はじめに
目的
本書は「AWSの料金計算」について分かりやすく整理したガイドです。AWS導入を検討する方が、料金の仕組みを理解し、試算や削減策を考えられるようにします。
対象読者
クラウド導入を検討中のエンジニア、担当者、または予算の見積もりを担当する方を想定しています。専門知識が少なくても読み進められるよう工夫しています。
本書で扱う内容
- AWS料金の基本的な決まり方
- 具体的な料金計算の例
- 公式ツール(Pricing Calculator)の使い方
- 料金を抑えるためのポイント
各章で実例を交え、手順を示していきます。
前提と注意点
AWSのサービスは多岐に渡り、料金も頻繁に更新されます。本書では一般的な考え方と代表的な例を中心に説明します。実際の見積もりは公式の料金表やツールで必ずご確認ください。
AWS料金が決まる仕組み
基本は従量課金制
AWSは使った分だけ支払う従量課金が基本です。リソースの「量」「時間」「回数」に応じて課金されます。使った分がそのまま請求に反映されるため、無駄なリソースを減らすと料金が下がります。
主な料金要素と具体例
- コンピューティング:EC2やLambdaなど。EC2はインスタンスの稼働時間(例: 1台を24時間×30日で720時間)で計算します。Lambdaは実行時間と呼び出し回数で課金されます。
- ストレージ:S3やEBSなど。S3は保存容量(GB)×保持月数で計算します。例: 100GBを1ヶ月保存すると100GB‑月分の料金です。
- データ転送:外部(インターネット)へ送るデータ量で主に課金されます。リージョン内の転送は無料や低額の場合があります。
その他考慮する項目
- リザーブドやSavings Plansの割引、スポットインスタンスの安価利用
- サポートプランやライセンス料、APIリクエスト数、バックアップやスナップショットの費用
- リージョンやストレージクラスで単価が変わる
計算のコツ
単位(時間、GB‑月、リクエスト数)を揃えて見積もるとミスが減ります。小さなサービス料金も積み上がるので、請求明細を細かく見る習慣をつけてください。
具体的な料金計算例
1. シンプルな静的Webサイト(目安:月額約3.5 USD)
想定:静的ファイル(HTML/CSS/画像)を少量公開。主な構成はS3(ホスティング)、CloudFront(配信)、Route53(ドメイン)です。S3の保存容量は数ギガ、転送量は月数十GBと仮定しました。S3のストレージ料とCloudFrontのデータ転送・リクエスト料を合算して月約3.5 USDになります。トラフィックが少なければさらに安くなります。
2. 動的Webサイト(目安:月額約80,000円)
想定:中小規模の動的サイト。構成はEC2(アプリサーバー)1台、RDS(データベース)1台、ALB(負荷分散)、S3(静的資産)、バックアップ用のスナップショット、データ転送を含みます。EC2とRDSは常時稼働を想定し、CPU/RAMは中程度のサイズです。インスタンス料、ストレージ、データベースのライセンスやバックアップ費用を合算すると月約8万円が目安です。アクセス増加で費用は上がります。
3. 仮想デスクトップ環境(目安:月額321 USD)
想定:個人や少人数向けのマネージド仮想デスクトップ(例:WorkSpaces)を1ユーザー分で試算します。月額の固定費にユーザーあたりのストレージと帯域を加えた金額で、標準的なスペックを選ぶと約321 USDになります。ユーザー数やスペックで直線的に増減します。
4. 中規模データ分析環境(目安:月額約472.67 USD)
想定:データ処理用に数台の解析用インスタンス、S3の保存、ジョブ実行のための一時ストレージとデータ転送を含めています。オンデマンドのインスタンスとストレージ使用量、オブジェクト読み書きの回数を合算して試算すると、月約472.67 USDになります。処理頻度や保存期間によって費用が変わります。
各例はあくまで目安です。リージョン、稼働時間、トラフィック、補償(サポート)プランなどで実際の請求額は変わります。次章ではAWS Pricing Calculatorを使って、より正確に見積もる手順を説明します。
AWS Pricing Calculatorの使い方
概要
AWS Pricing Calculatorは公式の無料見積りツールで、AWSアカウントが無くても使えます。画面に沿って入力するだけで、複数サービスの合算見積りを作れます。
使い方の基本手順
1) 対象サービスを選ぶ:EC2、S3、RDSなど必要なサービスを追加します。
2) 構成を入力する:リージョン、インスタンスタイプ、台数、ストレージ容量、転送量などを具体的に入れます(例:東京リージョン、t3.medium ×2、100GB)。
3) 見積もりを確認する:月額・年額での内訳が表示されます。料金の内訳を展開して、どの項目が高いか確認します。
4) 結果を保存・共有する:見積りを名前を付けて保存し、URLやCSVで共有できます。
複数サービスと細かい設定
複数サービスを同じ見積りに追加できます。リザーブドインスタンスやSavings Plansの適用、データ転送の条件も設定可能です。負荷変動を想定して複数パターンを作ると比較しやすくなります。
実用的なポイント
- リージョンや転送量で料金が大きく変わるので、まずそこを試算してください。
- 割引オプションを入れ忘れないでください。長期契約で大きく下がる場合があります。
- 見積りはあくまで概算です。運用で増減する点は運用結果に合わせて見直しましょう。
料金計算の具体例
簡単な計算例
EC2インスタンス(単価:0.0208 USD/時間)を1台、80時間稼働した場合の月額です。計算は単価に台数と稼働時間を掛けます。
計算式:0.0208 USD/時間 × 1台 × 80時間 = 1.664 USD
円換算(例):1.664 USD × 124円/USD ≒ 206円
別の稼働条件での例
・常時稼働(30日=720時間)の場合:0.0208 × 1 × 720 = 14.976 USD
・複数台(3台、80時間)の場合:0.0208 × 3 × 80 = 4.992 USD
計算時の注意点
・通貨換算はその時点の為替レートを使ってください。円表示は目安です。
・料金はインスタンスタイプの単価に依存します。ストレージや転送は別料金になる点にご注意ください。
・時間は実際の稼働時間で計算します。秒単位で請求されるサービスもあります。
この章では、単価に稼働条件を掛け合わせるだけで基本的な月額を求められることを示しました。
AWS料金削減のポイント
概要
AWSの料金は運用の工夫で大きく下がります。ここでは実務で使いやすい具体策を、専門用語を控えめにして紹介します。小さな改善の積み重ねが効果を生みます。
主要な削減手法
- リザーブドインスタンス/Savings Plansの活用
- 長期で使うインスタンスは予約割引を使います。1年・3年契約で単価が下がります。
- スポットインスタンスの利用
- 中断が許容できるバッチ処理やテストに使うと大幅削減になります。
- リソースの適正化(Rightsizing)
- CPUやメモリの利用率を見て、過剰なサイズを小さくします。自動化ツールで定期的に見直します。
- 自動停止・スケジューリング
- 開発環境は稼働時間を短縮します。夜間や週末は停止するルールを作ります。
ストレージとデータ転送の工夫
- S3のライフサイクル設定で安価なクラスへ自動移行します。
- 不要なスナップショットや未使用ボリュームは削除します。
- データ転送を抑えるため、同リージョン設計やキャッシュを導入します。
運用のコツと管理
- タグでコストを可視化し、部門やプロジェクトごとに割り当てます。
- Cost Explorerやアラートで異常を早期発見します。
- 定期的なコストレビュー会を設け、小さな改善を継続します。
これらを組み合わせると、費用を安定して削減できます。まずは最も効果の大きい項目から着手してください。
まとめ
本記事では、AWSの料金がどのように決まるか、料金計算の具体例、AWS Pricing Calculatorの使い方、そして料金削減のポイントを順を追って説明しました。ここでは導入検討時に役立つ要点を簡潔にまとめます。
要点
- 料金は多くの場合、使用量に応じて課金されます。例:サーバの稼働時間、転送データ量、ストレージ容量など。
- 正確な見積もりには、想定される利用パターン(CPU、メモリ、ストレージ、I/O、データ転送)を具体的に定義することが重要です。
- AWS Pricing Calculatorはシナリオごとにコストを試算できます。開発・本番で別々に見積もると想定外を減らせます。
導入前に行うべきこと(チェックリスト)
- 実際の利用想定を数値化する(時間、リクエスト数、データ量)
- 複数シナリオで見積もる(最小・想定・最大)
- 割引オプション(予約インスタンスやSavings Plan)を検討する
- データ転送コストを見落とさない
- 小規模な試験運用で実コストを確認する
最後に
正確な見積もりは導入判断の核になります。計算ツールを活用し、想定値を明確にしておけば、コストの見込みが立てやすくなり、安心してAWSを導入できます。必要なら、作成した見積もりをもとに社内での意思決定用資料作成も支援します。












