はじめに
本記事の狙い
本記事は、ハンドメイドに関わる「業務委託」という言葉が、場面によって異なる意味で使われる点をやさしく解説します。1つは法律や契約で使う「業務委託」、もう1つはハンドメイド業界でよく聞く「委託販売(お店に商品を預けて売る)」です。両者を混同するとトラブルにつながることがあるため、違いと特徴を最初に示します。
知っておいてほしいこと(概要)
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法律的な業務委託:仕事の完成や業務の提供を契約で依頼する形です。依頼側と受託側は独立した立場で、雇用関係とは違います。報酬や納期、成果の扱いを契約で決めます。例えば、ロゴ制作やウェブサイト制作を外部に頼む場合がこれに当たります。
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ハンドメイド業界の委託販売:作家が作品をお店に預けて販売を委ねる方式です。店は販売を代行し、売れた分から手数料を差し引く仕組みが一般的です。商品は店に陳列され、売上が発生したときに作家へ支払われます。
本シリーズの章立て
第2章で法律的な「業務委託」の定義と注意点を解説します。第3章でハンドメイド業界の「委託販売」の実情を詳しく説明します。第4章で委託販売の具体的な仕組みや契約で確認すべきポイントを紹介します。
まずは用語の違いを押さえて、安全に取引できる基礎を作りましょう。
業務委託の法律的な定義
概念の説明
「業務委託」は、発注者が受託者に業務の遂行や成果の提供を依頼する契約を指します。労働契約ではなく、受託者は自らの裁量で業務を行う点が特徴です。実務では口頭でも成立しますが、後でトラブルになりやすいため書面化をおすすめします。
主な3種類と具体例
- 製造委託:商品や部品の製造を依頼する契約。例)アクセサリーの製作を外部工房に頼む。
- 情報成果物作成委託:成果物(図面・プログラム・イラスト等)の作成を依頼。例)ウェブサイト制作やイラストの発注。
- 役務提供委託:労働力やサービスの提供を依頼。例)イベントの運営スタッフや清掃業務。
請負と準委任の違い
- 請負契約:成果物の完成が目的で、受託者に結果に対する責任(瑕疵担保)が生じます。例)家具の製作。
- 準委任契約:結果よりも業務遂行そのもの(注意義務)が主要です。例)相談業務や一部のコンサルティング。
契約時の注意点(実務的なポイント)
- 成果物の定義と検収基準を明確にする。
- 報酬、支払期限、遅延時の扱いを決める。
- 知的財産の帰属や利用範囲を明記する。
- 秘密保持、契約解除、再委託の可否を取り決める。
重要なのは実態です。形式が業務委託でも、指示や働き方が雇用に近ければ労働法上の問題が生じる可能性があります。契約はできるだけ具体的にして、後の誤解を防いでください。
ハンドメイド業界での「委託販売」
概要
ハンドメイドで言う「委託販売」は、作家が作品を店舗に預けて、店舗が代わりに販売する形です。作品の所有権は基本的に作家に残り、店舗は販売業務と接客を担当します。売れた分だけ報酬を受け取る仕組みが一般的です。
具体的な流れ
- 作家が作品を店舗に納品します。例えば糸で編んだ小物を10点預けるとします。
- 店舗が価格ラベルをつけ、棚に並べます。来店客が購入すると店舗がレジ対応します。
- 月ごとや締め日に売上を集計し、販売手数料を差し引いた額を作家に支払います。
メリット
- 作家:実店舗での販売機会が得られ、集客の手間を減らせます。商品の実物を見てもらえる点が魅力です。
- 店舗:品揃えが増え、地域の作家とつながれます。リスクは売れた分に報酬を払う点で低めです。
注意点
- 価格設定と手数料は事前に書面で決めましょう。
- 在庫管理と破損・紛失時の扱いを明確にします。
- 売上報告の頻度や支払い方法も取り決めておくと安心です。
実例
小さなセレクトショップでは、作家が季節のアクセサリーを預け、売れた分だけ月末に振込で受け取るケースが多くあります。イベント出店と併用して認知を広げる作家も増えています。
委託販売の仕組み
完全委託と部分委託の違い
完全委託:販売、接客、在庫管理、発送まで委託先が一括で行います。作家は商品を預けるだけで手間が減ります。例:雑貨店が一括で販売・発送する。
部分委託:販売のみ、あるいは発送のみなど一部業務だけを頼みます。例えば販売は店に任せ、発送は自分で行う場合です。
手数料と売上の流れ
一般に売上の30〜50%が委託手数料になります。手数料は売上発生時に差し引かれ、残額が作家に振り込まれます。入金頻度は月次や隔週が多いです。返品やキャンセル時の扱いも契約で決めます。
契約で必ず書くこと(分かりやすく)
- 手数料率と計算方法
- 販売・発送・返品の責任範囲
- 売上報告の頻度と内容(明細の形式)
- 入金条件(締め日・支払日)
- 商品の保管・破損時の扱い
実務のポイント
- 写真・商品IDで在庫管理を明確にする
- 価格表示と値引きのルールを決める
- 試用期間を設けて相性を確認する
- トラブル時の連絡窓口を明確に
実際に委託する前に、書面で細かく約束を交わすと安心して任せられます。












