












