はじめに
本記事は、AWS Organizationsについてこれから学ぶ方のための導入章です。まずはサービスの全体像やなぜ使うのかを分かりやすく伝えます。
背景と目的
企業やプロジェクトが大きくなると、複数のAWSアカウントを使い分ける場面が増えます。アカウントごとに設定や請求を管理すると手間がかかり、ミスも起きやすくなります。AWS Organizationsは、そうした複数アカウント運用の負担を減らし、管理の一元化やポリシー適用を簡単にするための仕組みです。
この記事で学べること
- AWS Organizationsの概要と役割
- 基本的な用語と構造の読み方
- 代表的な機能と使いどころ
- 組織での導入メリット
想定読者
クラウド運用担当者やこれからマルチアカウント運用を始める技術者、経営側でコストやガバナンスに関心のある方を想定しています。専門用語は最小限にし、具体例を交えて丁寧に解説します。
次章からは、具体的な構成や用語の説明に進みます。
AWS Organizationsとは何か
概要
AWS Organizationsは、複数のAWSアカウントを一つの「組織」としてまとめて管理するためのサービスです。会社やチームごとに分けたアカウントを、管理アカウントから一元的に扱えます。請求やセキュリティ設定をまとめて管理することで、運用の手間を減らせます。
何ができるか
- アカウントのグループ化:部署やプロジェクトごとにアカウントを整理できます。例:開発用と本番用を分けて管理。
- ポリシー配布:全体に適用する制限(サービス利用の可否)を一括で設定できます。難しい操作は少なく、ガードレールとして使えます。
- 請求の一括管理:複数アカウントの料金をまとめて請求し、経理処理を簡素化します。
主な特徴
- 中央管理:1つの管理アカウントから設定や権限を配布します。
- 追加費用なし:基本機能は追加料金なしで利用できます。
- 柔軟性:小規模から大規模まで、段階的に導入できます。
利用シーンの例
- スタートアップ:開発と本番を別アカウントに分け、誤操作を防止。
- 大企業:部署ごとにアカウントを分け、請求とセキュリティを集中管理。
- マルチチーム環境:チームごとに権限を分けつつ、会社全体の方針は統一。
AWS Organizationsの基本構造と用語
この章では、AWS Organizationsでよく使う基本用語とその関係を、具体例を交えてやさしく説明します。
組織(Organization)
AWSアカウントの集合体です。会社全体やチーム単位でまとめます。例:”Acme社のAWS組織”のように全体を管理します。
管理アカウント(Management Account)
組織を管理する親アカウントです。請求や組織の設定、メンバー招待などを行います。普段の開発で使うアカウントとは分けるのが安全です。
メンバーアカウント(Member Account)
管理アカウントに招待される各アカウントです。開発用・本番用・検証用など用途ごとに分けて運用します。
Organizational Unit(OU)
アカウントを論理的にグループ化する箱です。階層を作れます。例:Root配下に「開発」「本番」「共通」のOUを作り、それぞれに該当アカウントをぶら下げます。
サービスコントロールポリシー(SCP)
組織全体の“上限ルール”です。アカウント内で付与された権限を超えないように制限します。例:特定リージョンでしかリソースを作れない、あるいは特定サービスの利用を禁止する、など。
典型的な構成
OrganizationのRootの下に管理アカウントがあり、その下に複数のOU(開発・本番・共通)がぶら下がります。SCPはOU単位やRootに適用し、子OUやアカウントに継承されます。
AWS Organizationsの主な機能
1) アカウントの集中管理とグルーピング
管理アカウントからメンバーアカウントを新規作成したり招待したりできます。組織単位(OU)で部門別や環境別にグループ化でき、たとえば「開発」「検証」「本番」といった階層でポリシーを適用できます。これにより設定の重複を減らし運用を簡素化できます。
2) 一括請求(Consolidated Billing)
複数アカウントの料金を管理アカウントに集約します。たとえば開発チームと本番環境のアカウントが別でも、まとめて請求を確認でき、割引や利用枠の最適化がしやすくなります。請求の内訳もアカウント別に確認できます。
3) サービスコントロールポリシー(SCP)によるガバナンス
SCPは組織レベルでの権限制限です。IAMポリシーより上位に働き、許可できるサービスや操作を制限します。例として全アカウントで特定リージョンのリソース作成を禁止する、といったガードレールを設定できます。
4) セキュリティ・監査・標準設定の一元適用
CloudTrailやAWS Configと連携して監査ログや設定チェックを全アカウントに適用できます。たとえば、全アカウントでログを中央のS3に集約し、コンプライアンス違反を自動検出する運用が可能です。
AWS Organizationsを利用するメリット
マルチアカウント運用の効率化
AWS Organizationsは複数アカウントをまとめて管理できます。例えば、部署ごとや環境ごとにアカウントを分けると、請求やコスト管理が分かりやすくなります。組織単位(OU)ごとに共通設定やポリシーを適用できるため、個別の手作業を減らし運用コストを下げられます。
セキュリティの強化
本番環境と開発環境を別アカウントにすると、問題が一方に波及するリスクを小さくできます。さらに、SCP(サービス制御ポリシー)で危険な操作を組織全体やOU単位で制限できます。たとえば、開発アカウントで本番のデータ削除ができないように制約をかけると、誤操作や権限濫用を防げます。
利用による具体的な利点
- 統合請求でコストの見える化が進み、無駄な支出を早く発見できます。
- 共通のログ収集や監査設定を中央で管理し、監査対応が容易になります。
- アカウント分離により障害や侵害の影響範囲(blast radius)を限定できます。
導入時の注意点
アカウント設計は後からの変更が大変です。まずは業務や責任範囲を整理し、どの単位でアカウントを分けるかを決めてください。また、ポリシーの適用範囲や例外運用のルールも事前に定めると運用が安定します。












