はじめに
本書の目的
この文書は、AWSのCDNサービスであるAmazon CloudFrontについて分かりやすく解説します。基本の仕組み、導入で得られる主な利点、構成要素や典型的な利用パターン、関連キーワードを順を追って説明します。初めて触れる方でも全体像をつかめるように作りました。
読者想定
- ウェブサイトやモバイルアプリの表示速度を改善したい方
- AWSでの配信構成を検討しているエンジニアや運用担当者
- CloudFrontに興味はあるが専門用語が多くて戸惑っている方
専門用語は最小限にし、具体例で補足します。
本書での流れ
各章で次の項目を扱います。
– CDNとAWSの基本(概念を噛み砕いて説明)
– CloudFrontを選ぶメリット(なぜ使うのか)
– 構成要素の概要(主要な設定や要素)
– よくある利用パターン(静的コンテンツ、動画配信など)
– さらに調べると良いキーワード
読み方のポイント
まず第2章でCDNの全体像を押さしてください。その後で実際の構成や利用例に進むと理解が深まります。例を交えて丁寧に説明しますので、気軽に読み進めてください。
CDNとAWSの基本
概要
CDN(コンテンツ配信ネットワーク)は、世界中にある「キャッシュサーバー(エッジ)」からユーザーの近くでデータを配信する仕組みです。配信元(オリジン)にある画像や動画、ウェブページをエッジに置くことで、遅延を減らし負荷を分散します。
仕組み(やさしく)
- ユーザーがアクセスすると、最寄りのエッジがまず応答します。
- エッジに該当データがなければオリジンから取得してキャッシュします(これをキャッシュミスと言います)。
- 一度キャッシュされると、次からはエッジが直接応答して高速化します(キャッシュヒット)。
AWSでの代表例
AWSのCDNはAmazon CloudFrontです。オリジンにS3(静的ファイル)、EC2(アプリケーション)、ALB(ロードバランサー)、あるいはオンプレミスを指定できます。SSL対応やアクセス制御、ログ取得も可能です。
よく使う用語(簡単に)
- TTL:キャッシュの有効時間。短いと最新を反映しやすく、長いと高速化に有利です。
- キャッシュヒット/ミス:エッジにデータがあるかの違いです。
利用の流れ(簡単)
- オリジンを用意(S3やALB)
- CloudFront配信を作成
- ドメインや証明書を設定して配信開始
次章ではCloudFrontを使う具体的なメリットを説明します。
CloudFrontを使うメリット
配信の高速化とレイテンシ低減
CloudFrontは利用者に近いエッジロケーションからコンテンツを返します。例えば東京のユーザーに対して東京近辺のエッジから応答できれば、読み込み時間が短くなり体感速度が向上します。静的ファイルだけでなく、動的なAPIレスポンスでも効果を出せます。
オリジン負荷の軽減とコスト削減
キャッシュが効くとオリジンサーバーへのリクエストが減ります。トラフィックの多い静的ファイルや繰り返し呼ばれるAPIの応答をエッジで捌ければ、サーバーのスケールを抑えられ、運用コストを下げられます。少ないリクエストで済むため障害時の影響も小さくなります。
セキュリティと可用性
CloudFrontにはDDoS対策が自動で付く(AWS Shield Standard)ため、外部攻撃による影響を受けにくくなります。HTTPS対応や独自ドメインの設定、WAFとの連携で不正なアクセスを制御できます。
柔軟な配信設定
キャッシュの有効期限やパス単位の挙動を細かく設定できます。必要に応じて特定のAPIはキャッシュしない、静的は長くキャッシュする、といった運用が可能です。ログやモニタリングも用意されていて、配信状況の確認や改善に役立ちます。
運用面の利便性
マネジメントコンソールやAPIで設定を一元管理できます。既存のS3やロードバランサー、カスタムサーバーと組み合わせやすく、段階的に導入しやすい点もメリットです。
ざっくり構成要素
オリジン(Origin)
オリジンは元のコンテンツを置く場所です。具体的には、S3バケット(静的ファイル)、ALBやEC2(動的コンテンツ)、オンプレのWebサーバーなどを指します。CloudFrontはここからコンテンツを取得してユーザーに配信します。
エッジロケーション
エッジロケーションは世界中に分散したキャッシュ拠点です。ユーザーは物理的に近いエッジから配信を受けるため、応答が早くなります。最初はオリジンから取得し、その後はエッジにキャッシュします。
ディストリビューション
ディストリビューションはCloudFrontの設定単位です。オリジンの指定、配信パス(どのURLを扱うか)、キャッシュTTL、HTTPSの設定などをまとめます。1つのサイトに対し1つ以上のディストリビューションを作成します。
キャッシュとTTL
キャッシュはエッジに保存する時間(TTL)で制御します。短くすると最新を反映しやすくなり、長くするとオリジン負荷が下がります。URLごとに設定でき、ヘッダーやクエリで細かく制御できます。
その他の要素
- ビューワプロトコルポリシー:HTTP/HTTPSの受け入れを決めます。
- オリジングループ:複数オリジンを組み、フェイルオーバーできます。
- 無効化(Invalidation):キャッシュを強制的に消す操作です。
- セキュリティ:署名付きURLやCookieでアクセス制御できます。
- エッジ実行:Lambda@EdgeやCloudFront Functionsでリクエスト処理をカスタマイズできます。
よくある利用パターン
1) S3でホスティングした静的サイト・SPAの配信
S3に置いたHTML/CSS/画像や、シングルページアプリ(SPA)をCloudFront経由で配信すると表示が速くなり、HTTPSも簡単に実現できます。例:index.htmlを返す設定や、404をindex.htmlにフォールバックする設定でルーティング問題を避けられます。
2) EC2やALBの前に置く
動的なWebサーバやAPIをALB/EC2で動かしている場合、CloudFrontを前段に置くとキャッシュで負荷を下げられます。API応答は短時間キャッシュ、静的リソースは長めにするなど振る舞いを分けます。
3) 大容量メディアやファイル配信
動画やISO、ソフト配布など大きなファイルはエッジから配信すると回線負荷と遅延を抑えられます。プライベート配信には署名付きURLやCookieを使います。
4) 可用性・セキュリティ強化
CloudFrontはWAFやAWS Shieldと組み合わせることで不正アクセスやDDoS対策を一括で行えます。オリジンの障害時はオリジングループでフェイルオーバーを設定できます。
5) エッジでの処理追加
Lambda@EdgeやCloudFront Functionsでリダイレクト、ヘッダー追加、A/Bテストなどをエッジで行えます。小さな処理は関数で済ませるとオリジンサーバの負荷が減ります。
他に調べるとよいキーワード
Amazon CloudFront 料金
データ転送量とリクエスト数で課金されます。例えば配信量が多い動画サイトは転送量が主なコスト要因になります。料金表やリージョン別単価を確認すると見積もりが立てやすいです。
CloudFront S3 設定 手順
S3をオリジンにして静的サイトを配信する基本手順です。公開設定やバケットポリシー、オリジンアクセスアイデンティティの設定を順に調べると実装がスムーズです。
CloudFront WAF Shield
WAFは悪意あるアクセスをブロックする仕組みで、ShieldはDDoS対策です。WAFルールの作成例やShieldの保護範囲を確認するとセキュリティ設計に役立ちます。
キャッシュポリシーとTTL
Cache-Controlやオブジェクトごとの有効期限をどう設定するかが重要です。頻繁に更新するファイルと変更が少ないファイルで使い分けると通信量を抑えられます。
カスタムドメインと証明書(ACM)
独自ドメインを使う場合の手順と無料のACM証明書の発行方法を調べておくと導入がスムーズです。
ログとモニタリング
CloudFrontアクセスログ、CloudWatchメトリクスでトラフィックやエラーを監視します。課金やパフォーマンスの改善に直結します。
キャッシュの無効化(Invalidation)と署名付きURL
キャッシュを強制的に更新する方法と、限定配信のための署名付きURL/クッキーの用途を理解しておくと便利です。
Lambda@Edge / CloudFront Functions
レスポンス改変や認証の前処理など、エッジで軽い処理を行う技術です。用途に応じて使い分けを調べてください。












