はじめに
目的
本書は、一般的なWebサイトにCDN(コンテンツデリバリネットワーク)を導入する方法をやさしく解説します。難しい専門用語を避け、設定の前準備から導入手順、レンタルサーバーやCMS利用時のポイント、よくある注意点までを順を追って説明します。
CDNとは(かんたん説明)
CDNは、画像や動画、スタイルシートなどを世界中の複数のサーバーに置いて、利用者に近いサーバーから配信する仕組みです。たとえば、東京のユーザーに京都のサーバーから画像を送るより、近くのサーバーから送れば表示が速くなります。結果として表示速度向上やサーバー負荷の軽減につながります。
対象読者
- 小~中規模のサイト運営者
- レンタルサーバーやWordPressなどCMSを使っている方
- 初めてCDNを導入するエンジニアや担当者
本書で得られること
- 導入前に確認すべき点が分かります
- 一般的な設定手順を自分で進められます
- レンタルサーバーやCMS固有の注意点に対応できます
次章で、導入前に決めておくべき具体項目から説明していきます。
導入前に決めておくこと
はじめに
CDN導入は目的や範囲、技術条件をはっきりさせるとスムーズに進みます。ここでは具体的に決めておくべき項目を分かりやすく説明します。
1. 目的を整理する
- 表示速度向上:ページ読み込み時間を短くしたいのか、特に画像や動画の遅延を減らしたいのかを明確にします(例:商品画像の高速表示)。
- コンテンツ配信:静的ファイル(画像、CSS、JavaScript)や大容量動画の配信が主目的か確認します。
- セキュリティ対策:DDoSや不正アクセス対策、WAF(アプリケーション防御)が必要かを決めます。
- トラフィックコントロール:アクセス増加に備えた負荷分散やピーク対策を行いたいか考えます。
目的によって必要な機能や費用が変わります。優先順位をつけてください。
2. 対象サイト・ドメインの範囲
- 対象ドメイン:メインドメインだけか、サブドメインも含めるかを決めます(例:www.example.com、images.example.com)。
- 対象コンテンツ:静的コンテンツのみか、HTMLページもCDN経由にするか選びます。動的ページはキャッシュしない設定が必要です。
- 除外パス:管理画面やログインページはキャッシュから除外するなど、例外をリストアップします。
範囲が広いほど設定は複雑になります。影響範囲を事前に洗い出してください。
3. 技術条件の確認
- DNS対応:DNSの変更が必要か、DNS管理者が誰か確認します(CNAMEやAレコードの変更が伴う場合があります)。
- SSL証明書:CDN側で証明書を発行するか、自社で用意するか決めます。ワイルドカード証明書やSNI対応の確認も必要です。
- オリジンサーバー設定:オリジンの認証やヘッダー制御、ポート番号の制約がないか確認します。
- 運用権限:キャッシュのパージ(削除)やログ参照の権限を誰が持つか決めます。
これらを事前に整理すると導入作業と検証がスムーズになります。
一般的なCDN導入ステップ
1. CDNサービスの選定・契約
必要機能(配信速度、地域、WAFや画像最適化など)と予算を整理して比較します。たとえば画像が多いサイトは画像最適化機能があるサービスを選ぶと効果が出やすいです。アカウントを作成して管理画面にログインします。
2. オリジンサーバーの登録
配信元となるWebサーバーのFQDN(例: www.example.com)やIP、ポート、プロトコル(HTTP/HTTPS)を登録します。自分で管理するサーバーかレンタルかを明確にしておくと設定がスムーズです。
3. CDN側でサイト設定
CDN用のホスト名(例: cdn.example.com)を作成し、キャッシュ対象(画像やCSSなど)とTTL(有効期限)を決めます。一般的には静的資産は長め、HTMLは短めに設定します。圧縮(gzipやBrotli)やセキュリティ機能も有効化します。
4. SSL/TLS設定
無料の自動発行証明書を使うか、自前の証明書をアップロードするか選びます。HTTPS化に伴うリダイレクトやHSTS、利用するTLSバージョンの確認も行います。
5. DNS設定変更
対象ドメインのCNAMEをCDNが指定するホスト名に向けます。ルートドメイン対応が必要な場合はAレコードやALIAS/ANAMEを使います。DNSのTTLは短めにして、問題発生時に早く戻せるようにします。
6. 動作確認・調整
表示崩れや機能不具合をブラウザで確認し、キャッシュのヒット率やレスポンスヘッダ(キャッシュ制御やCORS)を確認します。必要に応じてキャッシュポリシーや例外設定を調整します。
レンタルサーバーやCMSの場合
はじめに
レンタルサーバーやCMS(例:WordPress)を使う場合、CDN導入は比較的簡単です。ホスティング側で機能が用意されているか、CMS用のプラグインがあるかをまず確認してください。
レンタルサーバーでの設定手順
- 管理画面で「CDN」「高速化」などの項目を探します。
- 有効化ボタンを押すだけで、静的ファイル(画像・CSS・JS)が自動で配信されることが多いです。
- 必要ならサブドメイン(例:cdn.example.com)やCNAMEの設定を行います。レンタル会社のマニュアルに従ってください。
WordPressなどCMSでの手順
- 公式や推奨のCDNプラグインをインストールします(例:CDN連携プラグイン、キャッシュプラグインの拡張機能)。
- プラグイン画面で「CDNドメイン」を設定すると、静的ファイルのURLを自動で書き換えます。
- 手動で対応する場合はテーマやアップロード先を置換するだけで済むことがあります。
SSLと混在コンテンツの対処
- HTTPSサイトではCDNもHTTPS対応が必要です。証明書の有無を確認してください。
- 画像やスクリプトがhttpのままだとブラウザでブロックされます。すべてhttpsに統一します。
運用時のポイント
- キャッシュのクリア(パージ)機能を使って変更を即時反映します。
- 管理画面やログインページはCDN対象外にするとトラブルが減ります。
- 導入後は表示速度とエラーの有無を必ず確認してください。
導入時のよくある注意点
ログインページや管理画面はキャッシュしない
ログインや管理画面は利用者ごとに表示が異なるため、絶対にキャッシュしないでください。実装方法はOriginで「Cache-Control: no-store, no-cache, must-revalidate」や、CDN側で該当パスをバイパス(キャッシュ無効)に設定します。誤ってキャッシュされると、別ユーザーに情報が表示される危険があります。
国・IP制限やBasic認証の注意
CDNを経由すると送信元IPがCDNのものになります。IP制限や国判定はX-Forwarded-Forなどのヘッダーで扱う必要があります。Basic認証はCDNが401や認証ヘッダーを扱う方式で動作が変わることがあるため、事前にテストしてください。ステージング環境で必ず動作確認を行い、必要ならCDNで認証を透過させる設定にします。
画像変換や動的サムネイル
オンデマンドで画像を変換する仕組みは、キャッシュ設計が重要です。可能ならOrigin側で一度生成して保存し、以後はCDNで配信する方が安定します。CDNのキャッシュキーに変換パラメータを含める、もしくは事前にバッチ生成しておく方法を検討してください。
その他の実務的注意点
- キャッシュ無効化(purge)方法と権限を決めておく。\n- SSL証明書やCNAME設定は事前に確認する。\n- TTL設定は短めで様子を見て調整する。\n- 切り戻し手順(rollback)と監視を用意する。
導入前に小規模で試験運用し、問題を洗い出すことをおすすめします。












