はじめに
概要
Adobe Experience Manager(AEM)は、Adobeが提供する企業向けのコンテンツ管理プラットフォームです。Webページの制作・管理と、画像や動画などのデジタル資産(DAM)を一つの仕組みで扱えます。多言語や多数の拠点にまたがる大規模なサイト運用や、複数チャネルへの配信を効率よく行えます。
本ガイドの目的
この連載では、AEMの基本から主な機能、強み、実際の使われ方、他のCMSとの違いまで順を追って分かりやすく説明します。専門用語は必要最小限に留め、具体例を挙げながら解説しますので、初めてAEMに触れる方でも理解しやすい構成にしています。
対象読者
- マーケティングやコンテンツ制作の担当者
- ウェブサイトの運用・管理を担当するIT部門
- CMSの導入を検討している経営層やプロジェクトマネージャー
それぞれの立場で知っておきたいポイントを取り上げます。
読み方の目安
第2章以降で機能や利用シーンを詳しく説明します。まずは全体像をつかみたい方は本章と第2章だけ読めば要点が分かります。導入や比較を考えている方は、後半の章も順にご覧ください。
AEMとは
概要
AEM(Adobe Experience Manager)は、Adobeが提供する企業向けのクラウド型CMSです。複数の拠点や多言語に対応する大規模サイトの構築・運用に向いています。Webサイトだけでなく、モバイルアプリやメールなど、さまざまなチャネルへ一元的にコンテンツを配信できます。
主な特徴(やさしい説明)
- コンテンツ管理:文章や画像をテンプレートで管理し、担当者が簡単に更新できます。たとえば、各国の支店が共通テンプレートでローカライズして公開できます。
- デジタル資産管理(DAM):写真や動画を整理し、使いたい素材をすぐに探せます。マーケティング素材の再利用が楽になります。
- 部門ごとのワークフロー:編集→承認→公開という流れを設定でき、公開ミスを減らします。
- 多チャネル配信:同じコンテンツをWebとアプリで使い分けられます。
誰が使うか・利用例
マーケティング担当者がよく使います。たとえば、海外展開する企業が各国ページを一括で更新したり、キャンペーンを複数チャネルへ同時に配信したりします。
導入時のポイント
柔軟性が高い反面、初期設計が重要です。目的に合わせたテンプレート設計や運用ルールを事前に決めると運用がスムーズになります。
主な機能
Webコンテンツ管理
AEMはページ編集やテンプレート管理、コンポーネントベースのオーサリングを提供します。編集者はドラッグ&ドロップでヘッダーや本文、画像ブロックを配置でき、コーディング不要で更新できます。テンプレートを用意するとブランドやレイアウトを統一できます。
デジタルアセット管理(DAM)
画像・動画・ドキュメントを一元管理します。ファイルにタグや説明を付けて検索しやすくし、自動でサイズ違いを作成したり動画をトランスコードしたりできます。マーケティング素材の再利用が楽になります。
マルチサイト/多言語管理
複数のサイトや言語を同じプラットフォームで管理できます。原稿の継承や翻訳ワークフローを使い、各国向けに効率よく展開できます。サイト間で共通部分を保ちながら地域差を出せます。
ワークフローと権限管理
作成→レビュー→公開といった承認フローを設定できます。ステージング環境で確認した後に本番へ反映し、ロールごとに閲覧・編集権限を細かく管理します。
パーソナライゼーション
ユーザーの属性や行動に応じて表示コンテンツを変えられます。例えば地域や過去の閲覧履歴に基づいておすすめを出すことが可能です。ABテストやセグメント管理とも連携します。
フォーム機能
問い合わせや資料請求のフォームを作成できます。入力チェックやスパム対策、CRMやメール配信ツールとの連携により、収集したデータを業務にすぐ活用できます。
これらの機能はエンタープライズ向けに標準で用意され、運用の効率化と一貫した体験提供を支援します。
AEMの強み
概要
AEMは従来型CMSとヘッドレスCMSの両方に対応します。使い慣れたページ編集画面でサイトを作れる一方、APIで任意のフロントエンドへコンテンツを配信できます。これにより、ウェブ、モバイル、デジタルサイネージなど複数チャネルで一貫した体験を提供できます。
オムニチャネル配信がしやすい理由
- コンテンツを再利用できる構造(例:同じ文章や画像をサイトとアプリで共用)
- API経由でJSONなどを返し、任意の技術で受け取って表示できる
これにより、作ったコンテンツを何度も作り直す手間を減らせます。
Adobe製品との連携でできること
- Adobe Analyticsの行動データを使って、閲覧者ごとに最適な表示を出せます(例:過去の行動に基づきバナーを切替)
- Adobe TargetでA/Bテストやセグメント配信を組み込み、効果を数値で検証できます
データに基づいたパーソナライズが比較的スムーズに導入できます。
開発・運用面の強み
再利用可能な部品(コンポーネント)を作ると、新しいページやチャネルへ速く展開できます。大規模サイトでも権限管理やバージョン管理が整っており、運用負荷を抑えやすいです。
導入時の注意点
柔軟性が高い反面、初期設計と運用ルールの整備が重要です。設計段階でコンポーネントや配信方針を決めると、後の作業が楽になります。
よくある利用シーン
1. グローバル企業のコーポレート/ブランドサイト統合
多拠点・多ブランドを一つの基盤で管理したい企業に向きます。AEMは共通コンポーネントを再利用できるため、ブランド一貫性を保ちながら各地域ごとに素早く公開できます。たとえばキャンペーン素材を本社で作成し、各国がローカライズして公開する流れがスムーズです。
2. 多言語・マルチブランド・複数リージョンの一元管理
翻訳ワークフローやライブコピー機能で原稿の派生管理が容易です。中央で版を管理しつつ、現地チームが文言や画像を調整できます。結果として運用負荷を下げつつローカル最適化を実現します。
3. マーケティングオートメーションや解析ツールとの連携
解析やパーソナライズ機能と連携し、訪問者ごとに最適化した体験を提供できます。例として、行動履歴に基づくバナー表示やA/Bテスト用のランディングページを簡単に作成できます。
4. キャンペーン/マイクロサイトの迅速な立ち上げ
テンプレートとコンポーネントを組み合わせて短期間で公開できます。期間限定キャンペーンや商品紹介ページを短期間で展開するケースで有用です。
5. ガバナンスと編集ワークフロー
権限管理、承認フロー、バージョン管理を用いて品質を担保できます。法務チェックやブランドレビューを組み込んだ運用にも向きます。
AEMと他CMSの違い
ターゲット規模
AEMは大規模企業を想定して設計されています。複数ブランドや多言語、国別サイトを一元管理する必要がある場合に向いています。例えば、世界各地に製品サイトを持つ企業が、共通のデザインやコンテンツ運用ルールで管理したい場合に便利です。
機能範囲
単なるCMSを超え、DAM(画像・動画などの資産管理)、マルチサイト管理、パーソナライズ機能やワークフローを備えます。つまりコンテンツ作成だけでなく、資産の再利用や顧客体験の最適化までカバーします。例として、キャンペーン用バナーをDAMで管理して複数サイトに配信できます。
提供形態
主にクラウド型(AEM as a Cloud Service)で提供し、スケールや運用性を重視します。クラウド化により自動的なスケールやパッチ適用が期待でき、運用負担を減らせます。
連携
Adobe Experience Cloud(Analytics、Target、Campaignなど)との連携を前提に設計されており、データやマーケティングツールとのつながりが強いです。既存のマーケティング基盤と組み合わせて使うと効果を発揮します。
コスト・導入
高機能ですが、ライセンス費用や初期構築、運用体制の整備にコストがかかります。小規模サイトや低予算のプロジェクトではオーバースペックになることが多いです。導入前に要件と予算をしっかり見積もると良いです。












